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終わりと始まり

転生してから~幼少期編1~

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春香が零として転生してから、4年が経ったのは、前作で伝えたと思う。
では、この4年間で零が把握したこの世界においての知識を再確認しよう。

「なんて、プロローグにもならないわよ。あー、もう、なんでこんな世界に転生しちゃったかなー」

零がこうして愚痴をこぼしているのには訳がある。それというのも、彼女が転生した世界、それが恐らくという言葉が前提に着くが、どこぞの乙女ゲームに似通った世界であると推測されたからだ。
さて、では改めて、零がこちらの世界で転生してから流れに身を任せつつも無邪気な子供を演じつつ収集した世界の情報について説明しよう。



この世界には魔法と呼ばれるものが存在する。そして、魔物や魔人などといったものもまた存在している。
さて、察しのいい方は既に気付いているだろう。そう、獣人や精霊なども存在している、所謂ファンタジックな世界なのだ。
だが、春香として生きていた世界、仮に現代世界としておこう。
現代世界と共通する点も多々ある。例えば、PCや携帯電話、アイフォン、冷蔵庫、掃除機、洗濯機など主な家電などはこのくらいだろうか?こういったものもある。
つまり、現代世界にファンタジーの設定がプラスされていると考えてくれればそれで正解だと思われる。
現代世界との最大の違いは、国の成り立ちや国の名前、そして、全ての国が国王による治世において成り立っているという点だろう。

ここまでは、まあ転生しているのだから少しくらいファンタジーな設定がある世界でもなんの問題もない、とは言えないが、多少の事には目を瞑れるだろう。
しかし、零がこの世界がどこぞの乙女ゲームに似通った世界であると推測するだけの理由がある。
というのも、最初に説明した通り、この世界では魔法が存在しているのだ。だからこそ、魔力を持つ者はその魔力を暴走させて、周りに被害を与えないようにする為に全国家共通の学院に入学する事が義務なのだ。
魔力を持つ者といっても、全員ではない。学院に入学義務があるのは、ある一定の基準を超える魔力を持つ者のみだ。だが、この条件に含まれる者は全員、義務という名の強制で学院に入学することになっている。
当然、その学院には王族や貴族、平民も入学できるのだ。
そして、この世界の魔法には、ありとあらゆる二次元作品ではお馴染みの属性というものが存在している。
火、水、土(木)、風、闇、光など。読者の皆様、もうお気付きですね?
光属性の魔力を持つ者は将来どこぞの国の王族の妃になるか、巫女姫と呼ばれ敬われるという未来が約束されています。
だからといって、闇属性の魔力を持つ者が見下されたり、忌み嫌われているわけではありません。
零の両親どころか、8世代くらいは遡るほど昔は、闇属性の魔力を持つ者は魔族の者だなんだと差別されていたりしたが、まあ、色々あって学院が建設されてから、魔力属性の研究を進めていくうちに以下の事が判明したため差別などはなくなったとされている。
勿論、差別の心はなくなるものではないので、表面上はとしかいえないが。
さて、研究により判明した魔力属性の相互関係を説明しよう。
火<水<土(木)<風<火
上記が一般的な4属性の相互関係である。
光≒闇
こちらが闇属性と光属性の関係である。つまり、どの属性にも弱点があり、その魔力の制御さえ出来ていれば問題はないということなのだ。
察しの鋭い方は今までの説明において違和感を感じているだろう。
そう魔力属性は、上記の6つだけではない。もう1つあるのだ。
それが彼女、零の魔力属性である無属性。
無属性の魔力を持つ者の事を一言で表すのならば、『最弱の最強』。
噛み砕いて言えば、無属性以外の魔力属性を持つ者からすれば、属性を持たない最弱の魔力属性で、無属性の魔力属性を持つ者にとっては、全ての属性の魔力を扱う事の出来る最強の魔力属性ということだ。
とはいっても、無属性が全ての属性の魔力を扱うことができるのを認識しているのは無属性の魔力を持つ者のみだ。
何故ならば、滅多に生まれる事のない属性魔力保持者だからだ。
だからこそ、無属性についての研究は他属性の研究とは比べ物にならないほど行われていない。寧ろ、全く研究されていないと言ってもいいほどだ。
だからこそ、無属性の魔力保持者は闇属性を差別視できなくなった後の差別対象として虐げられてきた。
そこで、研究を重ねていった末に魔力属性の優劣を生まぬ為に編み出されたのが召喚獣である。
召喚獣は、召喚する者の魂の彩形、魔力の強さ、そして、一番重要なのがその者の願いと意志である。
例として、過去に光属性の姫巫女と呼ばれた者は全ての人々の痛みや苦しみを癒したいと願い、幻獣であるフェニックスを召喚獣として契約したという逸話がある。
さて、余談はこの辺にしておこう。確かに上記の説明も推測するにあたって、必要な情報ではあったが、一番の要因は・・・

「零ー!今日も一緒に遊びましょう?」
「泉莉、いつも言っているでしょう。私とあなたは確かに友人ですが、あまり他の者の前で名を呼び捨てにしてはならないと。私は一応このフェルタリアを領地とする貴族の娘なのですよ?」
「ご、ごめんなさい。今度は気をつけるわ」
「ええ、そうしてちょうだい。もしも心ない誰かに聞かれて、貴方が罰せられでもしたら、私は後悔してもしきれないわ」

今しがた零に話しかけたのは零の友人である桜木泉莉(さくらぎせんり)である。彼女の家はかなり儲かっている商家ではあるが、貴族ではない。
もうお気づきだろう、そう、零がこの世界を乙女ゲームに似通った世界であると推測した大きな理由が彼女である。
彼女の容姿は、くすんだところのない綺麗な金髪に、雲ひとつない夏の空を切り取ったかのような青い瞳。美少女という言葉すら霞んでしまうのではないかというほど整っている顔立ちなのである。
因みに零は毛先だけに癖っ毛がでる黒髪に黒い瞳をした、至って普通の顔立ちをしている。見ようによっては整っているといってもいいかな?くらいである。

「余計なお世話なのよ、普通の何が悪いの?何かが突出していればそれだけ周りに攻撃される隙を作るだけでしょう。私は今世こそ長生きして家族孝行と友人孝行するって決めたのよ」
「零?いきなりどうしたの?」
「あぁ、何でもないのよ。泉莉は気にしなくて大丈夫よ」
「?うん、零が言うなら気にしないね」
(この子、将来騙されてそうなのよね。まぁ、私の友人を傷付ける存在なんて赦さないけど)

失礼いたしました。メタ発言が、入りましたこと、主人公に変わって作者が謝ります。
さて気を取り直して、皆様ももう予想がついていると思いますが、お付き合いください。
泉莉は光属性の魔力保持者である。そして、零は勿論だが、泉莉も学院に入学が決定している。
そして、学院に入る前だというのに、既に召喚獣が彼女と契約しているのだ。本来召喚獣との契約は、学院に入ってからするものである。学院に入るのは7歳から。
そんな諸々の事情から、泉莉はフェルタリアの民から姫巫女様の再来だと噂されている。

(どうしようかな、今更泉莉の友人である事をやめるつもりはないし。よし、仮に、いやもう確定事項な気はひしひしとしているけれど。この世界が乙女ゲームに似通った世界だとしても、私は私のやりたいようにやろう。なんか考えるの面倒になってきたし。というか、私の魔力属性は無属性な訳だし?召喚獣に関して言えば契約しなくても協力してくれる子は沢山いるし。うん、決めた)
「泉莉、私は貴方とずっと友人でいたいと思っているの。だから、今からは私達は親友よ。たとえどのようなことが起きようとも、私は絶対に貴方を裏切らないし助けてみせるわ。私の持てる全てをもって、ね」

そんな、これまででわかった世界の情報を整理しながら出した答えは、零らしいものだった。
そうして、そんな宣言をされた泉莉は一瞬目を丸くしたものの、すぐに満面の笑みを浮かべて零に告げた。

「私は零の親友よ!助けられるだけなんて嫌。親友って言うなら対等じゃなきゃ。だから、私も零を裏切らないし、零が困る事があったら・・・あるのかなぁ?まぁいいや!絶対に助けるわ!」

幼い少女2人は、互いの魂に誓い合った。その誓いは、幾年の年月を経ても破られる事のなかった誓いだ。
それを知っているのは、2人だけの厳かな誓いの儀式を精霊界で見ていた召喚獣だけである。
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