ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

文字の大きさ
12 / 36
第1章 ネトゲ発祥のリアル恋愛!?

12 【えっ、結婚?】

しおりを挟む
12




 いよいよ、(主に婚約している人たちが)待ちに待ったアプデの日がやってきた。結婚システム以外にも、新しい装備や新しいダンジョン、新しいストーリー等、たくさんの新要素が追加されたようだ。ゲームにログインすると、季節柄、クリスマスのイルミネーションめいたキラキラしい装飾もあちらこちらに追加され、この世界が一新されたことを実感する。

【こんばんはー】

 挨拶をすると、【ばんわー】【うっす】【やっほー】等、いつも通り、ギルドのメンバーからの返事が返ってくる。そこにはシノさんの名も連なっていて、早速、シノさんから【アキー】と二人だけが見えるチャットが飛んでくる。

【シノさんー】
【アプデきたぞ】
【うん、色々キラキラしてんね】
【クリスマスモードだな】

 ちなみに、クリスマス限定のイベントなんかもあるらしい。ギルドのチャットでは、その話で盛り上がっている。

【教会に行けば、クエが受けられるみたいだぞ】
【えっ、結婚?】
【そうそう】
【いよいよかあ】
【いよいよだな】
【なんか、感慨深いね】
【そう?】
【あ、俺だけ】

 なんて会話を交わしながら、俺たちはその、教会、に向かった。
 ラミンスター礼拝堂、という名高い教会は、草原を越えた丘の上に聳えたつ。オーソドックスな教会の形をしており、十字架が煌めいている。中は広く、たくさんの椅子があり、中央にはステンドグラスと、厳かな燭台があった。

【きれいだねー】

 思わず俺は、暢気に話しかける。隣に立つシノさんが、頷いた。「あそこにいる人に話し掛けて、クエストを受けるらしい」

【おー、美人なおねーさん】
【シスターって感じだな】

 シノさんの言う通り、黒が基調の丈が長い修道服に身を包んだヒューズの女性が、慎ましやかに立っている。俺たちはその人の傍に行き、話しかけた。

『永遠の儀式をお望みですね』

 すげー名前だなあ。この世界では、結婚のことを、永遠の儀式、というらしい。壮大過ぎて、現実味がない。いや、決して現実ではないんだけども。

『伝統に則り、あなた方の絆を、確かめさせて頂きます』

 あー、こういう感じね。幾つかの段階的な手順を踏んで、アイテムとかを納品して話を進めていくスタイルだ、きっと。各種族の主な国が指定されて、どこそこにあるなになにという場所のパワーをこの宝珠に収めてあなたがたの旅路を記録してください、そしてそのパワーを互いが作った指輪に込めることができて初めて儀式が行われるのです、そう訥々と話すシスターのテキストをボタンで押し進めて、俺はチャットを打った。

【儀式だって、儀式】
【すごいなー、本格的じゃん】
【愛を確かめるんだねえ、これで】
【愛なwww】

 笑うシノさんに俺も笑う。
 きっと俺たちと同じように(或いはもっと真剣なものかもしれないけれど)、婚約をしているらしいキャラクターが次々と教会内を訪れて、シスターに話しかけては去って行く。以前別のクエストで来た時よりも混雑している。前はがらんどうだったのに。

【というわけで、アキくん】
【はい】
【まずは我らがトレントに行こうか】
【おけ、行こー】

 シノさんに促されて、俺たちはワープして、故郷であるトレントへと向かった。





 俺たちの故郷であるトレント、ヒューズが中心に暮らすトレドヴァ、フェアリーの楽園・ピアチーノ、オークが守るセルヴォリ。各国をワープという最短ルートで周った俺たちは、然して苦労することもなく、もらった宝珠にパワーを集めることができた。尤も、主にシノさんが次に行く場所を把握していて、俺はそれについて行ったというだけなんだけれども。

【あっさり集まったなw】
【シノさんのおかげ、ありがとー】
【いえいえ】

 各国を回ると、今までゲームの中で通った軌跡を思い出す。愛ある恋人同士ならば、それぞれの場所で思い出に耽ったのかもしれない。俺たちはあっさり終わらせて、パワーを溜めて輝いている宝珠を持ち、再び教会に戻って来た。

『各国の力……あなたたちの絆を祝福する、温かな光を感じます』

 ボタンを押すと美人なシスターがそう話し、俺たちの旅路を祝福してくれた。お互い職人技で作った指輪を見せると、クエストが進行する。長々とした説明の後、結婚式の日取りを決められるようになった。

【ついに結婚式かあ】
【あっという間だったなw】
【そうだねえ、感慨深くはないねw】

 もうちょっとこう、大きな敵が聳え立ったり、すごい試練が立ち塞がったりするのかと思ったけれども、ただの思い出巡り、聖地巡礼のような形だった。でもまあ、そんなに辛い試練があったら、結婚する人が減っちゃうだろうから、これぐらいが適当かも。
 厳かなはずの教会内は、俺たちと同じような目的の人たちで、賑やかだ。そこの隅に立ち、先程の説明を確認する。

【ギルドの人たちに声掛けるか】
【結婚式に参列できるっていうのがもう、リアルだよね……】
【一番乗りっていうのもウケるなw】

 結婚イベントには、友達を呼ぶことも出来るらしい。イベントのムービーが流れるのを、友達も一緒に観ることが出来て、共有できるようだ。うーん、そこらへんはなんだか、リアル。引き出物として、参列者にもアイテムが贈られるっていうのを聞いて、少し驚いた。

【俺たち結婚しまーす】

 ものすごい軽い感じで、ギルドの皆に告げたら、【www】【一番のりおめでとう!】【BL婚おめー!】【おめでとう!】と一気にお祝いのチャットが流れ出した。みんな、とてもノリが良い。

【式はいつにするのー?】
【皆に来てほしいから、都合が合う日にしようかと】

 リリアちゃんの問いかけに、シノさんが答えてくれる。

【平日ならこれぐらいの時間がいいよね】
【うんうん】
【楽しみw】

 俺もシノさんも、ギルドの皆も、平日なら二十時から日付が変わる頃までログインしている。ネトゲというと、ニートの廃人、みたいなイメージが強いけど、ちゃんと皆(多分)社会人で、仕事をしながら息抜きにゲームをしている人が多い。結婚式も、プレイヤーの都合の良い日取りを決められる。決めた日時に教会に行けば、後はシステムが勝手にムービーを流してイベントを進めてくれるというわけだ。
 シノさんがギルドメンバーの予定を調節して、一番都合の良い、つまり丁度一週間後のこの時間に、結婚式を行うことにした。

【装備揃えなきゃねー】
【おー、アキドレス着る?】
【いやいやシノさんでしょ】
【打ち合わせしようなw】

 シノさんのテンションが何気なく上がってるのに気付いて、俺も嬉しくなる。喜んでるのは、俺だけじゃない。

 ――一週間後が、楽しみになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...