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始まり、そして再会のとき-3
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翌日、予告通りに海斗はサークルに来た。というより、待ち構えていた。
六限目までの授業を終えて体育館に行くと、既に海斗はジャージに着替えていて、ラケットの上でピンポン玉を弾ませている様子などは、すっかり卓球部員そのものである。まだ余裕とは行かないようで、集中しているのを横目に僕もジャージに着替える。
そーっと後ろから近づいて、騒がしい体育館でも聞こえるよう耳元で話しかける。
「慣れたみたいだな」
目の前の体がビクッとはねて、その拍子にピンポン玉が転がり落ちる。すかさず、ラケットを使って自分側に跳ねさせてキャッチした。
「祐樹先輩! 驚かせないでくださいよ」
真剣な表情から一転して、むっとした様子で抗議してくるがそれもからかい甲斐があって面白い。
「集中してたから、邪魔しちゃ悪いかなって」
「こっちのほうが心臓に悪いです!」
「そう? じゃあ今度は別のやり方にするよ」
「驚かせるのはだめですからね」
「わかったわかった。ほら、落ち着いて」
怒っているようだが、全く怖くはない。宥めるために頬をつつくと、また顔を赤くする。
「ちょっと!」
「ごめんごめん」
二日目で僕たち上級生も、体験しに来た新入生もなんとなく流れはわかっている。笛の集合の後は、スケジュールに従って活動を始めた。
走りながら、今日の新入生の数を数える。この後の準備体操は、同級生同士で組むのが常だが奇数の場合は必然的に一人余る。まだそんなに話したことのない上級生だと何をするにも緊張するだろうと思って、走り終わってすぐ海斗を誘った。
「俺でいいんですか?」
膝に手をついて、きらきらとした顔で見上げてくる。無防備なその頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でる。
「お前ならそんなに緊張しないだろ?」
「ちょっと! 俺を子供扱いしないでください」
「つい癖で」
「それは奈海でしょう。俺は海斗ですから!」
「うん。それはわかってるんだけど」
ふてくされてますと言わんばかりにそっぽを向くが、それがまた見た目とかの話ではなく、態度や反応が弟のようで可愛いと思ったのだけれど、それを言うとまた怒らせそうだと口を噤んだ。
「悪かったってば。ほら、背中を押すから座って」
「……祐樹先輩が変なことするからですよ」
警戒心ばりばりで視線を僕の方に向けたまま、体は大人しく言われたとおり長座体前屈の姿勢を取る。僕もその後ろに膝をつき、火照ったままの背中を押す。ストレッチを始めれば、さっきの警戒はどこへやら、素直にまっすぐに前を向いて僕に身を任せて体を伸ばしていた。
なんとなく黙っているのも気恥ずかしくて、間を埋めるように話しかける。
「なぁ海斗はなんで卓球をやろうと思ったの?」
「決まってるじゃないですか。祐樹先輩と仲良くなりたいからですよ」
何が決まってるのかさっぱりわからなくて首を傾げていると、海斗は息をする合間に言葉を続けた。
「だから、色々奈海に話を聞いて調べてきたんです」
「なるほど?」
「よくわからないって顔してますね」
悔しそうな声に、なんだか悪いことをしたような気持ちにさせられる。海斗と話しているとしばしばそういう気分になる。当たり前の反応をする僕が、まるで海斗を傷つけているような。
「もうちょっとわかりやすく言ってくれれば」
「言いません。自分で気づいてください」
やはり少し怒ってしまったらしい。ほわほわとしていた雰囲気から一気にツンとした態度に変わってしまう。コロコロと変わる海斗についていけず、どうしたら良いのかもわからずにいると、海斗はさっと立ち上がって僕の肩を押さえる。
「交代ですよ、祐樹先輩」
六限目までの授業を終えて体育館に行くと、既に海斗はジャージに着替えていて、ラケットの上でピンポン玉を弾ませている様子などは、すっかり卓球部員そのものである。まだ余裕とは行かないようで、集中しているのを横目に僕もジャージに着替える。
そーっと後ろから近づいて、騒がしい体育館でも聞こえるよう耳元で話しかける。
「慣れたみたいだな」
目の前の体がビクッとはねて、その拍子にピンポン玉が転がり落ちる。すかさず、ラケットを使って自分側に跳ねさせてキャッチした。
「祐樹先輩! 驚かせないでくださいよ」
真剣な表情から一転して、むっとした様子で抗議してくるがそれもからかい甲斐があって面白い。
「集中してたから、邪魔しちゃ悪いかなって」
「こっちのほうが心臓に悪いです!」
「そう? じゃあ今度は別のやり方にするよ」
「驚かせるのはだめですからね」
「わかったわかった。ほら、落ち着いて」
怒っているようだが、全く怖くはない。宥めるために頬をつつくと、また顔を赤くする。
「ちょっと!」
「ごめんごめん」
二日目で僕たち上級生も、体験しに来た新入生もなんとなく流れはわかっている。笛の集合の後は、スケジュールに従って活動を始めた。
走りながら、今日の新入生の数を数える。この後の準備体操は、同級生同士で組むのが常だが奇数の場合は必然的に一人余る。まだそんなに話したことのない上級生だと何をするにも緊張するだろうと思って、走り終わってすぐ海斗を誘った。
「俺でいいんですか?」
膝に手をついて、きらきらとした顔で見上げてくる。無防備なその頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でる。
「お前ならそんなに緊張しないだろ?」
「ちょっと! 俺を子供扱いしないでください」
「つい癖で」
「それは奈海でしょう。俺は海斗ですから!」
「うん。それはわかってるんだけど」
ふてくされてますと言わんばかりにそっぽを向くが、それがまた見た目とかの話ではなく、態度や反応が弟のようで可愛いと思ったのだけれど、それを言うとまた怒らせそうだと口を噤んだ。
「悪かったってば。ほら、背中を押すから座って」
「……祐樹先輩が変なことするからですよ」
警戒心ばりばりで視線を僕の方に向けたまま、体は大人しく言われたとおり長座体前屈の姿勢を取る。僕もその後ろに膝をつき、火照ったままの背中を押す。ストレッチを始めれば、さっきの警戒はどこへやら、素直にまっすぐに前を向いて僕に身を任せて体を伸ばしていた。
なんとなく黙っているのも気恥ずかしくて、間を埋めるように話しかける。
「なぁ海斗はなんで卓球をやろうと思ったの?」
「決まってるじゃないですか。祐樹先輩と仲良くなりたいからですよ」
何が決まってるのかさっぱりわからなくて首を傾げていると、海斗は息をする合間に言葉を続けた。
「だから、色々奈海に話を聞いて調べてきたんです」
「なるほど?」
「よくわからないって顔してますね」
悔しそうな声に、なんだか悪いことをしたような気持ちにさせられる。海斗と話しているとしばしばそういう気分になる。当たり前の反応をする僕が、まるで海斗を傷つけているような。
「もうちょっとわかりやすく言ってくれれば」
「言いません。自分で気づいてください」
やはり少し怒ってしまったらしい。ほわほわとしていた雰囲気から一気にツンとした態度に変わってしまう。コロコロと変わる海斗についていけず、どうしたら良いのかもわからずにいると、海斗はさっと立ち上がって僕の肩を押さえる。
「交代ですよ、祐樹先輩」
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