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元勇者パーティーのクロナ
07 開戦間近
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帝国。首都ランカルジュのとある一室にて。
「アラクネ、キングアラゴスタ両個体共に生命活動の停止を確認。尚、両個体から生まれた新種の幼体スパイダーは、数を減らしながら大森林の各地に散った模様。生体研からの報告では新種が大森林の生態系に及ぼす影響は軽微とのこと。今後は残存個体からの変異種の発現に備え、継続的な監視を行うとともに、要注視案件として生体研が中心となり管理、対応を予定しています」
「まったく……たかが冒険者風情が、厄介な置き土産を残してくれたものだな」
眉間に皺を寄せては、渋い顔を突き合わせる幾人かの男たち。
締め切られた室内に立ち込める煙が、やけに視界を曇らせているように感じられるのは、何もあちこちから漏れ出るため息だけが原因ではない。
「これでは王国の戦力を削るどころの話ではないな。南部に配置している部隊は撤収せざるを得ないだろう」
「共和国にはどう申し開きをするつもりだ? まさか想定より相手が強かったなどと、バカ正直に報告する大バカはこの国にいないだろうが」
「しかしここまで準備しておきながら開戦を延期するとなると、それなりに時間も手間もかかることになるぞ」
「金の間違いだろう。共和国には引き続き我々の良き隣人であってもらわねばならないからな」
「王国の次は連合国か。皇国への根回しはどうなっている?」
「皇国は元より連合国の亜人相手ならいつでも協力すると確約を得ている。その時は南部の貴重な労働力を失うことになるだろうが、その時は友好的な王国民に協力してもらう他ないな」
「友好的。フッ、友好的か。耳障りの良いことだな」
「とにかく共和国にはそれまで大人しくしていてもらう必要がある。我々は引き続き共和国の手綱を握りつつ、早急に王国の頭を押さえつけなければならない。戦力的な優劣に変わりはないが、王国との戦端を開けば必ず次を見据えた連合国が南部の亜人解放に動き出す。最悪明け渡す形でもその後の連合国戦を見据えれば一時的なものに過ぎないが、だからこそ王国相手には被害を抑制しつつ迅速に勝利しなければならない」
「今回の一件で足踏みすることになったとはいえ、今の時点で王都の予備戦力の見直しが根本から必要になったのは、我々にとって幸運だったのかもしれませんね」
「見直したところで次の手を早急に打たなければならないことには変わりない。エスコバル」
「ハッ!」
エスコバル。そう呼ばれた男は敬礼と共に声を張り上げたのち、その手に抱えた分厚い紙の束を手早くテーブルの上へと広げていく。
「作戦名はリンドマン! 尚! 本作戦は既に第一段階を終え! 第二段階にて進行中であります!」
「リンドマン……よりにもよってあの英雄リンドマンか」
「また趣味の悪いことを」
「何、いずれ失うものなら有益に使ってやる。これ以上ない栄誉だろう?」
「あくまでも献身ゆえの死か。して、勝算は?」
「奴らの内一匹でも王都に入り込めば十分。王都にあるギルドは共和国まで吹っ飛ぶだろうよ」
「なるほどな。国境線への補給を急がせる」
「そうしてくれ」
「なら共和国相手のご機嫌取りは私ということになるのかな。嫌な役回りだ」
「何、すぐに言い訳よりもいい知らせを手土産に持っていくことになる」
「やれやれ。たかがマスコットにここまで振り回されることになるとはな」
「ギルド『夢の国』か。ただのマスコットの集まりと聞いていたが……」
眉をひそめては退室していく男たち。
慌ただしく動き出した状況の中で小さく打ち鳴らされた舌打ちは、最後まで誰の耳にも届けられることはなかった。
「アラクネ、キングアラゴスタ両個体共に生命活動の停止を確認。尚、両個体から生まれた新種の幼体スパイダーは、数を減らしながら大森林の各地に散った模様。生体研からの報告では新種が大森林の生態系に及ぼす影響は軽微とのこと。今後は残存個体からの変異種の発現に備え、継続的な監視を行うとともに、要注視案件として生体研が中心となり管理、対応を予定しています」
「まったく……たかが冒険者風情が、厄介な置き土産を残してくれたものだな」
眉間に皺を寄せては、渋い顔を突き合わせる幾人かの男たち。
締め切られた室内に立ち込める煙が、やけに視界を曇らせているように感じられるのは、何もあちこちから漏れ出るため息だけが原因ではない。
「これでは王国の戦力を削るどころの話ではないな。南部に配置している部隊は撤収せざるを得ないだろう」
「共和国にはどう申し開きをするつもりだ? まさか想定より相手が強かったなどと、バカ正直に報告する大バカはこの国にいないだろうが」
「しかしここまで準備しておきながら開戦を延期するとなると、それなりに時間も手間もかかることになるぞ」
「金の間違いだろう。共和国には引き続き我々の良き隣人であってもらわねばならないからな」
「王国の次は連合国か。皇国への根回しはどうなっている?」
「皇国は元より連合国の亜人相手ならいつでも協力すると確約を得ている。その時は南部の貴重な労働力を失うことになるだろうが、その時は友好的な王国民に協力してもらう他ないな」
「友好的。フッ、友好的か。耳障りの良いことだな」
「とにかく共和国にはそれまで大人しくしていてもらう必要がある。我々は引き続き共和国の手綱を握りつつ、早急に王国の頭を押さえつけなければならない。戦力的な優劣に変わりはないが、王国との戦端を開けば必ず次を見据えた連合国が南部の亜人解放に動き出す。最悪明け渡す形でもその後の連合国戦を見据えれば一時的なものに過ぎないが、だからこそ王国相手には被害を抑制しつつ迅速に勝利しなければならない」
「今回の一件で足踏みすることになったとはいえ、今の時点で王都の予備戦力の見直しが根本から必要になったのは、我々にとって幸運だったのかもしれませんね」
「見直したところで次の手を早急に打たなければならないことには変わりない。エスコバル」
「ハッ!」
エスコバル。そう呼ばれた男は敬礼と共に声を張り上げたのち、その手に抱えた分厚い紙の束を手早くテーブルの上へと広げていく。
「作戦名はリンドマン! 尚! 本作戦は既に第一段階を終え! 第二段階にて進行中であります!」
「リンドマン……よりにもよってあの英雄リンドマンか」
「また趣味の悪いことを」
「何、いずれ失うものなら有益に使ってやる。これ以上ない栄誉だろう?」
「あくまでも献身ゆえの死か。して、勝算は?」
「奴らの内一匹でも王都に入り込めば十分。王都にあるギルドは共和国まで吹っ飛ぶだろうよ」
「なるほどな。国境線への補給を急がせる」
「そうしてくれ」
「なら共和国相手のご機嫌取りは私ということになるのかな。嫌な役回りだ」
「何、すぐに言い訳よりもいい知らせを手土産に持っていくことになる」
「やれやれ。たかがマスコットにここまで振り回されることになるとはな」
「ギルド『夢の国』か。ただのマスコットの集まりと聞いていたが……」
眉をひそめては退室していく男たち。
慌ただしく動き出した状況の中で小さく打ち鳴らされた舌打ちは、最後まで誰の耳にも届けられることはなかった。
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