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終わりと始まり
人生最期に思う事
しおりを挟むこれは、物語。
現実には恐らく起こりえないであろう出来事。
彼女の物語は、死から始まる。
彼女の名は、高月春香。高校を卒業したものの、将来やりたい事が決まらず、実家に居座りながらバイトをして、なんの目的もなく大学に通い、日々を自らの趣味であるアニメ鑑賞や読書、サイト巡りをして過ごしていた。
「最近のアニメ、パターン化してきてあんま面白くないなー」
PCで、今期の新アニメを視聴しながら、春香はぼやく。
暫くはそうして画面を眺めていたが、やがて時計を見て時間を確認すると、そろそろバイトの時間が差し迫っている事に気付いた。
「あー、バイトいきたくなーい!一日中ゴロゴロしてたいよー!なんで私の家はお金持ちじゃないのかなー」
金持ちの家の人間ならばゴロゴロして過ごせるとでも思っているのだろうか?少々残念な考え方だが、まぁ春香も本気で言っているわけではないので、許してやってほしい。
時間ギリギリまで、ウダウダと何事かをごねていたが、漸く気持ちを切り替えバイトへと行くべく家を出た。
「行ってきます、今日はご飯いらない」
「春香、気をつけて行くのよ」
「あいあい、てか、私みたいなの襲うやついないってー!しかもこんな田舎で。犯人もすぐに捕まっちゃうのくらいわかるでしょ。んじゃ、行ってくるねー」
母の言葉に笑って返事をして、春香はバイトの書店へと向かった。
これが、最期の家族との会話になるなど、彼女には想像もできなかったのだ。
書店でのバイトは、レジ打ちと文庫本の担当として本の受注を行った。本の受注に関しては、春香は自身の趣味を全開にしつつだったが、意外にも春香の売れるだろうという予想が外れる事はあまりなかったため、店長に小言を言われる事はなかった。
そうして、その日のバイトも終わり、仲のいい同僚と仕事終わりに少し話しつつ呑みに出掛けて、あと少しで飲み屋の店に着くといった時だった。
ドッ。
突然、背後から勢いよく誰かがぶつかった。
最初は、早くも酔った誰かがフラついてぶつかったのだろうとおもった。
だが、ぶつかられたであろう部分が、灼けるように熱かった。
「っ、・・・ぁ・・?」
何故か声もうまく出せずにいた。
嫌な予感がして、息を詰まらせながらも振り向くと、そこには見知らぬ男が、ニタリと薄気味の悪い笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「きゃあああああ!!」
先程まで談笑していた同僚の悲鳴が轟いだ。
騒々しいながらも和やかな空気が、悲鳴によって引き裂かれ、春香と同僚を中心に少し距離ができた。
「な、に・・?」
春香は未だに自身の状況を把握できていなかった。
灼けるような熱さと、うまく呼吸できないままに、それでも春香を見てニタリと嗤っていた男が同僚の方へと視線を向けた時、何故かはわからないが、先程まで固まったように上手に動かせなかった体が動いた。
「っ!春香!?」
春香に突き飛ばされた同僚は、泣きそうな顔をしながら春香に手を伸ばす。
春香は、一瞥した後、男に向かって今出せる全力で、体当たりをした。男は意外にも簡単に突き飛ばすことができた。
それを見ていた周囲の人々が、慌てたように突き飛ばされた男を取り押さえるのをぼうっと眺めた後、春香は同僚の元へ行こうとしてナニカに滑って転んでしまった。
「っぁ・・!」
転んだだけの痛みではなかった。
浅い呼吸を繰り返しながら、滑ったナニカに目を向けた。
目を、向けてしまった。
そこには、赫があった。
よくよく、自身を見下ろしてみれば、既に全体的に赫が広がっていた。
そこで漸く、春香は自分の状況を把握した。
(あぁ、刺されたんだ。嘘みたい、だなぁ)
「春香!春香ぁ!しっかりしてよ!もう、もう大丈夫だよ?救急車、すぐに来るし!あいつも捕まってる!だから、だからさあ!!」
いつの間にか傍に来ていた同僚が、泣きながら春香に声をかけ続ける。
不思議と、先程まで感じていた灼けるような熱さは、感じれなかった。呼吸も、僅かに楽になった気がした。
(あ、私死ぬんだ・・・死にたくないな、でも、どうせ死ぬなら)
春香は自身の体に起きているこの不可思議な痛みのない時間が、恐らく自分という意識がある、自分の言葉を、想いを伝える最期の時間だということに気付いた。
死にたくないと、まだ生きて、やりたい事があると、そう言おうとしたけれど、幼馴染兼親友兼同僚が、最近ではめっきり流さなくなった涙を、人目も憚らずに流している。
みっともないくらいに震える声で、願って、縋っている。
誰の目から見ても、もう手遅れなのだとわかる、血塗れの自身に。
「ね、私さぁ、幸せだったと、思うんだ・・。家出とか色々・・・迷惑かけてきたのに、家族に・・・・愛されて。
恋人は・・できなかった、けど・・・でも、かけがえのない・・親友のあんたが、ぃた・・・から。
だから、泣いてもいい・・から。
笑って、生きろ」
途中で、何度も息を詰まらせながらも、春香は言葉を続けた。
自分が逝ってしまって、遺されてしまう、自分の愛する人達へと向けた言葉を。
同僚は、春香の言葉を黙って聞いていた。溢れた涙をそのままに。
遮ってしまいそうになる自分を押さえ込みながら。
「ほんとは、言うつもりなかったけど・・・言うよ。
っ、から、伝えてよ?
愛してる」
段々と、体の痛みや浅い呼吸が戻ってきて、ああ、本当に最期なのだと理解しながら、春香は自身の想いを伝える為に息を整えながら言った。
そうして、伝えてと願う春香の言葉に何度も頷き、嗚咽を零しながら同僚は春香の腕が力なく地面に落ちていくのを咄嗟に掴んだ。
「はる、か・・・?」
声をかけるも、返る言葉は既になかった。
血に塗れ、赫が春香を彩っていた。
「んなのっ!っんで!!なんで、ょぉ!!」
まるで悲鳴のように出た声は、春香の耳には届かない。それでも、彼女は涙を流しながら親友の春香を悼んで泣き叫んだ。
なんでもない、普通の日常を生きていたのだ。
オタクで、腐女子で、ガサツで、性格悪くて、それでも、いざという時、友人の為に動ける人間だった。
それが、高月春香という人間だった。
現実は、真実は、事実は、いつだって残酷なくらい突然で。
覚悟なんて、できないままにやってくる。
そうして、1人の女性の命は終わったのだ。
そう、終わった筈だった。
春香だった女性は、何故かはわからないが見たことのない女性に抱きかかえられていた。
(ん?ぇ、なに、どういう事!?)
春香は混乱していた。それもそうだろう。
彼女は最期なのだと覚悟し、大切な人達へと想いを告げて死んだのだ。
なのに、意識が浮上したと思って、え、生きてるの?って思ったら誰だかわからない女性に抱きかかえられているのだから。
「あぁ、良かった。元気に産まれてくれてありがとう。わたくしの可愛い娘、零」
「ぁ、あぶぅうう?!(む、娘ぇえ?)」
女性の言葉に驚いて声を張り上げた春香、否、零は自身の口から出た言葉にならない、ただの声に更に混乱した。
だが、頭の中では少し冷静な自分がいた。
(え、何?私、転生したの?何その二次元展開)
とりあえず、自身の状況と、周りの状況を把握するため、零は流れに身をまかせる事に決めた。
まぁ、現在進行系で赤ん坊の零には、自力で動く事も喋る事も出来ないので、他にできる事がなかったというのが、正しいのだろうが。
流れに身を任せて早4年。
赤ん坊だった零は、今年で4歳になり、漸く今自分に起こっている現実に向き合い、受け入れる事を決めた。
「わかってたけど、夢オチなんてないよね。まぁ、いっか!よし、今世の目標はもう決まってるし、長生きするわよ」
そうしたら、もう大切な家族を友人を、悲しませずにいれるよね?
この物語は、彼女の物語。
けれど、彼女にとっては現実なのだ。
さあ、幕は開けた。
彼女を待つのは、災厄か、幸福か。
それはまだ、誰も知らない。
未来の物語。
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