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ルフトシュロス学院 小等部

入学早々クラス分けテスト~1~

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入学式を終え、新入生達は校庭へと案内された。零と泉莉も、他の生徒達と同様に何のために校庭にいるのかわからず、少しばかり困惑している様子だった。
新入生達の空気がざわつき始めた頃、8人の教師と思われる大人達が近づいてきたので、ホッとしたように教師へ注目が集まる。

「まずは皆さん、ルフトシュロス学院に入学おめでとう。私はルフトシュロス学院小等部の主任教師を務めている東宮絢瑪(とうぐうあやめ)だ。他の先生達も紹介しよう。私の左に立っている先生から、Aクラスの担任の絢藤要(あやふじかなめ)、Bクラスの担任の御剣疾風(みつるぎはやて)、Cクラスの担任の藤宮繭(ふじみやまゆ)、Dクラスの担任の一条夏流(いちじょうなつる)、Eクラスの担任の一条冬樹(いちじょうふゆき)、この2人は双子なんだ。でも、全然似てないから間違えないと思うよ。Fクラスの担任の浅川龍也(あさかわたつや)、そして、Sクラスの担任の篠宮空木(しのみやうつぎ)だ。覚えたかな?」

絢瑪の言葉に生徒達は元気にはーい、と返事を返しているが、零はとりあえず自分の担任になる人の名前だけを覚えておけばいいだろうと考えていた。
そして、何よりもなんとなくではあるが教師の中の1人に微かに違和感を感じていたのだ。
零はそれこそ物心がついて、世界の情報を得た時から自らの目標の害になり得るものがないようにと、自分なりに前世のオタ記憶を駆使しつつ訓練を重ねてきている。
だからこそ、零は自身の感じた違和感を無視できずにいた。

(なんか、わかりそうでわからないわね。仕方ない、この件は後回しね。それよりも、この校庭に新入生を集合させた意味の方が今は重要だし)

だが、勘ではあるが違和感を感じる人物が、零や泉莉を害するような存在ではないとも感じていたため、とりあえずは後回しにして、絢瑪の言葉に集中した。

「君達を校庭に案内したのには理由があるんだ。突然だけど、今からクラス分けのテストを行うよ。テスト内容は単純な学力テストと、実際に魔力を使う実技テストの2つだ。テストをする理由については、たった1つ。一クラス違うだけで君達の魔力、学力にかなりの差が生じるからだ。当然ながら上のクラスに下のクラスの子はついていけない。下手についていこうとすれば、2度と魔法を使えなくなり、最悪の場合死に至る。だからこそ、大事な試験なんだ。いいね?真剣にやってくれ」

絢瑪の説明は、7歳の子供には少しばかり難しかっただろうが、彼の真剣な表情に生徒達は素直に頷いた。零は学院に来る前までは、いや、正確には先程絢瑪が説明するまでは多少なりとも手を抜こうと考えていたが、よくよく考え直せばそれは、自分ではなく周りを危険に晒す行為なのだと気付いた。
面倒ではあるが、零は死がどういうものか、本当の意味で理解している。自身が味わったあの絶望を、自分よりも精神的に幼い子供に味合わせる気は毛頭ないため、真剣に試験を受けることにした。

「泉莉、私真剣に試験を受けます。泉莉もそうなさい」
「いいの?」
「別に構わないわ、真剣にやるとは言いましたが、本気を出すとは言ってないでしょう?唯、恐らく私達の魔力保持量はSクラスに相当するでしょうから、Sクラスに入れる程度で済ませましょう」
「うん、本気を出したらそれこそ、色んなのに狙われて面倒だもんね!」

初めに泉莉にはある程度手を抜いて学院生活を送ると言っていた零の突然の指針転換に泉莉が聞き返すと、零なりの理由をきいた泉莉は、納得したのか、ニッコリと笑いながら毒を吐いた。
流石に零と親友となり、年月を共に経てきただけはあり、泉莉は零の影響を受けてなのか、それとも元々その素養があったのか、少々イイ性格になっているようだ。閑話休題。

「さて、じゃあ試験を始めようか。まずは学力テストを行おう」

そう言った絢瑪は、どこからか取り出された問題用紙を配り始めた。そこで困惑したのは零達だ。

(いや、机も筆記用具もない状況で何をどうしろと?)

怪訝そうに眉を寄せながら絢瑪を凝視していると、そんな生徒達の疑問に気付いたのか、絢瑪はほのかに苦笑を漏らした。

「大丈夫、筆記用具は必要ないんだ。まぁ、始めればすぐに理解できるから」

多くの生徒達の困惑をものともせず、学力テストは開始された。
だが、絢瑪の言葉通り開始されてすぐに筆記用具の不要性が理解できた。何故なら、問題用紙に書き出されていた問題が目の前に浮かび上がり、頭に浮かんだ答えが書き込まれていく。

(へぇ、面白い魔法式ね。水属性と土属性の魔力融合魔術式、かな?)

流石に全国家共通の魔法学院だけはあり、学院の教師陣の実力は相当なものなのだろう。魔術式を読み取りながら、簡単だと感じてしまう問題の答えを思い浮かべていく。
そうこうしている間に時間になったらしく、風によって問題用紙が集められていく。その場で採点が行われ学力が上位の者達から順に並べられていく。
零は泉莉よりも少しばかり上だったらしく泉莉と零の間に何人か生徒が並んでいる。

(あら、少し取りすぎたわね。泉莉とクラスが分かれることにはならないでしょうし問題はないかな)

多少は学力に差が出てしまったものの、最重要視されるのはこの後にある魔力量の試験だろうと確信を持っていたので、泉莉と勉強会などをして学力は合わせることに決めた零は魔力量の試験の開始を待つことにした。
確信はないが、Sクラスになる者は限りなく少ないだろうと予想しつつも、今の時点でかなりの魔力を感じる数人にチラリと視線を流せば、そこにある将来有望そうな顔面偏差値の高い集団が目に入り、手を抜かないと宣言した事を少しだけ後悔している零だった。

「うん、まぁある程度は予想していた通りの並びになっているね。この学院が魔法学院でなければ、この並び順にクラスを分けていくけど、ここは皆も知っている通り、魔法学院だ。今から魔力量の試験を、開始するよ。試験内容は、召喚獣を召喚して契約する。それだけだね」
「あのー、センセーそんなので魔力量の試験になるんですかぁ?召喚獣との契約は学院に入学したらするっていうのはお兄様に聞いていたけれど・・・」
「うん?君は確か相谷美菜さんだね。召喚獣の召喚と契約にはその人の魔力が関係してくるんだよ。だから、下手な試験をするよりも召喚獣との契約をした方が断然早いんだ」

絢瑪の説明により生徒達は納得する事ができたのか、はたまた、単純に早く自分だけの召喚獣と契約をしたいだけなのかは定かではないが、他に疑問をぶつける生徒もいなかったため、早々に教師陣総出で召喚の準備に取り掛かる。
とはいっても、何事にも例外はあるもので。泉莉がどうしたものかとオロオロしているのを見た零は仕方なしと言わんばかりに溜息を吐き、絢瑪に告げた。

「東宮先生、泉莉は既に召喚獣と契約を結んでいるので、召喚獣を呼び出し、その召喚獣を先生方で見極めるという形を取っていただいてもよろしいでしょうか?」
「っと、あー、申し訳ない。そうだね、そうしようか。学院に入学する前に契約を結ぶ子は稀だけれど他にもいたから、問題ないよ」
「だそうよ、泉莉。あの子を呼んであげなさい」
「うん、ありがと零。我と契約を結びしモノ、我の呼び声に応え、リヒト」

絢瑪の言葉にホッと安堵して、泉莉は契約獣を呼び出した。
優しい光と共に現れたのは、伝説にすらなっている存在、フェニックスだった。
周りの生徒達はその神々しさに呆気をとられ、教師陣も、まさかフェニックスが契約獣となっていたとは思いもよらず、しばし呆然としていたが、すぐに気をとりなおし泉莉にSクラスである事を宣言した。
それを聞いて泉莉はリヒトに呼び声に応えてくれてありがとう戻っていいよと伝えた後、零に向かって可愛らしくピースを送ってくるので小さく笑いながら頷いて零は自分の番になるまで、すでにクラスが確定した泉莉と共に他の生徒達の召喚獣との契約を観察する事にした。

「予想通りですが、やはりSクラスになれるほどの魔力量の保持者は中々いないようですね」
「なんだか変な感じだね、私の父さんと母さんも一般的な魔力量よりは多いくらいだったし、零のお父さんとお母さんはかなりの魔力量の保持者だったからかな?」
「付け加えて言うなら、本来魔力量が多い人間はあまり産まれないものです。そうですね、住んでいる場所や、血筋にもよりますが、昔話として伝えられている勇者などの家系の者ならともかく私や泉莉のような者が稀なのです。ですから、あまりそのような事は人目があるところでは言わない方が吉です」

そんな事を2人が話している間にも、周りの生徒達の召喚獣との契約は滞りなく進んでいく。
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