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第15話 エンディング
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「のりちゃん、しっかりして」
加奈子先輩も駆け寄るが、立ち上がることはできない。
おそらくジャミング電波のようなものが発生して、法子先輩をメインコンピュータと切り離そうとしているのだろう。
苦しんでいた法子先輩だったが、いきなりすくっと立ち上がった。
「のりちゃんっ」
加奈子先輩の問いかけにも答えず、法子先輩は無表情のまま、抑揚の無い声で言葉を発した。
「メインコンピュータ トノ データ 二 エラー ガ ハッセイ シマシタ。 スリープモードニ ハイリマス」
そういうと、どこから出したのか、かわいらしい水玉柄のパジャマを取り出し着替えだした。
その場にいる全員が見守る中、着替えを終えると、これまたどこから出したかかわらない、寝袋にもぐりこみ、かわいい寝息をたてて眠ってしまった。どうやら『スリープモード』に入ったようだ。
何事かと、誰もが数分間その流れを見つめていたが、いち早く現実に戻ったのは御堂だった。
「なんでこんな無駄な動きをプログラムしているんだ!」
「そんなもの、かわいいからにきまっているじゃない」
加奈子先輩は大声で即答する。女の子は寝るときもかわいくなくてはいけないのよ。
どどーん。
それは世界が始まったときから決められている、とでも言うように。加奈子先輩は言い切った。
もっともこの状況に変化は何ももたらさない。唯一ともいえる戦力は失われたのだ。
「ま、まあいい。加奈子、これでお前を守るものは誰もいなくなったわけだ」
御堂は体制を整え、勝ち誇った顔で笑う。
「なによ、お兄ちゃんだって、一人じゃない。私にはまだモル君がいるわ」
えっと、まだ体はほとんど動かないんですけど、というぼくの意見はもちろん無視された。
「ははは、私が何の準備もしないでお前たちをまっていたと思うか。すでにミックス怪人は作ってあるのだよ。いでよ、蜘蛛男」
御堂の号令に、玉座の裏から異形の人間が現れた。手と足の間にはワキワキとうごめく触手が二対、口から飛び出した大きな顎からは、消化液のようなねばねばした液体を滴らせている。
ひっ、と加奈子先輩の口から悲鳴が漏れる、そういえば加奈子先輩虫嫌いだっけ。
そんな加奈子先輩の怯え顔をみて笑っている御堂とは裏腹に、蜘蛛男はちょっと困っているようだった。
「あの~御堂はん、わし、路頭に迷っているところ助けてくれたあんさんには感謝してるがの、あんな若い娘っ子をいじめるのは、あんまし気がすすまねえな」
「な、なにをいうか。いいからやれ!」
御堂は杖を振り上げ命令する。仕方なさそうに蜘蛛男は加奈子先輩に体を向けた。
「すまねえなあ、御堂はんには色々よくしてもらってるから、あんた死んでくれるか」
「やめろー」
ぼくは何とか体を起こし、蜘蛛男の前に立ちふさがる。
「きさま、加奈子先輩に何かしたら、俺が許さないぞ」
と、言っては見たものの。ぼくにどうすることができるだろうか。
はっきり言って体はふらふらだ。しかもよくよく考えればこの状況になったのは、加奈子先輩がぼくを囮なんかに使ったからであって、ちょっと理不尽さを感じないでもない。
「モル君、死んでも私を守ってね」
かなり理不尽なお願いだが、それでこそ加奈子先輩だ。
絶対に守りますよ、と答える。あの柔らかい太ももはぼくが守る!
「なんや、兄ちゃん。その子を守るんやったら、お前も殺さなきゃなんねえな」
蜘蛛男の顎が奇妙に動く。
鋭く光るそれは、ぼくの体など一撃で貫けるほどの鋭さを持っていた。蜘蛛男は一歩ずつ近づき、あと1メートルというあたりで止まった。
死を覚悟した。そのとき。
「ちょっとまってぇな」
そういうと、蜘蛛男は足元に落ちている瓦礫を堀あげ、なにやら穴を掘り始めた。
「なんや、ここの床固くて掘れんな、仕方ないか……」
ぶつぶつ呟きながら、蜘蛛男は人一人が入れるほどの穴を作り上げた。穴というより、瓦礫を積み上げたかまくらのようだ。
さらにお尻から出した糸で大きな袋を作り出し、自らその中に入っていき、今作ったばかりの穴に隠れる。
ぼくも加奈子先輩も、何が起こるのか固唾を呑んで見守った。
しかし、どれだけまっても、蜘蛛男は穴から出てこない。
苛立たしくなり、ぼくはその場で叫ぶ。
「貴様、何のつもりだ」
すると穴から蜘蛛男が顔を出して答えた。
「そんなん決まってますがな。罠ですがな。はよう近づいてくれんか、ぱくってあんさんを食べてしまうさかい……」
そんなこといわれて近づくバカはいない。
見かねた御堂も叫ぶ。
「なにやってる蜘蛛男。スパイダーマンみたいに糸で奴らを絡め取るんだよ」
「それはできまへんがな」
蜘蛛男は困った顔で穴の中から呟く。
「なぜだ」
「なぜって、わしはクモはクモでも、ジグモ男やから、あんなヒーローとは違いますがな。この罠しか作れまへん」
*うんちく
ジクモ:節足動物門クモ綱クモ目ジグモ科に属するクモの総称。木の枝に巣を張るクモとは違い、地面に穴を開け、その中でひたすらエサとなる虫が来るのを待つかなり地味なクモである。
だれもが、黙ってことのなり息を見守った。
そして、静まり返った地下室に御堂の笑い声が響いた。
「は、はははっはは。今回はこれくらいにしてやろう。諸君また会おう」
典型的なせりふを残し、御堂は去って言った。
残されたぼくたちは、地下室に鍵をかけ、御堂研究所を後にした。
「加奈子先輩ありがとうございます」
帰り道、一応お礼を口にする。
ともかく、オケラ男にはならずにすんだのだ。結果よしとしよう。
「別にモル君を助けに来たわけじゃないわ。データを取り返しに来たのよ」
地下室を出ると、法子先輩もメインコンピュータとの交信が回復し、再起動を果たした。
データを回収した加奈子先輩は、御堂が戻っても使い物にならないように、すぺてのパソコンに強力なウィルスを仕込んできたらしい。
御堂はまた姿をくらましてしまったが、ふたたび世界征服をたくらみ、ぼくたちの前に姿を現すかもしれない。いや、むしろ間違いなく現れるように思う。
世界を守るとか、そんな大それた事を言うつもりは無いが、純粋に科学がすきという加奈子先輩の手伝いを、これからもしていきたいとは思う。
「加奈子先輩、これからもよろしくお願いします」
ぼくの口から素直にそんな言葉が出た。またひどい目にあうのは目に見えているのに、不思議だった。
「こちらこそ、お願いね。やっぱり、人体実験は生身の人間に限るもの。お兄ちゃんの研究所で面白そうな研究見つけたの。ぜひこの実験台になって」
目をきらめかせてお願いのボーズでぼくに迫る。いや、さすがに人体実験は。
そろそろと、逃げ出そうとしたところを法子先輩に捕まる。
「モル。お前には薬は効きにくいようだから、直接的な手段でやらせてもらうことにする」
そういうとポケットからロープを取り出した。
「さっきSMのデータをダウンロードしたんだ。これで固定させてもらう」
「わー、たのしそう」
加奈子先輩は興味深げに覗き込む。
冗談じゃない。そんな恥ずかしいことされてたまるか。
そうは思いつつも、どんな実験をされるのか、ちょっとわくわくしている自分に気づく。
ぼくの高校生活は始まったばかりだ。
その後御堂研究所跡地は売りに出されたが、そこを訪れる人間が行方不明になる事件が相次ぎ、心霊スポットとして今も残っているらしい。
おわり
加奈子先輩も駆け寄るが、立ち上がることはできない。
おそらくジャミング電波のようなものが発生して、法子先輩をメインコンピュータと切り離そうとしているのだろう。
苦しんでいた法子先輩だったが、いきなりすくっと立ち上がった。
「のりちゃんっ」
加奈子先輩の問いかけにも答えず、法子先輩は無表情のまま、抑揚の無い声で言葉を発した。
「メインコンピュータ トノ データ 二 エラー ガ ハッセイ シマシタ。 スリープモードニ ハイリマス」
そういうと、どこから出したのか、かわいらしい水玉柄のパジャマを取り出し着替えだした。
その場にいる全員が見守る中、着替えを終えると、これまたどこから出したかかわらない、寝袋にもぐりこみ、かわいい寝息をたてて眠ってしまった。どうやら『スリープモード』に入ったようだ。
何事かと、誰もが数分間その流れを見つめていたが、いち早く現実に戻ったのは御堂だった。
「なんでこんな無駄な動きをプログラムしているんだ!」
「そんなもの、かわいいからにきまっているじゃない」
加奈子先輩は大声で即答する。女の子は寝るときもかわいくなくてはいけないのよ。
どどーん。
それは世界が始まったときから決められている、とでも言うように。加奈子先輩は言い切った。
もっともこの状況に変化は何ももたらさない。唯一ともいえる戦力は失われたのだ。
「ま、まあいい。加奈子、これでお前を守るものは誰もいなくなったわけだ」
御堂は体制を整え、勝ち誇った顔で笑う。
「なによ、お兄ちゃんだって、一人じゃない。私にはまだモル君がいるわ」
えっと、まだ体はほとんど動かないんですけど、というぼくの意見はもちろん無視された。
「ははは、私が何の準備もしないでお前たちをまっていたと思うか。すでにミックス怪人は作ってあるのだよ。いでよ、蜘蛛男」
御堂の号令に、玉座の裏から異形の人間が現れた。手と足の間にはワキワキとうごめく触手が二対、口から飛び出した大きな顎からは、消化液のようなねばねばした液体を滴らせている。
ひっ、と加奈子先輩の口から悲鳴が漏れる、そういえば加奈子先輩虫嫌いだっけ。
そんな加奈子先輩の怯え顔をみて笑っている御堂とは裏腹に、蜘蛛男はちょっと困っているようだった。
「あの~御堂はん、わし、路頭に迷っているところ助けてくれたあんさんには感謝してるがの、あんな若い娘っ子をいじめるのは、あんまし気がすすまねえな」
「な、なにをいうか。いいからやれ!」
御堂は杖を振り上げ命令する。仕方なさそうに蜘蛛男は加奈子先輩に体を向けた。
「すまねえなあ、御堂はんには色々よくしてもらってるから、あんた死んでくれるか」
「やめろー」
ぼくは何とか体を起こし、蜘蛛男の前に立ちふさがる。
「きさま、加奈子先輩に何かしたら、俺が許さないぞ」
と、言っては見たものの。ぼくにどうすることができるだろうか。
はっきり言って体はふらふらだ。しかもよくよく考えればこの状況になったのは、加奈子先輩がぼくを囮なんかに使ったからであって、ちょっと理不尽さを感じないでもない。
「モル君、死んでも私を守ってね」
かなり理不尽なお願いだが、それでこそ加奈子先輩だ。
絶対に守りますよ、と答える。あの柔らかい太ももはぼくが守る!
「なんや、兄ちゃん。その子を守るんやったら、お前も殺さなきゃなんねえな」
蜘蛛男の顎が奇妙に動く。
鋭く光るそれは、ぼくの体など一撃で貫けるほどの鋭さを持っていた。蜘蛛男は一歩ずつ近づき、あと1メートルというあたりで止まった。
死を覚悟した。そのとき。
「ちょっとまってぇな」
そういうと、蜘蛛男は足元に落ちている瓦礫を堀あげ、なにやら穴を掘り始めた。
「なんや、ここの床固くて掘れんな、仕方ないか……」
ぶつぶつ呟きながら、蜘蛛男は人一人が入れるほどの穴を作り上げた。穴というより、瓦礫を積み上げたかまくらのようだ。
さらにお尻から出した糸で大きな袋を作り出し、自らその中に入っていき、今作ったばかりの穴に隠れる。
ぼくも加奈子先輩も、何が起こるのか固唾を呑んで見守った。
しかし、どれだけまっても、蜘蛛男は穴から出てこない。
苛立たしくなり、ぼくはその場で叫ぶ。
「貴様、何のつもりだ」
すると穴から蜘蛛男が顔を出して答えた。
「そんなん決まってますがな。罠ですがな。はよう近づいてくれんか、ぱくってあんさんを食べてしまうさかい……」
そんなこといわれて近づくバカはいない。
見かねた御堂も叫ぶ。
「なにやってる蜘蛛男。スパイダーマンみたいに糸で奴らを絡め取るんだよ」
「それはできまへんがな」
蜘蛛男は困った顔で穴の中から呟く。
「なぜだ」
「なぜって、わしはクモはクモでも、ジグモ男やから、あんなヒーローとは違いますがな。この罠しか作れまへん」
*うんちく
ジクモ:節足動物門クモ綱クモ目ジグモ科に属するクモの総称。木の枝に巣を張るクモとは違い、地面に穴を開け、その中でひたすらエサとなる虫が来るのを待つかなり地味なクモである。
だれもが、黙ってことのなり息を見守った。
そして、静まり返った地下室に御堂の笑い声が響いた。
「は、はははっはは。今回はこれくらいにしてやろう。諸君また会おう」
典型的なせりふを残し、御堂は去って言った。
残されたぼくたちは、地下室に鍵をかけ、御堂研究所を後にした。
「加奈子先輩ありがとうございます」
帰り道、一応お礼を口にする。
ともかく、オケラ男にはならずにすんだのだ。結果よしとしよう。
「別にモル君を助けに来たわけじゃないわ。データを取り返しに来たのよ」
地下室を出ると、法子先輩もメインコンピュータとの交信が回復し、再起動を果たした。
データを回収した加奈子先輩は、御堂が戻っても使い物にならないように、すぺてのパソコンに強力なウィルスを仕込んできたらしい。
御堂はまた姿をくらましてしまったが、ふたたび世界征服をたくらみ、ぼくたちの前に姿を現すかもしれない。いや、むしろ間違いなく現れるように思う。
世界を守るとか、そんな大それた事を言うつもりは無いが、純粋に科学がすきという加奈子先輩の手伝いを、これからもしていきたいとは思う。
「加奈子先輩、これからもよろしくお願いします」
ぼくの口から素直にそんな言葉が出た。またひどい目にあうのは目に見えているのに、不思議だった。
「こちらこそ、お願いね。やっぱり、人体実験は生身の人間に限るもの。お兄ちゃんの研究所で面白そうな研究見つけたの。ぜひこの実験台になって」
目をきらめかせてお願いのボーズでぼくに迫る。いや、さすがに人体実験は。
そろそろと、逃げ出そうとしたところを法子先輩に捕まる。
「モル。お前には薬は効きにくいようだから、直接的な手段でやらせてもらうことにする」
そういうとポケットからロープを取り出した。
「さっきSMのデータをダウンロードしたんだ。これで固定させてもらう」
「わー、たのしそう」
加奈子先輩は興味深げに覗き込む。
冗談じゃない。そんな恥ずかしいことされてたまるか。
そうは思いつつも、どんな実験をされるのか、ちょっとわくわくしている自分に気づく。
ぼくの高校生活は始まったばかりだ。
その後御堂研究所跡地は売りに出されたが、そこを訪れる人間が行方不明になる事件が相次ぎ、心霊スポットとして今も残っているらしい。
おわり
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