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ギルド『夢の国』マスターのクロナ
09 第二王女エヴァ・クラーリ曰く
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「調子はどうかにゃ?」
「うん。良い感じ」
爆発の後、引き返しては王城の一室。
ベッドの上に腰かけては、ニーナさんが持ってきてくれた服に着替えて、そのままの流れで新しい牛頭の感想を端的に告げる。
「まったく……クロにゃあが黒焦げににゃったって聞いた時には、遂にクロにゃあが焼肉ににゃったかと心配したにゃあ!」
「はははっ。牛頭以外は吹き飛んだけど、心配ないよ。でもありがとう」
傍らで丸焦げになっている牛頭を持ち上げては、これこの通りと冗談でも飛ばすように無事をアピールする。
「でもあのクロにゃあに一発いれるにゃんて、相手もただものじゃにゃいにゃあ?」
「あのだなんて。僕が勇者パーティーに所属していたころの扱いは、ニーナさんが一番詳しいと思ってたけど」
「そうだったかにゃあ?」
ニーナさんは意地悪な笑みを浮かべては、ニヤニヤとこちらの反応を楽しんでいる。
それに牛頭の下で参ったなと苦笑いにも似た笑みを浮かべていると、不意に部屋の扉を叩く小気味いい音。
「よろしいですか」
「はい。どうぞ」
扉が開けられると同時に顔を見せるのは、気品を感じさせるゆったりとした動作の老紳士。
釣られるようにベッドから立ち上がっては、こちらを支えるようにニーナさんも椅子から立ち上がる。
「大丈夫大丈夫」
「ホントかにゃあ?」
両目を細めては、どこかこちらの言葉を怪しんでいる様子のニーナさん。
こちらの傍に身を寄せてはいつでも対応できるようにと、触れないまでもそれとなく身構えてくれている。
「よろしいですかな」
「はい」
「第二王女、エヴァ・クラーリ様がお呼びです」
♦
ニーナさんと共に老紳士に連れられ――王族らしく仰々しい広間にでも呼び出されるのかと思えば――やけにこじんまりとした風通しのいい一室へと通される。
そして開け放たれた窓際の小さなテーブルで待ち受けていた女性こそが、誰であろう王国の第二王女であり、エヴァ・クラーリと呼ばれる女性その人だった。
「久しぶりだな。クロナ」
「相変わらず貰い手は見つかっていないようですね」
「行き遅れか。その名も懐かしいと思えるほどに、私はまた歳を重ねてしまったよ。というより久しぶりだといったろう。相変わらず容赦のない律義さだな」
「私の前ではそうするようにといつしかの貴女に言われたもので」
牛頭の下で古い友人にでも会った時のような笑みを浮かべては、ゆっくりとエヴァの待ち受けるテーブルへと近づいていく。
そしてエヴァの前で足を止めては、その気を引き締めると同時に姿勢を正す。
「エヴァ・クラーリ殿下。失礼をお許しください。こうしてまた貴女にお会い出来たこと。このクロナ光栄の極みであります」
「よい。どのような形であれそなたは私の下に戻ってきた。堅苦しい挨拶はよせ。私の数少ない楽しみを奪ってくれるな。して、そちらの女子は噂のギルドメンバーの一人か?」
エヴァの視線がこちらから一歩引いた位置に控えるニーナさんへと移される。
「でっ、殿下!」
「よい。クロナの子なら私の子も同然。いつも通りとはいかぬだろうが、そう肩に力を入れずともよい」
「でっ、では! にゃっ――!」
「にゃ?」
「にゃあは猫耳メイドのニーナにゃあ! 普段はギルド『夢の国』でメンバーのグッズ制作と経理を担当しているにゃあ!」
「補足するならギルドを作ろうと僕を誘ってくれたのも彼女。段取りを整えてくれたのも、メンバーを集めたのも彼女。正真正銘ギルド設立の立役者だね」
「そ、そんにゃことにゃいにゃあ!」
「はっ、はははははっ! クロナ。良い友人を持ったな」
「はい」
「ニーナよ。訂正する。私はそなたのことを先ほどクロナの子と表現したが、それは誤りだった。そなたは間違いなく母だ」
「はっ――母……」
「何だ。嬉しくないのか?」
「にゃ、にゃあはまだ未婚にゃあ……」
「私と同じだな?」
「そっ、そんにゃ! 殿下と同じだにゃんて恐れ多いですにゃあ!」
「ニーナさんはエヴァと一緒にされたくないみたいだね」
「そっ、そんにゃこと! クロにゃあ!」
涙目で見つめられては、ぽかぽかと背中を叩いてくるニーナさん。
「まぁ、私にはいざとなったら奥の手があるからな」
意味ありげに視線を流しては、その先でこちらを見据えるエヴァ。
「王国ではマスコットとの結婚は認められてませんよ」
「私ぐらいになると法の方から頭を垂れてくるものさ」
「その調子じゃまだまだ結婚相手が見つかるのは先になりそうですね」
「言ってろ」
「それで? わざわざ呼び出したからには何か用件があるのでは?」
「用がなければこうして会うことも許されないのか?」
「会うだけならギルドホールでいつでも会えると思うのだけれど」
「それを言うのなら私にだって王城にくればいつでも会えるじゃないか」
「一介のギルドマスター程度が簡単に出入りできる王城ってのも、中々フランクでいいのかもしれないけどね」
「素直に私に会いに来たといえば、その日の内に王族総出で歓迎するぞ?」
「王族の知名度に比べれば、牛頭のマスコットなんていてもいなくても同じだろうに」
「そう自分を卑下するな。その時が来れば、私もマスコットの一員として仮面を被る準備は出来ている」
「その時がこないことを切に願うよ」
「律儀な奴だ」
「それで? そろそろ本題に入らないと、扉の向こうの彼女がまた爆発でも引き起こしそうな勢いだけど」
「フッ。あれは才能がある。ただなんというか……私に似てな」
「未婚のところとか?」
「バカを言うな。あれにはまだ結婚は早い。それに弟子に先を越される師匠などいてなるものか。アリア!」
そう呼ばれて室内へと飛び込んでくる赤毛の少女。
ずかずかとエヴァの前まで進み出てきては、顔を真っ赤にして子供のように頬を膨らませている。
「師匠! 何度言ったら分かるんですか! 私の名前はアリアーヌです! 師匠が人目を憚らずそう呼ぶから……って、なんで牛頭がここにいるのよ!?」
少女の絶叫が王城の一角に響き渡ると同時――。
息をするように下から飛んできた少女の拳は、こちらの体を一瞬で宙へと舞い上がらせた。
「うん。良い感じ」
爆発の後、引き返しては王城の一室。
ベッドの上に腰かけては、ニーナさんが持ってきてくれた服に着替えて、そのままの流れで新しい牛頭の感想を端的に告げる。
「まったく……クロにゃあが黒焦げににゃったって聞いた時には、遂にクロにゃあが焼肉ににゃったかと心配したにゃあ!」
「はははっ。牛頭以外は吹き飛んだけど、心配ないよ。でもありがとう」
傍らで丸焦げになっている牛頭を持ち上げては、これこの通りと冗談でも飛ばすように無事をアピールする。
「でもあのクロにゃあに一発いれるにゃんて、相手もただものじゃにゃいにゃあ?」
「あのだなんて。僕が勇者パーティーに所属していたころの扱いは、ニーナさんが一番詳しいと思ってたけど」
「そうだったかにゃあ?」
ニーナさんは意地悪な笑みを浮かべては、ニヤニヤとこちらの反応を楽しんでいる。
それに牛頭の下で参ったなと苦笑いにも似た笑みを浮かべていると、不意に部屋の扉を叩く小気味いい音。
「よろしいですか」
「はい。どうぞ」
扉が開けられると同時に顔を見せるのは、気品を感じさせるゆったりとした動作の老紳士。
釣られるようにベッドから立ち上がっては、こちらを支えるようにニーナさんも椅子から立ち上がる。
「大丈夫大丈夫」
「ホントかにゃあ?」
両目を細めては、どこかこちらの言葉を怪しんでいる様子のニーナさん。
こちらの傍に身を寄せてはいつでも対応できるようにと、触れないまでもそれとなく身構えてくれている。
「よろしいですかな」
「はい」
「第二王女、エヴァ・クラーリ様がお呼びです」
♦
ニーナさんと共に老紳士に連れられ――王族らしく仰々しい広間にでも呼び出されるのかと思えば――やけにこじんまりとした風通しのいい一室へと通される。
そして開け放たれた窓際の小さなテーブルで待ち受けていた女性こそが、誰であろう王国の第二王女であり、エヴァ・クラーリと呼ばれる女性その人だった。
「久しぶりだな。クロナ」
「相変わらず貰い手は見つかっていないようですね」
「行き遅れか。その名も懐かしいと思えるほどに、私はまた歳を重ねてしまったよ。というより久しぶりだといったろう。相変わらず容赦のない律義さだな」
「私の前ではそうするようにといつしかの貴女に言われたもので」
牛頭の下で古い友人にでも会った時のような笑みを浮かべては、ゆっくりとエヴァの待ち受けるテーブルへと近づいていく。
そしてエヴァの前で足を止めては、その気を引き締めると同時に姿勢を正す。
「エヴァ・クラーリ殿下。失礼をお許しください。こうしてまた貴女にお会い出来たこと。このクロナ光栄の極みであります」
「よい。どのような形であれそなたは私の下に戻ってきた。堅苦しい挨拶はよせ。私の数少ない楽しみを奪ってくれるな。して、そちらの女子は噂のギルドメンバーの一人か?」
エヴァの視線がこちらから一歩引いた位置に控えるニーナさんへと移される。
「でっ、殿下!」
「よい。クロナの子なら私の子も同然。いつも通りとはいかぬだろうが、そう肩に力を入れずともよい」
「でっ、では! にゃっ――!」
「にゃ?」
「にゃあは猫耳メイドのニーナにゃあ! 普段はギルド『夢の国』でメンバーのグッズ制作と経理を担当しているにゃあ!」
「補足するならギルドを作ろうと僕を誘ってくれたのも彼女。段取りを整えてくれたのも、メンバーを集めたのも彼女。正真正銘ギルド設立の立役者だね」
「そ、そんにゃことにゃいにゃあ!」
「はっ、はははははっ! クロナ。良い友人を持ったな」
「はい」
「ニーナよ。訂正する。私はそなたのことを先ほどクロナの子と表現したが、それは誤りだった。そなたは間違いなく母だ」
「はっ――母……」
「何だ。嬉しくないのか?」
「にゃ、にゃあはまだ未婚にゃあ……」
「私と同じだな?」
「そっ、そんにゃ! 殿下と同じだにゃんて恐れ多いですにゃあ!」
「ニーナさんはエヴァと一緒にされたくないみたいだね」
「そっ、そんにゃこと! クロにゃあ!」
涙目で見つめられては、ぽかぽかと背中を叩いてくるニーナさん。
「まぁ、私にはいざとなったら奥の手があるからな」
意味ありげに視線を流しては、その先でこちらを見据えるエヴァ。
「王国ではマスコットとの結婚は認められてませんよ」
「私ぐらいになると法の方から頭を垂れてくるものさ」
「その調子じゃまだまだ結婚相手が見つかるのは先になりそうですね」
「言ってろ」
「それで? わざわざ呼び出したからには何か用件があるのでは?」
「用がなければこうして会うことも許されないのか?」
「会うだけならギルドホールでいつでも会えると思うのだけれど」
「それを言うのなら私にだって王城にくればいつでも会えるじゃないか」
「一介のギルドマスター程度が簡単に出入りできる王城ってのも、中々フランクでいいのかもしれないけどね」
「素直に私に会いに来たといえば、その日の内に王族総出で歓迎するぞ?」
「王族の知名度に比べれば、牛頭のマスコットなんていてもいなくても同じだろうに」
「そう自分を卑下するな。その時が来れば、私もマスコットの一員として仮面を被る準備は出来ている」
「その時がこないことを切に願うよ」
「律儀な奴だ」
「それで? そろそろ本題に入らないと、扉の向こうの彼女がまた爆発でも引き起こしそうな勢いだけど」
「フッ。あれは才能がある。ただなんというか……私に似てな」
「未婚のところとか?」
「バカを言うな。あれにはまだ結婚は早い。それに弟子に先を越される師匠などいてなるものか。アリア!」
そう呼ばれて室内へと飛び込んでくる赤毛の少女。
ずかずかとエヴァの前まで進み出てきては、顔を真っ赤にして子供のように頬を膨らませている。
「師匠! 何度言ったら分かるんですか! 私の名前はアリアーヌです! 師匠が人目を憚らずそう呼ぶから……って、なんで牛頭がここにいるのよ!?」
少女の絶叫が王城の一角に響き渡ると同時――。
息をするように下から飛んできた少女の拳は、こちらの体を一瞬で宙へと舞い上がらせた。
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