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09.一歩進んだ約束
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翌朝、恭佑は九時四十五分に家を出た。幸いまだ向日葵は出てきていないようで、家の前の電柱にもたれかかる。約束の時間は五分後で、少しの待ち時間がとても待ち遠しい。
いつ来るかな……。
寝起きの恭佑はまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと立っていた。夏の暑さはいつも通りで、既に体は涼しい場所を求めていて日陰の中でも風通しの良い場所に移動するようにと訴えているが、それも眠さの前では億劫でしかなかった。
だが、そんな面倒くささは、恭佑が外に出て一息もつかないうちにガチャッという音がして解決する。隣の家の玄関が開いて、明るい笑顔の向日葵が姿を見せた。
「おはようございます!」
朝だというのに良く通る元気な声。向日葵は恭佑に一声かけた後、家の中を振り向いて、行ってきます! と残してから玄関を閉める。
小走りで恭佑のもとに近づくと、だらだらと汗をかく恭佑の首元を持っていた扇子で扇いだ。
「大丈夫ですか? お待たせしてしまってすみません」
暑い空気も風が動けば多少は涼しい。目を細めて扇子からの風を甘受する。
「来たところだから大丈夫。おはよう」
恭佑がそう言うと、向日葵は華やかな笑顔を返す。
「はい! おはようございます」
どちらからともなく図書館に向かって歩き出す。道路の日陰は一人分しかない。向日葵を日陰に入れ、恭佑は道路側を歩く。
「私、ケンタの素直なところ好きなんですよ」
え? 唐突な告白に一瞬どきっとして、それからケンタが誰かを思い出す。『いつかの明日に君が来る』の主人公のユイが恋した相手の名前で、向日葵は本の感想を言いたいらしいと察した。
ケンタはユイのアプローチに戸惑いながら応え、ケンタもユイへの気持ちを認めてからは、正直に伝えて二人は愛を育む。途中、ユイに思いを寄せる男が現れたときも、ケンタは自分の気持ちと向き合って正直に嫉妬を伝える。
恭佑もケンタの気持ちが痛いほど理解できたこともあり、向日葵に頷き返した。
「俺も。最初はへたれに見えたけど、一本筋が通っていて最後まで自分の思いを貫いていてかっこよかったな」
「そうですよね! それに……」
言葉遣いは丁寧ながらも、熱の入った向日葵は口早にケンタの良さを語った。もちろん、恭佑にもそれは伝わっていて、互いが互いに推しを語り合う時間が続いた。
図書館についてからもその語りは終わらず、二人はそのまま休憩スペースに腰掛けて話を続ける。
結局、昼過ぎまで話は続き、気づいたときには二人とも喉がカラカラだった。涼しい場所とはいえ、飲み物も飲まずに話し続けていたのだから無理もない。二人は一緒に軽食を済ませた後、いつもの場所に向かった。
本棚の間を縫って歩いていた向日葵がふいに足を止める。
「それで、もし良かったらなのですが」
突然の話に恭佑が向日葵を見て話の先を促すと、何度か言葉を飲み込んでから背を向けて再び歩き出す。
戸惑いながらその後を追うと、向日葵は恭佑のほうを見ずに口を開いた。
「今度の休館日、一緒に行きませんか。ケンタとユイが出会った場所に」
「え?」
恭佑の驚きは止まることなく口からこぼれ出る。その反応をどう受け取ったのか、向日葵は歩く速度を上げた。
「すぐ近くなんです。でも、一人で行くにはちょっと恥ずかしくて」
カップルばかりらしいのでと早口の向日葵は続けた。――図書館の冷風で冷えたはずの顔が、後ろから見ても真っ赤なのがわかった。
紛れもないデートの誘いに、恭佑の顔も同じように赤く染まる。
「良いよ。一緒に行こう」
恭佑も、精一杯何でもない風を装って答えた。どうか今は振り向きませんように。
いつ来るかな……。
寝起きの恭佑はまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと立っていた。夏の暑さはいつも通りで、既に体は涼しい場所を求めていて日陰の中でも風通しの良い場所に移動するようにと訴えているが、それも眠さの前では億劫でしかなかった。
だが、そんな面倒くささは、恭佑が外に出て一息もつかないうちにガチャッという音がして解決する。隣の家の玄関が開いて、明るい笑顔の向日葵が姿を見せた。
「おはようございます!」
朝だというのに良く通る元気な声。向日葵は恭佑に一声かけた後、家の中を振り向いて、行ってきます! と残してから玄関を閉める。
小走りで恭佑のもとに近づくと、だらだらと汗をかく恭佑の首元を持っていた扇子で扇いだ。
「大丈夫ですか? お待たせしてしまってすみません」
暑い空気も風が動けば多少は涼しい。目を細めて扇子からの風を甘受する。
「来たところだから大丈夫。おはよう」
恭佑がそう言うと、向日葵は華やかな笑顔を返す。
「はい! おはようございます」
どちらからともなく図書館に向かって歩き出す。道路の日陰は一人分しかない。向日葵を日陰に入れ、恭佑は道路側を歩く。
「私、ケンタの素直なところ好きなんですよ」
え? 唐突な告白に一瞬どきっとして、それからケンタが誰かを思い出す。『いつかの明日に君が来る』の主人公のユイが恋した相手の名前で、向日葵は本の感想を言いたいらしいと察した。
ケンタはユイのアプローチに戸惑いながら応え、ケンタもユイへの気持ちを認めてからは、正直に伝えて二人は愛を育む。途中、ユイに思いを寄せる男が現れたときも、ケンタは自分の気持ちと向き合って正直に嫉妬を伝える。
恭佑もケンタの気持ちが痛いほど理解できたこともあり、向日葵に頷き返した。
「俺も。最初はへたれに見えたけど、一本筋が通っていて最後まで自分の思いを貫いていてかっこよかったな」
「そうですよね! それに……」
言葉遣いは丁寧ながらも、熱の入った向日葵は口早にケンタの良さを語った。もちろん、恭佑にもそれは伝わっていて、互いが互いに推しを語り合う時間が続いた。
図書館についてからもその語りは終わらず、二人はそのまま休憩スペースに腰掛けて話を続ける。
結局、昼過ぎまで話は続き、気づいたときには二人とも喉がカラカラだった。涼しい場所とはいえ、飲み物も飲まずに話し続けていたのだから無理もない。二人は一緒に軽食を済ませた後、いつもの場所に向かった。
本棚の間を縫って歩いていた向日葵がふいに足を止める。
「それで、もし良かったらなのですが」
突然の話に恭佑が向日葵を見て話の先を促すと、何度か言葉を飲み込んでから背を向けて再び歩き出す。
戸惑いながらその後を追うと、向日葵は恭佑のほうを見ずに口を開いた。
「今度の休館日、一緒に行きませんか。ケンタとユイが出会った場所に」
「え?」
恭佑の驚きは止まることなく口からこぼれ出る。その反応をどう受け取ったのか、向日葵は歩く速度を上げた。
「すぐ近くなんです。でも、一人で行くにはちょっと恥ずかしくて」
カップルばかりらしいのでと早口の向日葵は続けた。――図書館の冷風で冷えたはずの顔が、後ろから見ても真っ赤なのがわかった。
紛れもないデートの誘いに、恭佑の顔も同じように赤く染まる。
「良いよ。一緒に行こう」
恭佑も、精一杯何でもない風を装って答えた。どうか今は振り向きませんように。
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