報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑

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15.追っ手

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 ナディヤがかすり傷とはいえ怪我することが増え、もう我慢ならないと文句を言うと決めたその夜、魔王城から呼び出しがあった。

「話って言うのは、オラニ王国からのお客さんのことかしら?」

 大広間に入ってすぐ、挨拶もそこそこにナディヤが切り出す。魔王が呼び出したにもかかわらず、あいかわらず良い度胸をしている。しかし、話を奪われたはずの魔王も事態を深刻に捉えているのか、怒りもせずに頷く。

「お主たちが率先して追い払ってくれているのは知っている」
「多分目的はあたしたちだもの。裏切り者だと追ってきてるんだわ」
「それもあるかもしれぬが、元から侵略しようと度々人間たちは来ていたんじゃ。多少増えたところで問題はない」

 長年悩まされてきたと魔王は大きなため息をつく。対して、予想が外れたナディヤは首を傾げる。

「そうなの? でも困ってるからあたしたちを呼んだんじゃないの?」

 魔王は頷いたが、まだ本題に入るつもりはないらしい。髭を撫で、渋い顔を作る。

「問題は手口じゃ」
「手口?」
「これまでは多少手荒とはいえ、互いにたいした怪我を負うこともなく追い払うことができていたんじゃ。それは単純に人間の力不足ということもあるし、頻度が少なくこちらにも余裕があったこともある。あとはこう言っては何じゃが、馬鹿正直に正面から向かってきていたみたいでな。そうなるとおぬしらのような規格外の人間が出てこない限り安泰なはずだったんじゃが」

 今じゃ毎日、朝夜と卑怯な手で来るというわけだ。と魔王は続ける。言われてみればそうかもしれない。エルヴダハムに来たばかりの頃はナディヤも自由に遊んだり、たまに遊びに行く余裕があった。
 見送っている側の私ですら、違いが判るのだ。体験しているナディヤたちには、より現実味があったのだろう。隣でもロイス兄さんがうんうんと頷いている。私だけが、頭では理解していてもなんとなく机上の話に聞こえている。それはきっと実体験として現状を知らないからなのだ。

「そこでじゃ、お主たちに頼みたいことがあって今日は呼んだんじゃよ」

 ようやく本題に入るらしい。分かっている者同士の会話についていけず、疎外感を感じていた私も背筋を伸ばして話を聞く体勢になる。

「正式に、エルヴダハムの守備隊として国境を警備してほしい」
「そんなこと。もちろんよ」
「これまで通り、この国のため、僕たちの生活のためにも守らせてもらうよ」

 間髪ない同意。もちろん、私にも異議はない。魔王は、僅かにほっとした様子を見せている。

「助かる。これはわしからの依頼じゃから、もちろん報酬は支払う。特に要望がなければほかの者たちと同様、通貨で支払うが」
「構わないわ。これで、満足に買い物ができるってものよ」
「町の人たちと助け合うのも悪くないけれど、いつまでも甘えるわけにはいかないからな」

 魔王とナディヤ、ロイス兄さんだけでどんどん進んでいく話。元より、私は戦力とみなされてないのは分かっていたけれど。

「あの、私も入れてください。……戦うことは、できないですけど。役には立ちます」

 おずおずとそういえば、顔を顰めたリラが振り返る。

「リラはダメよ。聞いたでしょ、警備は危険だわ」
「危険だからこそ私も」
「だめだよ。リラが怪我したら、何にもならないのよ。ここで怪我した人を助けてあげて」

 言っていることはわかる。私にできることは治療することだけ。でも、待っているより現場に行った方がスムーズな治療ができる。

「だめですか?」

 弱くたって、私だって冒険者なのに。ナディヤがダメならシルヴェさんから魔王を説き伏せてもらえば。その思惑は、すぐにうち砕かれる。

「適材適所。戦闘に秀でた者以外は危険だ」

 頼みの綱のシルヴェさんにもあからさまに顔をそらされた。誰も聞き入れてくれないのなら私にも考えがある。

「わかりました」

 今は黙って従っていようとひとまず同意した。私の我儘で張り詰めていた空気が緩んだのがわかった。そんなつもりはなかったのに。
 四人が今後のことを話し合っている中、私だけは中に入れずに黙ってその様子を見ていた。
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