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12.面影だけでも傍に
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その後、ショックを受けた恭佑はしばらくの間、図書館に行くことが出来なかった。毎日恭佑のことを邪険にしていた母親も、流石に外に出かけてこいとは言わなかった。
けれど、少し前に借りていた本の返却期限が迫っていることに気づき、渋々支度をして図書館に向かう。
「あっつー」
この暑さも少し前までは、向日葵に会うためと耐えられたが、今となっては体を焼く煉獄の炎にしか感じられない。歩みも遅く、普段の倍の時間をかけて図書館にたどり着いた。
カウンターで返却処理をしてそのまま帰ろうと思っていた恭佑だったが、カレンダーを見てふと気づく。夏休みももう後半。これを逃したらもう向日葵に会うことは出来ないかもしれない。
最後に一目だけでも会いたい。
慣れた通路を進み、あと棚を一つ通り過ぎれば定位置というところまで来て、恭佑は足を止めた。きっと向日葵入るだろうと何も疑わずにここまできたが、もしいなかったら。
何度も踏み出そうとして、決意ができずに立ち止まっていた。
夏の炎天下で火照っていた体がすっかり冷え切った頃、ようやく顔だけを棚の向こうに出した。
「いた……良かった」
安心して大きなため息が漏れる。向日葵は変わらない態度で本を読んでいて、自分と関わらなければきっとこの平和も守られて、図書館にも通い続けてくれるかもしれない。そうしたら、話すことは出来なくても、側にいられる。
恭佑はそっとその場を離れて、別の席に向かった。隣にいなくても、本を読むことで繋がりが保てるような気がした。
本棚から続きの本をとって座る。あらすじに目を通していると、向日葵が説明してくれた内容がさまざまと蘇る。
「感想、話したかったなぁ」
何を考えても向日葵のことを思い出してしまう。向日葵はどんな気持ちでこの話を読み、何を感じるのかと。
文字に目を落としてページをめくった。
「恭佑さん!」
怒ったような声で呼びかけられ、恭佑は驚きのあまり咄嗟に本を閉じて立ち上がる。
「向日葵ちゃん、さっきまで本を読んでいたのに……どうしてここに」
「さっき、私のことを見ていましたよね。気づかないと、思ったんですか?」
どうして話しかけてくれなかったのかとその表情は伝えている。でも、向日葵は恭佑のことを嫌っているはずで、どうしてわざわざ話しかけてきたのかさっぱり理解出来なかった。なんと言えば良いのかわからず、戸惑っていると向日葵が言葉を続ける。
「話しかけてくれるのではないかと、待っていたんですが」
責める台詞に、恭佑は思わず本音が漏れた。恭佑が遠慮して話しかけなかったのに、なぜかその向日葵から話しかけないことを責められている。納得が出来ない。
「俺のことが怖いんだろ。だったら無理に話しかけてこなくても」
「誰がそんなことを言ったんですか?」
「でも、最初は怖がってたじゃないか」
「出会った頃の話です。私は、一緒にいたくない人に本を薦めたり、出かけようと誘ったりはしません」
何を言っても、向日葵が言葉をかぶせてくる。普段穏やかな口調の向日葵のそんな一面は、今まで見たことがない。恭佑はなじられることに不満に思いながら、再び会話が出来ることに喜びを感じていた。
「どうしてわかってくれないのですか! 私はあなたに会いたくてずっとここで待っていたのに」
ついに不満が爆発した向日葵の大声が、図書館中に響き渡る。声が反響して、慌てて口を押さえた向日葵だが、すぐにちょっと! と冷静な声が近づいてきて、司書が顔を出した。
「ここは本を読む場所ですよ。痴話げんかなら外でやってください」
「す、すみません」
表情を一変させて気弱な表情に戻った向日葵は、司書の鋭い視線から逃げるように外に向かい、一緒にいた恭佑も同罪だと司書に追い出された。
休憩スペースに移動した二人は、改めて向き直る。
「俺のこと、嫌いじゃないの?」
最初に口火を切ったのは恭佑。向日葵は憮然とした表情をしていて、すぐに質問をしているはずの恭佑が一変して質問攻めにされる。
「当然です! 今まで私と過ごしてきて、信じられませんか?」
「そんなことは」
「私を見つけたら、声をかけてくれると約束してくれたのを忘れてしまったのですか」
「忘れてない……」
「では私と一緒に、また本の感想を語り合ってくれますか?」
「もちろん!」
最後の向日葵の問いに、これまで俯きがちだった恭佑が顔を上げ、勢いよく答える。答えてから、しまったと口を覆う。逆に、険しかった向日葵の表情は柔らかいものに変わった。
「良かったです。これで、また一緒に過ごせますね」
誘導尋問に引っかかったと気づいても後の祭り。満足げな向日葵は、さっと立ち上がって歩き出す。
「ここは暑いですから、図書館に戻りましょう」
「え、でも」
「でもじゃありません。一度は私との約束を破ったのですから、今度は必ず守ってくださいね」
向日葵は許してくれたように見えて、根に持っているのだろう。振り向いて更に念押しされて、恭佑はたじろぎながらも頷く。促されて図書館に戻り、今度は二人で本を選ぶ。
「今度、実写の映画化される本があるんですよ。読んだら、一緒に行きませんか?」
「もちろん」
向日葵のことは向日葵に聞く。今度こそ、他の人の言葉を鵜呑みにしたりしないと、恭佑は誓った。
けれど、少し前に借りていた本の返却期限が迫っていることに気づき、渋々支度をして図書館に向かう。
「あっつー」
この暑さも少し前までは、向日葵に会うためと耐えられたが、今となっては体を焼く煉獄の炎にしか感じられない。歩みも遅く、普段の倍の時間をかけて図書館にたどり着いた。
カウンターで返却処理をしてそのまま帰ろうと思っていた恭佑だったが、カレンダーを見てふと気づく。夏休みももう後半。これを逃したらもう向日葵に会うことは出来ないかもしれない。
最後に一目だけでも会いたい。
慣れた通路を進み、あと棚を一つ通り過ぎれば定位置というところまで来て、恭佑は足を止めた。きっと向日葵入るだろうと何も疑わずにここまできたが、もしいなかったら。
何度も踏み出そうとして、決意ができずに立ち止まっていた。
夏の炎天下で火照っていた体がすっかり冷え切った頃、ようやく顔だけを棚の向こうに出した。
「いた……良かった」
安心して大きなため息が漏れる。向日葵は変わらない態度で本を読んでいて、自分と関わらなければきっとこの平和も守られて、図書館にも通い続けてくれるかもしれない。そうしたら、話すことは出来なくても、側にいられる。
恭佑はそっとその場を離れて、別の席に向かった。隣にいなくても、本を読むことで繋がりが保てるような気がした。
本棚から続きの本をとって座る。あらすじに目を通していると、向日葵が説明してくれた内容がさまざまと蘇る。
「感想、話したかったなぁ」
何を考えても向日葵のことを思い出してしまう。向日葵はどんな気持ちでこの話を読み、何を感じるのかと。
文字に目を落としてページをめくった。
「恭佑さん!」
怒ったような声で呼びかけられ、恭佑は驚きのあまり咄嗟に本を閉じて立ち上がる。
「向日葵ちゃん、さっきまで本を読んでいたのに……どうしてここに」
「さっき、私のことを見ていましたよね。気づかないと、思ったんですか?」
どうして話しかけてくれなかったのかとその表情は伝えている。でも、向日葵は恭佑のことを嫌っているはずで、どうしてわざわざ話しかけてきたのかさっぱり理解出来なかった。なんと言えば良いのかわからず、戸惑っていると向日葵が言葉を続ける。
「話しかけてくれるのではないかと、待っていたんですが」
責める台詞に、恭佑は思わず本音が漏れた。恭佑が遠慮して話しかけなかったのに、なぜかその向日葵から話しかけないことを責められている。納得が出来ない。
「俺のことが怖いんだろ。だったら無理に話しかけてこなくても」
「誰がそんなことを言ったんですか?」
「でも、最初は怖がってたじゃないか」
「出会った頃の話です。私は、一緒にいたくない人に本を薦めたり、出かけようと誘ったりはしません」
何を言っても、向日葵が言葉をかぶせてくる。普段穏やかな口調の向日葵のそんな一面は、今まで見たことがない。恭佑はなじられることに不満に思いながら、再び会話が出来ることに喜びを感じていた。
「どうしてわかってくれないのですか! 私はあなたに会いたくてずっとここで待っていたのに」
ついに不満が爆発した向日葵の大声が、図書館中に響き渡る。声が反響して、慌てて口を押さえた向日葵だが、すぐにちょっと! と冷静な声が近づいてきて、司書が顔を出した。
「ここは本を読む場所ですよ。痴話げんかなら外でやってください」
「す、すみません」
表情を一変させて気弱な表情に戻った向日葵は、司書の鋭い視線から逃げるように外に向かい、一緒にいた恭佑も同罪だと司書に追い出された。
休憩スペースに移動した二人は、改めて向き直る。
「俺のこと、嫌いじゃないの?」
最初に口火を切ったのは恭佑。向日葵は憮然とした表情をしていて、すぐに質問をしているはずの恭佑が一変して質問攻めにされる。
「当然です! 今まで私と過ごしてきて、信じられませんか?」
「そんなことは」
「私を見つけたら、声をかけてくれると約束してくれたのを忘れてしまったのですか」
「忘れてない……」
「では私と一緒に、また本の感想を語り合ってくれますか?」
「もちろん!」
最後の向日葵の問いに、これまで俯きがちだった恭佑が顔を上げ、勢いよく答える。答えてから、しまったと口を覆う。逆に、険しかった向日葵の表情は柔らかいものに変わった。
「良かったです。これで、また一緒に過ごせますね」
誘導尋問に引っかかったと気づいても後の祭り。満足げな向日葵は、さっと立ち上がって歩き出す。
「ここは暑いですから、図書館に戻りましょう」
「え、でも」
「でもじゃありません。一度は私との約束を破ったのですから、今度は必ず守ってくださいね」
向日葵は許してくれたように見えて、根に持っているのだろう。振り向いて更に念押しされて、恭佑はたじろぎながらも頷く。促されて図書館に戻り、今度は二人で本を選ぶ。
「今度、実写の映画化される本があるんですよ。読んだら、一緒に行きませんか?」
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