白水緑【掌握・短編集】

白水緑

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おしゃべりピアノ

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 僕はピアノが嫌いだ。
 何を弾いても「詰まんない」「意味わかんない」「へたくそ!」と詰られるのだから、たまったもんじゃない。だが、母も先生も首を傾げるだけでまともに取り合ってくれず、僕は半年もしないうちにピアノを辞めてしまった。

 成長し、大学で初めてできた彼女にねだられて、ピアノを教えることになった。
 家に招き、久しぶりにピアノの蓋を開き鍵盤を押してみると、昔と変わらない音が鳴った。

「優しくないわね!」

 ピアノは怒っているらしい。
 無視して、二人並んで椅子に腰かける。僕が左手、彼女が右手のパートを弾く。次は逆。妙なことに、気を利かせたのかピアノの声は聞こえず、おかげでピアノを弾くのが楽しかった。

 彼女が帰った後、「今度までに練習しておいてね!」と渡された宿題のため、再びピアノへ向かう。さっきは楽しかったな。彼女のことを思い出しながら鍵盤を押す。

「良い音ね」

 ピアノはうっとりとした声でそう呟き、それっきり声は聞こえなくなった。
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