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幕間 - 盤外戦術 -
20 皇国北部戦線
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皇国の北方に広がる焦土。一滴の水すらも残さず焼き尽くされたそこには、かつての緑豊かな森林地帯の面影はない。
「報告します――!」
上空から照り付ける容赦のない熱波の最中。砂塵地帯の中間に位置し、中継地点としての側面も持つ情報集積拠点の一つ。
皇国北部戦線、南西部における戦略の一端を担うその天幕の内側へと勢いよく転がりこんだのは、砂塵地帯特有のきめ細かな砂に汗と血をその顔に滲ませた一人の兵士だった。
「西部戦域にてラウロ将軍戦死……! 敵勢力に第二次防衛線を突破されました……!」
天幕内部に一人残響する男の声。それはまるでこの世の終わりでも見てきたかのような、まるで男の空虚さをそのまま形にしたかのような悲痛な叫びそのものだった。
「防衛線は第五次まである!」
砂にまみれた男の声に圧倒されては、一瞬の内に周囲へと広がりかけた動揺。しかしその声をまた一瞬の内に動揺ごとかき消したのは、威圧感の塊のような男の恫喝じみた一声だった。
「例え第二次防衛線が突破されようとも第三、第四と防衛線は敷かれている! 後方が現場の熱にほだされるな!」
天幕の下。一段と力強さを増す男の叱責とその迫力。誰しもがその場で口を噤んでは、ただ佇むことしかできない。
しかしその中において一人。砂まみれの男だけは例外であるかのようにそう簡単に安堵してもいいものなのかと、納得できるだけの答えを求めてはその視線だけで周囲を見回し続ける。
「防衛線は第五次まである」
そんな視点の定まらない砂まみれの男の下へと、あくまでも力強い足取りと共に一切の無駄なく詰め寄るのは威圧感の塊のような男。
そのあまりにもはっきりとした存在感を前に、砂まみれの男の汗と血にまみれたその顔からは、ただ怯えだけを残して動揺や困惑といった感情が抜け落ちていく。
「心配ない」
砂まみれの男を前に足を止めては、自ら目線の高さを合わせるようにしてその場で膝を折る威圧感の塊のような男。
それまでの威圧的な振る舞いとは打って変わって、その声色からはまるで威圧感というものが抜け落ちている。
そんな男を気遣う姿勢すら覗かせる男の声にようやく安堵したのか。
砂まみれの男は――それまで背負っていた重圧から解放されるように――ただ静かに一筋の涙をその頬へと伝わせては、堰を切ったようにその口元を震わせる。
「よく辿り着いた」
男の労いの声にその場で泣き崩れる砂まみれの男。何も言わずにそっとその肩を抱き寄せる様は、まるで長年連れ添った親友同士のようだ。
「自分は……自分は……」
息を詰まらせながらも自身の身に起きたそのすべてを懸命に話そうとする砂まみれの男。落ち着かせるように口にした威圧感を脱ぎ捨てた男の言葉は、ただひたすらにその声へと寄り添うものだった。
「報告します――!」
上空から照り付ける容赦のない熱波の最中。砂塵地帯の中間に位置し、中継地点としての側面も持つ情報集積拠点の一つ。
皇国北部戦線、南西部における戦略の一端を担うその天幕の内側へと勢いよく転がりこんだのは、砂塵地帯特有のきめ細かな砂に汗と血をその顔に滲ませた一人の兵士だった。
「西部戦域にてラウロ将軍戦死……! 敵勢力に第二次防衛線を突破されました……!」
天幕内部に一人残響する男の声。それはまるでこの世の終わりでも見てきたかのような、まるで男の空虚さをそのまま形にしたかのような悲痛な叫びそのものだった。
「防衛線は第五次まである!」
砂にまみれた男の声に圧倒されては、一瞬の内に周囲へと広がりかけた動揺。しかしその声をまた一瞬の内に動揺ごとかき消したのは、威圧感の塊のような男の恫喝じみた一声だった。
「例え第二次防衛線が突破されようとも第三、第四と防衛線は敷かれている! 後方が現場の熱にほだされるな!」
天幕の下。一段と力強さを増す男の叱責とその迫力。誰しもがその場で口を噤んでは、ただ佇むことしかできない。
しかしその中において一人。砂まみれの男だけは例外であるかのようにそう簡単に安堵してもいいものなのかと、納得できるだけの答えを求めてはその視線だけで周囲を見回し続ける。
「防衛線は第五次まである」
そんな視点の定まらない砂まみれの男の下へと、あくまでも力強い足取りと共に一切の無駄なく詰め寄るのは威圧感の塊のような男。
そのあまりにもはっきりとした存在感を前に、砂まみれの男の汗と血にまみれたその顔からは、ただ怯えだけを残して動揺や困惑といった感情が抜け落ちていく。
「心配ない」
砂まみれの男を前に足を止めては、自ら目線の高さを合わせるようにしてその場で膝を折る威圧感の塊のような男。
それまでの威圧的な振る舞いとは打って変わって、その声色からはまるで威圧感というものが抜け落ちている。
そんな男を気遣う姿勢すら覗かせる男の声にようやく安堵したのか。
砂まみれの男は――それまで背負っていた重圧から解放されるように――ただ静かに一筋の涙をその頬へと伝わせては、堰を切ったようにその口元を震わせる。
「よく辿り着いた」
男の労いの声にその場で泣き崩れる砂まみれの男。何も言わずにそっとその肩を抱き寄せる様は、まるで長年連れ添った親友同士のようだ。
「自分は……自分は……」
息を詰まらせながらも自身の身に起きたそのすべてを懸命に話そうとする砂まみれの男。落ち着かせるように口にした威圧感を脱ぎ捨てた男の言葉は、ただひたすらにその声へと寄り添うものだった。
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