世話焼き幽霊に今日も怒られています。

白水緑

文字の大きさ
10 / 11

きっと俺のことが嫌で逃げて行ったんですよ

しおりを挟む
 祐二が会社勤めを再開してしばらくが経った。朝は徳久に見送られ、夜は出迎えられる。夕飯を食べながら今日の出来事を徳久に語って聞かせるのが日課となっていた。
 
 「そういえば、ワシのほうも今日は話があるぞ」
 「何かあったのか?」
 「訪ね人がおったようでな。誰だかはわからんが、いやーな感じがした。おぬし誰かに恨まれたりしとらんか」
 「誰もいないと思うが。塩でもまいておくか」
 「そうしておけ。しばらくは気をつけることじゃな」
 
 幽霊は怖くない祐二だが、相手が生身の人間だと勝手が変わるらしい。徳久の心配そうな顔もあって重い腰を上げる。しばらく前から常備されている塩の入った瓶を手に取るとドアを開けた。
 
 「おや、おでかけかい?」
 「大家さん。どうしたんですか?」
 「そうそう。最近帰ってくるのが遅いからそろそろかと思ってきてみたんだよ」
 「……昼間来たのは大家さんですか?」
 「いや、それはあたしじゃないねぇ。ところで、出かけるんじゃなけりゃ話を聞いておくれよ」
 「はい……じゃあ中にどうぞ」
 
 徳久はもう消えてしまっておらず、大家さんは中に入ると物珍しそうに部屋を見回している。
 
 「見違えるもんだねぇ。最初のころはほんとになんにもなかったのに」
 「人間らしい生活をすると物がすぐ増えるので困っています」
 「いいことじゃないか! 大事だよそういうのは。最近健康的になってたのはそういうわけだったんだね」
 「そんなに違いますか」
 「大違い! この前会ったときなんか別人かと思ったくらいだ。ああそうだ、本題に入らないと」
 「どうぞ」
 
 かろうじて複数存在するコップにお茶を入れ差し出すと、大家さんはしゃべりすぎたのか一気に飲み干す。
 
 「それでね、今日電話で話があって、テレビ番組でこの部屋を除霊したいっていう話をされたんだけど」
 「……なんですかその胡散臭いのは」
 「一応ちゃんとしたテレビっぽいよ。調べてみたんだけど、ほら、この番組」
 「へぇ」
 
 雑誌の切り抜きを見せられ、祐二は一応はどういう話かは把握した様子。その雑誌の切り抜きを返しながら、ちらりと天井にいるであろう徳久の様子をうかがう。今はまったく音沙汰はないがどんな話を聞いているのだろうか。
 
 「でも、この部屋何も出ませんよ」
 「そう言ったんだけどねぇ。とにかく一度見にこさせてくださいってしつこいから、そのうち来るかもしれないよ。あんたのことは喋ってないから、昼間に来てたら会えないけどねぇ」
 「会えないことを祈りますよ」
 「それじゃ気を付けておくれよ。もししつこかったら警察呼んじゃっていいから」
 「わかりました」
 
 最後にはあきれた風の大家さんに、祐二は少し気が重くなる。帰っていくのを見送ってから、塩をまく。
 
 「昼間に来とったやつらが、そのテレビ局とやらの差し金かもしれんの」
 「差し金って言い方……。まぁそうだろうな。しばらくは居留守使うか」
 「嫌な奴らじゃ。まったく、ワシとて居たくていてるわけではないというのに」
 「寝るか……。変な話聞いて疲れた」
 「同意じゃ……」
 
 そしてその週は昼間には幾度か訪問があったようだが何事もなく過ぎ、もう諦めたのではないかという願望を抱き始めていた矢先のこと、祐二が会社から帰ってくると、部屋の前に待ち人がいた。スーツ姿の男と、黒いワンピースをきた得体のしれない女性が一人。素通りして部屋に入りたいところだが、ハナヤ教のときのように強引に部屋にあがられでもしたらたまらないと、渋々声をかけた。
 
 「入りたいんで退いてもらえますか」
 「家主さんですか! ちょうどよかった! 僕こういうものでして……」
 「待ってましたよね……除霊でしたっけ? 大家さんから話は聞きました」
 「そうなんです! それで一足先に除霊師の方に来ていただいたんですけど、やはりこの部屋には霊がいると」
 「いませんよ。もうどこかにいったそうですから」
 
 目の前にドアがあるのに入れない。早く帰りたい。そのことしか頭にない祐二の返事はそっけない。
 
 「あなたは見えないんでしょう? こちらの方はそういった類のものが見えると」
 「必要ありません」
 「この部屋は前から霊がいると有名だったそうじゃないですか」
 「きっと俺のことが嫌で逃げて行ったんですよ。見たことありませんから」
 
 無下にはねつける祐二に、それまで黙っていた女性が割り込んだ。
 
 「……見えてない方はそれだけで恨みを買う行動をしかねません。わたくしにお任せくだされば万事うまくいきます。近頃うまくいっていないことなどあるのでは?」
 「この部屋に来てからいいこと尽くしなので、逆にあんたたちみたいなのを招き入れるほうが悪くなりそうだ」
 「まぁ……。また来ますので、ぜひご検討を」
 「来ないでもらえると助かるんですが」
 「そうは言わずに。それじゃまた」
 
 女性の浮世離れした動作に薄気味悪いものを感じながら、二人が見えなくなるまで見送った祐二。鍵を開けてすぐに塩を手にすると、地面にまかれた塩が目視できるほどにまいた。
 
 「いるか、トク」
 
 普段なら出迎えるはずの徳久がおらず、祐二が呼びかけてようやく天井からそっと顔をのぞかせた。
 
 「……おる。あやつらやっと帰ったか」
 「この間来てたのってあいつらか?」
 「そうじゃ。薄気味悪い……」
 「追い返したけど、あの様子じゃまた来るかもな」
 「えらい迷惑じゃ。引きこもって大人しくしておるというのに。朝っぱらから押しかけて来よって」
 「そんなにずっといたのか」
 「うむ。おぬしが出てすぐくらいか。おそらく出かけるタイミングを狙ったんじゃろうが」
 「俺にとってはラッキー、トクにとっては災難だったな」
 「まったくじゃ」
 
 徳久にしては声に覇気がなく、いかにあの女性の存在がプレッシャーとなったのかが伺い知れる。祐二はどうしたものかと考えたが、良い案は浮かばずその日は就寝した。
 翌朝、またくるのではないかと昨日訪問してきたのと同じ時間まで待ってみたが誰も来ず、徳久の身を案じながら祐二は会社へと向かったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...