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07.本との生活
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向日葵と別れてすぐは明日も向日葵に会える喜びに満ち溢れていた恭佑だが、ひと通りそれが落ち着くと、今度は中途半端に終わった本の続きが気になってくる。
早く続きが読みたい! その一心でまだ昼の暑さが残る中、帰路を急いだ。
「ただいま」
暗い玄関には、リビングから冷やされた空気が足元を漂っている。冷たい空気に惹かれるようにカチャカチャと音がしている台所を覗くと、母親が忙しなく料理を作っていた。耳にはイヤホンが付いていて、カウンターに置かれたノートパソコンには名前のアイコンがいくつも並ぶ。
母親は恭佑が帰ったことに気づくと、おかえりとでもいうように笑顔を浮かべ、手を振った。それから、ちょうど切ったばかりの豚ハムの切れ端を食べさせたあとに時計の8を指さす。
あと1時間はご飯がないらしいと理解した恭佑は、まだ口に残る豚ハムを咀嚼しながら、リビングに置かれたソファの上に寝転がった。
いつもならそのまま寝てしまうところだが、今日は違った。床に置いたバッグから、借りてきたばかりの本を取り出し、柔らかなソファに両肘をついた。図書館で読んでいた続きを開く。
……。
…………。
図書館とは違い、金属の触れあう音が耐えないうるさい家だったが、続きを読み始めるとすんなりと本の世界に入り込んだ。
男の人と2度目の再会を果たした主人公。思わぬ再会に喜んだ。そして、楽しいひと時を過ごしたあと、恐る恐る連絡先の交換を申し出る。
再会のじんわりとしたその喜びや、断られるんじゃないかというドキドキを、恭佑はまるで自分が体験しているかのような感覚として受け止める。
「……け。恭佑!」
夢のような世界を切り裂くように割り込んだ声に、恭佑は思わず顔を顰めた。
「何!?」
顔を上げるとカウンター越しに、せわしく動いていた母親がわざわざ立ち止まって恭佑の名前を叫んでいて、その表情は怒っていた。右手に菜箸、左手にフライパン。まさに作ったばかりのおかずをよそおうとしているところのようだ。
「何、じゃないでしょ! ずっと呼んでるのに! ご飯できたわよ!」
「ああ、うん」
「まったく、あんたって子はほんっといると邪魔なんだから」
「うん……」
返事はしたものの、恭佑の意識は再び本に向かっている。中途半端に邪魔されたせいで、先が気になって仕方がないらしい。
恭佑の返事を聞いて料理を盛り付け終わった母親が、両手に皿を持ち台所から出てくる。さっきまでと全く変わらない体勢の恭佑をみて、再び大声を張り上げる。
「恭佑!!」
真横からの声に流石に驚く。慌てて本を閉じて立ち上がる。
「ごめん、手伝うよ」
「早く持ってきてちょうだい」
憤慨した母親の機嫌をこれ以上損ねないように気をつけながら、恭佑は母親を手伝い、料理をテーブルに並べた。
いただきます、と声を揃える。食べ始めてすぐは静かだった食卓も、終わりに近づくにつれて張り詰めた空気も緩んでいった。
「ところで、あんたが本を読むところなんて初めて見たんだけど」
「うん。今日初めて読んだから」
「いつも図書館に何しに行ってるのよ」
呆れた風の母親だが、興味があるように振る舞う母親が実は恭佑に関心を寄せていないことを知っている恭佑。ただ、普段の言動も把握しておかなければという義務感から聞かれているのをわかっていたから、笑われても少しも気にならなかった。だが、嘘をつく理由もなく、母親からの問いにも素直に答えた。
「涼みに行ってる」
「ふーん。ま、ただ涼むよりは本読む方が有意義なんじゃない」
「うん」
どうでもよさそうな反応に、大して期待していなかった恭佑も特に何か言うでもなく残っていたトマトに箸を伸ばした。
「そんなにあたしの声が耳に入らないなら、先にお風呂入ってしまいなさい。あたしだってわざわざ呼ぶのもめんどくさいし」
早々に食事を終えた母親がそれだけを言い残して席を立つ。そのまま台所で翌日の弁当を作り始める。
「わかった」
聞こえない声量でそう答え、口内に残っていた米粒を味噌汁で流し込んだのだった。
言われたとおりそのままシャワーを浴び、自室に戻る。蒸し暑い部屋に再び汗をかきながらエアコンの真下に陣取る。スイッチを入れたばかりの生ぬるい風から冷風に変わったときには、すっかり恭佑は本の世界に没頭していた。
部屋が冷え切っても、恭佑の部屋の真下にある玄関が振動で父親の帰宅を伝えても集中が切れることはなく、ページをめくる一定の音だけが響いていた。
それから数時間、窓の外から聞こえるバイクの音でふと恭佑の意識が呼び戻された。
体痛い……。
ずっと同じ体勢だったせいで固まりきった体を伸ばす。視線を窓の外に向けると、薄らと白い明かりが広がり始めていた。
もう4時か。さすがに寝ないと。ちょうど区切りがついたことと、明日、いや今日も向日葵に会いたいという意識で我慢をして、本についていた栞紐を挟んでから閉じる。
半分超えたんだ。全然、読み終わる気がしないけど。
横になって目を閉じても、長らく浸かりきっていた世界観が頭の中で広がり続け、なかなか寝付くことが出来なかった。
早く続きが読みたい! その一心でまだ昼の暑さが残る中、帰路を急いだ。
「ただいま」
暗い玄関には、リビングから冷やされた空気が足元を漂っている。冷たい空気に惹かれるようにカチャカチャと音がしている台所を覗くと、母親が忙しなく料理を作っていた。耳にはイヤホンが付いていて、カウンターに置かれたノートパソコンには名前のアイコンがいくつも並ぶ。
母親は恭佑が帰ったことに気づくと、おかえりとでもいうように笑顔を浮かべ、手を振った。それから、ちょうど切ったばかりの豚ハムの切れ端を食べさせたあとに時計の8を指さす。
あと1時間はご飯がないらしいと理解した恭佑は、まだ口に残る豚ハムを咀嚼しながら、リビングに置かれたソファの上に寝転がった。
いつもならそのまま寝てしまうところだが、今日は違った。床に置いたバッグから、借りてきたばかりの本を取り出し、柔らかなソファに両肘をついた。図書館で読んでいた続きを開く。
……。
…………。
図書館とは違い、金属の触れあう音が耐えないうるさい家だったが、続きを読み始めるとすんなりと本の世界に入り込んだ。
男の人と2度目の再会を果たした主人公。思わぬ再会に喜んだ。そして、楽しいひと時を過ごしたあと、恐る恐る連絡先の交換を申し出る。
再会のじんわりとしたその喜びや、断られるんじゃないかというドキドキを、恭佑はまるで自分が体験しているかのような感覚として受け止める。
「……け。恭佑!」
夢のような世界を切り裂くように割り込んだ声に、恭佑は思わず顔を顰めた。
「何!?」
顔を上げるとカウンター越しに、せわしく動いていた母親がわざわざ立ち止まって恭佑の名前を叫んでいて、その表情は怒っていた。右手に菜箸、左手にフライパン。まさに作ったばかりのおかずをよそおうとしているところのようだ。
「何、じゃないでしょ! ずっと呼んでるのに! ご飯できたわよ!」
「ああ、うん」
「まったく、あんたって子はほんっといると邪魔なんだから」
「うん……」
返事はしたものの、恭佑の意識は再び本に向かっている。中途半端に邪魔されたせいで、先が気になって仕方がないらしい。
恭佑の返事を聞いて料理を盛り付け終わった母親が、両手に皿を持ち台所から出てくる。さっきまでと全く変わらない体勢の恭佑をみて、再び大声を張り上げる。
「恭佑!!」
真横からの声に流石に驚く。慌てて本を閉じて立ち上がる。
「ごめん、手伝うよ」
「早く持ってきてちょうだい」
憤慨した母親の機嫌をこれ以上損ねないように気をつけながら、恭佑は母親を手伝い、料理をテーブルに並べた。
いただきます、と声を揃える。食べ始めてすぐは静かだった食卓も、終わりに近づくにつれて張り詰めた空気も緩んでいった。
「ところで、あんたが本を読むところなんて初めて見たんだけど」
「うん。今日初めて読んだから」
「いつも図書館に何しに行ってるのよ」
呆れた風の母親だが、興味があるように振る舞う母親が実は恭佑に関心を寄せていないことを知っている恭佑。ただ、普段の言動も把握しておかなければという義務感から聞かれているのをわかっていたから、笑われても少しも気にならなかった。だが、嘘をつく理由もなく、母親からの問いにも素直に答えた。
「涼みに行ってる」
「ふーん。ま、ただ涼むよりは本読む方が有意義なんじゃない」
「うん」
どうでもよさそうな反応に、大して期待していなかった恭佑も特に何か言うでもなく残っていたトマトに箸を伸ばした。
「そんなにあたしの声が耳に入らないなら、先にお風呂入ってしまいなさい。あたしだってわざわざ呼ぶのもめんどくさいし」
早々に食事を終えた母親がそれだけを言い残して席を立つ。そのまま台所で翌日の弁当を作り始める。
「わかった」
聞こえない声量でそう答え、口内に残っていた米粒を味噌汁で流し込んだのだった。
言われたとおりそのままシャワーを浴び、自室に戻る。蒸し暑い部屋に再び汗をかきながらエアコンの真下に陣取る。スイッチを入れたばかりの生ぬるい風から冷風に変わったときには、すっかり恭佑は本の世界に没頭していた。
部屋が冷え切っても、恭佑の部屋の真下にある玄関が振動で父親の帰宅を伝えても集中が切れることはなく、ページをめくる一定の音だけが響いていた。
それから数時間、窓の外から聞こえるバイクの音でふと恭佑の意識が呼び戻された。
体痛い……。
ずっと同じ体勢だったせいで固まりきった体を伸ばす。視線を窓の外に向けると、薄らと白い明かりが広がり始めていた。
もう4時か。さすがに寝ないと。ちょうど区切りがついたことと、明日、いや今日も向日葵に会いたいという意識で我慢をして、本についていた栞紐を挟んでから閉じる。
半分超えたんだ。全然、読み終わる気がしないけど。
横になって目を閉じても、長らく浸かりきっていた世界観が頭の中で広がり続け、なかなか寝付くことが出来なかった。
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