報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑

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04.交渉

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「あのー、起きてください」

 あまりに小さな声だったのか、反応はない。もう一度、今度は少し声を大きくしてみる。ピクリと瞼が動いたものの、それ以外は先ほどと変わらない。三度目。声をかけるだけでなく、おそるおそる倒れた体をつついてみた。……反応なし。

 このまま呼び続けるか、別の魔族に声をかけてみるか悩んでいると、背後に二人の気配。どうやらラブラブタイムは終わったらしい。

「リラ、何してるの?」

 目的を説明すると、しゃがんだままの私の隣に立ったナディヤ。右足を軽く上げ、そのまま魔族の腹の上に落とす。

「ぐへぇっ!」

 ナディヤの足の勢いに比例するような、言葉にし辛いものすごい悲鳴と共に魔族は目を覚ました。覚ましたというかたたき起こしたというかとにかく起きた。……お腹を抱えて思いっきり丸まっている。

「大丈夫ですか?」

 おそるおそる尋ねてみると、涙目で睨まれた。残念ながら少しも怖くはない。

「……だろ」

 何て言ったのだろう。耳を傾けていると、上手く聞き取れなかったと伝わったのだろう。もう一度言ってくれた。大丈夫ではないらしい。それはそうだ。

「あの、痛いの治すので襲わないでくださいね」

 無言。私も無言。横で見ていたナディヤが足をあげた。

「……っ」

 ナディヤの動きが目に入ったのか、魔族はぶんぶんと首を縦に激しく振った。横になって頷くものだから、動きだけ見ると嫌がっているようにも見えて少し笑ってしまう。気を取り直して、ナディヤが殴打した箇所に手を当てる。

『痛くないない。大丈夫』

 私の治癒能力は案外単純だ。治れとただ念じれば良いだけ。本当は口に出す必要もないんだけれど、そこは気持ちの問題。すぐに魔族の表情は安らいでいき、辛くなさそうになったところで止めた。安堵の表情を浮かべた魔族の髪を、すかさずナディヤが掴む。

「リラにお礼は?」

 拒否権のない問いに、私は苦笑を隠せない。下心しかないのに、お礼なんて言われても困る。けれど脅された魔族はそっぽを向いて、本当に嫌そうに「ありがとう」と言った。私のしたことも、私の目的のためにやったことであり、魔族にとっては嫌がらせに感じているのだろう。そうだとしたら、私とナディヤがやっていることはとても近しいものなのだろう。人のことを笑ってはいられないなと、少し反省した。

「それで、オレに何をさせるつもりだ?」

 そっぽをむいたまま、魔族は不機嫌そうに口を開く。目的があって一人だけ治療したと分かっているらしい。ただ内容が内容だけに言いづらく、応援以外何もしていないロイス兄さんをじっと見つめた。そんな暇そうにしているなら、手伝ってよ。そんな視線に気づいたロイス兄さんはえっという顔をして、わざとらしく顔を背ける。
 ……。
  …………。

「仕方ないな。……魔王に話があるから、会わせてくれないか?」

 根負けしたロイス兄さんの言葉に、魔族は驚いたように目を見開き、すぐに大きく首を横に振った。

「とんでもねーこと言うな! そんなことできるはずないだろ!!」
「あたしたちは別にいいのよ? もう一度魔王城に殴りこんでも。今度は魔王城が無くなっちゃうかもしれないけど」

 ナディヤの台詞で、私たちが先日魔王城をめちゃくちゃにして帰った人間だと分かったらしい。あんまり血の気が良くない顔が、更に黒くなる。助けを求めて、周りの気絶している魔族が起きないかと見回すが、全くその気配はない。がっかりとした魔族に追い打ちをかけるようにナディヤは続ける。

「せっかく穏便に話をしようと思ってるのに、案内してくれないんじゃあしょうがないわよねぇ」

 厭味ったらしい台詞。金色に輝く髪の毛先を指でくるくるとして、魔族に決断を迫る。

「あーあー、また怪我人が増えちゃうねー」

 ナディヤに睨まれて、ロイス兄さんの棒読みの援護射撃。魔族はナディヤとロイス兄さんを交互に見て、最後に私の方を向いた。

「えっと悪い話じゃないので、会わせてください」

 そう口にして、すぐにあれっと首を傾げた。本当に悪い話じゃないだろうか。襲いに来たわけではないけれど、魔王からしてみれば決して良い知らせではないであろうことは容易に想像がつく。でもまぁ、目の前でうんうん唸って悩んでいた魔族はその言葉で決心がついたようで、わかったと答えてくれた。
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