51 / 64
ギルド『夢の国』のマッチョな一日
51 風見鶏
しおりを挟む
帝国・王国戦終結――。
それは王国の民にもたらされた最良の知らせだった。
「落とされた砦は帝国に占拠されたまま。補給線を圧迫するだけの筈がまさかこんなことになるなとはな」
エヴァは窓際に座り、クレマンは立ったまま。そしてその横にそっと佇むライナスの顔は、まるで母親に叱られている子供のように元気がない。
「やってくれたな」
エヴァは尚も続ける。
「お前たちは良かれと思ってやったことなのかもしれないが、相手の退路を断つことになるとは思わなかったのか?」
「それは……」
クレマンは口を開こうとして、エヴァと目を合わせることも出来ずに、また自責の念から静かに口を閉じる。
「何だ。言いたいことがあるのなら言ってみろ」
「姉さん、これは僕の――」
「私が推し進めたことです」
ライナスはクレマンの声をそう横から遮っては断言する。
「どうか責めるのであれば私を――」
「それは違います。ライナスさん。私が責任者なのですから――」
「いいえ、私が言い出さなければ殿下も実行に移されることは――」
エヴァをそっちのけで始まる、責任のなすりつけ合いならぬ責任の負い合い。
二人の生真面目な性格からくる平行線を前に、始めはただ面白そうに眺めていたエヴァも、途中からはその興味を失くしたようにそっと窓の外へと目を向ける。
戦果を免れた王都の上空には澄んだ青空が広がり、その眼下には武器を忘れた兵士たちが街中を元気に走り回っている。そこには慌しいまでも、徐々に戻りつつある王都の日常が確かにあった。
「まぁ、冗談だがな」
エヴァは王都のある一点を流し見ては、ふと思い出したように椅子から立ち上がる。
「だから! 私が全部悪いんです!」
「なんでそうなるんですか! 仮にそうだとしても、私の方がもっと悪いに決まってます!」
「ライナスさんも分からない人ですね! 私がこの件の責任者で! あなたは私の部下なんだから!」
「そういうことを言いますか殿下! なら私も言わせてもらいますけどね! この件は何があってもいいように、書類上は私の独断になってるんです! だから――」
「おい」
エヴァはまだ言い争っている二人を前に、呆れた様子で目を細める。
「何ですか殿下!」
「悪いのは僕だよ、姉さん!」
「いや、冗談だと言っただろう。聞いてなかったのか?」
「え?」
「へ――?」
二人同時に口をぽかんと開けては、自然と顔を見合わせるクレマンとライナス。
「ちょっ、それって――」
「おっと」
不意にエヴァの背後から飛び込んでくる一羽の巨大な猛禽。咄嗟に身構えるクレマンとライナスを見下ろしては、その頭上をしばらく飛んだのち、エヴァの座っていた椅子の背もたれへと降り立つ。
そして当たり前のように自らの足に結びつけられた紐を器用にもくちばしでほどいては、丸められた小さな書簡をエヴァの手元へと差し出す。
「さて、どうなったかな?」
書簡を受け取っては、すぐに広げて内容を確認するエヴァ。慣例を省いたその簡潔な数行は、正にそれを書いたものの性格を如実に表したものだった。
「お嬢さんによろしくか……」
エヴァは小さく笑う。
「なあ、クレマン。私がお嬢さんに見えるか?」
「え? あ、いえ……あ」
しまったというように体を凍らせるクレマン。
「殿下はすでにご成熟なされているとばかり、私は思っておりましたが」
そこに横から助け舟を出すライナス。
「まったく、二人揃うとろくでもないな。連合国の方は片が付いたようだというのに」
「それは……」
「終戦だよ。元々亜人の解放に端を発した越境だ。現場の独断で始まり、現場の独断で終わったというだけのこと。政治はこれから荒れるだろうな」
エヴァはそのすぐ脇で大人しくしている、猛禽の頭をおもむろに撫でる。
「それはどの程度まで」
「王国に気にしている余裕はないさ。それよりも私は少し出る。あとは頼んだぞ、仲良し兄弟」
「「きょ――」」
その場で翼を広げては、また窓から上空へと昇っていく猛禽。そしてその場で顔を見合わせるクレマンとライナス。エヴァは固まる二人の横をそっと通り過ぎては、扉の向こうへと消えていった。
それは王国の民にもたらされた最良の知らせだった。
「落とされた砦は帝国に占拠されたまま。補給線を圧迫するだけの筈がまさかこんなことになるなとはな」
エヴァは窓際に座り、クレマンは立ったまま。そしてその横にそっと佇むライナスの顔は、まるで母親に叱られている子供のように元気がない。
「やってくれたな」
エヴァは尚も続ける。
「お前たちは良かれと思ってやったことなのかもしれないが、相手の退路を断つことになるとは思わなかったのか?」
「それは……」
クレマンは口を開こうとして、エヴァと目を合わせることも出来ずに、また自責の念から静かに口を閉じる。
「何だ。言いたいことがあるのなら言ってみろ」
「姉さん、これは僕の――」
「私が推し進めたことです」
ライナスはクレマンの声をそう横から遮っては断言する。
「どうか責めるのであれば私を――」
「それは違います。ライナスさん。私が責任者なのですから――」
「いいえ、私が言い出さなければ殿下も実行に移されることは――」
エヴァをそっちのけで始まる、責任のなすりつけ合いならぬ責任の負い合い。
二人の生真面目な性格からくる平行線を前に、始めはただ面白そうに眺めていたエヴァも、途中からはその興味を失くしたようにそっと窓の外へと目を向ける。
戦果を免れた王都の上空には澄んだ青空が広がり、その眼下には武器を忘れた兵士たちが街中を元気に走り回っている。そこには慌しいまでも、徐々に戻りつつある王都の日常が確かにあった。
「まぁ、冗談だがな」
エヴァは王都のある一点を流し見ては、ふと思い出したように椅子から立ち上がる。
「だから! 私が全部悪いんです!」
「なんでそうなるんですか! 仮にそうだとしても、私の方がもっと悪いに決まってます!」
「ライナスさんも分からない人ですね! 私がこの件の責任者で! あなたは私の部下なんだから!」
「そういうことを言いますか殿下! なら私も言わせてもらいますけどね! この件は何があってもいいように、書類上は私の独断になってるんです! だから――」
「おい」
エヴァはまだ言い争っている二人を前に、呆れた様子で目を細める。
「何ですか殿下!」
「悪いのは僕だよ、姉さん!」
「いや、冗談だと言っただろう。聞いてなかったのか?」
「え?」
「へ――?」
二人同時に口をぽかんと開けては、自然と顔を見合わせるクレマンとライナス。
「ちょっ、それって――」
「おっと」
不意にエヴァの背後から飛び込んでくる一羽の巨大な猛禽。咄嗟に身構えるクレマンとライナスを見下ろしては、その頭上をしばらく飛んだのち、エヴァの座っていた椅子の背もたれへと降り立つ。
そして当たり前のように自らの足に結びつけられた紐を器用にもくちばしでほどいては、丸められた小さな書簡をエヴァの手元へと差し出す。
「さて、どうなったかな?」
書簡を受け取っては、すぐに広げて内容を確認するエヴァ。慣例を省いたその簡潔な数行は、正にそれを書いたものの性格を如実に表したものだった。
「お嬢さんによろしくか……」
エヴァは小さく笑う。
「なあ、クレマン。私がお嬢さんに見えるか?」
「え? あ、いえ……あ」
しまったというように体を凍らせるクレマン。
「殿下はすでにご成熟なされているとばかり、私は思っておりましたが」
そこに横から助け舟を出すライナス。
「まったく、二人揃うとろくでもないな。連合国の方は片が付いたようだというのに」
「それは……」
「終戦だよ。元々亜人の解放に端を発した越境だ。現場の独断で始まり、現場の独断で終わったというだけのこと。政治はこれから荒れるだろうな」
エヴァはそのすぐ脇で大人しくしている、猛禽の頭をおもむろに撫でる。
「それはどの程度まで」
「王国に気にしている余裕はないさ。それよりも私は少し出る。あとは頼んだぞ、仲良し兄弟」
「「きょ――」」
その場で翼を広げては、また窓から上空へと昇っていく猛禽。そしてその場で顔を見合わせるクレマンとライナス。エヴァは固まる二人の横をそっと通り過ぎては、扉の向こうへと消えていった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
11
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる