11 / 36
第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?
11 「重いのかなー、俺」
しおりを挟む
11
結婚システムが導入されるアプデまで、俺とシノさんは今まで通り一緒に遊んでいた。何とか仕事は落ち着いて、今までよりも少しだけ帰宅時間が遅くなるだけで、ゲームする時間は確保できている。犬塚さんとも定期的に連絡を取るようになって、前回会ったときから二週間後ぐらいに、また一緒に飲むことになった。美味しい店見付けたんだ、っていう誘い文句はスマートで、色々と勉強になる。
「なんかこないださー、俺変なこと愚痴ってたよね……?」
早速生ビールを呑みながら、恐る恐ると問いかけてみる。今度の店も薄暗い居酒屋だ。和風の雰囲気で、店員さんが浴衣を着ているのがカワイイ。料理も和食がメインで、さっぱりとしていて美味しかった。さすが犬塚さん、センスが良い。
「ネトゲで結婚がどうのって言ってたな」
「あっは、しっかり覚えていらっしゃる……」
うっかり忘れていたのを期待してたのにー。
「で、どうなったの」
「あー、うん。前回の話はうまくまとまったんだけどさあ」
あ、話すと、凹んでたのを思い出しちゃう。
「またふられたよねー」
明るく言って、枝豆の皮を向いた。緑色の丸い豆を口の中に放り込んで、もごもごと咀嚼する。塩味が利いていて、美味い。
「ゲームの中で?」
「そおそ」
「少しはリアルで何かないの」
「えー」
リアルに話がシフトチェンジするとは思わなかった。俺の最近と言えば、仕事をするか、ネトゲをするか、犬塚さんと呑みに来るか、だ。
「彼女も出来てないんだろ、あれから」
「そーだね、結局犬塚さんだけだし、仲良くなったの」
「俺だけか」
「そ。こういう話ができるのも、犬塚さんだけ」
へらりと笑って、半分程中身が減ったジョッキを掲げてみる。かつんと音がして犬塚さんのジョッキが合わせられて、その直後に、伸びてきた腕に髪の毛を撫でられた。
「うわわ、なになに、なんすか」
「ふられたって、なに」
「連絡先聞いたら断られたあ」
あっさりと促されるから、思わず正直に零してしまう。身体の力を抜いて、テーブルの上に突っ伏すと、「あー、そう」と相槌を打ちながら、宥めるようにぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「重いのかなー、俺」
その心地良いリズムについ甘えて、酔いに任せて弱音を吐いてしまう。
「付き合ってくれてるだけなのかなー」
「……リアルでも絡んだら、ガチできみに惚れちゃうとか?」
「ええ?」
「セーブしてるんじゃないか」
「なにそれー」
少しだけ視線を上げる。
犬塚さんの表情は相変わらず穏やかで、決して面白がってはいない。俺の悩みに、付き合ってくれている。
「だって、俺もその人も男だよ」
「わかんないだろ、女の人かも」
「えええ?」
「ネットってそういうもんだろう。顔も、声も、リアルは何も見えない」
「男でも女でもいいけどさあ……」
あ、やばい。
犬塚さんの声が、語り口が、頭を撫でてくれる手が心地よくて、意識がふわふわとしてくる。
「あのひとと、ゲーム以外の繋がりがほしいんだ……」
それくらい、……。
そう言い掛けて、俺は完全に瞼を閉じた。
ここから先の記憶は、おぼろげだ。
「あーあー……」
困ったように笑う犬塚さんの声も、
「無防備すぎるでしょ」
髪の毛に触れた柔らかな感触も、会計を済ませてくれたのも、タクシー呼んで家まで連れて帰ってくれたのも。薄らとは覚えているけど、はっきりとした記憶がない。
次の日の朝、気が付いたら自宅のベッドの上にいて、『酔っ払いクン、宅配完了。風邪ひかないよーに。』なんて、イケメン過ぎるメッセージが届いていたのに戦慄した。さすがに焦ってすぐに犬塚さんに電話を掛けて、謝り倒した俺だった。今度絶対奢ります、まじで。
結婚システムが導入されるアプデまで、俺とシノさんは今まで通り一緒に遊んでいた。何とか仕事は落ち着いて、今までよりも少しだけ帰宅時間が遅くなるだけで、ゲームする時間は確保できている。犬塚さんとも定期的に連絡を取るようになって、前回会ったときから二週間後ぐらいに、また一緒に飲むことになった。美味しい店見付けたんだ、っていう誘い文句はスマートで、色々と勉強になる。
「なんかこないださー、俺変なこと愚痴ってたよね……?」
早速生ビールを呑みながら、恐る恐ると問いかけてみる。今度の店も薄暗い居酒屋だ。和風の雰囲気で、店員さんが浴衣を着ているのがカワイイ。料理も和食がメインで、さっぱりとしていて美味しかった。さすが犬塚さん、センスが良い。
「ネトゲで結婚がどうのって言ってたな」
「あっは、しっかり覚えていらっしゃる……」
うっかり忘れていたのを期待してたのにー。
「で、どうなったの」
「あー、うん。前回の話はうまくまとまったんだけどさあ」
あ、話すと、凹んでたのを思い出しちゃう。
「またふられたよねー」
明るく言って、枝豆の皮を向いた。緑色の丸い豆を口の中に放り込んで、もごもごと咀嚼する。塩味が利いていて、美味い。
「ゲームの中で?」
「そおそ」
「少しはリアルで何かないの」
「えー」
リアルに話がシフトチェンジするとは思わなかった。俺の最近と言えば、仕事をするか、ネトゲをするか、犬塚さんと呑みに来るか、だ。
「彼女も出来てないんだろ、あれから」
「そーだね、結局犬塚さんだけだし、仲良くなったの」
「俺だけか」
「そ。こういう話ができるのも、犬塚さんだけ」
へらりと笑って、半分程中身が減ったジョッキを掲げてみる。かつんと音がして犬塚さんのジョッキが合わせられて、その直後に、伸びてきた腕に髪の毛を撫でられた。
「うわわ、なになに、なんすか」
「ふられたって、なに」
「連絡先聞いたら断られたあ」
あっさりと促されるから、思わず正直に零してしまう。身体の力を抜いて、テーブルの上に突っ伏すと、「あー、そう」と相槌を打ちながら、宥めるようにぽんぽんと頭を撫でてくれる。
「重いのかなー、俺」
その心地良いリズムについ甘えて、酔いに任せて弱音を吐いてしまう。
「付き合ってくれてるだけなのかなー」
「……リアルでも絡んだら、ガチできみに惚れちゃうとか?」
「ええ?」
「セーブしてるんじゃないか」
「なにそれー」
少しだけ視線を上げる。
犬塚さんの表情は相変わらず穏やかで、決して面白がってはいない。俺の悩みに、付き合ってくれている。
「だって、俺もその人も男だよ」
「わかんないだろ、女の人かも」
「えええ?」
「ネットってそういうもんだろう。顔も、声も、リアルは何も見えない」
「男でも女でもいいけどさあ……」
あ、やばい。
犬塚さんの声が、語り口が、頭を撫でてくれる手が心地よくて、意識がふわふわとしてくる。
「あのひとと、ゲーム以外の繋がりがほしいんだ……」
それくらい、……。
そう言い掛けて、俺は完全に瞼を閉じた。
ここから先の記憶は、おぼろげだ。
「あーあー……」
困ったように笑う犬塚さんの声も、
「無防備すぎるでしょ」
髪の毛に触れた柔らかな感触も、会計を済ませてくれたのも、タクシー呼んで家まで連れて帰ってくれたのも。薄らとは覚えているけど、はっきりとした記憶がない。
次の日の朝、気が付いたら自宅のベッドの上にいて、『酔っ払いクン、宅配完了。風邪ひかないよーに。』なんて、イケメン過ぎるメッセージが届いていたのに戦慄した。さすがに焦ってすぐに犬塚さんに電話を掛けて、謝り倒した俺だった。今度絶対奢ります、まじで。
2
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる