23 / 36
第2章 ネトゲもリアルも恋愛発展!?
3 週が明けても、相変わらず、くっそ忙しい。
しおりを挟む3
週が明けても、相変わらず、くっそ忙しい。
一つの仕事が終わったらまた新たな仕事が振ってくるし、その合間に細かい書類仕事が入り込んでくる。身体が一つじゃ足りない、と思う。後輩に言われるまでもなく、残業しないと仕事が追い付かない。ここ最近は、終電に間に合えば良い方で、日付が変わってからタクシーで帰るなんてことがままあった。
ああもう、やだよう……。
本社の方がブラックなんて、そんなの、聞いてない。
役職とか昇進とか良いから、早く帰らしてくんねーかなあ。
唯一仕事から逃げられるのは昼休みの一時間。屋上で一人、ベンチに座ってもそもそと菓子パンを食べながら、背中を丸めてそんなダメダメなことを思う俺である。
前の会社なら、喫煙所に行けば先輩方は構ってくれたし、社員食堂に行けば後輩くんが慕ってくれた。けれど、仕事の忙しさにかまけて人間関係構築をサボっている俺は、孤独だ。――べつに全然っ、気にしてないけどね!
と、誰にともなく強がっていたら、傍らに置いたスマホが震えた。
『おつかれさま。今夜、時間ある?』
犬塚さんからのメッセージだ!
その言葉に今日が金曜だということを思い出して、あの一人で気まずかったネトゲの日から、もう一週間経ちそうだというのに気付いた。
どう返信しようかと思ってスマホを見つめていると、スマホが震えて、続けざまのメッセージを知らせる。
『少しでも良いから、顔見たい。』
直球な誘い文句に、思わず胸がきゅんと高鳴ってしまった。
『ある、あるよ! 俺がんばる!! 超がんばる!!!』
『w 了解、あんまり焦んなくて良いからな。無理しないでがんばれ』
『うん! ありがと犬塚さんあいしてるー』
『wwwww』
あ、愛の告白を笑われた。
でも、こんなやり取りは久し振りだ。
何より久し振りに犬塚さんに会えるのが嬉しくて、思わず口元がにやけてしまう。
「嬉しそうっすね、先輩」
「え」
不意に背後からかかる声に、ぎくりと肩を竦めた。
物珍し気な声の主は、考えるわけもなく、例の後輩のものだ。
「いやあのこれはね、……えへへへ」
説明しようとするけれど、だめだ、思い出すだけで緩む口許を堪えられない。だって、久し振りに、好きな人に会えるんだ。嬉しくないわけがない。
「あ、もしかして、彼女ですか」
「まあねー、そんなもん」
「ふうん……妬けちゃうなあ」
「うん?」
ぼそり、と、今不穏な一言が耳に入った気がする。
「だって、俺、先輩のそんな笑顔見たことないです」
「そりゃあ、君は俺の恋人じゃないからねえ」
「ツレないなあ、俺はこんなに好きなのに」
「そりゃどーも」
「はあ、……午後からもご指導お願いしますー」
「はいはい」
ああ、イケメンはこれだから。
甘いことを言って、にこっと爽やかに笑えば誰でも絆されるとでも思っているんだろうか。
――残念、俺が絆されるイケメンは犬塚さんだけですから!
その後、後輩に色々と邪魔されながらも、普段の倍の速さで仕事を片付けていく俺だった。犬塚さんパワー、半端ない。運も味方をして、いつもは入る急ぎの仕事もなかったし、何とか、約束の時間に間に合いそうな時間に退社出来ることになった。
本社勤務になったから、不本意ながらスーツでの出勤になってしまった。ストライプのシャツと紺のジャケットとスラックスをノーネクタイで、という格好のまま、駅を目指して歩く。華の本社、ということで、都内の主要駅の傍にあるから、犬塚さんはその駅を待ち合わせ場所にしてくれた。
もう少しで犬塚さんに会える、というそわそわは中々隠せない。アスファルトの上を速足で歩くと、後ろからも同間隔で足音がついてくる。同じ時間に退社した、後輩のものだ。
「なに、なんなの」
「いやー? たまたま方向が同じなだけですよ」
「嘘だ、きみ地下鉄でしょー」
「あ、覚えてくれてるんですか嬉しいなあ。……先輩の彼女が見たいだけだから、気にしないでください」
「え」
予想外の返答に、思わず固まる。
これは、まずい気がする。
だって、彼女なんかいるわけない。
だって、俺の恋人は。
「秋!」
どうしようちょっと遠回りして後輩を撒いてから駅の中に入ろうかなそれとも適当な女の子に声かけて間違えちゃったテヘみたいなで誤魔化そうかなどうしようどうしよう、と思っていたら、前方から、待ち望んだ声が、俺の名を呼ぶのが聞こえてきた。
「い、いぬづかさ……、!」
ぱあ、と、無条件で輝く顔、落ち着け。
わざわざ駆け寄って来てくれる犬塚さんは、今日も上下共に黒いスーツで、白いワイシャツに赤い細身のネクタイが映えている。相変わらずイケメンだ。犬塚さんに見惚れそうになって、はっとした。
「あれ? 先輩、彼女さんと会うんじゃ……」
「え、えーと、」
「あ、もしかして先輩」
ううう、これは、まずいんじゃないか。
犬塚さんも何か察したようで、青褪めているのが見える。普段動揺をあんまり顔に出さないのに、これは珍しい。――じゃなくて。
「ゲイだったんですか」
うわああああああ。
直球だ、この子直球だ!
恐る恐ると犬塚さんに視線を送ったら、カチリと固まっていた。そりゃそうだ。
「なあんだ、じゃあ、隠す必要なかったですね」
「は」
にこりと爽やかに笑う後輩が続けるのは、予想外の一言だ。週末の駅前は、人の通りがとても激しい。どこからか、ストリートミュージシャンの歌声も聞こえてくる。
「先輩のカレシさん、カッコいいですねー」
「はあ」
「先輩面食いですか」
「え」
「俺、先輩にはすごくお世話になってるんですよー」
「はあ」
「これからも、公私共にお世話になる予定なんで」
「は?」
「よろしくお願いしまーす」
拍子抜けする俺たちをよそに、やはりこの後輩は笑顔を崩さずにそう言葉を続けた。
「先輩、デート、楽しんでくださいね」
「は、はあ」
「じゃあ、また来週」
言うだけ言って、というか犬塚さんを見て満足したのか、ひらりと片手を挙げて、後輩は人混みの中へと消えて行った。上背があるから、人混みの中でも目立つのが腹立つ。
「秋」
「はい」
「なにあいつ」
「こ、後輩」
「ふうん……」
あ、犬塚さん、怒ってる。
心なしか低い声色に、俺の防衛本能が危険だと訴えかけている。
「前の後輩くんの方がかわいいな」
「俺もすげえそう思ってるところ」
「どっかで呑もうと思ったけど、そういう気分じゃないな……」
うう、同感です。
何より、こんなピリピリした犬塚さんと、居酒屋に二人きりとか、ちょっと堪えられない。
犬塚さんが、上体を屈めて下から俺を覗き込んできた。縮まる距離に、一度瞬く。
「家、来いよ」
「う、うん。行く」
そんな魅力的な誘い、断るなんて選択肢はないけれど。
でも、ほんのちょっと、緊張する。
2
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる