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出会い編
第一話
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変化した日常は、時に虚しい。
そう、彼女は口ずさむように言った。
それはその通りで、永遠に変わらないと思っていた駄菓子屋も、
変わらないと思っていたショッピングモールも、
変わらないと誓った想いも、
時が経てば、夏の日差しに当てられた死骸みたいにドロドロに朽ちて、
やがて腐臭となって、後味の悪いものを残し消えていく。
それは正しいことであって、その度に新しいものと出会い変わっていく。
それが進むということであり、退化ということでもある。
それを知る術はなく、
それを決める観測者もまた、いない。
だから、彼女は虚しいと言った。
だからこそ、彼女はこうも言っていた。
停滞は美しい、と。
この物語は、そんな意味のあるものでもなくて、
彼女が何を言いたかったのか、結局のところ僕もわからなかったけれど。
それでも、僕は語らなきゃいけないのだろう。
彼女の物語を。
彼女の奇譚を。
1
米崎友人という後輩がいる。
どこで出会ったとか、そういう話は今回の物語には関係ないので、割愛させていただこう(強いていうなら、あまりいい話ではないし、いい出会いでもなかった)。
そんな如何にも百人が聞いて百人が男だという名前だが、米崎は女である。
もっというなら、僕と一つ違いの後輩である。
「やあやあ、未咲先輩! 熱く長い道のりだったでしょう!! ささ、どうぞ黒いしゅわしゅわを」
「いや、さらっと自分の家みたいに言っているけれど、ここはただの駅前のカフェであって、間違っても君の家ではないからね? あと漢字を間違えている」
おっと、これは失敬、とかいう三文芝居を繰り広げながら、僕は米崎の向かいのアンティークな椅子に腰掛ける。
僕も乾いた喉に、黒いシュワシュワ(ただのコーラ)を口に含む。
「……それで? 高校試験に向けて受験勉強に忙しい僕になんの用か」
「やだなあ、先輩。受験勉強だなんて、気の早いことですよー」
「早くねえよ! むしろ遅い方だよ。あと、冒頭でお前は僕の後輩だって説明した」
「えーっ!? そんな……先輩てっきり私のために留年とかするのかと」
「するか! 僕の出席日数は、足りてるし、むしろそっちが、進級せず、中学校を四年以上過ごすか心配だよ!」
心配性ですねー、と棒読みで米崎は返す。
でも、心配なのは本当で、米崎は引き篭もりである。
やることと言えば、せいぜい部屋で一日中ゲームをし、三食昼寝付きの生活を謳歌している。
そのため、米崎は義務教育はおろか下手をすれば幼稚園とかにも行っていない可能性がある。
「なぁ、米崎。お前も流石に学校とか」
「え? わたし勉強くらい、大学とかのレベルまで余裕ですー」
「……お前、実は天才なんじゃ」
「それより先輩」
と、米崎は本題を切り出す。
「怪物って、いると思います?」
2
「…………は?」
わざわざ呼び出した理由がそれ?
怪物がいると思うかを聞くために呼んだのか?
「いや、唐突になんだよ」
怪物って、そんな曖昧な表現じゃわかりにくい。
せめて、吸血鬼とか、ゾンビとかそういう具体的なものの方が答えやすい。
「吸血鬼とか、ゾンビって、実際にいたら怖いじゃないですか」
「怪物もいたらいたで、十分怖いだろうに」
「あと、知ってましたか? ゾンビって本当は人間を襲わないんですよ? あまり詳しいことは分かりませんが、どこかの神話だとゾンビは神様の使いだとかだったはず……」
「どうでもいい知識をどうも」
それよりも、と米崎は本筋へと話を戻し、
「怪物はいると思いますか?」
怪物。
妖怪、悪魔、UMAなどのオカルトワードだ。
そんなフィクション、架空の産物の単語、僕の日常生活とは無縁である。
「……さあ、僕にはわからないけど、少なくとも物事は観測者がいて初めてそこに『ある』と認識されるのだから、僕は見ていない。観測していないってことは、いないってことなんじゃないか?」
「……意外にも学のある回答ですね」
さすがは未咲先輩、と小馬鹿にしていて、甘えた口調でいう米崎。
「意外、って僕は一応、年上なんだが」
「一個上でしょ? 一年早く生まれただけで、そこまで差が着くとは思えないんですが」
「いや、一日の長って言葉を知ってるのか? 僕は君よりも一日どころか、一年くらい経験豊富であって、むしろ、そこは尊重とかするべきなんじゃないか?」
「…………それって、自分を慕って欲しいって言っているようなことの気がしますけ…………ひょっとして、先輩って後輩が、わたししかいなくて、寂しいんじゃ」
「ほっとけい! ……ひょっとして、今日は単に僕を揶揄うために呼んだんじゃないだろうな?」
やだなぁ、と米崎はわざとらしく笑い(嗤い?)。
「わたしが先輩を呼ぶ理由なんて、一つに決まっているでしょう」
「なら、先に言っておく。断る」
米崎が頼み事を言う時は、たいていロクでもないことだ。
その所為で、僕がどれだけ酷い目にあったことか。
「あのー、一応言っておきますが、今回の頼み事は割とまともですよ?」
そう言われて、僕はどれだけ米崎に迷惑をかけられたことか。
つい最近の頼み事だと、「すいません、先輩。わたしが作ったサイトが正常に作動しているか、調べるために先輩のスマートフォンから調べさせてください」と言って、実際はエロサイトを閲覧し、僕のスマートフォンは使えなくなってしまった。
「あの時はただ単にサイトが乗っ取られて、先輩のスマホを囮にして犯人特定したじゃありませんか」
「いや、僕はスケープゴートじゃないが!?」
おかげで、わたしは助かったじゃありませんか、と茶化しながら言われる。
「…………ちなみに、頼もうとしている内容は?」
「引き受けてくれるんですね! いよっ、さすがはお人好し!」
「それ、褒めてないからな! あと勝手に引き受けたことにするな」
だんだんと脱線してきている。
いい加減に話を軌道に戻さなければ、わけがわからなくなってくる。
「はいはい、それじゃあ先輩」
そう言って、机の上にコピー用紙が置かれる。
そこに印刷されているのは、どこかのサイトのページだった。
「ここを見てください」
と指を指された箇所に視線を移すと、そこには古めかしい洋館が映っていた。
「…………えっと」
「この洋館って、実は『出る』らしいです」
「……へぇ」
実際、外観はボロボロで蔦が外壁を覆っている。
確かに、出ると言われれば出そうな雰囲気だし、別段驚かなかった。
「……これが、その」
「怪物、ってネット上では言われています。そして、このユーザーが投稿した後消息を絶ったようです」
3
「とは言っても、あくまで噂ですけどね」
どうやら、ただの噂らしい。
「一応、火の無い所に煙は立たないって言いますからね」
「おい、ただの噂かよ」
正直、怪談か何かかと思った。
「一応、投稿者が投稿しているかを確認してみましたがさっきの投稿以降、投稿していないみたいです」
……なるほど、だから怪物がいるのではと噂になったのか。
「…………あれ? でも噂が立つにしても、それはこじつけなんじゃないか?」
ただ単に、そのユーザーがSNSの投稿をやめただけかも知れない。消息を断つ、だなんて大袈裟だ。
「まあ、それはそうですけどね」
でも、と米崎は続ける。
「噂って、案外そういうものじゃないですか。誰それさんが、一人の女の子が好きなんだってー、とかそういう話が拡散されていくうちに、いつの間にか誰それさんがその子と付き合っているんだってー、とか誰それさんが告白したんだってー、とかそういう曲がった事実をいうこともありますからね」
噂って、結局は伝言ゲームですからねーと付け加えた。
僕は別に、ネットとかそういうものを使うことはほとんどないため、あまりわかっていないが。
「とにかく、です。先輩には、この洋館に行って、噂を確かめてきてください」
「だから、僕は引き受けてないって」
そもそも、そんな不気味な噂のある洋館の場所もわからないのだから、行くにしたってどこをどう行けばいいのか、僕は知らないのだが。
「その心配はございません。何せ恵み野庭市内ですから」
どうやら調べていたらしい。
……変なところで用意周到なのは、やはり米崎らしいといえばらしいのだが、こういう時には発揮してほしくなかった。
「安心してください。骨は拾いますから」
「その前に、怪物にでも喰われてしまえ」
4
「…………本当にありやがった」
僕の目の前には古びた、あのカフェで見かけた洋館がある。
米崎とそんな話をして、数日が過ぎた日のことだった。
米崎の頼み事は結局断ったが、最後に。
「先輩は、きっとその洋館に行きますよ」
意味深なことを言っているが、実際のところこれは僕と米崎が別れる時に言う、常套句だ。
だから、米崎自身も適当なことを言っているだけだった。
だが、まさか本当に行くことになるとは、僕自身思っても見なかった。
「しかし、なんでこの奥にスーパーなんてあるんだか」
とはいえ、行き着く先と言うわけでもなく、たまたま通りすがりと言うだけだが。
「…………寄ってみるか?」
いや、そんな馬鹿なことを考えるな、夏の暑さにやられるな。
一応、私有地の可能性もあるのだから、普通に不法侵入になる。
「…………帰ろう」
さっさとおつかいを済ませて帰って、勉強をしなければ行けない。
一応、受験生なのだから、勉強してますよアピールくらいはしなければ。
と、
かーん、かーん、と鉄のぶつかる音が反響するみたいに聞こえてきた。
「……えっ?」
その音はまるで、モールス信号のような、そんな規則性のある音。
それは、どこか誘うような、静かな音。
『怪物って、いると思いますか?』
数日前の問いが蘇る。
あの時はいないと思っていたけれど、今の音を聞いている内に、本当にいるのではないかと思ってしまう。
そんなはずはない。僕は見たこともなければ、聞いたこともない存在をいると思うなんて、よほど影響を受けている証拠だ。
「…………なんて、確かめるのは小学生のやることだ」
頭ではわかっている。いるのだが、
「でも………………なんだろう」
無性に気になる。
まるで、何かいると感じ取っているような…………第六感、というやつだろうか?
「…………まあ、可愛い後輩の頼みだしな」
それに、カフェでは度々奢ってもらっている身の上なのだから、土産ついでに確かめるのもいいかも知れない。
そう決めて、洋館の扉の前に立つ。
とりあえず、インターホンだけでも押しておこう。
試しに押してみるが、小気味いい音は鳴り響かない。
「……誰も住んでないのか?」
まあ、それはそうだろう。
何せ、見た目も蔓とか植物が絡んで、窓も板張りで中の様子を伺うことはできない。
「……誰もいない、と」
怪物がいるとかいないとか、僕にはどうでもいいことじゃないか。
別にそこまで刺激的な人生を送ってきたわけではなく、せいぜい米崎という後輩に振り回されているだけじゃないか。
あいつの手のひらに転がされている感じがして、年上としてのプライドが傷つく。
「早く、用事を済ませよう」
おつかいを早く済ませようと洋館の扉を出ようとしたところで、ふと気づく。
この時、僕はさっさとおつかいを済ませて家で勉強に励むべきだった。
米崎が、変なところで用意周到だと言うのなら、僕も大概人のことは言えない。どうでもいいところに、僕は気がついてしまうのだから。
「……あれ?」
扉の取っ手が壊れていた。
だが、扉もよく観察して見ると半開きで、中に入るのは容易だった。
「入れそうだな」
せっかくここまで来たのだ。
さっきも言ったように、米崎に土産話を話すためにも、入ってみよう?
土産話とか言っている暇があるのなら、早くおつかいを済ませろと過去の自分に言いたいが、そんなことができるわけではない。
……………………失礼、少しだけ、感情が昂ってしまった。
5
鼻が曲がりそうなほどの腐臭と血の匂いに、咽せる。
僕の目の前にあるのは、腐った肉片。
ただし、牛、豚、鶏とは違ったもの。
その肉片の正体は、その隣にある腐乱死体が証明していた。
「ヴっ………………ぉえぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇええぇぇぇっ!!」
吐いた。
胃のなかにある昼食のコンビニのフライドチキンと、間食に食べたチョコレートとクッキー。
それが胃液と一緒に、食道から口腔へ流れ出た。
思考が混乱していく。
一体いつから死体がここにあるのか、検討はつかない。
「……なん、だよこれ」
空っぽになった胃を摩りながら、目の前の死体を見つめる。
少なくとも、最近のものではないことは、異常な腐臭が証明している。
死体を見たことで、周りを見るのを忘れてしまったが、そこかしこに白い骨が垣間見える死体もある。
「……………………」
ひとまず、警察に通報した方がいいだろう。
不法侵入とか、そういうの抜きにしてもこれはヤバい。
「…………いや、考えてみれば僕携帯持ってないや」
せめて、ここを出て近くの住宅に電話を借りるくらいしかない。
部屋を出ようとした。だが、
「──────ァァァァ」
誰かの呻き声が聞こえてきた。
呻き声と同時にクチャクチャという、下品な咀嚼音も聞こえてくる。
「──────」
この洋館には怪物がいる。
そう、米崎は言っていた。
だが、それが本当なのはこの腐乱死体達が証明している。
なら、一刻も早く逃げるべきだ。
それなのに、
「・・・・・・何が、あるっていうんだ?」
いらない好奇心が、頭の中でいっぱいになった。
覗くだけなら、とよくわからない持論を自分自身に言い聞かせ声のする方向へ向かう。
この時点で、僕はこの洋館を出て警察に通報するべきだった。
そうすれば、僕はただの傍観者に戻り、受験に追われる普通の受験生へと戻れた。
だが、そんなのは建物の中に入ってしまった時点で、終わっていたのだから今更どうこうできない。
歯痒いを通り越して、全身を掻き毟って懺悔したいくらいだ。
そんなことは露知らず、過去の僕は足音をたてないように慎重に進んでいく。
そして、
僕は怪物を目撃した。
6
ガリガリに痩せ細った体躯。
有に二メートルはあるその長身、細長い手足。
だが、そんなものがただの付属だと言わんばかりに特筆すべき特徴がある。
顎だ。
人間のそれとはまるで違う、米崎がこの場にいれば、ガーゴイルと表現するであろうそのしゃくれた顎は、人間離れしていた。
「ーーーーーーーーーァァァァァァァァ」
声の正体は人間だった。
ただし、声と呼ぶには程遠いそれは、喉を噛みちぎられたが故に出来損ないのもので助けを求めていた。
・・・・・・・・・。
人間を咀嚼する怪物。
それは当たり前の光景で、それなのにどこか現実から乖離した現実。
「ーーーァ」
ぶつん、と電源を引っこ抜いたパソコンのように声が途切れた。
怪物は静かに、クチャクチャと肉の塊を咀嚼する。
ーーー逃げろ。
本能が、そう告げていた。
静かに、僕は後ずさる。
物音を立てず、今すぐこの場から離脱する。
そのはずだった。
ガコンッ、と近くの木箱に足をぶつけてしまった。
怪物の視線が音の発信源を捉え、
視線が交錯する。
目元はよくみえないくらい、腫れぼったくて、醜い容姿だった。
怪物の口角が上がる。
「・・・・・・ぁ」
ここは悲鳴をあげるべきなのだろうが、悲しきかな。
本当の恐怖に立ち尽くせば、人間は声を出すことができない。
怪物は夢中になっていた食事を中断し、立ち上がる。
・・・・・・ああ、僕はきっとここで死ぬのだろう。
足はつっかえ棒のように動かず、身体は空気の抜けた風船みたいに力が入らない。
迫る死。
迫る恐怖。
不思議と、しっくりと納得できてしまう辺り、僕の人生はスカスカなスポンジみたいに意味もなく、後悔するようなこともなかったのだろう。
そして、
僕の視界が真っ白に染まった。
7
「・・・えっ?」
気がつけば僕は、誰かに手を引かれ、廊下を駆け抜けていた。
高そうな香水の残り香が鼻を擽り、長い白銀の髪が視界を染める。
そして、乱暴に扉を開いたかと思えば、隣の隣の部屋の扉をガタンと開けて音を立てずに僕達のいる部屋の扉を閉めた。
一体、なんの意味があるかわからないが、ひとまず黙っておく。
「懸命な判断だ。それなら、私も安心して身を委ねることができる」
と、視界が白く染まった。
顔に安心させる温かい感触と、柔らかい柔軟剤の匂い。
「静かに・・・・・・奴が来る」
かーん、コーン、と間の抜けた足音が扉越しに反響して聞こえてくる。
その足音が奴のものだということを嫌でも理解することができた。
ズンズンと、心臓が嫌な速さで鼓動を刻んでいく。
夏だからか、身体は蒸し暑い。
その間にも間の抜けた足音が近づいてくる。
「ーーーーーー」
生唾を飲み込む。
安心させる温かい感触と、恐怖を刻む足音。まるで暖房を焚きながら、冷たいアイスを食べているような、アンバランスな感覚。
そして、
扉が開け放たれた。
「ーーーっ」
悲鳴が上がりそうになるが、それを温かい感触で口を塞がれる。
大丈夫と、女性が言い聞かせるように僕の頭を撫でる。
そして、
ガチャン、と乱暴に扉が閉められた。
ーーーーーーえっ?
足音が遠ざかっていき、聞こえなくなった。
「なに、が」
「あの男が開けた扉は、隣だよ」
顔を離され、その女性を見る。
色白の肌に、白く長い砂浜みたいにきめ細かな髪。
極め付けは、白いワイシャツにベージュ色のスーツを上に着て、下は白いジーンズ。
「・・・・・・助けてくれて、ありが」
「まだ私達は助かっていないよ」
お礼を遮られる。
でも、言っていることは正しい。なにせ、怪物を撒けたとは言え脱出はできていない。
「まあ、助かるかは怪しいがね」
「? それはどういう」
女性は目を丸くして、
「知らないのかい?」
自分の国の総理大臣を知らないのかい、と聞くように聞いてきた。
「えっと・・・・・・・・・なにをですか?」
「・・・君は思ったより、注意力散漫なようだ」
「・・・・・・いきなり、なんですか」
さすがに、初対面で馬鹿にされるのは少しムッとする。
「扉を見ていなかったのかい?」
「扉なら見ましたが・・・?」
「ならわかるだろうに」
わかる、ってなにがだろう?
扉の取っ手は無くなっていたが、別に内側を押せば、
「ーーーーーーあっ」
そういえば、僕は扉の内側を見ていない。
もし、取っ手がないのだとすれば、
「私達は、どうやら閉じ込められたらしい」
8
閉じ込められた。
密室、監禁、拉致。
要するに閉じ込められる状況を言葉にしている。
「・・・なら、警察に通報しましょう!」
「無理だ。というか、携帯はさっきあいつに踏んづけられて壊された」
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
「・・・・・・窓からは」
「無理だよ、窓は外から板で貼り付けられている」
カーテンを開けてみると、硝子越しに見えるのは木目だけ。
つまりは、
「ふさ、がれている・・・!?」
「さっきから、そう言っているだろうに・・・まあ、混乱するのも無理はないだろう」
何せ、この状況こそフィクションみたいなものだ、と達観したように笑う女性。
そう、フィクションじみている。
あの怪物に、腐った死体。
それに、
「・・・・・・そうだ、考えてみればなんで近くの住民は通報しないんだ?」
この洋館は住宅街の一角にあるのだから、少なからず悲鳴を聞いているはずだ。
「ここの壁は、防音みたいだから通報する以前に気づかれない」
「・・・・・・いや、いくら防音でも流石に」
「・・・ひょっとして、知らないのかい? ここがどんな場所か」
その女性は驚いたように、それこそ先程の事態よりもこっちの方が一番驚いているように僕を見る。
とは言え、この場所がどう言うところなのかは米崎から大まかには聞いている。
「わかりますよ、そりゃ。ここは怪物が住んでいる洋館ですよね?」
「そんなの知るか」
バッサリと切られた。
いや、今なんて?
「・・・まさか、その噂だけでこの場所に来たのか?」
「その噂以外、何があるって言うんですか。他にも何かあるって言うんですか?」
「あるに決まってる。・・・・・・いや、失敬。君は中学生か?」
そりゃ僕はどこからどう見ても中学生・・・・・・とは見えないかもしれない。
学生服があれば、まだわかりやすいかもしれないが僕の格好は生憎と短パンと半袖のTシャツだ。
「今時の子供はませているからな。特に女生徒ときたら、化粧なんて当たり前でそこらにいる大学生と間違えそうになるからな」
「・・・なんだか、実体験みたいに語りますね」
と、女性は目を輝かせ、
「その通りだとも! そうだそうだ、聞いてくれ。私は助手を雇おうとつい最近知り合った年下の男に声を掛けた。だが、そいつは高校生でしかも男装した女だったんだよ!!」
「・・・・・・おっしゃることの意味がわかりませんが」
「つまり、だ。探偵業である以上は、どうしても危険が伴う。成人した者ならともかく、学生を、それも高校生に声を掛けたのは一生の不覚なんだよ!」
どうやら、そういう美学があるらしい。
別に理解したくはないが、
「って、探偵なんですか?」
「おや? 結構伏線は張っておいたはずなんだがな」
伏線って、そんな小説じゃあるまいし。
「まあいい。いい加減、脱線した話を戻そうじゃあないか」
そう言って、女性は汚い床に堂々と正座して、
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。私は月詠月夜。ただの私立探偵さ」
9
「さて、状況を整理しよう。
「何、別に絶望的な観測を立てるわけじゃあない。
「ただの状況整理。
「いわば現状把握だ。
「まず、私達は閉じ込められた。
「窓は板で塞がれ、玄関の扉は取手を壊され使用不能。
「文字通りの密室。
「今時、推理小説では掘りに掘られた石油採掘場の様なものだ。
「さて、そんなベタな密室に閉じ込められた私達だが、別に脱出できないわけじゃあない。
「方法は二通りある。
「まずひとつは、私の知り合いにこの洋館に入る前に一時間経ったら連絡を入れてくれと頼んである。
「反応がなければ警察に通報してほしいと、頼んであるから、その間ここで隠れればいい。
「だが、現実的ではない。この洋館は普通の住宅よりはある程度広いとはいえ、一時間も隠れる場所があるとは思えない。
「よって必然的に、もう一つの方法はシンプルに扉をぶち破ればいい。
「だが、これにはいくつか問題がある。
「あの怪物、もといあの人喰いが世に解き放たれてしまうことだ。
「幸い、というか不幸というか、この密室は牢屋の役割も果たしているからだ。
「そうなると、ただ脱出するのは非常に危険だし、また逃げ切れる保証はない。
「では、答えは必然的に一つだけだ。
「わかるかな? 助手くん?」
10
「・・・・・・あの怪物を、倒すしか・・・安全に逃げることはできない」
「その通りだとも。扉を破るにしろ、どうしたって位置はバレてしまう。それに、あの男も人間とはいえ、理性を失っている」
「・・・・・・えっ?」
今、なんて、
「いや、だから人間だよ。気づかなかったのかい?」
いやいや、あれが人間だなんてありえない。
人間の形とは到底思えないし、そもそも・・・。
「いや、ありえるのか」
「察したらしいが、あれは顎の筋肉が発達している。おそらく人を喰っていく過程で、最適な『形』になったんだろう。まあ、生物の進化と言う意味では面白いな」
何が可笑しいのか、ケラケラと笑う。
だが、全然笑えない。
だって、食べたのは人である。
それを平然と推理して、しかも笑って語るだなんて、
「・・・・・・壊れて、ますね」
「壊れてる? 別に、壊れているとは思っていないがね。まあ、『怪物』と言う表現は的を射ているな」
でも、どういう過程を通れば、ああいった形になるのだろう。
いくらなんでも、あれははっきり言って異常だし、人間の理性にだって倫理観というものが備わっているはずだ。
いや、倫理観というよりは本能に近いのかもしれないが。
「・・・・・・あの」
「これを見たまえ」
月詠さんが一つのギザギザの葉っぱを指さす。
「? これがどうかしたんですか?」
見たところ、なんの変哲もない葉っぱに見える。葉っぱが、この洋館に入ってきたことを気にしているのなら、さすがに大袈裟な気がするし、そもそもこの洋館自体荒れ果てているのだから、葉っぱくらいあってもおかしくはない。
「・・・・・・知らないのか? これが何か」
「? えっと、葉っぱの種類ですか?・・・・・・僕は別に、草木を愛でる趣味はないのでさっぱり」
「君は馬鹿か?」
いきなり馬鹿にされた。
・・・・・・しかも、大の大人にだ。
「・・・じゃあ、これがなんだっていうんですか」
少しムッとして、キツい言い方をする。
葉っぱならそこらへんに生えている。
かなり湿っぽい場所で、陽の光も入ってこないのだから苔もあるはずだから、そこまで珍しいものではないはず。
そこで、月詠さんはため息をついて、
「学校で習うはずだ。見た目も、よく夏休み前とかそのくらいに教えられているはずだ」
? 学校で習うって、そんな小学校でも習わなかったぞ?
それを中学生になって習うなんて聞いたことがない。
「・・・・・・これはだな」
そして、諦めたかのように肩をすくめ、
「大麻だよ」
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ニュースを見ていれば、自然と聞こえてくる、危険なものと言われてすぐに思い浮かぶ麻薬。
芸能人のスクープだったり、それを流通する指定暴力団だったり、
そして、田舎と都会の中心のこの街で、見かけることもなければ聞いたこともないもの。
「ーーーーーーなん、で?」
なんで、こんな大麻がある。
僕どころか、大体の人は無縁なものがある?
「話しておきたいところだが、事情を知ればすぐに消されるぞ?」
月詠さんは平然と言う。
「おそらく、あの怪物が生まれた原因だろう。大麻は医療用でも使われてはいるが、少なくともこいつは、カクテルみたいだな」
「カク、テル?」
なんだ、急にお酒が出てきたぞ?
大麻って、酒なのか?
「まあ、簡単に言えば他の麻薬と合わせて摂取することをいう。この部屋はどうやら麻薬の倉庫みたいだから、大麻だけじゃないだろう」
と紙袋から、堂々と麻薬を取り出して解説していく。
「アンフェタミンの精神刺激剤、まあ俗に言うところの覚醒剤というやつだな。・・・・・・というか、すごいなあいつ。草のまま摂取しているって、正気を疑うなこれは!」
月詠の目は爛々と、楽しそうに輝いていた。
まるで、デパートのおもちゃ売り場を見て回る子供みたいに。
というか、そもそも、
「なんで、平然としてられるんですか?」
「それは知ってるからだよ。元々、私がここに来訪した理由はある男の所在を掴んでこいという依頼があったからだ」
これも、深くは聞かない方がいいのだろう。
探偵には守秘義務がある上、そうそう聞いても良さそうな事情じゃなさそうだ。
「いくらか検討はつくが、まあ大方腹でも減って食ったんだろう」
そして、月詠さんはありえないことを言い出した。
「えっ? つまり、あの怪物は麻薬をご飯代わりに食べていたってことですか!?」
「それが妥当なところだろうな。何せ、男は逃亡している身で金も使い果たしてしまったようだから、食い物が麻薬しかなかったんだろうよ」
逃亡している?
それも、何から・・・・・・。
「まあ、でも冷静に考えてみれば私達は運命共同体なのだから、下手な隠し事は疑心暗鬼を産みかねないな」
月詠さんは、そう言って僕の肩に腕を回す。
香水の匂いと、柔らかい感触が心臓を脈打たせる。
大人の身体は、こんなにも柔らかかったんだ・・・。
「いや、そうじゃなくて近いですよ色々と」
「おや? 私達は運命共同体、だろう? なら親密度を上げておくだけ得というものだよ」
それとも、と耳元に体温が近づき、
「それ以外の、感情が芽生えたのかい?」
思わず突き飛ばした。
すってんころりん、と効果音がつきそうな転び方だった。
「ちょっ・・・・・・いくらなんでも、未成年ですよ。・・・その、もうちょっと僕が大人に・・・・・・せめて高校生になってからにしてください」
月詠さんは、目がテンになって僕をみている。
そして、
「ぷっ・・・・・・高校生でも十分犯罪だよ・・・それ」
そう、揶揄うように笑われた!?
「・・・・・・まさか、揶揄ってたんですか?」
「それ以外ないだろうに。それとも、私がショタコンだと思ったのかい?」
・・・・・・揶揄われた。
いや、落ち着け僕。
考えてみれば、この人は元々変な人だ。
相手をすればするほど、あっちは図に乗るんだから相手はしない。
せいぜい、話を聞く程度に、
「君は随分と、可愛らしいね。これだから中学生は、揶揄いがいがあるよ」
「やっぱ限界! あんた人のことなんだと思ってんだよおい!!」
普通にブチギレた。
いや、本当に初めてだ。初対面の女性(それも年上)に怒鳴るなんて、我ながら子供である。
「ははははは、まあ落ち着きたまえよ、助手くん」
「落ち着けだあ? あんた、人のこと小馬鹿にしておいてよく落ち着けだなんて言えるな、ああ!?」
思わず、ヤクザみたいな口調で睨みつける。
「おいおい、それじゃあ私の依頼主と同じじゃないか」
「はぁ? いまそんな話を・・・・・・えっ、今なんて?」
今、僕はヤクザみたいな口調で・・・・・・。
「ああ、そう言えば言ってなかったね。私の依頼主は、男を追う側、つまりヤクザだよ」
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聞きたくない情報だった。
というか、なんでそんな情報を今ここで、それもギャグパートで出してくるんだ!?
「おや? どうしたんだい」
「いや・・・・・・ヤクザって、会社の名前ですか?」
「なわけあるか。ヤクザ、指定暴力団、櫻田組」
どうやらマジらしかった。
しかも櫻田組って、
「バリバリのヤクザじゃないですか!?」
櫻田組。
札幌をシマにしている指定暴力団。
普段は、悪事を働いている輩を捕まえては三回の警告をするという。
なんでも、特徴的なのは、櫻田組は仏教に尊敬していて、仏の顔も三度まで。
つまり、三回警告をされ、それでも悪事を働けば、すぐさま小樽の海に沈められると言われている。
「ここは、櫻田組の倉庫で所有者も組長のものになっている。あの男は、組の金を盗んで遊び歩いていてな、それを怒った組が一斉に捜索していてな。金もせいぜい数百万程度だから、逃亡資金にも限りはある。すぐに見つかるはずだったんだが、そう簡単に見つからなかった」
そこから先は、大体読めてきた。
金の都合上、警察に届け出るわけにもいかず、かといってこのまま制裁をくわえなければ組の面子に関わる。
そこで、白羽の矢が立ったのは私立探偵だ。
その中でも、依頼を断らない探偵ーーーつまり、月詠月夜だったわけだ。
「・・・・・・えと、それってどちらにしろ面子を保ててないんじゃないですか?」
だって、捜索を探偵に頼んでいる時点ですでに組としての面子もあったもんじゃない。
そう思ったのだが、どうやら違うらしく、
「なんでも、探偵は守秘義務があるからだとかで、他に情報が漏れることは合法的にないから問題ない、という考えだそうだ」
・・・・・・なんというか、いい加減な考えだ。
「それくらい、切羽詰まっているんだろう。・・・・・・さて、それじゃあ事情を知ってもらったからには、皮肉だが君は一時的だが助手になってもらう必要ができたわけだ」
「えっ? ちょっ、なんで!?」
「仕方ないだろう。何せ、『事情』を知ってしまったんだ。そうするしか、生き残る道はないぞ?」
言われてみれば、それはそうだ。
大量の麻薬の目撃、さらにはこの場所がどういう場所なのかを知ってしまったのだから、
「・・・・・・仏の顔も三度」
「いや、それは通じないだろう。そこは徹底してお前を消すだろうよ」
どうやら、必然的に僕が今後生き残るためには月詠さんの助手になるしかない。
「・・・・・・こんなとこ、入らなきゃよかった」
それに気づくのには、あまりにも遅すぎた。
13
「さて、話を戻そう。あの怪物をどうすれば退治できるかについて」
それはそうだ。
後処理のことよりも、今は目の前の怪物にどう対処するかだ。
「まず、あの怪物の特徴を整理して欲しい」
そう、月詠さんに頼まれた。
「・・・・・・えっ?」
特徴?
それなら、さっき整理したはずだが、
「あれはあくまでも、私から見た主観的な整理だ。君から見て・・・それこそ、第三者から見たあの怪物の情報を知りたい」
確かに、月詠さんの整理したのはあくまで月詠さん視点。
ひょっとしたら、月詠さんが見ていない、知らないことも僕は知っている可能性も、
「・・・いや、それなら多分あんまり参考になりませんよ。さっきの整理自体、僕も同じようなことを思いましたし、月詠さんと一緒だと思います」
「・・・・・・そうか。そうなると、どうしたものか・・・。このままだと、怪物を倒す目処が立たない」
どうしようか、と頭を抱えている月詠さん。
「・・・普通に、鈍器で殴るとかですか?」
「無理、というか危険だな。あの怪物は麻薬の大量摂取で、脳の部分をやられているはずだ。あの怪物の力も、おそらく脳のリミッターが外れていると思われるから、あっさり食われるぞ」
「えっ、そうなんですか!? 脳のリミッターって・・・・・・確か、人間の力を脳が制御している」
「概ね、その通りだ。私も詳しいことはわからないが、大方そうだろう。あの怪物の腕力は尋常じゃない。私も死体を見聞して来たが、死体の腕は強い力で強引に骨が砕かれていた」
しかも、手形もくっきりだと皮肉そうに笑う。
「・・・・・・じゃあ、罠を仕掛けるとか」
「それならすでに試した。追われた際に、いくつか簡単なトラップを張っていたんだが、気がつかなかったのか?」
「えっ」
無我夢中で逃げていたので、気がつかなかったがどうやら仕掛けていたらしい。
「・・・・・・じゃあ、どうすればいいんですかね」
「それがわかったら、私は今悩んでいないんだがね」
うーむ、と天井を眺めている。
本当、なんでこんなことになったんだろう。
ただのおつかい、そのついででこの洋館に立ち寄っただけなのに、気がつけば怪物に追われ、さらには知りたくもない裏社会の情報を知ってしまう始末だ。
「・・・・・・元はと言えば、米崎があの噂を僕に言わなければよかったのに」
「? 米崎とは、誰だ」
考えが思い浮かばないのか、米崎の名前に反応する。
「米崎は僕の後輩で、ここの噂を知ったのは米崎が僕に話て来たからです」
「・・・そう言えば、その噂というのはなんだ」
「知らないんですか? ・・・まあ、知らないでしょうね」
何せ、都市伝説サイトに載っていただけで、普通都市伝説のサイトなんてチェックしないはずだ。
「それより、その噂は」
「えっと、この洋館に怪物が出るっていう噂で、その根拠がネット上であるユーザーが撮ったここの写真の窓に怪物らしき影が映っていて、そのユーザーが中に入ったらしいんですが、その投稿以降、投稿が途切れたんです」
荒唐無稽、と前の僕なら言っていたが、目の前の現実はその荒唐無稽なものに襲われているのだから、今じゃ笑えない。
「・・・・・・そうか。きっと怪物にで食われたんだろう」
「みたいですね」
この惨状の中で、生き延びるなんて到底不可能だろう。
おそらく、腐乱死体の仲間入りでもしているはずだ。
「・・・・・・・・・なあ、助手くん」
徐に、月詠さんが真剣な声音で聞いてくる。
「なんですか?」
「ちょっと、今から私は考える。その際、独り言をいくつか述べるが気にしないで欲しい」
「? わかりました」
別に、考えている時に独り言が出るなんて結構ある話だと思うが、
「それじゃあ、少し離れたまえ」
そう言われて、数歩下がる。
そして、月詠さんは白く長い前髪を後ろに流した。
その瞬間、
言葉の雨が、月詠さんに降り注いだ。
まるでシャワーを浴びているような、そんな立ち姿で瞼を閉じ、雨にあたっている。
いや、それは錯覚だ。
実際、雨どころかここは室内であって、スプリンクラーが作動したわけでも(そもそも作動するかどうか怪しいが)ない。
「身元不明の捕食死体脳のリミッター顎の筋肉の発達大麻櫻田組ネットから姿を消したユーザー怪物密室牢獄」
この事件に関連性のある単語が無造作に、乱雑に雨となって月詠さんを濡らしていく。
「腐敗死体防音の洋館・・・・・・」
ふと、月詠さんが前へ右手を出す。
まるで、銃口を向けるように、
そして、
パキン、と指を鳴らした。
それと同時に雨が晴れた、気がした。
「・・・・・・なるほどな」
月詠さんの瞳には、強く何かを掴んだような意思を宿していた。
「何か、わかったんですか?」
「わかった? それをいうなら、『整った』と言った方が正しいんじゃないか?」
整った?
「あの怪物を倒す目処がたった、いや失敬。整ったと言った方が正しいな」
14
静かに、廊下を歩く。
廊下は薄暗いが、窓に打ち付けられた板から陽光が隙間から漏れているお陰で、視界は不自由していない。
とはいえ、怪物は当然僕達を探しているはずだが、今のところ遭遇していないのは幸いだ。
そもそも、どうして見つかるリスクを考慮した上で廊下をうろつくのは、ちゃんと理由があった。
「この洋館は倉庫だ。ということは、武器になりそうなものがあるはずだ」
月詠さんは念のため罠を作っていると言って、あの部屋にいる。
僕は武器の調達係だ。
「・・・・・・そもそも、なんで作戦を教えてくれないんだ?」
結局、いくら作戦を聞いても答えてはくれなかった。
本当は、作戦なんて思い付いていないのか、それとも・・・。
「いや、今その想像は良そう」
ここで、疑心暗鬼に駆られたらきっと作戦も失敗する。
するのだが、
「信用、できるのか?」
会ったのはほんの数分前だ。
いきなり、全信頼を寄せていいのだろうか?
「・・・・・・いずれにしろ、やるしかないか」
月詠さんが書いた地図を見て、目的の部屋に着く。
ドアノブを静かに開くと、怪物はいなかった。
代わりに、大量の木箱が置かれている。
「・・・・・・これは」
木箱のラベルを調べると、そこには英語表記で何かが書かれていた。
「なんだ、これ?」
どれも固く閉ざされていて、バールで開くしかなくなるがそんなものが置かれているとは思えない。
「・・・あれなら、開きそうだな」
木箱の中でも、ひとつだけ半開きになっているものがあった。
「ふんっ!・・・・・・ぬぎぎぎぎっ」
半開きとはいえ、中途半端に固定されているみたいで、なかなか開かなかった。
「くそっ!」
なにかないかと、あたりを探ると、
「・・・・・・あるじゃん、いいのが」
バラエティ番組や、工事現場にありそうな特大ハンマーがあった。
「・・・・・・たしか、防音だよな」
この洋館自体、防音になっていると月詠さんは言っていたが、果たして木箱を壊す音はなんとか響かずに済むのだろうか?
「・・・・・・時間はないんだ」
最悪、バレたらバレたでハンマーを使って殴ればいい。
その場合、僕は人殺しになりかねないがそうも言ってられない。
「っ、ぁあっ!」
思い切り上段に振りかぶって、
バキン、と盛大に破砕音が響いた。
急いで中を確認すると、
「・・・・・・やっぱり、か」
木箱の中には、日本では滅多に見ることができないものがあった。
黒光する鉄のフォルム、海外のアクション映画に大体は出現するもの、
「拳、銃・・・・・・」
誰か見てもわかる通り、拳銃だった。
なんで、こんなところにある、だとかそういうのは想像できなくもないが、それこそ想像したくない。
だが、今確実に必要な暴力の塊。
「これなら、あいつを」
その時、
廊下にガチャンと何かが倒れる音が響いた。
15
急いで廊下を駆ける。
きっと、見つかったんだ。
月詠さんが、怪物に見つかったから、合図を出したんだ!
「はっ・・・・・・はっ・・・・・・・・・はっ・・・・・・」
廊下が、酷く長く感じる。
身体が鈍く、手足に鉛をつけたような重さ。
「急げ・・・急げよ!」
このままじゃ、月詠さんが喰われる!
僕が出た扉を迷わず開けた。
そこには、月詠さんが怪物に馬乗りされて今にも喰われそうだ。
「助手くん! 武器は見つかったか!?」
乱入者に気づいたのか、僕をジロリと睨みつける。
「はい! ・・・・・・けど」
僕は銃の使い方を知らない。
「時間がない、早く使ってくれ!」
「でも、どうすれば・・・・・・」
その間にも、怪物がゆったりと僕の方へ歩いていく。
倦怠に、ゆらりゆらりと、
「うっ、動くな!」
必死で銃口を向ける。
一瞬、怪物は動きを止める。
「動けば・・・・・・撃つぞ!」
照準が定まらない。
かちゃかちゃと、金属音だけが鳴り響く。
怪物は歩みを再開する。
「うっ・・・・・・」
僕が撃たなければ、月詠さんが死ぬ。
それだけじゃない、僕自身も死ぬ。
だが、そのためには人を・・・・・・。
命を殺さなければならない。
「はっ・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・・・・」
心臓が早鐘を打つ。
こいつは元人間、そして何人もの人を殺してきた怪物。
それなのに・・・・・・、
「撃て・・・ない・・・・・・」
撃てるはずがない。
どんな悪人でも、今ここで人を殺せば、僕は同類になる。
それが怖くて、撃てない。
「・・・・・・はは」
怪物が目の前にいる。
発達した顎が開く。
腐った魚みたいな、腐敗臭が鼻をつんざく。
このまま、僕は・・・・・・。
「諦めるな!」
月詠さんが叫んでいた。
怪物の動きが止まる。
「今ここで、諦めればお前は・・・・・・お前の物語は誰が語る!! 別に大した生き方してないと思っているのならそれでいい、退屈な人生だったと嘆いているのなら間違いだ。お前の物語がここで終わって、誰も語られないとしたら、それは存在を殺しているのと同じだ! 生き恥を語られようが、武功を語られようが、知ったことじゃないが少なくとも、ここで終わらせていいはずがない! 少なくとも私は嫌だ!! 私の奇譚をお前には語り継いでもらわなければならない、それが助手というものだよ!」
ガツンッ、と頭を殴られた気がした。
月詠さんの訴えは、ひどく自分勝手だ。
僕の物語を終わらせるなと言っておいて、自分自身の物語を語り継げと言う。
本当、なんで僕は、
「ーーーーーーああ」
銃口を怪物に向けて、
躊躇なく引き金を引いた。
15
「・・・・・・あれ?」
発砲した。
発砲はしたのだが、
怪物は発砲音にビビっただけで、穴も空いていなかった。
外した、わけじゃない。
ただ、火薬がなっただけ。
「いや、嘘だろ!?」
「いや、それでいい!」
気づけば、月詠さんが怪物の首にしがみついていた。
そのまま、絞技を怪物の首にかける。
「・・・・・・いや」
違う、どちらかといえばそれは寝技。
怪物の首に足をかけて、締めている。
苦しそうに、怪物はうめき声をあげ月詠さんの足を掴む。
「ーーーーーーぐっ」
苦しそうにしながらも、握力は相当強いのだろう。
だが、締め落とせば今度こそ助けは呼べる。
でも、その前に怪物が月詠さんの足の骨を砕きかねない。
「何か・・・・・・なにかないのか!?」
辺りを見回しても、あるのはせいぜい麻薬の入った箱だったり、僕の手にある発砲音しかならない拳銃。
「ーーーーーーそうだ」
僕は拳銃を怪物の耳に近づけ、
「月詠さん、耳を塞いでください!」
「ーーーーーーああ」
そして、
怪物の耳に巨大な発砲音が木霊する。
発砲音は、耳元で鳴り響けば音爆弾のようなもの。
当然、相手の鼓膜を殺すのには十分すぎる代物だった。
「ーーーーーーーーーでかしたぞ助手くん!」
怪物の拘束が弱まった隙に、月詠さんは一気に締めてくる。
「ーーーーーーぁあ」
怪物は呻き声を上げて、暴れようとする。
このままだと月詠さんの拘束が解かれてしまう。
「ーーーーーーっ」
咄嗟に拳銃を向けると、怪物は驚いたように目を見張る。
その隙をついて、月詠さんはトドメと言わんばかりに力を増し、
ドカンッ、と怪物は一気に倒れた。
16
「・・・・・・やったな」
怪物の親指をガムテープで拘束し、両太もも、両足首、両脹脛を拘束する。
「人間の親指は、抑えればリミッターが外れていようがなんだろうが、抜け出すことは容易じゃない」
そんなことを言いながら、僕は月詠さんの松葉杖代わりに肩を組んで廊下を歩いている。
なんでも締めている時に、骨にヒビが入ったらしい。
「それにしても、柔道やってたんですね」
「? いや、私は柔道どころか格闘技すらやっていなかったが?」
「えっ」
どういう意味だろうか?
いや、そもそも疑問点が山積みだ。
「じゃあ、なんで絞技なんて」
「格闘技はやってこなかったが、その分本は一通り読んでいる」
正直、締め落とせたのは幸いだったと月詠さんはケラケラと笑っている。
「・・・・・・じゃあ、あの拳銃。空砲だって、なんで知ってたんですか」
「あれは私が仕込んだものだからな」
「えっ!?」
仕込んだって、一体どう言うことだ?
「それ、ただのモデルガンだ」
そんな仕込む余裕は一切なかったはず・・・・・・。
「ひょっとして、僕と出会う前から」
「ああ、鋭いな。いや、これは流石に鈍くても大体わかるものか。まあ、櫻田組の末端とは言え、脅し文句くらいには使えるだろうと考えていたのだが、まさかあんな形で役立つとは思わなんだ」
「・・・・・・どうりで、銃口が足に向いても締め続けていられたわけですか」
ここまで準備周到だと、関心を通り越して呆れてくる。
「それより、今後のことだが。おそらく、外には警官がいるはずだ」
「えっ、そうなんですか!? というか、なんでわかるんですか」
板張りで、外は見えないはずだ。
「もう、一時間以上経っている。あくまでも体内時計換算だがな」
そういえば、あの怪物との死闘から縛るまで相当な時間を有した筈だ。
それくらい経ってもおかしくないだろう。
「あと、君は職場体験と言う肩書きで私と行動を共にしていたことにしといてくれたまえ」
「・・・・・・職場体験、ですか?」
普通、そういう行事は学校単位でやると思うのだが、
「でも、そんなにうまくいきますかね」
「そこは安心したまえ、警察に知り合いがいる。そいつになんとかしてもらおう」
意外と大雑把だ。
「・・・・・・でも、なんでそんな回りくどいことを」
「君、不法侵入の現行犯で捕まりたいのか?」
「あ」
そう言えばそうだ。
いくら言い訳しようと、不法侵入は不法侵入なのだから普通に罪に問われる。
「あと、これは櫻田組のためでもある。まず、あの怪物は助からない。麻薬を食料として食べていたのだから、相当な量の麻薬を食ったはずだ。当然、脳は確実に死ぬ。仮に助かったとして、組の金を盗んだのだから、処刑されることに変わりはない。どうせ死ぬのなら、警察病院で家族に弔われて死んだ方がマシだろう」
確かにそうだ。
あの怪物も、元は人間。
当然家族もいる。
どうせ死ぬのなら、やっぱり家族に看取られた方がいい。
「・・・・・・でも、やっぱり」
「それに、刑に処されないだけまだマシだと思うがね。私は法律は勉強不足でな。詳しいことはあっちの仕事だ」
こればかりは自業自得だ、と道場の余地なしと言わんばかりに言われる。
なんだか、あの人に悪いことをしてしまった。罪悪感に襲われる。
「あと、麻薬の件についてだが、こればかりは揉み消すことは難しいだろうな」
「まあ、そうでしょうね」
今回の事件の元凶は、櫻田組の麻薬にある。
「私はおそらく逆恨みされるだろうが、まあしばらくの間はここに居を移すとしよう」
「・・・・・・そうですか」
この人のその後は、きっと波乱に満ちていくだろう。
それこそ、奇譚のように語り継がれるかもしれない。
「さて、それじゃあ出ようか。助手くん」
気がつけば、最初に開いた扉の前にいた。
つい数時間前までいた場所。
まるで、数ヶ月この洋館にいたような気がする。
「どうした? 助手くん」
怖い。
この先、僕は警察に事情聴取を受けるだろう。
その先の未来なんて、何が起こるかわからない。
それならいっそのこと、ここで刹那的に生きて、
「助手くん」
月詠さんが、静かに僕を見た。
「君が考えていること、それについてはなんとなくわかる。怖いよな、辛かったよな。ここで命を賭けていた方が、あっちの世界より簡単に生きることができるような気がする。そうだな」
僕の考えなんて、お見通しなのだろう。
数十分、コンビを組んだだけであっさりと見破るなんて、僕は案外単純な人間なのかもしれない。
「むしろ、あっちの世界に戻れば後ろ指を指されるかもしれない。社会に出て、自分の経歴を見られて、それを理由にクビにされるかもしれない。確かにそうかもしれない。だけども、助手くん」
月詠さんは、
「それも人生の一つじゃないか」
そう、言ってのけた。
「この洋館で刹那的に生きれば、あの怪物と同じになる。そう言う意味では、あの怪物は最後に『今』に囚われてしまったのだろう」
『人生』を見ることをやめてしまったのだろうと、月詠さんは静かに僕の肩を叩く。
「たった数十分のコンビとはいえ、それなりに私は楽しかった。そうだな・・・・・・この奇譚を、いっそのこと周りに自慢すればいい。後ろ指を指されるくらいなら、いっそのこと自慢してしまえば、後ろ指なんて気にすることはなくなる」
だから、と
「誇りたまえ。この体験を。この出来事がトラウマになるのなら、白昼の悪夢を見たと思えばいい。一番辛いことが起きたのなら、この出来事を思い出して自分を奮い立たせればいい。君の人生だ。君の物語だ。君は自由だ!」
その言葉は、胸に染みた。
これは、僕の人生だ。
これから先、どう進んでもこの経験は鎖となって縛り付けるかもしれない。
なら、いっそのことそれを楽しむなり、奮い立つなりすればいい。
僕はーーーーーー。
「ありがとう・・・・・・・・・ございます・・・」
気がつけば、熱いものが込み上げていた。
熱く、暖かい雫が頬を伝う。
「おや、泣かんでもよかろうに」
僕の頭を静かに撫でてくれた。
「ところで、ひとつ商談があるんだが・・・・・・聞くかい?」
17
後日談。
あの日から、気がつけば半年経っていた。
つまり、3月9日。
卒業式の日。
学校の廊下には、花を象った飾りが所狭しと壁に貼られている。
卒業証書を抱えて、後輩達(別に僕を慕っているわけでもない)を通り過ぎて歩く。
なんとなく、その光景を眺めながら歩いていると、
「・・・・・・米崎」
一人だけ、列から離れて廊下の壁に寄りかかっている小柄な女生徒を見かけた。
「それで、その絆創膏はどうしたんですか?」
開口一番、米崎はそう聞いてきた。
「その前に、何かいうことがあるんじゃないか?」
「卒業おめでとうございます」
素直だった。
というか、これじゃあまるで僕が卒業を後輩に強制的に祝わせているみたいだ。
「・・・・・・それで、未咲先輩。その絆創膏は、一体どうしたんでしょうか?」
大したことはない、とは言えなかった。
大したことあったと説明しても、米崎は納得しないどころか僕の家族に直接問いかねない。
それくらい、貪欲に人のことを知ろうとするのだ米崎友人は。
「・・・・・・喧嘩、したんだよ」
「ヤクザとですか?」
「やめてくれそんな洒落にならないオチは!」
本当、勘弁してほしい。
おかげで、僕の家にパトカーのサイレンが鳴り止まない日々が続いたのだから、もうあんなのはごめんだ。
「じゃあ、誰と喧嘩したんですか?」
「・・・・・・両親と」
喧嘩の理由は、僕の進路についてだ。
「高校受験をやめて就職するって言った」
「それ自体、かなり急ですけど別に喧嘩するほどじゃないじゃないですか」
「問題は・・・・・・その就職先なんだよ」
「ヤクザですか?」
「違う」
「じゃあ怪物ですか?」
「頼むらから洒落にならないし、面白くないからやめてくれ」
なんだか、就職先を話すのもいいかげん馬鹿馬鹿しくなってきた。
「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。勘当された身だから、いつまでもここにいると後ろ指を指されかねない」
返事を待たず、歩き出す。
この後も、僕は一人暮らしについて相談しなければならない。
「先輩」
ふと、米崎に声をかけられた。
「・・・・・・なんだ」
「先輩の未来に幸があらんことを! わたしは少なくとも願ってますからー!」
大声で、そう言われた。
「ですからー! わたしの頼み事には絶対服従でー!」
「最後のセリフは余計なお世話だ!」
そう言いながらも、米崎はゲラゲラ笑っていた。
女の子みたいに、笑って見送ってくれた。
でもまあ、たまには引き受けてやるのも悪くはないのかもしれない。
これから先、僕はきっと大変だろう。
最終学歴、中卒。
「・・・・・・それも、人生だ」
そう決意しながら、三年間過ごした校舎を後にした。
就職先の場所は恵み野庭市内だった。
しかも、駅から歩いて10数分のところの4階建てのビルの中。
自動扉を潜り、階段を上がる。
他にも色々な店がある。
一階はカレー屋。
二階は麻雀教室。
三階が僕の就職先で、四階はカフェになっている。
三階にたどり着く。
錆びた鉄の扉は僕を歓迎しているのかしていないのか。
ここに、僕の雇い主がいる。というより、閉じ込められていると言われても納得が行きそうなくらいだ。
「・・・・・・行くか」
インターホンを押すと、小気味いい音が鳴る。
『・・・・・・入りたまえ、助手くん』
がちゃん、と錠が外れた音がした。
「お邪魔します」
重苦しく、扉を開くと僕の目の前には、
「やあ、久しぶりだね。助手くん」
銀髪を靡かせた、月詠さんがいた。
「これから、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。そして頼りにしているよ」
ほんの半年前、僕が私立探偵 月詠探偵事務所に就職するのには、厳しい条件があった。
月詠さん曰く、学生は助手にしない。
よって、僕は高校に入学しながらの助手業は出来なくなったからだ。
「しかし、わからないものだ。なぜ、君は私の商談に乗ったのかね?」
命をお互い預けた身とはいえ、そこまで親しいわけではないのだから、高校に入学することを諦めてまで、就職しようとは思わないだろう。
だけど、
「正直、高校自体入りたいとは思っていませんでしたから」
だから、ちょうどよかったのだ。
刹那的に生きてきた僕だからこそ、月詠さんの言葉に惹かれたのもある。
「後悔は、ないのかい?」
「ありません」
高校に入って進学する、普通の流れに沿って生きるよりは、
「普通じゃない道ってやつを、知りたくなったので」
「・・・・・・そうか」
月詠さんは静かに笑って、
「では改めて、歓迎しよう助手くん! ようこそ、月詠探偵事務所へ。今日から君は未咲咲ではない、助手くんだ!」
こうして、僕は私立探偵 月詠探偵事務所に就職した。
彼女の助手として、僕は目まぐるしく進んでいく日々へと身を投じることになる。
だが、それは別の物語で語ることにしよう。
(了)
追伸
「ほう・・・・・・やはり、か」
あの事件から数日が経過した。
現在、洋館は封鎖され、しかも扉は壊されていた(というより、私達が壊した)。
あの怪物の出所について、私はひとつだけ嘘をついた。
麻薬のカクテルでも、通常あれだけ摂取すれば人は簡単に死ぬ。
だが、あの怪物は生まれた。
「・・・・・・新種の麻薬、か」
ずいぶん、くだらないことをするものだ。
「だから、私はヤクザが嫌いなのだよ・・・」
仏教を尊敬していようが、腐っているのは事実。
いや、むしろ半端にそれを守っているだけタチが悪い。
「しかも、報道規制が敷かれたとなると、こいつはおそらく・・・・・・」
この事件はどうやら、根が深そうだ。
(続)
変化した日常は、時に虚しい。
そう、彼女は口ずさむように言った。
それはその通りで、永遠に変わらないと思っていた駄菓子屋も、
変わらないと思っていたショッピングモールも、
変わらないと誓った想いも、
時が経てば、夏の日差しに当てられた死骸みたいにドロドロに朽ちて、
やがて腐臭となって、後味の悪いものを残し消えていく。
それは正しいことであって、その度に新しいものと出会い変わっていく。
それが進むということであり、退化ということでもある。
それを知る術はなく、
それを決める観測者もまた、いない。
だから、彼女は虚しいと言った。
だからこそ、彼女はこうも言っていた。
停滞は美しい、と。
この物語は、そんな意味のあるものでもなくて、
彼女が何を言いたかったのか、結局のところ僕もわからなかったけれど。
それでも、僕は語らなきゃいけないのだろう。
彼女の物語を。
彼女の奇譚を。
1
米崎友人という後輩がいる。
どこで出会ったとか、そういう話は今回の物語には関係ないので、割愛させていただこう(強いていうなら、あまりいい話ではないし、いい出会いでもなかった)。
そんな如何にも百人が聞いて百人が男だという名前だが、米崎は女である。
もっというなら、僕と一つ違いの後輩である。
「やあやあ、未咲先輩! 熱く長い道のりだったでしょう!! ささ、どうぞ黒いしゅわしゅわを」
「いや、さらっと自分の家みたいに言っているけれど、ここはただの駅前のカフェであって、間違っても君の家ではないからね? あと漢字を間違えている」
おっと、これは失敬、とかいう三文芝居を繰り広げながら、僕は米崎の向かいのアンティークな椅子に腰掛ける。
僕も乾いた喉に、黒いシュワシュワ(ただのコーラ)を口に含む。
「……それで? 高校試験に向けて受験勉強に忙しい僕になんの用か」
「やだなあ、先輩。受験勉強だなんて、気の早いことですよー」
「早くねえよ! むしろ遅い方だよ。あと、冒頭でお前は僕の後輩だって説明した」
「えーっ!? そんな……先輩てっきり私のために留年とかするのかと」
「するか! 僕の出席日数は、足りてるし、むしろそっちが、進級せず、中学校を四年以上過ごすか心配だよ!」
心配性ですねー、と棒読みで米崎は返す。
でも、心配なのは本当で、米崎は引き篭もりである。
やることと言えば、せいぜい部屋で一日中ゲームをし、三食昼寝付きの生活を謳歌している。
そのため、米崎は義務教育はおろか下手をすれば幼稚園とかにも行っていない可能性がある。
「なぁ、米崎。お前も流石に学校とか」
「え? わたし勉強くらい、大学とかのレベルまで余裕ですー」
「……お前、実は天才なんじゃ」
「それより先輩」
と、米崎は本題を切り出す。
「怪物って、いると思います?」
2
「…………は?」
わざわざ呼び出した理由がそれ?
怪物がいると思うかを聞くために呼んだのか?
「いや、唐突になんだよ」
怪物って、そんな曖昧な表現じゃわかりにくい。
せめて、吸血鬼とか、ゾンビとかそういう具体的なものの方が答えやすい。
「吸血鬼とか、ゾンビって、実際にいたら怖いじゃないですか」
「怪物もいたらいたで、十分怖いだろうに」
「あと、知ってましたか? ゾンビって本当は人間を襲わないんですよ? あまり詳しいことは分かりませんが、どこかの神話だとゾンビは神様の使いだとかだったはず……」
「どうでもいい知識をどうも」
それよりも、と米崎は本筋へと話を戻し、
「怪物はいると思いますか?」
怪物。
妖怪、悪魔、UMAなどのオカルトワードだ。
そんなフィクション、架空の産物の単語、僕の日常生活とは無縁である。
「……さあ、僕にはわからないけど、少なくとも物事は観測者がいて初めてそこに『ある』と認識されるのだから、僕は見ていない。観測していないってことは、いないってことなんじゃないか?」
「……意外にも学のある回答ですね」
さすがは未咲先輩、と小馬鹿にしていて、甘えた口調でいう米崎。
「意外、って僕は一応、年上なんだが」
「一個上でしょ? 一年早く生まれただけで、そこまで差が着くとは思えないんですが」
「いや、一日の長って言葉を知ってるのか? 僕は君よりも一日どころか、一年くらい経験豊富であって、むしろ、そこは尊重とかするべきなんじゃないか?」
「…………それって、自分を慕って欲しいって言っているようなことの気がしますけ…………ひょっとして、先輩って後輩が、わたししかいなくて、寂しいんじゃ」
「ほっとけい! ……ひょっとして、今日は単に僕を揶揄うために呼んだんじゃないだろうな?」
やだなぁ、と米崎はわざとらしく笑い(嗤い?)。
「わたしが先輩を呼ぶ理由なんて、一つに決まっているでしょう」
「なら、先に言っておく。断る」
米崎が頼み事を言う時は、たいていロクでもないことだ。
その所為で、僕がどれだけ酷い目にあったことか。
「あのー、一応言っておきますが、今回の頼み事は割とまともですよ?」
そう言われて、僕はどれだけ米崎に迷惑をかけられたことか。
つい最近の頼み事だと、「すいません、先輩。わたしが作ったサイトが正常に作動しているか、調べるために先輩のスマートフォンから調べさせてください」と言って、実際はエロサイトを閲覧し、僕のスマートフォンは使えなくなってしまった。
「あの時はただ単にサイトが乗っ取られて、先輩のスマホを囮にして犯人特定したじゃありませんか」
「いや、僕はスケープゴートじゃないが!?」
おかげで、わたしは助かったじゃありませんか、と茶化しながら言われる。
「…………ちなみに、頼もうとしている内容は?」
「引き受けてくれるんですね! いよっ、さすがはお人好し!」
「それ、褒めてないからな! あと勝手に引き受けたことにするな」
だんだんと脱線してきている。
いい加減に話を軌道に戻さなければ、わけがわからなくなってくる。
「はいはい、それじゃあ先輩」
そう言って、机の上にコピー用紙が置かれる。
そこに印刷されているのは、どこかのサイトのページだった。
「ここを見てください」
と指を指された箇所に視線を移すと、そこには古めかしい洋館が映っていた。
「…………えっと」
「この洋館って、実は『出る』らしいです」
「……へぇ」
実際、外観はボロボロで蔦が外壁を覆っている。
確かに、出ると言われれば出そうな雰囲気だし、別段驚かなかった。
「……これが、その」
「怪物、ってネット上では言われています。そして、このユーザーが投稿した後消息を絶ったようです」
3
「とは言っても、あくまで噂ですけどね」
どうやら、ただの噂らしい。
「一応、火の無い所に煙は立たないって言いますからね」
「おい、ただの噂かよ」
正直、怪談か何かかと思った。
「一応、投稿者が投稿しているかを確認してみましたがさっきの投稿以降、投稿していないみたいです」
……なるほど、だから怪物がいるのではと噂になったのか。
「…………あれ? でも噂が立つにしても、それはこじつけなんじゃないか?」
ただ単に、そのユーザーがSNSの投稿をやめただけかも知れない。消息を断つ、だなんて大袈裟だ。
「まあ、それはそうですけどね」
でも、と米崎は続ける。
「噂って、案外そういうものじゃないですか。誰それさんが、一人の女の子が好きなんだってー、とかそういう話が拡散されていくうちに、いつの間にか誰それさんがその子と付き合っているんだってー、とか誰それさんが告白したんだってー、とかそういう曲がった事実をいうこともありますからね」
噂って、結局は伝言ゲームですからねーと付け加えた。
僕は別に、ネットとかそういうものを使うことはほとんどないため、あまりわかっていないが。
「とにかく、です。先輩には、この洋館に行って、噂を確かめてきてください」
「だから、僕は引き受けてないって」
そもそも、そんな不気味な噂のある洋館の場所もわからないのだから、行くにしたってどこをどう行けばいいのか、僕は知らないのだが。
「その心配はございません。何せ恵み野庭市内ですから」
どうやら調べていたらしい。
……変なところで用意周到なのは、やはり米崎らしいといえばらしいのだが、こういう時には発揮してほしくなかった。
「安心してください。骨は拾いますから」
「その前に、怪物にでも喰われてしまえ」
4
「…………本当にありやがった」
僕の目の前には古びた、あのカフェで見かけた洋館がある。
米崎とそんな話をして、数日が過ぎた日のことだった。
米崎の頼み事は結局断ったが、最後に。
「先輩は、きっとその洋館に行きますよ」
意味深なことを言っているが、実際のところこれは僕と米崎が別れる時に言う、常套句だ。
だから、米崎自身も適当なことを言っているだけだった。
だが、まさか本当に行くことになるとは、僕自身思っても見なかった。
「しかし、なんでこの奥にスーパーなんてあるんだか」
とはいえ、行き着く先と言うわけでもなく、たまたま通りすがりと言うだけだが。
「…………寄ってみるか?」
いや、そんな馬鹿なことを考えるな、夏の暑さにやられるな。
一応、私有地の可能性もあるのだから、普通に不法侵入になる。
「…………帰ろう」
さっさとおつかいを済ませて帰って、勉強をしなければ行けない。
一応、受験生なのだから、勉強してますよアピールくらいはしなければ。
と、
かーん、かーん、と鉄のぶつかる音が反響するみたいに聞こえてきた。
「……えっ?」
その音はまるで、モールス信号のような、そんな規則性のある音。
それは、どこか誘うような、静かな音。
『怪物って、いると思いますか?』
数日前の問いが蘇る。
あの時はいないと思っていたけれど、今の音を聞いている内に、本当にいるのではないかと思ってしまう。
そんなはずはない。僕は見たこともなければ、聞いたこともない存在をいると思うなんて、よほど影響を受けている証拠だ。
「…………なんて、確かめるのは小学生のやることだ」
頭ではわかっている。いるのだが、
「でも………………なんだろう」
無性に気になる。
まるで、何かいると感じ取っているような…………第六感、というやつだろうか?
「…………まあ、可愛い後輩の頼みだしな」
それに、カフェでは度々奢ってもらっている身の上なのだから、土産ついでに確かめるのもいいかも知れない。
そう決めて、洋館の扉の前に立つ。
とりあえず、インターホンだけでも押しておこう。
試しに押してみるが、小気味いい音は鳴り響かない。
「……誰も住んでないのか?」
まあ、それはそうだろう。
何せ、見た目も蔓とか植物が絡んで、窓も板張りで中の様子を伺うことはできない。
「……誰もいない、と」
怪物がいるとかいないとか、僕にはどうでもいいことじゃないか。
別にそこまで刺激的な人生を送ってきたわけではなく、せいぜい米崎という後輩に振り回されているだけじゃないか。
あいつの手のひらに転がされている感じがして、年上としてのプライドが傷つく。
「早く、用事を済ませよう」
おつかいを早く済ませようと洋館の扉を出ようとしたところで、ふと気づく。
この時、僕はさっさとおつかいを済ませて家で勉強に励むべきだった。
米崎が、変なところで用意周到だと言うのなら、僕も大概人のことは言えない。どうでもいいところに、僕は気がついてしまうのだから。
「……あれ?」
扉の取っ手が壊れていた。
だが、扉もよく観察して見ると半開きで、中に入るのは容易だった。
「入れそうだな」
せっかくここまで来たのだ。
さっきも言ったように、米崎に土産話を話すためにも、入ってみよう?
土産話とか言っている暇があるのなら、早くおつかいを済ませろと過去の自分に言いたいが、そんなことができるわけではない。
……………………失礼、少しだけ、感情が昂ってしまった。
5
鼻が曲がりそうなほどの腐臭と血の匂いに、咽せる。
僕の目の前にあるのは、腐った肉片。
ただし、牛、豚、鶏とは違ったもの。
その肉片の正体は、その隣にある腐乱死体が証明していた。
「ヴっ………………ぉえぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇええぇぇぇっ!!」
吐いた。
胃のなかにある昼食のコンビニのフライドチキンと、間食に食べたチョコレートとクッキー。
それが胃液と一緒に、食道から口腔へ流れ出た。
思考が混乱していく。
一体いつから死体がここにあるのか、検討はつかない。
「……なん、だよこれ」
空っぽになった胃を摩りながら、目の前の死体を見つめる。
少なくとも、最近のものではないことは、異常な腐臭が証明している。
死体を見たことで、周りを見るのを忘れてしまったが、そこかしこに白い骨が垣間見える死体もある。
「……………………」
ひとまず、警察に通報した方がいいだろう。
不法侵入とか、そういうの抜きにしてもこれはヤバい。
「…………いや、考えてみれば僕携帯持ってないや」
せめて、ここを出て近くの住宅に電話を借りるくらいしかない。
部屋を出ようとした。だが、
「──────ァァァァ」
誰かの呻き声が聞こえてきた。
呻き声と同時にクチャクチャという、下品な咀嚼音も聞こえてくる。
「──────」
この洋館には怪物がいる。
そう、米崎は言っていた。
だが、それが本当なのはこの腐乱死体達が証明している。
なら、一刻も早く逃げるべきだ。
それなのに、
「・・・・・・何が、あるっていうんだ?」
いらない好奇心が、頭の中でいっぱいになった。
覗くだけなら、とよくわからない持論を自分自身に言い聞かせ声のする方向へ向かう。
この時点で、僕はこの洋館を出て警察に通報するべきだった。
そうすれば、僕はただの傍観者に戻り、受験に追われる普通の受験生へと戻れた。
だが、そんなのは建物の中に入ってしまった時点で、終わっていたのだから今更どうこうできない。
歯痒いを通り越して、全身を掻き毟って懺悔したいくらいだ。
そんなことは露知らず、過去の僕は足音をたてないように慎重に進んでいく。
そして、
僕は怪物を目撃した。
6
ガリガリに痩せ細った体躯。
有に二メートルはあるその長身、細長い手足。
だが、そんなものがただの付属だと言わんばかりに特筆すべき特徴がある。
顎だ。
人間のそれとはまるで違う、米崎がこの場にいれば、ガーゴイルと表現するであろうそのしゃくれた顎は、人間離れしていた。
「ーーーーーーーーーァァァァァァァァ」
声の正体は人間だった。
ただし、声と呼ぶには程遠いそれは、喉を噛みちぎられたが故に出来損ないのもので助けを求めていた。
・・・・・・・・・。
人間を咀嚼する怪物。
それは当たり前の光景で、それなのにどこか現実から乖離した現実。
「ーーーァ」
ぶつん、と電源を引っこ抜いたパソコンのように声が途切れた。
怪物は静かに、クチャクチャと肉の塊を咀嚼する。
ーーー逃げろ。
本能が、そう告げていた。
静かに、僕は後ずさる。
物音を立てず、今すぐこの場から離脱する。
そのはずだった。
ガコンッ、と近くの木箱に足をぶつけてしまった。
怪物の視線が音の発信源を捉え、
視線が交錯する。
目元はよくみえないくらい、腫れぼったくて、醜い容姿だった。
怪物の口角が上がる。
「・・・・・・ぁ」
ここは悲鳴をあげるべきなのだろうが、悲しきかな。
本当の恐怖に立ち尽くせば、人間は声を出すことができない。
怪物は夢中になっていた食事を中断し、立ち上がる。
・・・・・・ああ、僕はきっとここで死ぬのだろう。
足はつっかえ棒のように動かず、身体は空気の抜けた風船みたいに力が入らない。
迫る死。
迫る恐怖。
不思議と、しっくりと納得できてしまう辺り、僕の人生はスカスカなスポンジみたいに意味もなく、後悔するようなこともなかったのだろう。
そして、
僕の視界が真っ白に染まった。
7
「・・・えっ?」
気がつけば僕は、誰かに手を引かれ、廊下を駆け抜けていた。
高そうな香水の残り香が鼻を擽り、長い白銀の髪が視界を染める。
そして、乱暴に扉を開いたかと思えば、隣の隣の部屋の扉をガタンと開けて音を立てずに僕達のいる部屋の扉を閉めた。
一体、なんの意味があるかわからないが、ひとまず黙っておく。
「懸命な判断だ。それなら、私も安心して身を委ねることができる」
と、視界が白く染まった。
顔に安心させる温かい感触と、柔らかい柔軟剤の匂い。
「静かに・・・・・・奴が来る」
かーん、コーン、と間の抜けた足音が扉越しに反響して聞こえてくる。
その足音が奴のものだということを嫌でも理解することができた。
ズンズンと、心臓が嫌な速さで鼓動を刻んでいく。
夏だからか、身体は蒸し暑い。
その間にも間の抜けた足音が近づいてくる。
「ーーーーーー」
生唾を飲み込む。
安心させる温かい感触と、恐怖を刻む足音。まるで暖房を焚きながら、冷たいアイスを食べているような、アンバランスな感覚。
そして、
扉が開け放たれた。
「ーーーっ」
悲鳴が上がりそうになるが、それを温かい感触で口を塞がれる。
大丈夫と、女性が言い聞かせるように僕の頭を撫でる。
そして、
ガチャン、と乱暴に扉が閉められた。
ーーーーーーえっ?
足音が遠ざかっていき、聞こえなくなった。
「なに、が」
「あの男が開けた扉は、隣だよ」
顔を離され、その女性を見る。
色白の肌に、白く長い砂浜みたいにきめ細かな髪。
極め付けは、白いワイシャツにベージュ色のスーツを上に着て、下は白いジーンズ。
「・・・・・・助けてくれて、ありが」
「まだ私達は助かっていないよ」
お礼を遮られる。
でも、言っていることは正しい。なにせ、怪物を撒けたとは言え脱出はできていない。
「まあ、助かるかは怪しいがね」
「? それはどういう」
女性は目を丸くして、
「知らないのかい?」
自分の国の総理大臣を知らないのかい、と聞くように聞いてきた。
「えっと・・・・・・・・・なにをですか?」
「・・・君は思ったより、注意力散漫なようだ」
「・・・・・・いきなり、なんですか」
さすがに、初対面で馬鹿にされるのは少しムッとする。
「扉を見ていなかったのかい?」
「扉なら見ましたが・・・?」
「ならわかるだろうに」
わかる、ってなにがだろう?
扉の取っ手は無くなっていたが、別に内側を押せば、
「ーーーーーーあっ」
そういえば、僕は扉の内側を見ていない。
もし、取っ手がないのだとすれば、
「私達は、どうやら閉じ込められたらしい」
8
閉じ込められた。
密室、監禁、拉致。
要するに閉じ込められる状況を言葉にしている。
「・・・なら、警察に通報しましょう!」
「無理だ。というか、携帯はさっきあいつに踏んづけられて壊された」
どうやら、そう簡単にはいかないらしい。
「・・・・・・窓からは」
「無理だよ、窓は外から板で貼り付けられている」
カーテンを開けてみると、硝子越しに見えるのは木目だけ。
つまりは、
「ふさ、がれている・・・!?」
「さっきから、そう言っているだろうに・・・まあ、混乱するのも無理はないだろう」
何せ、この状況こそフィクションみたいなものだ、と達観したように笑う女性。
そう、フィクションじみている。
あの怪物に、腐った死体。
それに、
「・・・・・・そうだ、考えてみればなんで近くの住民は通報しないんだ?」
この洋館は住宅街の一角にあるのだから、少なからず悲鳴を聞いているはずだ。
「ここの壁は、防音みたいだから通報する以前に気づかれない」
「・・・・・・いや、いくら防音でも流石に」
「・・・ひょっとして、知らないのかい? ここがどんな場所か」
その女性は驚いたように、それこそ先程の事態よりもこっちの方が一番驚いているように僕を見る。
とは言え、この場所がどう言うところなのかは米崎から大まかには聞いている。
「わかりますよ、そりゃ。ここは怪物が住んでいる洋館ですよね?」
「そんなの知るか」
バッサリと切られた。
いや、今なんて?
「・・・まさか、その噂だけでこの場所に来たのか?」
「その噂以外、何があるって言うんですか。他にも何かあるって言うんですか?」
「あるに決まってる。・・・・・・いや、失敬。君は中学生か?」
そりゃ僕はどこからどう見ても中学生・・・・・・とは見えないかもしれない。
学生服があれば、まだわかりやすいかもしれないが僕の格好は生憎と短パンと半袖のTシャツだ。
「今時の子供はませているからな。特に女生徒ときたら、化粧なんて当たり前でそこらにいる大学生と間違えそうになるからな」
「・・・なんだか、実体験みたいに語りますね」
と、女性は目を輝かせ、
「その通りだとも! そうだそうだ、聞いてくれ。私は助手を雇おうとつい最近知り合った年下の男に声を掛けた。だが、そいつは高校生でしかも男装した女だったんだよ!!」
「・・・・・・おっしゃることの意味がわかりませんが」
「つまり、だ。探偵業である以上は、どうしても危険が伴う。成人した者ならともかく、学生を、それも高校生に声を掛けたのは一生の不覚なんだよ!」
どうやら、そういう美学があるらしい。
別に理解したくはないが、
「って、探偵なんですか?」
「おや? 結構伏線は張っておいたはずなんだがな」
伏線って、そんな小説じゃあるまいし。
「まあいい。いい加減、脱線した話を戻そうじゃあないか」
そう言って、女性は汚い床に堂々と正座して、
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。私は月詠月夜。ただの私立探偵さ」
9
「さて、状況を整理しよう。
「何、別に絶望的な観測を立てるわけじゃあない。
「ただの状況整理。
「いわば現状把握だ。
「まず、私達は閉じ込められた。
「窓は板で塞がれ、玄関の扉は取手を壊され使用不能。
「文字通りの密室。
「今時、推理小説では掘りに掘られた石油採掘場の様なものだ。
「さて、そんなベタな密室に閉じ込められた私達だが、別に脱出できないわけじゃあない。
「方法は二通りある。
「まずひとつは、私の知り合いにこの洋館に入る前に一時間経ったら連絡を入れてくれと頼んである。
「反応がなければ警察に通報してほしいと、頼んであるから、その間ここで隠れればいい。
「だが、現実的ではない。この洋館は普通の住宅よりはある程度広いとはいえ、一時間も隠れる場所があるとは思えない。
「よって必然的に、もう一つの方法はシンプルに扉をぶち破ればいい。
「だが、これにはいくつか問題がある。
「あの怪物、もといあの人喰いが世に解き放たれてしまうことだ。
「幸い、というか不幸というか、この密室は牢屋の役割も果たしているからだ。
「そうなると、ただ脱出するのは非常に危険だし、また逃げ切れる保証はない。
「では、答えは必然的に一つだけだ。
「わかるかな? 助手くん?」
10
「・・・・・・あの怪物を、倒すしか・・・安全に逃げることはできない」
「その通りだとも。扉を破るにしろ、どうしたって位置はバレてしまう。それに、あの男も人間とはいえ、理性を失っている」
「・・・・・・えっ?」
今、なんて、
「いや、だから人間だよ。気づかなかったのかい?」
いやいや、あれが人間だなんてありえない。
人間の形とは到底思えないし、そもそも・・・。
「いや、ありえるのか」
「察したらしいが、あれは顎の筋肉が発達している。おそらく人を喰っていく過程で、最適な『形』になったんだろう。まあ、生物の進化と言う意味では面白いな」
何が可笑しいのか、ケラケラと笑う。
だが、全然笑えない。
だって、食べたのは人である。
それを平然と推理して、しかも笑って語るだなんて、
「・・・・・・壊れて、ますね」
「壊れてる? 別に、壊れているとは思っていないがね。まあ、『怪物』と言う表現は的を射ているな」
でも、どういう過程を通れば、ああいった形になるのだろう。
いくらなんでも、あれははっきり言って異常だし、人間の理性にだって倫理観というものが備わっているはずだ。
いや、倫理観というよりは本能に近いのかもしれないが。
「・・・・・・あの」
「これを見たまえ」
月詠さんが一つのギザギザの葉っぱを指さす。
「? これがどうかしたんですか?」
見たところ、なんの変哲もない葉っぱに見える。葉っぱが、この洋館に入ってきたことを気にしているのなら、さすがに大袈裟な気がするし、そもそもこの洋館自体荒れ果てているのだから、葉っぱくらいあってもおかしくはない。
「・・・・・・知らないのか? これが何か」
「? えっと、葉っぱの種類ですか?・・・・・・僕は別に、草木を愛でる趣味はないのでさっぱり」
「君は馬鹿か?」
いきなり馬鹿にされた。
・・・・・・しかも、大の大人にだ。
「・・・じゃあ、これがなんだっていうんですか」
少しムッとして、キツい言い方をする。
葉っぱならそこらへんに生えている。
かなり湿っぽい場所で、陽の光も入ってこないのだから苔もあるはずだから、そこまで珍しいものではないはず。
そこで、月詠さんはため息をついて、
「学校で習うはずだ。見た目も、よく夏休み前とかそのくらいに教えられているはずだ」
? 学校で習うって、そんな小学校でも習わなかったぞ?
それを中学生になって習うなんて聞いたことがない。
「・・・・・・これはだな」
そして、諦めたかのように肩をすくめ、
「大麻だよ」
11
ニュースを見ていれば、自然と聞こえてくる、危険なものと言われてすぐに思い浮かぶ麻薬。
芸能人のスクープだったり、それを流通する指定暴力団だったり、
そして、田舎と都会の中心のこの街で、見かけることもなければ聞いたこともないもの。
「ーーーーーーなん、で?」
なんで、こんな大麻がある。
僕どころか、大体の人は無縁なものがある?
「話しておきたいところだが、事情を知ればすぐに消されるぞ?」
月詠さんは平然と言う。
「おそらく、あの怪物が生まれた原因だろう。大麻は医療用でも使われてはいるが、少なくともこいつは、カクテルみたいだな」
「カク、テル?」
なんだ、急にお酒が出てきたぞ?
大麻って、酒なのか?
「まあ、簡単に言えば他の麻薬と合わせて摂取することをいう。この部屋はどうやら麻薬の倉庫みたいだから、大麻だけじゃないだろう」
と紙袋から、堂々と麻薬を取り出して解説していく。
「アンフェタミンの精神刺激剤、まあ俗に言うところの覚醒剤というやつだな。・・・・・・というか、すごいなあいつ。草のまま摂取しているって、正気を疑うなこれは!」
月詠の目は爛々と、楽しそうに輝いていた。
まるで、デパートのおもちゃ売り場を見て回る子供みたいに。
というか、そもそも、
「なんで、平然としてられるんですか?」
「それは知ってるからだよ。元々、私がここに来訪した理由はある男の所在を掴んでこいという依頼があったからだ」
これも、深くは聞かない方がいいのだろう。
探偵には守秘義務がある上、そうそう聞いても良さそうな事情じゃなさそうだ。
「いくらか検討はつくが、まあ大方腹でも減って食ったんだろう」
そして、月詠さんはありえないことを言い出した。
「えっ? つまり、あの怪物は麻薬をご飯代わりに食べていたってことですか!?」
「それが妥当なところだろうな。何せ、男は逃亡している身で金も使い果たしてしまったようだから、食い物が麻薬しかなかったんだろうよ」
逃亡している?
それも、何から・・・・・・。
「まあ、でも冷静に考えてみれば私達は運命共同体なのだから、下手な隠し事は疑心暗鬼を産みかねないな」
月詠さんは、そう言って僕の肩に腕を回す。
香水の匂いと、柔らかい感触が心臓を脈打たせる。
大人の身体は、こんなにも柔らかかったんだ・・・。
「いや、そうじゃなくて近いですよ色々と」
「おや? 私達は運命共同体、だろう? なら親密度を上げておくだけ得というものだよ」
それとも、と耳元に体温が近づき、
「それ以外の、感情が芽生えたのかい?」
思わず突き飛ばした。
すってんころりん、と効果音がつきそうな転び方だった。
「ちょっ・・・・・・いくらなんでも、未成年ですよ。・・・その、もうちょっと僕が大人に・・・・・・せめて高校生になってからにしてください」
月詠さんは、目がテンになって僕をみている。
そして、
「ぷっ・・・・・・高校生でも十分犯罪だよ・・・それ」
そう、揶揄うように笑われた!?
「・・・・・・まさか、揶揄ってたんですか?」
「それ以外ないだろうに。それとも、私がショタコンだと思ったのかい?」
・・・・・・揶揄われた。
いや、落ち着け僕。
考えてみれば、この人は元々変な人だ。
相手をすればするほど、あっちは図に乗るんだから相手はしない。
せいぜい、話を聞く程度に、
「君は随分と、可愛らしいね。これだから中学生は、揶揄いがいがあるよ」
「やっぱ限界! あんた人のことなんだと思ってんだよおい!!」
普通にブチギレた。
いや、本当に初めてだ。初対面の女性(それも年上)に怒鳴るなんて、我ながら子供である。
「ははははは、まあ落ち着きたまえよ、助手くん」
「落ち着けだあ? あんた、人のこと小馬鹿にしておいてよく落ち着けだなんて言えるな、ああ!?」
思わず、ヤクザみたいな口調で睨みつける。
「おいおい、それじゃあ私の依頼主と同じじゃないか」
「はぁ? いまそんな話を・・・・・・えっ、今なんて?」
今、僕はヤクザみたいな口調で・・・・・・。
「ああ、そう言えば言ってなかったね。私の依頼主は、男を追う側、つまりヤクザだよ」
12
聞きたくない情報だった。
というか、なんでそんな情報を今ここで、それもギャグパートで出してくるんだ!?
「おや? どうしたんだい」
「いや・・・・・・ヤクザって、会社の名前ですか?」
「なわけあるか。ヤクザ、指定暴力団、櫻田組」
どうやらマジらしかった。
しかも櫻田組って、
「バリバリのヤクザじゃないですか!?」
櫻田組。
札幌をシマにしている指定暴力団。
普段は、悪事を働いている輩を捕まえては三回の警告をするという。
なんでも、特徴的なのは、櫻田組は仏教に尊敬していて、仏の顔も三度まで。
つまり、三回警告をされ、それでも悪事を働けば、すぐさま小樽の海に沈められると言われている。
「ここは、櫻田組の倉庫で所有者も組長のものになっている。あの男は、組の金を盗んで遊び歩いていてな、それを怒った組が一斉に捜索していてな。金もせいぜい数百万程度だから、逃亡資金にも限りはある。すぐに見つかるはずだったんだが、そう簡単に見つからなかった」
そこから先は、大体読めてきた。
金の都合上、警察に届け出るわけにもいかず、かといってこのまま制裁をくわえなければ組の面子に関わる。
そこで、白羽の矢が立ったのは私立探偵だ。
その中でも、依頼を断らない探偵ーーーつまり、月詠月夜だったわけだ。
「・・・・・・えと、それってどちらにしろ面子を保ててないんじゃないですか?」
だって、捜索を探偵に頼んでいる時点ですでに組としての面子もあったもんじゃない。
そう思ったのだが、どうやら違うらしく、
「なんでも、探偵は守秘義務があるからだとかで、他に情報が漏れることは合法的にないから問題ない、という考えだそうだ」
・・・・・・なんというか、いい加減な考えだ。
「それくらい、切羽詰まっているんだろう。・・・・・・さて、それじゃあ事情を知ってもらったからには、皮肉だが君は一時的だが助手になってもらう必要ができたわけだ」
「えっ? ちょっ、なんで!?」
「仕方ないだろう。何せ、『事情』を知ってしまったんだ。そうするしか、生き残る道はないぞ?」
言われてみれば、それはそうだ。
大量の麻薬の目撃、さらにはこの場所がどういう場所なのかを知ってしまったのだから、
「・・・・・・仏の顔も三度」
「いや、それは通じないだろう。そこは徹底してお前を消すだろうよ」
どうやら、必然的に僕が今後生き残るためには月詠さんの助手になるしかない。
「・・・・・・こんなとこ、入らなきゃよかった」
それに気づくのには、あまりにも遅すぎた。
13
「さて、話を戻そう。あの怪物をどうすれば退治できるかについて」
それはそうだ。
後処理のことよりも、今は目の前の怪物にどう対処するかだ。
「まず、あの怪物の特徴を整理して欲しい」
そう、月詠さんに頼まれた。
「・・・・・・えっ?」
特徴?
それなら、さっき整理したはずだが、
「あれはあくまでも、私から見た主観的な整理だ。君から見て・・・それこそ、第三者から見たあの怪物の情報を知りたい」
確かに、月詠さんの整理したのはあくまで月詠さん視点。
ひょっとしたら、月詠さんが見ていない、知らないことも僕は知っている可能性も、
「・・・いや、それなら多分あんまり参考になりませんよ。さっきの整理自体、僕も同じようなことを思いましたし、月詠さんと一緒だと思います」
「・・・・・・そうか。そうなると、どうしたものか・・・。このままだと、怪物を倒す目処が立たない」
どうしようか、と頭を抱えている月詠さん。
「・・・普通に、鈍器で殴るとかですか?」
「無理、というか危険だな。あの怪物は麻薬の大量摂取で、脳の部分をやられているはずだ。あの怪物の力も、おそらく脳のリミッターが外れていると思われるから、あっさり食われるぞ」
「えっ、そうなんですか!? 脳のリミッターって・・・・・・確か、人間の力を脳が制御している」
「概ね、その通りだ。私も詳しいことはわからないが、大方そうだろう。あの怪物の腕力は尋常じゃない。私も死体を見聞して来たが、死体の腕は強い力で強引に骨が砕かれていた」
しかも、手形もくっきりだと皮肉そうに笑う。
「・・・・・・じゃあ、罠を仕掛けるとか」
「それならすでに試した。追われた際に、いくつか簡単なトラップを張っていたんだが、気がつかなかったのか?」
「えっ」
無我夢中で逃げていたので、気がつかなかったがどうやら仕掛けていたらしい。
「・・・・・・じゃあ、どうすればいいんですかね」
「それがわかったら、私は今悩んでいないんだがね」
うーむ、と天井を眺めている。
本当、なんでこんなことになったんだろう。
ただのおつかい、そのついででこの洋館に立ち寄っただけなのに、気がつけば怪物に追われ、さらには知りたくもない裏社会の情報を知ってしまう始末だ。
「・・・・・・元はと言えば、米崎があの噂を僕に言わなければよかったのに」
「? 米崎とは、誰だ」
考えが思い浮かばないのか、米崎の名前に反応する。
「米崎は僕の後輩で、ここの噂を知ったのは米崎が僕に話て来たからです」
「・・・そう言えば、その噂というのはなんだ」
「知らないんですか? ・・・まあ、知らないでしょうね」
何せ、都市伝説サイトに載っていただけで、普通都市伝説のサイトなんてチェックしないはずだ。
「それより、その噂は」
「えっと、この洋館に怪物が出るっていう噂で、その根拠がネット上であるユーザーが撮ったここの写真の窓に怪物らしき影が映っていて、そのユーザーが中に入ったらしいんですが、その投稿以降、投稿が途切れたんです」
荒唐無稽、と前の僕なら言っていたが、目の前の現実はその荒唐無稽なものに襲われているのだから、今じゃ笑えない。
「・・・・・・そうか。きっと怪物にで食われたんだろう」
「みたいですね」
この惨状の中で、生き延びるなんて到底不可能だろう。
おそらく、腐乱死体の仲間入りでもしているはずだ。
「・・・・・・・・・なあ、助手くん」
徐に、月詠さんが真剣な声音で聞いてくる。
「なんですか?」
「ちょっと、今から私は考える。その際、独り言をいくつか述べるが気にしないで欲しい」
「? わかりました」
別に、考えている時に独り言が出るなんて結構ある話だと思うが、
「それじゃあ、少し離れたまえ」
そう言われて、数歩下がる。
そして、月詠さんは白く長い前髪を後ろに流した。
その瞬間、
言葉の雨が、月詠さんに降り注いだ。
まるでシャワーを浴びているような、そんな立ち姿で瞼を閉じ、雨にあたっている。
いや、それは錯覚だ。
実際、雨どころかここは室内であって、スプリンクラーが作動したわけでも(そもそも作動するかどうか怪しいが)ない。
「身元不明の捕食死体脳のリミッター顎の筋肉の発達大麻櫻田組ネットから姿を消したユーザー怪物密室牢獄」
この事件に関連性のある単語が無造作に、乱雑に雨となって月詠さんを濡らしていく。
「腐敗死体防音の洋館・・・・・・」
ふと、月詠さんが前へ右手を出す。
まるで、銃口を向けるように、
そして、
パキン、と指を鳴らした。
それと同時に雨が晴れた、気がした。
「・・・・・・なるほどな」
月詠さんの瞳には、強く何かを掴んだような意思を宿していた。
「何か、わかったんですか?」
「わかった? それをいうなら、『整った』と言った方が正しいんじゃないか?」
整った?
「あの怪物を倒す目処がたった、いや失敬。整ったと言った方が正しいな」
14
静かに、廊下を歩く。
廊下は薄暗いが、窓に打ち付けられた板から陽光が隙間から漏れているお陰で、視界は不自由していない。
とはいえ、怪物は当然僕達を探しているはずだが、今のところ遭遇していないのは幸いだ。
そもそも、どうして見つかるリスクを考慮した上で廊下をうろつくのは、ちゃんと理由があった。
「この洋館は倉庫だ。ということは、武器になりそうなものがあるはずだ」
月詠さんは念のため罠を作っていると言って、あの部屋にいる。
僕は武器の調達係だ。
「・・・・・・そもそも、なんで作戦を教えてくれないんだ?」
結局、いくら作戦を聞いても答えてはくれなかった。
本当は、作戦なんて思い付いていないのか、それとも・・・。
「いや、今その想像は良そう」
ここで、疑心暗鬼に駆られたらきっと作戦も失敗する。
するのだが、
「信用、できるのか?」
会ったのはほんの数分前だ。
いきなり、全信頼を寄せていいのだろうか?
「・・・・・・いずれにしろ、やるしかないか」
月詠さんが書いた地図を見て、目的の部屋に着く。
ドアノブを静かに開くと、怪物はいなかった。
代わりに、大量の木箱が置かれている。
「・・・・・・これは」
木箱のラベルを調べると、そこには英語表記で何かが書かれていた。
「なんだ、これ?」
どれも固く閉ざされていて、バールで開くしかなくなるがそんなものが置かれているとは思えない。
「・・・あれなら、開きそうだな」
木箱の中でも、ひとつだけ半開きになっているものがあった。
「ふんっ!・・・・・・ぬぎぎぎぎっ」
半開きとはいえ、中途半端に固定されているみたいで、なかなか開かなかった。
「くそっ!」
なにかないかと、あたりを探ると、
「・・・・・・あるじゃん、いいのが」
バラエティ番組や、工事現場にありそうな特大ハンマーがあった。
「・・・・・・たしか、防音だよな」
この洋館自体、防音になっていると月詠さんは言っていたが、果たして木箱を壊す音はなんとか響かずに済むのだろうか?
「・・・・・・時間はないんだ」
最悪、バレたらバレたでハンマーを使って殴ればいい。
その場合、僕は人殺しになりかねないがそうも言ってられない。
「っ、ぁあっ!」
思い切り上段に振りかぶって、
バキン、と盛大に破砕音が響いた。
急いで中を確認すると、
「・・・・・・やっぱり、か」
木箱の中には、日本では滅多に見ることができないものがあった。
黒光する鉄のフォルム、海外のアクション映画に大体は出現するもの、
「拳、銃・・・・・・」
誰か見てもわかる通り、拳銃だった。
なんで、こんなところにある、だとかそういうのは想像できなくもないが、それこそ想像したくない。
だが、今確実に必要な暴力の塊。
「これなら、あいつを」
その時、
廊下にガチャンと何かが倒れる音が響いた。
15
急いで廊下を駆ける。
きっと、見つかったんだ。
月詠さんが、怪物に見つかったから、合図を出したんだ!
「はっ・・・・・・はっ・・・・・・・・・はっ・・・・・・」
廊下が、酷く長く感じる。
身体が鈍く、手足に鉛をつけたような重さ。
「急げ・・・急げよ!」
このままじゃ、月詠さんが喰われる!
僕が出た扉を迷わず開けた。
そこには、月詠さんが怪物に馬乗りされて今にも喰われそうだ。
「助手くん! 武器は見つかったか!?」
乱入者に気づいたのか、僕をジロリと睨みつける。
「はい! ・・・・・・けど」
僕は銃の使い方を知らない。
「時間がない、早く使ってくれ!」
「でも、どうすれば・・・・・・」
その間にも、怪物がゆったりと僕の方へ歩いていく。
倦怠に、ゆらりゆらりと、
「うっ、動くな!」
必死で銃口を向ける。
一瞬、怪物は動きを止める。
「動けば・・・・・・撃つぞ!」
照準が定まらない。
かちゃかちゃと、金属音だけが鳴り響く。
怪物は歩みを再開する。
「うっ・・・・・・」
僕が撃たなければ、月詠さんが死ぬ。
それだけじゃない、僕自身も死ぬ。
だが、そのためには人を・・・・・・。
命を殺さなければならない。
「はっ・・・はっ・・・・・・はっ・・・・・・・・・」
心臓が早鐘を打つ。
こいつは元人間、そして何人もの人を殺してきた怪物。
それなのに・・・・・・、
「撃て・・・ない・・・・・・」
撃てるはずがない。
どんな悪人でも、今ここで人を殺せば、僕は同類になる。
それが怖くて、撃てない。
「・・・・・・はは」
怪物が目の前にいる。
発達した顎が開く。
腐った魚みたいな、腐敗臭が鼻をつんざく。
このまま、僕は・・・・・・。
「諦めるな!」
月詠さんが叫んでいた。
怪物の動きが止まる。
「今ここで、諦めればお前は・・・・・・お前の物語は誰が語る!! 別に大した生き方してないと思っているのならそれでいい、退屈な人生だったと嘆いているのなら間違いだ。お前の物語がここで終わって、誰も語られないとしたら、それは存在を殺しているのと同じだ! 生き恥を語られようが、武功を語られようが、知ったことじゃないが少なくとも、ここで終わらせていいはずがない! 少なくとも私は嫌だ!! 私の奇譚をお前には語り継いでもらわなければならない、それが助手というものだよ!」
ガツンッ、と頭を殴られた気がした。
月詠さんの訴えは、ひどく自分勝手だ。
僕の物語を終わらせるなと言っておいて、自分自身の物語を語り継げと言う。
本当、なんで僕は、
「ーーーーーーああ」
銃口を怪物に向けて、
躊躇なく引き金を引いた。
15
「・・・・・・あれ?」
発砲した。
発砲はしたのだが、
怪物は発砲音にビビっただけで、穴も空いていなかった。
外した、わけじゃない。
ただ、火薬がなっただけ。
「いや、嘘だろ!?」
「いや、それでいい!」
気づけば、月詠さんが怪物の首にしがみついていた。
そのまま、絞技を怪物の首にかける。
「・・・・・・いや」
違う、どちらかといえばそれは寝技。
怪物の首に足をかけて、締めている。
苦しそうに、怪物はうめき声をあげ月詠さんの足を掴む。
「ーーーーーーぐっ」
苦しそうにしながらも、握力は相当強いのだろう。
だが、締め落とせば今度こそ助けは呼べる。
でも、その前に怪物が月詠さんの足の骨を砕きかねない。
「何か・・・・・・なにかないのか!?」
辺りを見回しても、あるのはせいぜい麻薬の入った箱だったり、僕の手にある発砲音しかならない拳銃。
「ーーーーーーそうだ」
僕は拳銃を怪物の耳に近づけ、
「月詠さん、耳を塞いでください!」
「ーーーーーーああ」
そして、
怪物の耳に巨大な発砲音が木霊する。
発砲音は、耳元で鳴り響けば音爆弾のようなもの。
当然、相手の鼓膜を殺すのには十分すぎる代物だった。
「ーーーーーーーーーでかしたぞ助手くん!」
怪物の拘束が弱まった隙に、月詠さんは一気に締めてくる。
「ーーーーーーぁあ」
怪物は呻き声を上げて、暴れようとする。
このままだと月詠さんの拘束が解かれてしまう。
「ーーーーーーっ」
咄嗟に拳銃を向けると、怪物は驚いたように目を見張る。
その隙をついて、月詠さんはトドメと言わんばかりに力を増し、
ドカンッ、と怪物は一気に倒れた。
16
「・・・・・・やったな」
怪物の親指をガムテープで拘束し、両太もも、両足首、両脹脛を拘束する。
「人間の親指は、抑えればリミッターが外れていようがなんだろうが、抜け出すことは容易じゃない」
そんなことを言いながら、僕は月詠さんの松葉杖代わりに肩を組んで廊下を歩いている。
なんでも締めている時に、骨にヒビが入ったらしい。
「それにしても、柔道やってたんですね」
「? いや、私は柔道どころか格闘技すらやっていなかったが?」
「えっ」
どういう意味だろうか?
いや、そもそも疑問点が山積みだ。
「じゃあ、なんで絞技なんて」
「格闘技はやってこなかったが、その分本は一通り読んでいる」
正直、締め落とせたのは幸いだったと月詠さんはケラケラと笑っている。
「・・・・・・じゃあ、あの拳銃。空砲だって、なんで知ってたんですか」
「あれは私が仕込んだものだからな」
「えっ!?」
仕込んだって、一体どう言うことだ?
「それ、ただのモデルガンだ」
そんな仕込む余裕は一切なかったはず・・・・・・。
「ひょっとして、僕と出会う前から」
「ああ、鋭いな。いや、これは流石に鈍くても大体わかるものか。まあ、櫻田組の末端とは言え、脅し文句くらいには使えるだろうと考えていたのだが、まさかあんな形で役立つとは思わなんだ」
「・・・・・・どうりで、銃口が足に向いても締め続けていられたわけですか」
ここまで準備周到だと、関心を通り越して呆れてくる。
「それより、今後のことだが。おそらく、外には警官がいるはずだ」
「えっ、そうなんですか!? というか、なんでわかるんですか」
板張りで、外は見えないはずだ。
「もう、一時間以上経っている。あくまでも体内時計換算だがな」
そういえば、あの怪物との死闘から縛るまで相当な時間を有した筈だ。
それくらい経ってもおかしくないだろう。
「あと、君は職場体験と言う肩書きで私と行動を共にしていたことにしといてくれたまえ」
「・・・・・・職場体験、ですか?」
普通、そういう行事は学校単位でやると思うのだが、
「でも、そんなにうまくいきますかね」
「そこは安心したまえ、警察に知り合いがいる。そいつになんとかしてもらおう」
意外と大雑把だ。
「・・・・・・でも、なんでそんな回りくどいことを」
「君、不法侵入の現行犯で捕まりたいのか?」
「あ」
そう言えばそうだ。
いくら言い訳しようと、不法侵入は不法侵入なのだから普通に罪に問われる。
「あと、これは櫻田組のためでもある。まず、あの怪物は助からない。麻薬を食料として食べていたのだから、相当な量の麻薬を食ったはずだ。当然、脳は確実に死ぬ。仮に助かったとして、組の金を盗んだのだから、処刑されることに変わりはない。どうせ死ぬのなら、警察病院で家族に弔われて死んだ方がマシだろう」
確かにそうだ。
あの怪物も、元は人間。
当然家族もいる。
どうせ死ぬのなら、やっぱり家族に看取られた方がいい。
「・・・・・・でも、やっぱり」
「それに、刑に処されないだけまだマシだと思うがね。私は法律は勉強不足でな。詳しいことはあっちの仕事だ」
こればかりは自業自得だ、と道場の余地なしと言わんばかりに言われる。
なんだか、あの人に悪いことをしてしまった。罪悪感に襲われる。
「あと、麻薬の件についてだが、こればかりは揉み消すことは難しいだろうな」
「まあ、そうでしょうね」
今回の事件の元凶は、櫻田組の麻薬にある。
「私はおそらく逆恨みされるだろうが、まあしばらくの間はここに居を移すとしよう」
「・・・・・・そうですか」
この人のその後は、きっと波乱に満ちていくだろう。
それこそ、奇譚のように語り継がれるかもしれない。
「さて、それじゃあ出ようか。助手くん」
気がつけば、最初に開いた扉の前にいた。
つい数時間前までいた場所。
まるで、数ヶ月この洋館にいたような気がする。
「どうした? 助手くん」
怖い。
この先、僕は警察に事情聴取を受けるだろう。
その先の未来なんて、何が起こるかわからない。
それならいっそのこと、ここで刹那的に生きて、
「助手くん」
月詠さんが、静かに僕を見た。
「君が考えていること、それについてはなんとなくわかる。怖いよな、辛かったよな。ここで命を賭けていた方が、あっちの世界より簡単に生きることができるような気がする。そうだな」
僕の考えなんて、お見通しなのだろう。
数十分、コンビを組んだだけであっさりと見破るなんて、僕は案外単純な人間なのかもしれない。
「むしろ、あっちの世界に戻れば後ろ指を指されるかもしれない。社会に出て、自分の経歴を見られて、それを理由にクビにされるかもしれない。確かにそうかもしれない。だけども、助手くん」
月詠さんは、
「それも人生の一つじゃないか」
そう、言ってのけた。
「この洋館で刹那的に生きれば、あの怪物と同じになる。そう言う意味では、あの怪物は最後に『今』に囚われてしまったのだろう」
『人生』を見ることをやめてしまったのだろうと、月詠さんは静かに僕の肩を叩く。
「たった数十分のコンビとはいえ、それなりに私は楽しかった。そうだな・・・・・・この奇譚を、いっそのこと周りに自慢すればいい。後ろ指を指されるくらいなら、いっそのこと自慢してしまえば、後ろ指なんて気にすることはなくなる」
だから、と
「誇りたまえ。この体験を。この出来事がトラウマになるのなら、白昼の悪夢を見たと思えばいい。一番辛いことが起きたのなら、この出来事を思い出して自分を奮い立たせればいい。君の人生だ。君の物語だ。君は自由だ!」
その言葉は、胸に染みた。
これは、僕の人生だ。
これから先、どう進んでもこの経験は鎖となって縛り付けるかもしれない。
なら、いっそのことそれを楽しむなり、奮い立つなりすればいい。
僕はーーーーーー。
「ありがとう・・・・・・・・・ございます・・・」
気がつけば、熱いものが込み上げていた。
熱く、暖かい雫が頬を伝う。
「おや、泣かんでもよかろうに」
僕の頭を静かに撫でてくれた。
「ところで、ひとつ商談があるんだが・・・・・・聞くかい?」
17
後日談。
あの日から、気がつけば半年経っていた。
つまり、3月9日。
卒業式の日。
学校の廊下には、花を象った飾りが所狭しと壁に貼られている。
卒業証書を抱えて、後輩達(別に僕を慕っているわけでもない)を通り過ぎて歩く。
なんとなく、その光景を眺めながら歩いていると、
「・・・・・・米崎」
一人だけ、列から離れて廊下の壁に寄りかかっている小柄な女生徒を見かけた。
「それで、その絆創膏はどうしたんですか?」
開口一番、米崎はそう聞いてきた。
「その前に、何かいうことがあるんじゃないか?」
「卒業おめでとうございます」
素直だった。
というか、これじゃあまるで僕が卒業を後輩に強制的に祝わせているみたいだ。
「・・・・・・それで、未咲先輩。その絆創膏は、一体どうしたんでしょうか?」
大したことはない、とは言えなかった。
大したことあったと説明しても、米崎は納得しないどころか僕の家族に直接問いかねない。
それくらい、貪欲に人のことを知ろうとするのだ米崎友人は。
「・・・・・・喧嘩、したんだよ」
「ヤクザとですか?」
「やめてくれそんな洒落にならないオチは!」
本当、勘弁してほしい。
おかげで、僕の家にパトカーのサイレンが鳴り止まない日々が続いたのだから、もうあんなのはごめんだ。
「じゃあ、誰と喧嘩したんですか?」
「・・・・・・両親と」
喧嘩の理由は、僕の進路についてだ。
「高校受験をやめて就職するって言った」
「それ自体、かなり急ですけど別に喧嘩するほどじゃないじゃないですか」
「問題は・・・・・・その就職先なんだよ」
「ヤクザですか?」
「違う」
「じゃあ怪物ですか?」
「頼むらから洒落にならないし、面白くないからやめてくれ」
なんだか、就職先を話すのもいいかげん馬鹿馬鹿しくなってきた。
「それじゃあ、僕はそろそろ行くよ。勘当された身だから、いつまでもここにいると後ろ指を指されかねない」
返事を待たず、歩き出す。
この後も、僕は一人暮らしについて相談しなければならない。
「先輩」
ふと、米崎に声をかけられた。
「・・・・・・なんだ」
「先輩の未来に幸があらんことを! わたしは少なくとも願ってますからー!」
大声で、そう言われた。
「ですからー! わたしの頼み事には絶対服従でー!」
「最後のセリフは余計なお世話だ!」
そう言いながらも、米崎はゲラゲラ笑っていた。
女の子みたいに、笑って見送ってくれた。
でもまあ、たまには引き受けてやるのも悪くはないのかもしれない。
これから先、僕はきっと大変だろう。
最終学歴、中卒。
「・・・・・・それも、人生だ」
そう決意しながら、三年間過ごした校舎を後にした。
就職先の場所は恵み野庭市内だった。
しかも、駅から歩いて10数分のところの4階建てのビルの中。
自動扉を潜り、階段を上がる。
他にも色々な店がある。
一階はカレー屋。
二階は麻雀教室。
三階が僕の就職先で、四階はカフェになっている。
三階にたどり着く。
錆びた鉄の扉は僕を歓迎しているのかしていないのか。
ここに、僕の雇い主がいる。というより、閉じ込められていると言われても納得が行きそうなくらいだ。
「・・・・・・行くか」
インターホンを押すと、小気味いい音が鳴る。
『・・・・・・入りたまえ、助手くん』
がちゃん、と錠が外れた音がした。
「お邪魔します」
重苦しく、扉を開くと僕の目の前には、
「やあ、久しぶりだね。助手くん」
銀髪を靡かせた、月詠さんがいた。
「これから、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。そして頼りにしているよ」
ほんの半年前、僕が私立探偵 月詠探偵事務所に就職するのには、厳しい条件があった。
月詠さん曰く、学生は助手にしない。
よって、僕は高校に入学しながらの助手業は出来なくなったからだ。
「しかし、わからないものだ。なぜ、君は私の商談に乗ったのかね?」
命をお互い預けた身とはいえ、そこまで親しいわけではないのだから、高校に入学することを諦めてまで、就職しようとは思わないだろう。
だけど、
「正直、高校自体入りたいとは思っていませんでしたから」
だから、ちょうどよかったのだ。
刹那的に生きてきた僕だからこそ、月詠さんの言葉に惹かれたのもある。
「後悔は、ないのかい?」
「ありません」
高校に入って進学する、普通の流れに沿って生きるよりは、
「普通じゃない道ってやつを、知りたくなったので」
「・・・・・・そうか」
月詠さんは静かに笑って、
「では改めて、歓迎しよう助手くん! ようこそ、月詠探偵事務所へ。今日から君は未咲咲ではない、助手くんだ!」
こうして、僕は私立探偵 月詠探偵事務所に就職した。
彼女の助手として、僕は目まぐるしく進んでいく日々へと身を投じることになる。
だが、それは別の物語で語ることにしよう。
(了)
追伸
「ほう・・・・・・やはり、か」
あの事件から数日が経過した。
現在、洋館は封鎖され、しかも扉は壊されていた(というより、私達が壊した)。
あの怪物の出所について、私はひとつだけ嘘をついた。
麻薬のカクテルでも、通常あれだけ摂取すれば人は簡単に死ぬ。
だが、あの怪物は生まれた。
「・・・・・・新種の麻薬、か」
ずいぶん、くだらないことをするものだ。
「だから、私はヤクザが嫌いなのだよ・・・」
仏教を尊敬していようが、腐っているのは事実。
いや、むしろ半端にそれを守っているだけタチが悪い。
「しかも、報道規制が敷かれたとなると、こいつはおそらく・・・・・・」
この事件はどうやら、根が深そうだ。
(続)
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