ネトゲ≠リアルな恋愛事情~26歳社畜、ネトゲでもリアルでもイケメンと出会ってしまいました~

いちき

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第2章 ネトゲもリアルも恋愛発展!?

2  ――ようやく、週末がやってきた。

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 ――ようやく、週末がやってきた。
 とはいっても、平日の疲れが溜まっているせいで、土曜日は夕方まで寝こける日が多くなってしまった。起きて軽いものを食って、部屋の掃除をしたら、漸く俺の癒しの時間。
 ローテーブルの前に座ってコントローラーを握り締め、ゲームを起動すると、テレビの画面に、一週間ぶりに見る景色が広がる。最初に比べたら随分豪華になった装備を身に纏い、背中に背負う弓も強そうになっている“アキ”が、姿を現した。前回、ゲームを終わらせた自分の部屋の中で立ち尽くしているのに、一抹の罪悪感が胸を刺した。
 なかなか動かしてやれなくてごめんね、っていう気持ちで画面を見ると、流れてきた文字にぎくりとする。お久しぶり、そう打とうとした指が、止まった。

【シノさん! クエスト連れてってくださーい】
【いいよー】
【わぁい! ありがとー】

 ――な、なんだこれは、デジャブ?!
 大分初期の頃も見たやり取りが目の前で繰り広げられていて、俺は思わず固まってしまう。
 いやいや、ショコラちゃんはタロウさんに夢中なはずだ(ちなみに、この二人もクラウスさんたちに続いて結婚式を挙げていた。タロウさんが終始無言だったのが気になるけど、まあ、うまくいっているんだろう)、と思って名前欄を見たら、全く知らない子だった。

【あ、アッキーこんばんわ!】

 ちなみに、ネトゲっていうのは便利だけどある意味厄介で、ログインしただけで、<○○さんがログインしました>なんていうメッセージを流してくれちゃったりする。いち早くリリアちゃんが反応してくれるけど、今日ばっかりはそっとしといてほしかった。なんてバッドタイミング。

【こんばんはー、一週間振り!】
【おつかれー】
【おひさー】
【ばんわー】

 でもまあリリアちゃんに罪はないし、そもそも俺がいるっていうのはバレバレだし、挨拶を打つと、ギルドの仲間たちが次々に挨拶を返してくれる。

【あっ、はじめましてえ】
【はじめましてー?】
【ナッツです☆】
【アキです☆】
【よろしくおねがいしまーす】

 シノさんと今パーティを組んでいるこの子は、ナッツちゃんというらしい。【始めたばっかりみたいで、ギルドにはついこないだ入ったんだよー】とリリアちゃんが説明してくれる。ふんふん、なるほどね。シノさんが優しくて、始めたばかりの子を放っておけないのは、よく知っている。何故なら俺も、例に漏れず、優しくされたうちの一人だったからだ。
 一週間も間を空けると、やることが山積みだ。新しいクエストだってあるし、レベル上げもしなきゃいけないし、日課だって一週間分溜まっている。気にしない素振りをして、自分の部屋から出て歩き出した。

 ――ネトゲは、プレイ時間が重要だ。
 たった一週間でも、その間にアプデがあれば、新要素が山ほど増えて、やらなきゃいけないことも多くなる。現に、見たことのないダンジョンが増えてるし、ギルドのみんなと、レベルの差が開いている。
 やることが多すぎて、何から手をつけて良いかわからない俺は、とりあえず街の中をうろうろした。新しいクエストも増えていて、街中にいるNPC(ノンプレイキャラクター、プレイヤーがいないキャラクターのことだ)に話しかけていく。やれアレが欲しいだのコレがしたいだのと言ってくる人たちの願いを叶えてあげるのも、立派な冒険者の仕事、……らしい。
 こういうことも、いつもシノさんが一緒にやってくれていた。次はどこに行くとか、このアイテムが必要だとか、全部教えてもらっていて、俺はほとんどついて行くだけだったけど、それがすごく楽しかったのに。今は、ただ、示された道をひとりで歩いているだけだ。あれほど待ち望んでいたゲームの時間なのに、無性につまらなく感じた。
 もう終わりにしよっかな……、そう思い始めたとき、画面の中で、止まっているキャラクターを見つける。クエストで頼まれたモンスターを倒すために、初期のダンジョンに向かっていたのだけれど、そのダンジョンの前に、立ち尽くしているかわいいフェアリーの男の子がいた。装備はほとんど初期のものだ。
 そういえば、俺とシノさんが出会ったのも、このダンジョンだ。敵が強くて一人じゃ倒せなくて、助けを求めたんだっけ。ひどく懐かしくなって、俺はつい、その男の子に声を掛けた。

【ここ、敵強いですよねー】
【そうなんです。困ってて】
【良ければ手伝いましょうか?】
【本当ですか! ありがとうございます!!】

 気さくな人でよかった。
 すぐにパーティに誘って、仲間になる。
 本当に始めたばかりのようで、レベルも低かったから、彼(アークくんというらしい)に合わせて、普段はやらないからアークくんと同じくらいのレベルで止まっていたヒーラーに転職した。
 慣れない回復役に回ると、日ごろ気を回してくれるシノさんの偉大さを思い知る。
 ――ああ、また、シノさんだ。
 ギルドのチャットではイベント攻略の話をしていて、そこにシノさんの名前も流れてきて、なんでかよくわかんないけどえらく気まずい。
 気を紛らわすために、アークくんと一緒にダンジョンの敵をばったばったと倒して行った。





 【ありがとうございました!】
 無事にボスを倒すことができて、アークくんのレベルが上がるところまでを見届けた。一緒にダンジョンを出ると、ぺこぺこと小さい身体で何度もお辞儀をしてくれて、男の子なのに可愛い。

【いえいえ、俺もヒーラーの練習になったし】
【よければまた色々教えてください】
【俺でよければー。フレ登録しよっか】
【ありがとうございます!!】

 チロリン、と高い音がして、フレンドが増えたことを知らせた。友達が増えるのは、良いことだ。
 俺がダンジョンを攻略中に、シノさんはギルドの人たちと一緒に新しいダンジョンに向かったみたいだ。
 やっぱり、今日は早めに切り上げよう……。
 アークくんに挨拶をして自宅に戻って、【今日はもうおちまーす。またねー】という挨拶をギルドのチャットに向けて打った。

【おつかれー】
【またねー】
【おつー】
【今度はダンジョンいこー】

 ギルドの面々が次々と挨拶を返してくれるのを見ながら、俺はゲームの電源を切る。なんとなくすっきりしなくて、ベッドにぼすんと横になったら、小さな電子音がしてスマホが震えた。

『せっかくインしてたのに全然遊べなかったな』
『そういう日もあるでしょ、気にしないでー』
『ん。仕事、無理するなよ』
『ありがと!』

 シノさんからのメッセージはいつも通り優しい。
 優しいのに妙に寂しくなって、俺は目を伏せた。
 ――いつからこんな、女々しくなったのかなー
 これもどれも、全部、華の本社勤務のせいだ、きっと。


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