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第11章

相手の話をスピーディかつ的確に理解して落とし込むためにー第11の課題解答編ー

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12分の音声トークを書き起こすだけ。
そう、音声はたったの12分だ。

執事さんの話すスピードは人より早めだけれど
せいぜい倍の30分あれば書き起こせるだろう。

僕はそう考えていた。
録音を再生し、止めて、書き取る。

それをひたすらに繰り返す。
けれど、タイピングが間に合わない。

音声が流れるスピードが速すぎる。

ミスをくり返しては
同じところを何度も再生してまた打った。

最初の1分をようやく書き起こして
ちらりと時計を見る。

たった1分の音声に10分近くもかかっているなんて
一体なんの冗談だ。


「30分で書き起こしは、無理だ。諦めよう」


目標の時間設定はいったん忘れて取り組むことにした。

執事さんの話す内容を頭に入れる余地はない。

とにかく音を文字に変えるだけの機械になったかのように
必死で打ち込み続けた

12分の書き起こしで、結局かかった時間はおよそ2時間。


「当初の目標は。書き起こしから企画書までで4時間だっけ…」


乾いた笑いが口をついた。計算違いもいいところだ。

書き起こしは全体の入り口でしかない。
この後には文章を整えて、企画書に起こす作業が待っている。

作業に取り掛かる直前、ゲーテさんが言った言葉が
ふいに脳裏によみがえる。


「ヒトって自分に興味のある事しか聞いてないのよね~
きっと想像以上に大変だと思うケド、ま、がんばって~」


“興味のある事しか聞いていない“

つまりはそういうことだ。

僕は、執事さんのラジオを以前から繰り返し聞いていた。
だからおおよその内容はすでに頭には入ってる。

けれど、当然全ての情報を取り入れているわけじゃない。

音声を聞きながら、必要そうなところだけを
ピックアップして理解していたわけだ。

だから、こうやって全てを書き起こしてみると
拾いきれていなかった情報や誤解していた内容がいくつも見つかっていく。


企画書にまとめ上げれば、きっと色んな方に
役立つ気づきをお届け出来るだろ。


「なら、がんばらないとな」


自分に気合を入れなおす。

相手の話をきちんと理解するのは難しい。
それは、会食のときにも感じたことだった。

相手の話を聴いてスムーズに理解ができないから
すぐに反応したり提案したりできずに
言葉につまってしまう。

魔王様や執事さんはというと
とにかく相手のどんな話に対してもリアクションが的確で早い。

相手の話を落とし込むまでのスピードが段違いなのだ。

どうしたらあんな風になれるのか想像もつかないけれど
おそらくは日頃からのアンテナの高さであったり訓練だったりの
賜物なのだろう。

もしかしたら魔王様達なら、テープ起こしだってよりスピーディに
終わっていたのだろうか、と思う。

ただ考えていたって、仕事は進まない。
今は手を動かしてとにかく企画書作りを進めていく必要がある。

書き起こしが終わり、次の作業に没頭し始めた
僕は、このとき気付いていなかった。

ポケットに入れていた携帯で着信ランプが光る。

この時に届いたあるメールが後々まで
僕を苛むことになる。


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本日より20時過ぎと22時過ぎ、1日2回更新させて頂きます!
ぜひ今後もお楽しみ下さいませ✫
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