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五話

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  鼓動の高鳴りを感じながら、急ぐ体を落ち着かせるように胸に手を置き、一つ大きな呼吸をする。
 老人は畳一畳ほどのスペースに、じっと階段の先を見据えながら立っている。
 やっと会えた。一月ぶりの再開だったのだ。
 短くて、永い時が過ぎ去ったと感じるほどに、疼く体を夜な夜な一人で鎮めながら待ち続けたのだ。 
 老人の悪戯を思い出しながら、自粛に精を出していた。
 自分でも、常識から離れていることは百も承知。これ以上は......。

 触られる。実はこの行為は初めてではなかった。
 夫の友広とは、職場で出会い恋におちた。しかし、結婚してまもなく、友広の上司からセクハラまがいの仕打ちをうけていたことがあって、私はその時に自分の愚かさ、恥じらいを知らない体であることを知ったのだ。
 会社の空き部屋で、胸元をまさぐられ、時にはスカートの中に太い指を這わせてきて、タイツ越しに太ももをイヤらしく触ってきた。
 確かに、ハッキリと拒んだはずだった。当時は今と違い、美奈子は友広との間に絆と信頼が強固に架け橋となり繋がっていたのだから。
 それからも数回に渡り上司の悪戯は続くが、それが終わった時、美奈子の体にはどこか空白が生じていた。
 触られた日の夜、激しく夫を求めた。
 そう、余韻に浸りながら。

 美奈子は老人に声をかけた。
「お久しぶりですね。また、肩をお貸しましょうか?」
 老人はこちらに顔を向けて頷いた。
 美奈子は片手を腰に回して、老人の腕を自分の首にかけた。
 迷いはない。むしろ、この拒めない体勢がよりいっそう下半身を意識させ、背徳感に疼かせる。
 夫がいる妻。しかし、一度夢中になった色は消えない。別の色を垂らしても、また上から老人に色を求めてしまう。
 老人もわかっているのか、そんな美奈子に躊躇はない。
 顔を近づけて来て、頬にふっと息を吹きかけた後に、キスをしたのだ。体の内側から炎が上がる。欲情していくのがわかる。
 腰に回した腕に力を込めて支えながら足を上げると同時に、老人も一段目の階段を上がる。
 老人のキスは、頬を伝い唇に達する。吐息と吐息がぶつかり、美奈子は秘部を濡らす。
 肩から伸びるシワシワの手が、乳房を掴むと、上下に揺らし弄ぶ。
 もちろん、買い物袋を持っているために、その手を払うことは出来ない。
 むしろもっと、乱暴に揉みしだき、狂わせてほしい......足りないのだ。この一月は我慢の連続だった。
 幾度となく繰り返した自粛行為。その全てが老人を思うばかりのこと。相手は八十前後の男。
 三十路をついこの間過ぎたばかりの美奈子とは、おそらく見た目は不釣り合いだろう。
 だが不思議なことに、体はピタリと型にハマるように巡り会ってしまった。
 老人の手が、襟元からシャツの中に侵入すると、ブラを避けて、的確に乳首に到達し愛撫を始めた。
「ん......んっ......」
 指の動きと共に、溜まった欲情が喘ぎ声になって蒸発していく。

 進まない足と階段。しかし、体は確実に高みへと進んでいく。その細い指の導くままに。
 
 誰が来るかもわからない公共の場所で、こんな行為を受け入れている自分が無性に恥ずかしくなるのだが、体は正直に老人の指先に反応して震えてしまう。
「あっ......いけないわ......ダメ......」
 薄くて浅い、上っ面な理性だった。
 老人は杖を壁に立て掛けると、なんとパンツのボタンとファスナーを外し、そのまま下ろしてしまった。
 膝下まで下げられたことにより、白いレースのショーツがいやらしく眼前に晒された。
 老人は迷いなくショーツをずらして指を差し入れてきた。もうすでに蜜は滴るほどに準備が出来ていて、いやらしく這いずる指には、なんの障害もない。
 体の中に入った中指と薬指は、その表情を変え獣のように激しく暴れ出した。
「あっ......あん......んっダメっ」
 快感が体中を駆け巡るようになると、膝が曲がり尻を突き出すような姿勢になり、美奈子の顔は老人の胸に埋まる。そして、もっと、もっと乱暴に。一月の時間が幻だと思わせてくれるほどに狂わせてほしいと思った。
 美奈子は口に手を当て、背徳に喘ぐ声を必死に抑えた。
「ん......あっん......ん......」
 老人は責める手を緩めずに、シャツを捲るとフロントホックを外し乳房を露出させ、さらに快感を与えてきた。
 豊満な胸は、張りがあり、乳首はその指を求めて勃起していた。

 美奈子は、すでに一度老人に逝かされている。
 それゆえに、心境は一点の曇りもなく、絶頂を迎えようと大きく広げ受け入れている。
 老人が乳首をしゃぶり吸い上げると、美奈子の体には、強烈な刺激が駆け巡り、腰が抜けてしまった。
 老人はそっと身を引き、指に付着した証を丁寧に舐めると、ブラジャーとショーツを剥ぎ取り、ポケットにしまう。
 美奈子もゆっくり立ち上がり服を直すが、その際に余韻が残る乳首が、シャツを押し上げていやらしく勃っていた。
 気持ちが次第に落ち着いてくると、現状の姿が恥ずかしくなり、階段を駆け上がり家に入った。
 額には汗を滲ませ、頬を赤く染めて、いったい私は何をしているのか、唐突に悲しくなり涙が込み上げてきたのだ。
 これは罪悪感?...違う、そうじゃない。過ちはとうに犯しているし、あの時覚悟はした。後悔など微塵もなかったはずなのに。
 美奈子は混乱していた。自分の思惑が、体と一致しないことに。
「美奈子!!」
 リビングから怒鳴り声が聞こえた。
 また始まる。私は、十分か一時間か、これから長い長い説教が始まるのだ。
 玄関からリビングへと続く廊下が、もっと遠く、地平線の彼方まであればいいのにと嘆いた。

 架け橋は......みるも無残に、すでに崩壊しているのだ。
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