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03.越境
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朝、いよいよ国境を越える。国境と言っても壁があるわけではなく、深い森が両国にまたがっている。見張りの兵たちは森の入り口を警備している。警戒するのはもちろんエルヴダハムから侵入してくる魔族。なので、出ていく側の私たちは特に咎められることもなかった。むしろ、先日の往復する際に顔見知りになった兵は、もう一度エルヴダハムに行きたい旨を伝えると訳も聞かず快く通してくれた。
森の中は鬱蒼としており、若干野性味が強い動物や、魔族が使役する魔獣のような生物が自由気ままに生息している。それからたまに何をしているのか分からない魔族も。森を進んでイクにつれて見たことのない植物や動物が増えていく。丸一日かけてやっとのことで森を越えると、エルヴダハムにも当然国境に当たるこの森を監視している存在がいる。初めて見た時は、魔族も人間と同じように生活しているんだなぁと思った記憶がある。
当然のように今日も見張りがいて、遠目でもわかる角が魔族であることを主張している。
「さてと、どうする?」
木々の隙間から同じように状況を伺っていたナディヤは、既に右手に剣を握っている。口元には笑み。戦いたくて仕方ないらしい。一応同意を取ろうとしているが、反対しないことはナディヤも分かっている。肩を竦めて、ナディヤの左手に持っていた荷物を受け取る。
「そんなこと言ってもう決めてるくせに。いってらっしゃい」
ストレス解消も兼ねていると分かっている。果たして、住ませてほしいと頼みに行く者の態度ではないと思うが、きっと素直に話を聞いてはくれないであろうことは容易に想像がつく。
「殺したら話にならないんだから、ちゃんと手加減してね」
最後に念押し。前の戦いのときに分かったことだが、魔族は意外と弱いのだ。もちろん、力の強さは人間の比ではないが、その代わりと言っては何だが戦闘力は高くない。戦うという土俵の上では、冒険者である私たちのほうが遥かに強い。だからこそ、ナディヤも気安く殺さないと請け負うことができた。弱すぎて手加減するのが簡単なのである。
「もっちろん! 行くわよ、ロイス」
「うん。リラは治療をよろしくね。多分出番はないと思うけど」
ナディヤとロイス兄さんが駆け降りていくのを、私はのんびりと麓に向かいながら見守った。森を出る手前でロイス兄さんが位置取り、ナディヤはそのまま森の外に飛び出る。
がさっと姿を表したナディヤを見つけ、魔族たちが騒ぎ出すのが遠目にわかる。まばらに散っていた魔族たちが次々と集まっていく。先手は魔族。ナディヤが攻撃を受け止めたと思ったら次の瞬間には魔族は吹き飛んでいる。同じことが何度も繰り返されて、立っている魔族が減ってきたころようやく私も麓にたどり着く。
「頑張れ頑張れナディヤ! 強いぞ強いぞナディヤ!」
一人でバカみたいに騒いでいるロイス兄さんの隣に腰掛け、私も申し訳程度に手拍子する。応援に強化の力があるロイス兄さんと違って、そんな力を持たない私はあくまでも気持ちの問題だと誰にともなく言い訳する。
目の前でバタバタとなぎ倒されていく魔族を見ること数十秒、その場に立つのはナディヤだけになっていた。すっきりしたのか、自分が倒した相手を一瞥もせず、駆け戻ってくる。
「今日も良かったわよ! ロイス!」
「ナディヤもいつも以上に可愛かったよ」
人目もはばからずひしっと抱き合う二人からそっと目をそらす。兄と幼馴染とはいえ新婚の二人がいちゃつく場面には気恥ずかしいものがある。距離をとるついでに、ナディヤがボロボロにした魔族の様子を見に行くことにした。このままだと二度目の魔王との戦いが始まりそうだからだ。
地面に寝転がっている魔族は全員見事に気絶していた。間抜け面をさらしている魔族たちの中から比較的怪我の少ない相手を見つけて近寄った。しゃがみこんで魔族をまじまじと観察していると、案外整った顔立ちに気づく。この角さえなければ人間から人気だろうに、とどうでもいいことを考えながら声をかける。
森の中は鬱蒼としており、若干野性味が強い動物や、魔族が使役する魔獣のような生物が自由気ままに生息している。それからたまに何をしているのか分からない魔族も。森を進んでイクにつれて見たことのない植物や動物が増えていく。丸一日かけてやっとのことで森を越えると、エルヴダハムにも当然国境に当たるこの森を監視している存在がいる。初めて見た時は、魔族も人間と同じように生活しているんだなぁと思った記憶がある。
当然のように今日も見張りがいて、遠目でもわかる角が魔族であることを主張している。
「さてと、どうする?」
木々の隙間から同じように状況を伺っていたナディヤは、既に右手に剣を握っている。口元には笑み。戦いたくて仕方ないらしい。一応同意を取ろうとしているが、反対しないことはナディヤも分かっている。肩を竦めて、ナディヤの左手に持っていた荷物を受け取る。
「そんなこと言ってもう決めてるくせに。いってらっしゃい」
ストレス解消も兼ねていると分かっている。果たして、住ませてほしいと頼みに行く者の態度ではないと思うが、きっと素直に話を聞いてはくれないであろうことは容易に想像がつく。
「殺したら話にならないんだから、ちゃんと手加減してね」
最後に念押し。前の戦いのときに分かったことだが、魔族は意外と弱いのだ。もちろん、力の強さは人間の比ではないが、その代わりと言っては何だが戦闘力は高くない。戦うという土俵の上では、冒険者である私たちのほうが遥かに強い。だからこそ、ナディヤも気安く殺さないと請け負うことができた。弱すぎて手加減するのが簡単なのである。
「もっちろん! 行くわよ、ロイス」
「うん。リラは治療をよろしくね。多分出番はないと思うけど」
ナディヤとロイス兄さんが駆け降りていくのを、私はのんびりと麓に向かいながら見守った。森を出る手前でロイス兄さんが位置取り、ナディヤはそのまま森の外に飛び出る。
がさっと姿を表したナディヤを見つけ、魔族たちが騒ぎ出すのが遠目にわかる。まばらに散っていた魔族たちが次々と集まっていく。先手は魔族。ナディヤが攻撃を受け止めたと思ったら次の瞬間には魔族は吹き飛んでいる。同じことが何度も繰り返されて、立っている魔族が減ってきたころようやく私も麓にたどり着く。
「頑張れ頑張れナディヤ! 強いぞ強いぞナディヤ!」
一人でバカみたいに騒いでいるロイス兄さんの隣に腰掛け、私も申し訳程度に手拍子する。応援に強化の力があるロイス兄さんと違って、そんな力を持たない私はあくまでも気持ちの問題だと誰にともなく言い訳する。
目の前でバタバタとなぎ倒されていく魔族を見ること数十秒、その場に立つのはナディヤだけになっていた。すっきりしたのか、自分が倒した相手を一瞥もせず、駆け戻ってくる。
「今日も良かったわよ! ロイス!」
「ナディヤもいつも以上に可愛かったよ」
人目もはばからずひしっと抱き合う二人からそっと目をそらす。兄と幼馴染とはいえ新婚の二人がいちゃつく場面には気恥ずかしいものがある。距離をとるついでに、ナディヤがボロボロにした魔族の様子を見に行くことにした。このままだと二度目の魔王との戦いが始まりそうだからだ。
地面に寝転がっている魔族は全員見事に気絶していた。間抜け面をさらしている魔族たちの中から比較的怪我の少ない相手を見つけて近寄った。しゃがみこんで魔族をまじまじと観察していると、案外整った顔立ちに気づく。この角さえなければ人間から人気だろうに、とどうでもいいことを考えながら声をかける。
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