ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

文字の大きさ
10 / 36
第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?

10   一週間、ログインしてないっていうのも、大分気まずい。

しおりを挟む

10



 週末は、一週間の疲れと、昨夜の呑み過ぎもあって、夕方までぐっすり眠ってしまった。起きると犬塚さんからメッセージが届いていて、『酔っ払いくんはちゃんと帰れた? ゆっくり休むんだよ』と、アフターケアまでイケメンっぷりが発揮されていた。お礼とお世話になったことへの謝罪を返して、家のことを諸々やってから、俺は胡坐を掻いてゲームへと向き合った。
 気まずい。
 一週間、ログインしてないっていうのも、大分気まずい。
 ネトゲにおけるプレイ時間っていうのは割と重要で、少し休んでいただけで周りに置いていかれる可能性がある。幸い、まったり楽しむ人が多いギルドだし、元々そんながっつりプレイしているタイプじゃないから、そこの心配はあまりないけれども。このままゲームにログインしなくたって何が変わるわけじゃない。でも。シノさんからもらった言葉の数々を思い返すと、これきりで終わるのはどうしても嫌で、意を決して俺はゲームの電源を入れた。
 テレビの画面に、約一週間振りに、俺のプレイキャラクターが映る。ちょっと放置しすぎじゃない、そう文句を言われたような被害妄想に陥りながら、コントローラーを握った。

【こんばんはー】

 と久しぶりの挨拶を打ったら、【ばんわー】【アッキー久しぶり!】【ひさしぶりー】とギルドの皆の温かい言葉が流れてきて、思わず涙しそうになる俺である。そこにシノさんの名前はなかったけれど、温かい歓迎に、ほっとした。
 チリン、と、いつもと違う短い音が聞こえて視線を上げると、画面の右上に、メールマークがある。これは、ゲームの中で手紙が届いている、というお知らせだ。例えばそれは運営からのお知らせだったり、友達からの手紙だったりする。中身が気になって、俺は早速アジトにワープした。
 アジトの入口前に設置されているポストを調べると、<四件の手紙が届いています>というアナウンスと共に、受信ボックスが出てくる。そのうち三件はゲームの名前が入った運営からのお知らせ、残りの一件は、シノさんからのものだった。
 うう、ちょっと、いやかなり、ドキドキする。
 こないだのプロポーズへの駄目押しだったらどうしよう。
 でも見ないわけにもいかなくて、コントローラーを操作して、シノさんからの手紙を開いた。件名はない。

<アキ、この前はごめんな。俺も色々考えた。もし、まだアキにその気があるなら、結婚しよ。>

「し、し、シノさあああああん」

 あああ、リアルに声が出た。
 シノさんからの手紙の文面を呼んだ途端、うるっとしてきちゃう辺り、もしかして俺ってば本当にホモに一歩踏み込んでないか、と冷静な部分が顔を出すが、そんなこと言ってられない。
 またタイミングよく、【こんばんわー】とシノさんの名前での挨拶が、ギルドのチャットに流れてきた。

【し、シノさん!!】
【おおアキ、久しぶり】
【今、メール見たよ!】
【うん、送ったw】
【結婚して!!!】
【ぶはwww】

 つい、勢い余ってまた前回と同じプロポーズを打ち込んでしまった。凝った台詞なんて考える暇はない。【またビール噴いたw】と笑いを表す記号つきで返ってくる台詞に、ほっとする。

【しかし久しぶりだな、元気だった?】
【んー、ふられたショックでインできなかった】
【やっぱりか……】
【わけじゃなくてw】
【w】
【仕事がすげー忙しかったんだよー】

 うん、嘘じゃない。けど、【やっぱりか】ってことは、もしかしてシノさん、自分の所為だと思っちゃったのかな。それは申し訳ないことしたなあ。

【シノさん】
【ん?】
【俺、シノさんのこと、幸せにするね】

 誓いを新たにしてチャットに打ち込むが、ウィンドウを間違えて、ギルドのチャットに送ってしまった。

【あ、ミス】

 と訂正をするが、一気に、【二人とも結婚決めたんだ?!】【おめでとうおめでとう】【やっぱりねー、おしあわせに!】というチャットが流れてきた。

【あ、ありがとう?】
【ありがとう、みんなも式には来てね】

 動揺する俺をよそに、さらっと礼を告げるシノさんはスマートだ。
 アジトの郵便箱の前に佇んでいると、ワープしてきたらしいシノさんが現れた。改めて姿を見ると、無性に照れてしまう。

【もうすっかり公認になったなw】
【みんな俺らが結婚するのを期待してる感じすらあるね……】
【ネタってことにしとく?】
【って確認が入るとよりガチっぽいよ!】

 先程のギルドのチャットへの指摘に、つい突っ込んでしまう。シノさんは笑う顔文字だけ返して来た。そのままシノさんに促されて、アジトの中の、シノさんの部屋に案内される。

【おお、部屋、取ったんだ」
「金が貯まったから、この前ね】
【いいなー、かっこいー】
【アキも自由に使っていいよ】

 お金を出せば、アジトの中に、自分専用の部屋を増設できる。この前、リリアちゃんとクラウスさんが入っていったのも、そこだ。シノさんの部屋は、シンプルだ。最低限のベッドとか、チェストとか、可愛らしいモンスターのぬいぐるみとかが置かれているだけだけれど、その設置にセンスのよさが見られる。早速ソファに座らせてもらうと、隣にシノさんが座った。

【ホームページから申し込まないといけないらしい】
【あ、結婚?】
【そう】

 この一週間で、シノさんは色々と調べてくれたみたいだ。ノートパソコンを手繰り寄せて、再び、例の結婚イベントについて書かれたページを開く。この特設サイトから申し込むこと、結婚式の日時はゲームの中で決めること、各種特典はイベントが進むごとに手に入ることなどが書かれている。

【しっかりしてるね】
【だなー】
【イベントはゲームの中で進めるんだ?】
【そうみたい】
【楽しそう】
【うん】
【シノさんさ】
【うん?】
【俺に気、遣ってくれた?】

 これだけは聞いておかないといけない気がして、俺は勇気をもって問いかけた。優しいシノさんだから、俺がインしないことで自分を責めて、俺と結婚するっていう結末に至ってしまったんじゃなかろうか。

【遣ってないよ】
【ほんと?】
【うん。……この前言ったのも本当の気持ちだけどな】
【気まずくなりたくないっていう?】
【そう。アキがもし女の子だったらどうしよう、とか色々考えてた】
【ええ】

 それは知らなかった。
 そうか、広いネットの世界だと、そういう話もあり得ないわけじゃない。もしかしたらシノさんが女の人かもしれないし、可愛いショコラちゃんがイケメンかもしれないんだ。でも残念ながら、俺は正真正銘、男だ。26歳駿河秋、しがない会社員、やってます。とまでは、言えないけど。

【ないない、ないよ】
【馬に乗りたいんだろ?】
【そうそう、馬に乗りたいし、シノさんと結婚したい】
【ぶはw】
【女の子のキャラと結婚するのは何か生々しくてやだし、ていうか、俺が結婚するなら、シノさんしかいないなって】

 だから、絶対気まずくなんかならないよ。
 そう力強く断言すると、シノさんのキャラが、俺のキャラの頭を撫でる。最近、多い気がする。

【うん。きっとアキとなら、大丈夫だ】
【でしょ!】

 シノさんの同意に、心がすっと軽くなる。
 結婚するのにも色々準備がいるみたいだけど、きっと、二人でならそれも楽しい。

【あ、そうだ、シノさん】
【ん?】
【よければさ、連絡先交換しない?】

 パーティを組んでイベントを起こさないといけないなら、いつでも連絡が取れるようにしておいた方が良いだろうと思って、そう持ちかけた。安易に個人情報を晒さない方が良いとはわかっているけれど、相手はシノさんだ。信頼している。

【いや、いやいやいや】
【え、だめ?】
【ゲーム内だけにしよう】
【えええ】
【リアルまでBLになっちゃうだろ】
【え、俺、リアルでシノさん狙ってるわけじゃないよ!】

 だめだ、何か話が妙な方向に……。あんまり結婚してアピールをしたから、俺が本気のゲイで、シノさんのことを身も心も狙っているって思われちゃったのかな。そ、それはそれで、困る。

【いや、そういうわけじゃなくて】
【シノさん?】
【俺がな。リアルとゲームを分けて考えるタイプっていうかさ】
【そっかあ】
【アキ、気分転換にダンジョン行こう】
【うん……】

 そんな、あからさまに話題を逸らさなくても。
 もし俺が女の子だったら、警戒しなくても教えてくれたのかな。
 さっきまで浮上していた気分が一転、ずーんと落ち込むんだから、シノさんってば罪な人だ。
 そんな気持ちには一先ず蓋をして、シノさんと一緒にダンジョンで敵をばったばったと薙ぎ倒した。ちょっと、すっきりする。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...