上 下
34 / 46
第17章

コミュニケーションの場において、避けるべき話題とはー第17の課題:VIP会食ー

しおりを挟む
ホストクラブごっこは、自分で言うのも何だが
終始グダグダだったと思う。

渾身のボケは何度となくすべったし
改善点の指摘は山のよう。

それでも、執事さんの判断で
僕は二度目の会食同行のチャンスをつかんだのだ。


「しかも相手が本当にVIPだった…」


今回のお相手はTwitterでも名の知れた
大物インフルエンサーだ。

僕も以前からフォローしているし
発信を見る機会も多い。

そんな人とまさか会食で相対することになるなんて
思いもしなかった。

けれど、これはまさしくチャンスだ。
やっと、リベンジができる。

少し浮かれた気分だった。
気持ちが軽くなって、親友にも久々にメールを送れた。

と入っても内容は他愛ないものだ。

返信ができていなかったことへの謝罪と
大変ではあるが今の環境に満足していること。

そして、今回大きなチャンスが巡ってきたから
精一杯成果を出したいという決意。

もう心配はしなくても大丈夫だと伝えたくて
言葉を選びながら、最後は勢いで送信ボタンを押した。

やっと返事を返せた。
そう思うと少し胸の重みが軽くなった気がする。

今回の会食のお相手は執事さんとある程度の関係値があるらしい。
ホストの主体は執事さん、そして僕はサブとして同行することになる。

まずやるべきことは、執事さんの場作りを精一杯サポートすること
そして、執事さんを立てながら、僕たちによい印象を持って頂くことだ。

そのためにも相手をとにかく楽しませるように
振る舞いやトークを考えていかなくてはならない。

事前に相手の情報を教えて頂き
かつ自分なりにリサーチを進めていく。

そうして当日は、とにかく叩き込まれたマナーを意識しつつ
執事さんとお相手とのやりとりを円滑にできるように
出来る限りの力を尽くした。

今回だって余裕があったとはいえないけれど
前回に比べればずっとましだ。

少しだけ生まれた心のゆとりを使って
執事さんのトークや振る舞いを僕は観察してみた。

執事さんのすごさは、とにかくさりげないことだ。

教わったマナー全般を一切気取らずに
水が流れるように、さらっと相手に対して行っている。

「自分が大切に扱われている」と端々から感じられれば
誰だって嫌な気分にはならない。

軽快なトークで場を盛り上げ
相手からどんどん情報を引き出していく。

執事さん自身も心から楽しそうで
けれど細部への目配りと気配りを一瞬たりとて怠らない。

まさにプロの接待だ。

一方サブとして動いていた僕はというと
正直、失敗は色々やらかした。

話に入るタイミングを逃して無言になってしまったり
ドリンクの交換タイミングを見誤ったり、細かな点をあげればきりがない。

けれど、初回よりは着実に進歩できている自分を感じていた。
それは執事さんから見ても同じ意見だったらしい。


「お疲れさん。今回の出来なら70点くらいはやれるわ」


タクシーに乗ったお客様を最後までお見送りしてから
執事さんは僕への評価を開口一番言い放った。

ケラケラと笑ってはいるが、その評価には偽りはないのだろう。
執事さんは、こと仕事に関する評価をごまかすことはない。


「まだまだですけど、ありがとうございます。
執事さんや皆さんのおかげです」


僕は執事さんに深く頭を下げた。

厳しく指導してくれた教官からの言葉は
やっぱりうれしくて、つい顔がにやけてしまう。

あまりにやにやしていてもみっともないので
頭を上げる前に、顔を引き締めた。

まだ仕事は終わっていない。
このあとは会食後の反省会だ。


「そういえば、気になったことが一つあったんですが…」


場所を移しての反省会で、僕は執事さんに
気になっていたことをまず尋ねることにした。

会食中に気付いたこと。
それは、執事さんのトークだった。

いつもメリハリと抑揚がある話し方をする執事さんが
会食中にやたら言葉を濁していたことがあった。

あいまいに話して、話題を変えようとするのは
なんだかいつもの執事さんらしくないように思えたのだ。


「なんというか、どんな意図があるんだろう、と気になったんです」


僕のぶしつけな問いかけにも
執事さんは決して動じなかった。

にやりと笑って「ええ質問や」と言葉を返す。


「もちろん意図はあるで。ちょいと振り返ってみよか。
俺があえて詳しく話さんかった理由、わかるか?」


=====
<第17の課題>

Q.会食の場で、執事さんがあえて詳しく話さなかった話題とは
どんな内容だったのだろうか?

=====

結局、反省会の途中で執事さんに急用が入ってしまったため
答えは明日に持ち越しになってしまった。


「色んな場面にいえることやから、自分なりに考えてみな?」


反省会を中断することになった謝罪とともに
執事さんからそう告げられる。

僕が最初に投げかけた問いについては
翌日までの宿題として自分で考えておく必要がありそうだ。

自宅に戻ってから、ほろ酔いの頭で
気づきノートを前に会食の場面を思い出していく。

2時間程度の間に、飛び交った話題は様々だ。
けれど、きっと「執事さんが避けた話題」には共通点があるはずだ。

=====
<第17の課題のヒント>

①いわゆるタブーとされる話題(宗教・政治・スポーツチームのひいき)のことではない。

②会食の目的は、そもそも何のためかを思い出してみよう。

③会食の場に限らず、ありとあらゆるコミュニケーションの場に通じる。

会食でどんな話題が出たのかをイメージをしながら考えてみよう。

=====
しおりを挟む

処理中です...