報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。

白水緑

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16.私の力

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 こんなことなら来るんじゃなかった。そう思ったとき、外が少しずつ騒がしさを増してきた。まだ他に誰も気づいてはいないらしい。

「どうしたの?」

 様子を見に行こうと立ち上がった私に気づいたナディヤに、なんでもないと誤魔化して外に出る。
 騒がしいのはどうやら魔王城の入口のあたりらしい。

「おいしっかりしろ!」
「布が足りないぞ!」

 これはただ事ではないと足を速めた先にあったのは、傷だらけどころか血まみれで倒れこむ魔族の姿。それも一人二人ではない。魔王城を守っていた魔族たちが介護しているが、十数人の手当てをたったの数人で行えるはずもなく、ただ力なく横たわっている人たちも多い。
 一体何事だろう。そう尋ねるより先に身体が動いた。怪我人が多いなら、まとめて治療すれば良い。その場にしゃがみ込み、ただただ強く念じる。いつものおまじないはいらない。

「……」

 この力を使うとき、私の身体は淡い緑の光に包まれる。使う力が強いほど、その光もまた輝きを増す。

「なんだこの光は……」

 ざわつきに別のものが混ざり、私の周りにも人が集まりだす。でもそんなことはどうだっていい。怪我の程度が思ったより酷かったらしく、なかなか治った感覚にならず一心に祈る。健やかなる心身を取り戻せますよう。
 何度も何度もただ繰り返す。
 遠いところから驚いた声があがり、治療が上手くいったことを確信した。目を開くと、私の周りと怪我をしていた人たちの周りに人が集まっていた。

「……っ」

 立ち上がろうとしてよろめいたところを誰かに支えられる。眩暈が収まるのを待っていると、視界の端で誰かが向かってくるのが見えた。
 切り刻まれた服に、血まみれの身体。けれど怪我はない。たった今治療した人だろう。

「あんたが治してくれたのか?」
「ええ。もう痛くはありませんか?」
「すっかり元気だ。感謝する」

 次から次へと同じような風貌の人が訪れ、驚きと喜びを口にした。一通りその感謝に答えおわったところで、ようやく一息つくことができた。最初に支えてくれてずっと後ろにいた魔族を振り向くと、物珍し気な視線を向けられる。

「ナディヤのとこのもう一人の娘か……?」
「はい。リラといいます」
「戦えないとは聞いていたが、そんな力を持っていたとは見直した」
「ありがとうございます。あの、あなたは?」
「イゾッタの番だ。フィルベルテという」

 私も知っている。イゾッタさんの旦那さんは魔王城の偉い人だと。
 支えてもらっていた体を起こして、居住まいを正す。

「いつもイゾッタさんにはお世話になっています。さっきも、支えていただいてありがとうございました」
「お互い様だろう。それより、大丈夫か? あまり顔色が良くないぞ」

 心配そうな表情でのぞき込まれ、問題ないと答えようと頷いたその時、焦った様子でナディヤが階段を駆け下りてきた。

「ちょっと何やってるのリラ!」

 その後ろにはロイス兄さん。シルヴェさんと続く。

「怪我人がいたから治していただけだよ」

 大したことはないと笑顔を向けたが、しかめっ面が返ってきた。

「力の使いすぎよ! ほんっと酷い顔してるんだから」
「そう? 元気だけど」

 体感はちょっとした貧血程度なんだけどと伝えた瞬間、シルヴェさんに抱き上げられた。

「説得力の欠片もないな」

 視界がぐっと広くなり、普段は遠いシルヴェさんの顔が近くなる。心なし、非難の視線を向けられているような気もするが、相変わらず無表情だ。

「あのっ降ろしてください。大丈夫です!」

 真正面から抗議するが、すっと視線が反らされる。ナディヤの方を見て、確認を取る。

「ここで面倒を見よう。休めば治るのだろう?」
「ええ。それじゃあお願いするわ」

 私のことは置いてけぼりでまた話がまとまった。憮然とした表情でいると、リラが顔を覗き込む。

「それじゃあたしたちは帰るから、安静にしているのよ」
「ちょっとナディヤ!」
「シルヴェになら安心して任せられるから、僕も安心だ」

 私の文句は聞くつもりはないらしい。二人は手を振って帰っていく。フィルベルテさんも、シルヴェさんが来ると同時に一礼して去ってしまい、私はなすがままになるしかなかった。
 憮然とした表情のまま私は魔王城の一角へと連れていかれた。使われることなどあるのだろうかと思ってしまうが、きちんと客室があるらしい。

「あまり無茶をしては困る。どういう理屈で力を使って言うのかはわからないが……」

 心配してくれているのは事実なので、私も態度を少し和らげた。

「ちょっと体力と集中力を使うだけでどうということもないんですよ。ナディヤが大げさなだけなんです」

 それにしては酷い顔色だったと顔を顰めるシルヴェさんは、手ずから飲み物を入れてくれた。ありがたく受け取り、口をつける。

「人数も多かったですし。傷が深い人も多かったのでそのせいかと。普段は、ナディヤしか治療することがないので、慣れてないんですよ」
「ならば余計に気をつけないと。いざというときに彼女たちを救えなくては困るだろう」
「……そうですね」

 それはそうだ。今は一緒にいずとも、私たちは同じグループで専属の治療者で。
 傷ついた人をほっとけない気持ちはある。それでも一番はナディヤとロイス兄さんなのだ。
 シルヴェさんは、俯いてしまった私の頭をぽんぽんと撫で、立ち上がった。もう行ってしまうらしい。

「とにかく休むがいい。必要なものがあればそこのベルを鳴らせば誰か来る」

 長居をするでもなく去っていったシルヴェさんを見送り、私はベッドにもぐりこむ。眠って早く元気になろう。そうすればきっと安心してくれるだろうから。疲れに身を任せて目を閉じた。
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