白水緑【掌握・短編集】

白水緑

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繰り返す世界

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「どうして誰もいないの?」

 20**年12月1日。
 少女はこの広い世界にたった1人だった。何かの比喩ではなく、事実1人なのだった。長い眠りから覚め、気がつけば周りには誰もいなかった。辺りに散らかる新聞に躍る一つの言葉。

「地球、滅亡?」

 予想されたその日は折しも今日だった。少女は知らなかったが地球に巨大な隕石が迫っていた。それは加速していき予定より早く地球へと落下した。衝撃が世界を駆け巡り、地上は炎に支配された。生き物たちは死に絶え植物は火の餌食とな
った。海は干上がり魚たちは太陽に干された。少女はなす術もなく吹き飛ばされ意識を失った。

 やがて新しい生命が生まれあらゆる種族へと分かれていった。長い年月が過ぎるうちに水棲生物と陸生生物に分かれ、鳥類、爬虫類、哺乳類などの種類に分かれていった。二足歩行を可能にすると同時に知能を有し始め、火を使うことを覚えた。少女はその間眠り続けていた。新たな生物に出会うまで。

「誰だ?おおーい、誰か来てくれ。子供がいるぞ!」

 洞窟となった土地で眠っていた少女は、小屋に運ばれた。米を育てる傍ら農民は少女の世話をし続けた。ひと月が過ぎる頃、農民が小屋に戻ると少女はようやく目を覚ました。

「ここ、は?あなたは誰?今は何年なの?私どのくらい眠っていたのかしら?」

 見慣れぬ周囲の環境に戸惑いを隠せない。

「儂は与太郎じゃ。お主はこの集落の端にある洞窟におった。ここへ連れてきたのは儂じゃよ。儂が知っている間だけでも1ヶ月は眠っておる」
「私は智恵子といいます。眠っている間にずいぶんお世話になりました。おじさんはここで何をしているんですか?」

 あらゆることを質問しあって、少女、智恵子は驚いた。
 ここは私の知っている時代じゃない。まるで学校で習った縄文時代のよう。まだ国が出来ていない時代。私ならもっとこの人たちを楽に生活させてあげることが出来る。

「おじさん、こんな武器を作れる?これならお米の刈り取りも簡単だし、狩りをする時も少しは安全になると思うの」

 真智子が説明すると与太郎は目を輝かせた。

「これは素晴らしい!どうして今まで誰も考えつかなんだか。お前さんは賢いのう。良いことを教えてくれた礼といっては何だがしばらくこの村に居てはくれんかね?」
「いいんですか?実は私、行くところがないんです」
「ならずっとここに居ればええじゃないか」

 智恵子が嬉しそうに、でも困ったように答えると、与太郎は簡単にそう言ってにこっと人好きのする笑顔を浮かべた。そしてまた智恵子は新しい知恵を与太郎に与えた。

 それからというもの、智恵子は与太郎の周りに集まる者たちから色々とせがまれて知識を与え続けていた。小さかった村は、少しずつ大きくなり、与太郎はそこ集団の王となった。智恵子は神からの遣いとして崇められ始めてしまった。自らの持つ知識を小出しにして村人を喜ばせる。それが智恵子の仕事だった。

「智恵子は出会った頃から全く成長しとらんな。儂は恐らく数ヶ月の命じゃろうて。今まで一緒に居れて楽しかった。儂は旅に出る。これからも他の人たちをよろしくな」
「おじさん……」

 智恵子は与太郎を引き留めなかった。死を看取ることほど辛いことはなかったから。

「元気でね……」

 与太郎が居なくなり、年老いた村人たちは次々と死んでいった。残ったのは智恵子を神と祭り上げようとする若者たちだけ。彼らは智恵子の与えた技術を以て他領を侵略し始めた。支配下に置かれた村人たちは智恵子の姿を見ることはなく、神だと教え込まれた。智恵子は表に出ることを避け、これからのことを考えていたので、余計にその存在は消え失せ神と信じられた。

「智恵子様、今日参りましたのは外国とのことでございます。言葉も通じず一体どうすればよいのやら……」
「筆談をしてご覧なさい。余所からのお客様は私たちとは習慣が異なるもの。少しずつ教えて差し上げなさいな」
「はい、ありがとうございます」

 まだ自由に日本の外へ行くことは出来なくて、時々難破した船の乗組員が流れ着いても対応に困惑していた。外国との交流が盛んになると、時代の流れは加速していった。都が出来て朝廷が出来て幕府が成立し、戦国時代も過ぎた。日本が統一され幕府が内閣を作った。

「昔に戻ったみたいだわ。……嬉しい」

 しかし、富国強兵を目標にして世界大戦も勃発して日本は買ってしまう。智恵子に動きだした歴史の流れを止める術はなかった。ただ助言をしただけ。智恵子は気づかなかった。昔を懐かしく思うが故に、己から見た昔の世界を造り上げていることに。そしてその与えられた性質は悲惨な出来事を繰り返した。

「どうして、また戦争が起こるの?あれだけ争ってはいけないと言ったのに」

 やがて日本は戦争に負けた。そしてバブル期で経済成長をし大国の仲間入りするのを見守った。いろいろな研究がなされて、たくさんの便利な道具が開発された。やがて智恵子は気がついた。周りを見渡せば誰もいない都市が広がっていた。

 40**年11月30日

「もしかして明日は……」
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