世話焼き幽霊に今日も怒られています。

白水緑

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じゃあ俺が守ってやるよ。

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 それ以降、テレビ局を名乗る人物が現れることはなかったが、徳久はじっと考え込むことが増えた。そんな様子をみて祐二は久しぶりに徳久を将棋に誘った。
 
 「俺が仕事に行きはじめてからなかなか時間が取れなかっただろ?」
 「なんじゃ、おぬしにしては珍しく、ワシに気でもつかっておるのか?」
 「そんなことできるわけないだろう。ほら、やるぞ」
 
 ぱちり、ぱちり、と駒を進めていく。静かな空気だけがそこには流れていた。
 
 「トクと出会ってもう半年くらいだな」
 「まだそれだけしか経っとらんか」
 「随分長い気がしたが」
 「まだまだじゃな。じゃが、これだけ振り回された人間は初めてじゃ」
 「そうなのか?」
 「危うげな人間はほかにもおったがな。おぬしは危うげどころか一直線にバカじゃったからな……」
 「失礼だな」
 「そういうな。おかげでワシは遊び相手を得、おぬしはまともな生活を手に入れた。Win-Winじゃろ?」
 「確かに……体の調子は前より良くなった。実は座敷童だったんじゃないか?」
 「こんな年のいった座敷童なんぞおらん。あいかわらずボケたやつじゃ」
 「実は気に入ってるだろ」
 「まぁな。ほれ、王手じゃ。おぬし、ちっとも上達せんのう」
 「トクの教え方が悪い」
 「人のせいにするでない」
 
 そしてまた駒を並べなおすと、またぱちり、ぱちりと打ち始める。
 
 「そういえば、トクは自分がどうやって死んだのか知らないのか?」
 「今は知っておる。妻が子に語って聞かせたからな」
 「子供までいたのか」
 「当時だと普通じゃぞ。ちなみにワシはどうやら地震があったときに、横に積んであった米俵に潰されたようじゃの。当時貴重じゃった食料に潰されていいのか悪いのか」
 「いや良くはないだろう。今は何とも思ってないのか?」
 
 自らの死に際を語るというのに、徳久の態度は普段と変わらない。少し考えてはいるものの、それは伝え方を迷っているだけのようだ。 
 
 「死んだのは頭では理解していても、死んだ実感はないからの。気持ちの上では不老長寿じゃ」
 「そうなのか。悪いことを聞いたな」
 「気にするでない。ワシはどっちかというと、この間の除霊師とやらのほうが嫌でな。あやつらのほうがワシのことを殺そうとしてくるような感じがする」
 
 嫌悪を顔に滲ませげっそりとして見せる。よほど除霊が恐ろしいらしい。
 
 「じゃあ俺が守ってやるよ」
 「おぬしのほうが先に死ぬじゃろう」
 「じゃあここで一緒に暮らすか」
 「それでもおぬしが先に成仏する」
 「意地悪言うなよ。俺といるのは嫌か?」
 「たわけ。嫌じゃったらとっくに追い出しておるわ」
 「それはよかった。トクに飽きられないようにほどほどに怠惰な生活をしないとな」
 「どうしてそうなる! きちっとした生活をするほうがワシは喜ぶんじゃ!」
 「ほら、そうやって怒ってるほうが生き生きしている」
 「知らん! おぬしの勘違いじゃ」
 「はいはい。そういうことにしておく」
 
 言葉はつんけんしていても徳久は嬉しそうに頬をほころばせる。祐二はこの心地よい空間に触れ、手放したくないと願った。そして、徳久も初めて心許せる人間ができて、ずっと一緒にいることは叶わなくてもそう願うことができた。これからも二人は穏やかに生活を紡ぐだろう。人と霊、そしてもしかしたら霊と霊として。二人の人生はまだ始まったばかり。
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