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第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?
7 こんなに緊張してログインするのは、初めてだ。
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前回の気まずさを思い返して、少し躊躇いながら、俺はゲームの電源を入れた。いや、そもそも、気まずく感じるのがおかしいんだって。シノさんは優しい。優しいシノさんだから、俺のことも、あんなふうに構ってくれてるんだ。そう割り切る努力をして、俺はコントローラーを握り締める。こんなに緊張してログインするのは、初めてだ。
【こんばんはー】
いつも通りの挨拶を打つと、【ばんわー】【やほー】【おっすー】とギルドの面々から、次々と言葉が返ってくる。その中にシノさんの名前もあって、ほっとしたような、気まずいような、複雑な想いが胸に浮かんできた。
【アキ、レベル上げに行かない?】
ピロリン、と音がして、シノさんからのチャットを報せる。その誘いに少しだけ心臓が跳ねた。
【行く!】
そして間髪入れずにそう打ち込んじゃう俺は、もしかしなくても、単純かもしれない……。
【ついでにストーリーもちょっと進めたいー】
【そういや最近進めてないな】
【うん】
【おけ、やろう】
<シノさんからパーティに誘われました>というウィンドウが出て、やっぱり間髪入れずに、<仲間になる>を選択する。シノさんと俺のキャラの名前が、並んだ。
【んじゃ、行こう】
【はーい】
ゲームの知識量は、シノさんには適わない。レベル上げもストーリー進行も、基本的に、俺はシノさんについていくだけ、だ。申し訳ないと思うこともままあるけれど、何も言わないシノさんに、甘えてしまっている。
レベル上げは、基本的に、経験値がおいしい敵がいるエリアに行って、ひたすら敵を倒すことになる。今のレベルに丁度良いと紹介されたのは、洞窟だ。ガイコツの兵士や、でろでろに溶けそうになっているゾンビがうようよいて、薄暗い雰囲気だけれど、シノさんがいるから心強い。毒にかかっても、体力を減らされても、すかさずに後ろから回復してくれるから、どんどんと敵を倒して行けた。
【シノさんすげー!】
【アキも強くなったよな】
【え、ほんと? ほんと?】
【うん。上手くなった】
【へへ、うれしい】
シノさんに褒められると、すごい嬉しい。
その一言で、ちょっと前の複雑さとか気まずさとか、そういうのも払拭されたから、シノさんすげーって改めて思う。
【こんばんわ♡】
その時だった、ピロリン、と音がして、ギルドのチャットが更新される。可愛らしい記号付きの挨拶は、ショコラちゃんだ。【ばんわー
】と俺が打つのと殆ど同時に、【こんばんはー】【ちーっす】【やっほー】と、ギルドの面々が挨拶を返す。シノさんもすぐに挨拶を打っていたけれど、【ばーんわ】と普通のもので、ちょっとほっとしてしまった。
【シノさんシノさあん】
ほっとしたのも束の間、ギルドのチャットで、シノさんが名指しされてぎょっとする。ううう、すごい。女の子って、積極的だ……。
【どうしたー】
シノさんも、一回、戦闘の手を止めて返事をする。
【ダンジョン連れてってくださあい】
そんな直球の問いかけに、うぐぐ、となる俺である。これで一緒に行くことになったら気まずいなあ、とか、いや寧ろここは譲るのが大人じゃね?とか、色んな思惑が頭の中を過ぎって、コントローラーを握る手に力が籠もる。何か、別のゲームをしているみたいだ。
【あーごめん、今アキとPT中】
そんな俺をよそに、シノさんがあっさりと断りを入れてくれて、驚きを隠せない。優しいシノさんなら、低レベルで初心者のショコラちゃんを優先すると思ったのに。
【えー、そっかあ】
【ていうかシノさんとアッキー仲良過ぎじゃない?】
残念そうなショコラちゃんの声に、気まずい雰囲気が流れるのを阻止するように、俺たちをギルドに誘ってくれたリリアちゃんが言ってきた。
【BLかな?】
リリアちゃんと仲が良い、筋肉ムキムキガチムチオークのクラウスさんも、それに続く。
【BLだね!】
【えっ】
リリアちゃんが更に頷くのに、思わず驚きの声を上げてしまった。
【アキとならそれでもいいわw】
【し、シノさん……!】
シノさんがノッた!
いやこれ必死で否定すると更に怪しい感じになるやつじゃん。
【愛に性別は関係ないよね……!】
【ひゅーひゅー】
【お幸せにー】
【前々から怪しいと思ってました】
俺が悪乗りすると、傍観していた他のメンバーが、次々と祝福の言葉をくれた。ううう、なんか、フクザツ。
【えー、お二人ってホモだったんですか? そっかあ】
忘れ去られていたショコラちゃんが、更に残念そうな声を上げた。真面目に言ってるのかそうじゃないのか、わからない。中々やるな。
【残念だねえショコラちゃん】
【残念ですう】
【タロウさんが連れてってくれるってよ、ダンジョン】
【わあいお願いします!】
【言ってない】
【誘いますね!】
【言ってない……】
リリアちゃんとクラウスさんのナイスコンビネーションで、何も関係のないタロウさん(超絶イケメンの剣士だ。寡黙なところもカッコいい)が、ショコラちゃんの身元を引き受けてくれた。
【よかったの? ショコラちゃん】
【ん?】
【いや、シノさんと組みたがってたから】
パーティにしか見えない会話でシノさんに尋ねると、シノさんは、何故か俺のキャラの頭を撫でてきた。
【アキのが先約だったし、ストーリー進めたいし】
【おかげでBLキャラになっちゃったけど……】
【アキだし、いいよ】
【そっかー。ありがと】
これで晴れて、俺とシノさんはギルド公式のホモだ。良いのか悪いのかわかんないけど、不思議と、俺の心は、この前よりも大分晴れやかだ。……いやいやいや、ガチでホモなわけじゃないけどね?!
十分レベルが上がった後、メインのストーリーを進めると、あっという間に日付が変わる時間になる。その途中、たまたまショコラちゃんとタロウさんにすれ違ったんだけど、ショコラちゃんに振り回されてるイケメンなタロウさんが珍しく、ちょっとお似合いかも、なんて思ってしまった。
【アキ】
【ん?】
【もう寝ようか】
【今日もすげー楽しかった! ありがとシノさん!】
【おー、俺も。んじゃ、おやすみ、また明日な】
【うん、またねー】
また明日、っていう言葉は、くすぐったいけど嬉しい。
前回のもやもやは綺麗に消え失せて、穏やかな心地で、俺はゲームの電源を切った。
うーん、我ながら、単純だ。
前回の気まずさを思い返して、少し躊躇いながら、俺はゲームの電源を入れた。いや、そもそも、気まずく感じるのがおかしいんだって。シノさんは優しい。優しいシノさんだから、俺のことも、あんなふうに構ってくれてるんだ。そう割り切る努力をして、俺はコントローラーを握り締める。こんなに緊張してログインするのは、初めてだ。
【こんばんはー】
いつも通りの挨拶を打つと、【ばんわー】【やほー】【おっすー】とギルドの面々から、次々と言葉が返ってくる。その中にシノさんの名前もあって、ほっとしたような、気まずいような、複雑な想いが胸に浮かんできた。
【アキ、レベル上げに行かない?】
ピロリン、と音がして、シノさんからのチャットを報せる。その誘いに少しだけ心臓が跳ねた。
【行く!】
そして間髪入れずにそう打ち込んじゃう俺は、もしかしなくても、単純かもしれない……。
【ついでにストーリーもちょっと進めたいー】
【そういや最近進めてないな】
【うん】
【おけ、やろう】
<シノさんからパーティに誘われました>というウィンドウが出て、やっぱり間髪入れずに、<仲間になる>を選択する。シノさんと俺のキャラの名前が、並んだ。
【んじゃ、行こう】
【はーい】
ゲームの知識量は、シノさんには適わない。レベル上げもストーリー進行も、基本的に、俺はシノさんについていくだけ、だ。申し訳ないと思うこともままあるけれど、何も言わないシノさんに、甘えてしまっている。
レベル上げは、基本的に、経験値がおいしい敵がいるエリアに行って、ひたすら敵を倒すことになる。今のレベルに丁度良いと紹介されたのは、洞窟だ。ガイコツの兵士や、でろでろに溶けそうになっているゾンビがうようよいて、薄暗い雰囲気だけれど、シノさんがいるから心強い。毒にかかっても、体力を減らされても、すかさずに後ろから回復してくれるから、どんどんと敵を倒して行けた。
【シノさんすげー!】
【アキも強くなったよな】
【え、ほんと? ほんと?】
【うん。上手くなった】
【へへ、うれしい】
シノさんに褒められると、すごい嬉しい。
その一言で、ちょっと前の複雑さとか気まずさとか、そういうのも払拭されたから、シノさんすげーって改めて思う。
【こんばんわ♡】
その時だった、ピロリン、と音がして、ギルドのチャットが更新される。可愛らしい記号付きの挨拶は、ショコラちゃんだ。【ばんわー
】と俺が打つのと殆ど同時に、【こんばんはー】【ちーっす】【やっほー】と、ギルドの面々が挨拶を返す。シノさんもすぐに挨拶を打っていたけれど、【ばーんわ】と普通のもので、ちょっとほっとしてしまった。
【シノさんシノさあん】
ほっとしたのも束の間、ギルドのチャットで、シノさんが名指しされてぎょっとする。ううう、すごい。女の子って、積極的だ……。
【どうしたー】
シノさんも、一回、戦闘の手を止めて返事をする。
【ダンジョン連れてってくださあい】
そんな直球の問いかけに、うぐぐ、となる俺である。これで一緒に行くことになったら気まずいなあ、とか、いや寧ろここは譲るのが大人じゃね?とか、色んな思惑が頭の中を過ぎって、コントローラーを握る手に力が籠もる。何か、別のゲームをしているみたいだ。
【あーごめん、今アキとPT中】
そんな俺をよそに、シノさんがあっさりと断りを入れてくれて、驚きを隠せない。優しいシノさんなら、低レベルで初心者のショコラちゃんを優先すると思ったのに。
【えー、そっかあ】
【ていうかシノさんとアッキー仲良過ぎじゃない?】
残念そうなショコラちゃんの声に、気まずい雰囲気が流れるのを阻止するように、俺たちをギルドに誘ってくれたリリアちゃんが言ってきた。
【BLかな?】
リリアちゃんと仲が良い、筋肉ムキムキガチムチオークのクラウスさんも、それに続く。
【BLだね!】
【えっ】
リリアちゃんが更に頷くのに、思わず驚きの声を上げてしまった。
【アキとならそれでもいいわw】
【し、シノさん……!】
シノさんがノッた!
いやこれ必死で否定すると更に怪しい感じになるやつじゃん。
【愛に性別は関係ないよね……!】
【ひゅーひゅー】
【お幸せにー】
【前々から怪しいと思ってました】
俺が悪乗りすると、傍観していた他のメンバーが、次々と祝福の言葉をくれた。ううう、なんか、フクザツ。
【えー、お二人ってホモだったんですか? そっかあ】
忘れ去られていたショコラちゃんが、更に残念そうな声を上げた。真面目に言ってるのかそうじゃないのか、わからない。中々やるな。
【残念だねえショコラちゃん】
【残念ですう】
【タロウさんが連れてってくれるってよ、ダンジョン】
【わあいお願いします!】
【言ってない】
【誘いますね!】
【言ってない……】
リリアちゃんとクラウスさんのナイスコンビネーションで、何も関係のないタロウさん(超絶イケメンの剣士だ。寡黙なところもカッコいい)が、ショコラちゃんの身元を引き受けてくれた。
【よかったの? ショコラちゃん】
【ん?】
【いや、シノさんと組みたがってたから】
パーティにしか見えない会話でシノさんに尋ねると、シノさんは、何故か俺のキャラの頭を撫でてきた。
【アキのが先約だったし、ストーリー進めたいし】
【おかげでBLキャラになっちゃったけど……】
【アキだし、いいよ】
【そっかー。ありがと】
これで晴れて、俺とシノさんはギルド公式のホモだ。良いのか悪いのかわかんないけど、不思議と、俺の心は、この前よりも大分晴れやかだ。……いやいやいや、ガチでホモなわけじゃないけどね?!
十分レベルが上がった後、メインのストーリーを進めると、あっという間に日付が変わる時間になる。その途中、たまたまショコラちゃんとタロウさんにすれ違ったんだけど、ショコラちゃんに振り回されてるイケメンなタロウさんが珍しく、ちょっとお似合いかも、なんて思ってしまった。
【アキ】
【ん?】
【もう寝ようか】
【今日もすげー楽しかった! ありがとシノさん!】
【おー、俺も。んじゃ、おやすみ、また明日な】
【うん、またねー】
また明日、っていう言葉は、くすぐったいけど嬉しい。
前回のもやもやは綺麗に消え失せて、穏やかな心地で、俺はゲームの電源を切った。
うーん、我ながら、単純だ。
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