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11.楽しい時間の終わり 後半
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家に帰り着くと、隣の家の前にはさっきみたばかりの車が止まっている。向日葵の姿が見えないかと目をこらすが、車にはもう誰も乗っていないらしく、人影は見えなかった。
「はぁ……」
ため息をつきながら玄関を開けると、食欲をそそる良い匂いが漂っていた。どうやら母親の仕事が、今日は早く終わったらしい。リビングに入ると、いつもより少し手の込んだ料理が待っていた。
「おかえり。……あれ、朝は楽しそうに出かけていったのに、そんな暗い顔なんて。喧嘩でもしたの?」
ご機嫌でもなく、不機嫌でもない。いつもどおりのトーンの母親が、気落ちしている恭佑の様子に目敏く気づいて問いただす。普段興味がない顔をしているくせに、こういうときだけやけに鋭いのだ。普段からもう少し母親らしくしてくれれば良いのにという不満を押し殺して、席に着く。
「別に」
「別にって顔じゃないから聞いてるんだけど。まぁ、話す気になったら言えば良いわ。とにかく食べなさい。何事も食事が基本なんだから」
母親は自分から聞いたにもかかわらず、そう切り上げて早々に食事を始めた。心配はしているふりはするが本心ではどうでも良いと思っているのだろう。母親がこんなだなんて、と自分の不幸を呪うこともあったが、向日葵の母親のような過干渉を目の当たりにすると、まだ自分の好きにできるだけマシかもしれないと少し考え直した。
「ちょっと、食べるなら早く食べなさい。冷めちゃうじゃない」
恭佑の落ち込んだ様子を無視して、母親はそう促し、新聞のニュースに目を通しだした。恭佑は促されるまま冷め始めた鮭のムニエルを口に運ぶ。好きなはずの鮭の味が全くしなかった。
「おいしくない? 今日は結構準備に時間かけたんだけど」
無表情のままの恭佑の様子に母親はそう尋ねるが、恭佑は力なく首を横に振る。
「ううん。おいしい」
少しもおいしそうに聞こえない言葉に、母親は肩を竦めた。
「今日は早く寝なさい」
少しも箸が進まない恭佑に付き合ってられないと、早々に食べ終えた母親は食器を片付け出す。テーブルに取り残された恭佑。だされたものは食べなくてはいけないという義務感で、少しずつ箸を動かした。
ピンポーン。
チャイムが鳴り、ソファでゆっくりしていた母親が、玄関に向かう。話し声がして、新聞の支払いか、はたまた営業でもきたのかと無視していた恭佑は、実に三十分かかった食事を終えて自室に行くことにした。リビングを出て玄関にある階段に向かう。ついでになかなか帰らなさそうな来客が誰かと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。怒っているらしい声と同時に、負けじと母親が応戦する声も聞こえた。
「あんた! よくもあの子を連れ回してくれたわね!」
さっき恭佑を罵倒しただけで飽き足らず、家にまで文句を言いに来たらしい。対して恭佑の母親は、めんどくさそうに対応している。
「連れ回してって、子供じゃああるまいし。大体、恭佑はそんな子じゃないし。もううるさいからさっさと帰ってよ」
「おたくみたいな非常識な親だから、子供もこんな非常識に育つのよ!」
「あんたほどじゃないと思うけど」
「なんですって!?」
母親は、恭佑が廊下に立ちすくんでいるのに気づくと手をひらひらと振って、自室に行くようにと促した。
「ちょっと! 逃げる気!?」
「恭佑の貴重な時間をあんたに割くわけにはいかないからね。ほら恭佑、さっさと行って」
いつもと同じ声のトーンで促されて、普段なら冷たく感じるその声が、これ以上なく頼もしく感じた。部屋に戻りドアを閉める。
「あんたみたいな目つきの悪いヤンキーに脅されて、あの子も迷惑だって言ってたわよ!!」
最後投げつけられた言葉が、恭佑の胸に刺さる。ただ難癖をつけられているだけだと思おうとしても、頭から消えなかった。
もう向日葵ちゃんには会えない……。
「はぁ……」
ため息をつきながら玄関を開けると、食欲をそそる良い匂いが漂っていた。どうやら母親の仕事が、今日は早く終わったらしい。リビングに入ると、いつもより少し手の込んだ料理が待っていた。
「おかえり。……あれ、朝は楽しそうに出かけていったのに、そんな暗い顔なんて。喧嘩でもしたの?」
ご機嫌でもなく、不機嫌でもない。いつもどおりのトーンの母親が、気落ちしている恭佑の様子に目敏く気づいて問いただす。普段興味がない顔をしているくせに、こういうときだけやけに鋭いのだ。普段からもう少し母親らしくしてくれれば良いのにという不満を押し殺して、席に着く。
「別に」
「別にって顔じゃないから聞いてるんだけど。まぁ、話す気になったら言えば良いわ。とにかく食べなさい。何事も食事が基本なんだから」
母親は自分から聞いたにもかかわらず、そう切り上げて早々に食事を始めた。心配はしているふりはするが本心ではどうでも良いと思っているのだろう。母親がこんなだなんて、と自分の不幸を呪うこともあったが、向日葵の母親のような過干渉を目の当たりにすると、まだ自分の好きにできるだけマシかもしれないと少し考え直した。
「ちょっと、食べるなら早く食べなさい。冷めちゃうじゃない」
恭佑の落ち込んだ様子を無視して、母親はそう促し、新聞のニュースに目を通しだした。恭佑は促されるまま冷め始めた鮭のムニエルを口に運ぶ。好きなはずの鮭の味が全くしなかった。
「おいしくない? 今日は結構準備に時間かけたんだけど」
無表情のままの恭佑の様子に母親はそう尋ねるが、恭佑は力なく首を横に振る。
「ううん。おいしい」
少しもおいしそうに聞こえない言葉に、母親は肩を竦めた。
「今日は早く寝なさい」
少しも箸が進まない恭佑に付き合ってられないと、早々に食べ終えた母親は食器を片付け出す。テーブルに取り残された恭佑。だされたものは食べなくてはいけないという義務感で、少しずつ箸を動かした。
ピンポーン。
チャイムが鳴り、ソファでゆっくりしていた母親が、玄関に向かう。話し声がして、新聞の支払いか、はたまた営業でもきたのかと無視していた恭佑は、実に三十分かかった食事を終えて自室に行くことにした。リビングを出て玄関にある階段に向かう。ついでになかなか帰らなさそうな来客が誰かと思っていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。怒っているらしい声と同時に、負けじと母親が応戦する声も聞こえた。
「あんた! よくもあの子を連れ回してくれたわね!」
さっき恭佑を罵倒しただけで飽き足らず、家にまで文句を言いに来たらしい。対して恭佑の母親は、めんどくさそうに対応している。
「連れ回してって、子供じゃああるまいし。大体、恭佑はそんな子じゃないし。もううるさいからさっさと帰ってよ」
「おたくみたいな非常識な親だから、子供もこんな非常識に育つのよ!」
「あんたほどじゃないと思うけど」
「なんですって!?」
母親は、恭佑が廊下に立ちすくんでいるのに気づくと手をひらひらと振って、自室に行くようにと促した。
「ちょっと! 逃げる気!?」
「恭佑の貴重な時間をあんたに割くわけにはいかないからね。ほら恭佑、さっさと行って」
いつもと同じ声のトーンで促されて、普段なら冷たく感じるその声が、これ以上なく頼もしく感じた。部屋に戻りドアを閉める。
「あんたみたいな目つきの悪いヤンキーに脅されて、あの子も迷惑だって言ってたわよ!!」
最後投げつけられた言葉が、恭佑の胸に刺さる。ただ難癖をつけられているだけだと思おうとしても、頭から消えなかった。
もう向日葵ちゃんには会えない……。
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