寂れた無限の奉仕

未来の小説家

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第二章

第十二話

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 いやまだだ。周りを見渡す。原付に座りながら野次馬をしている高校生に声をかけた。
「すまん。その原付、一瞬貸してくれ。」
「え、嫌ですよ。」
「わかったわかった。何か欲しいものは?」
「そんなこと急に言われても。」
「十万あったらいいか?」
「じゃあいいですよ。」
「すまんな。青年。」

同意の言葉を得たおれは即座に少年から原付を奪い救急車を追う。
「お、おい!おっさん!金は~。」
 
 すまんな。こんなことに巻き込んで。神様よ、あの子に10万恵んでやってくれ。
 おれは道路交通法など無視で救急車を追いかけた。後ろからパトカーが追いかけてくる。当然だ。事故現場のすぐ近くで法律を破っているのだから。しかしおれは気にせず視界から消えそうな救急車のサイレンを追いかけた。

 待ってくれ。このままではおれが最悪の人間になってしまう。人の幸せまで奪うような人間にさせないでくれ。携帯のバイブはなり続けている。救急車の曲がる回数が増えてきた。運ばれる病院はもうすぐか。目の前に病院が見えた。

「そこの原付止まりなさい。」

 ったくうるせえな。もうすぐなんだよ。救急車が減速している。救急車から患者を降ろして、病院に運び込む瞬間。ここにかけるしかない。おれは急いでスロットルを回す。何キロ出てるかも自分では分からなかった。救急車が止まる。おれは回り込み、原付を手から離す。ガシャンという音がした。すまん少年よ。歩花の夫が運ばれてきた。おれは救命士をかき分け、歩花の夫の手を握る。顔の原型はほとんどなかった。

「頼む生きてくれ。」

 すると、原形のなかった顔は元通りになった。さっき死にかけていたとは思えないほどにいい表情だった。
「ここは?天国か?」
「天国さ。君にとってはこの世がね。」
「あなたは?」
「通りすがりのものだ。歩花を幸せにしてやってくれよ。」

 おれはその場を去った。二人の警察官が立っていた。
「君分かってるね。署まで来てもらうよ。」
「分かってるよ。電話だけ出ていいか。」

 携帯を見ると想像した通り歩花からだった。
「雄介。彼が!夫が!」
「ああ、大丈夫だよ。君の幸せは続くよ。きっと。ごめんな。」
という一言だけ残して電話を切った。
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