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第5話『損な性格』
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そして俺はフェルトの案内のもと、とある宿泊施設に入った。
その個室でフェルトはベッドに腰かける。こちらをじっと見ながら、ひたすら待ち続ける。
「どうしたのさ、俺をじっと見て」
「いえ、私の様な子供を抱く男は、相手を支配したいと思っているから受け身でいろと教えられたので」
「だからさ、別にお前を抱こうとは思ってないって言ってるだろ?」
「私には、これしかありませんから」
その言葉を聞くと、とても悲しくなる。それと同時に、俺に与えられた自由はあまりにも幸福なものだと実感させられる。ドロップアウトしても、こんなところでぐずっていられること自体、自由があるからこそ出来ている事。
それすらも許されない彼女は――あまりにも可哀想だ。
だから思わず彼女の頭を撫でてしまった。
おさわりしたからお金が発生とか、そんなのないよね?
「…………」
何も言わずに、ただこちらを見続けるフェルトは、やはり無表情だった。
一体何を考えているのだろうと思うが、当然表情からは察することが出来ない。
なんで俺の顔をじっと見ているのだろう。
「どうした? もしかして、触った瞬間料金が発生しますとか、そういうんじゃないよね……?」
「そうですね。おさわり料でも貰いましょうか」
「あちゃー、そうなりますか。仕方がない、じゃあ、そのお金は――」
俺は言う。
フェルト自身が望んでいるかどうかは分からないけど、それは聞いてみなければわからない。
聞いてみなければ……何も始まらない。
「私を助けた成功報酬というのはどうでしょうか」
だけど俺が言うより先に、フェルトがそんな事を言い出した。
俺は問う。その言葉の意味はどういう事なのかを。
「君を助けるだって? どういう意味だい?」
「そのままの意味です。もし私を主様から解放していただけるのなら、私に触った代金はなしにしてあげます。ですが主様は、この街を取り仕切っている方です。私を連れて逃げたとなれば、あなたを殺して私を連れ戻すでしょう」
「やっぱりお前の主はここのボスってか」
「はい、ですから無理であるのなら――」
無理だって?
いきなり諦めるだなんて論外だ。だからフェルトの言葉を遮って俺は言う。
「だけど関係ないね。俺はお前さんのボスのところまで乗り込んででもお前を助けたい。こうやって関わっちまって、やりたくないだなんて言葉を吐かれたら、嫌でも助けたくなっちまう。こんな性格だからいつも損な役回りだけどね」
どうやって助けるかって?
そんなの分かるわけない。だって、これは完全な思い付きなんだから。
無責任だって?
承知の上だよ。だけど助け出す事が出来たら少なくともフェルトは幸せな人生を歩めるかもしれないんだ。だったらやっちゃるしかないだろうが。
じゃあ、そこまで言うなら必ず成功させろって?
当たり前だろうが。言ったからには必ずやり遂げる。それが男ってもんさ。
「あなたはおバカさんですね。今まで見た事も聞いた事もないおバカさんです」
「知ってるよ。だから俺はこんなところでグズってんだ」
「信じてもいいですか」
「おうよ。任せとけ!」
「分かりました。では、主様のところまでご案内します」
4
俺が案内されたのはアウトローなやつらが溢れかえっているスラム街というべき場所。
薄暗くて、ホコリっぽくて、今まで知らなかった世界がそこにあった。
別にビビってなんかない。
たしかに顔に傷があるスキンヘッドの野郎とか、ナイフをシャキンシャキン音を出しながら気味の悪い笑い声をあげている奴もいる。
とにかくおっかない人たちばかりいる場所だけど、俺は明確な目的を持ってここに来たんだ。
迷い込んだ子猫ちゃんじゃない。
「こちらです」
「お、おう……」
だけど声は情けないほど震えてる。
これでビビってないとか、子猫ちゃんじゃないとか、良く思えたものだ。
「主様、ただいま戻りました」
「フェルト、そちらのお方は……どなたかな?」
少しだけ大きな事務所のような場所、その一階のとある部屋に連れてこられた俺は、その主様とやらに会った。
黒いハットと黒いスーツを着た中肉中背の男。
こいつがこの街を取り仕切っている支配者。金・暴力・セックス。そのすべてを手に入れた奴が目の前の男。この俺とは正反対の、根っからの悪人。
「ナオシ=サカイさんです。主様にお話があるそうで、連れてきました」
「そうか。で、お客様? 何か失礼な事でもありましたでしょうか?」
「…………」
言え! 言うんだナオシ=サカイ! 俺は何をしにここに来た? 足を震わせている暇なんてないんだぞ、分かっているのか?
さぁ、言っちまえ。テメェの考えている事、洗いざらい吐いちまえ。
「お願いがあるのですが……」
「なんでしょう?」
「フェルトを……買いたいと思っています。いくらで――譲っていただけますか?」
「そーだねぇ。ソイツはとびっきりの上玉で、珍しく銀髪と来た。これからいくら稼げるかを考えると……さしずめ一〇〇〇万シャムってとこか?」
分かっていた。俺みたいなやつが一生かかっても稼げないような金額を要求されるだなんて事は。
だから最初から払うつもりなんて毛頭ない。
「一〇〇〇万! 困ったなぁ、そんな金額すぐには用意できないよ」
「ではお引き取り――」
黒スーツの男が言い終わる前に、俺は言葉を挟み込む。
「出世払いで付けとくってのは、ダメっすか?」
「おい、ガキィ……!! 俺はやさしいから忠告しといてやるが、ここはお前の様な奴がケンカふっかけて良いような場所じゃねぇんだぞ」
正直おしっこちびっちまいそうな迫力があった。やはり本物は違う。
街の不良どもなんかごっこ遊びの様に感じちまうくらいに、醸し出すオーラからして違う。本気で殺しにかかったら、俺なんか一瞬でハチの巣にされる。
鉛玉ぶちこまれて昇天必須だ。
「そんなの承知の上で言ってんだ。俺は本気だぜ? 金もなしにこんな要求するからには、手ぶらで来るわけないじゃん」
「ふ、ふふふ、あははははははは! こりゃ驚いた。この世には、こんな阿呆がいるとはな」
「ホント、こんな阿呆が世界中、どこ探しても中々いないですよ。だからさ――」
俺は宣言する。
この世から隠されていた、未知なる力を今この手に……!
フェルト、この俺に力を貸せ。
「ジェネレート! コード:フェルト!」
そして俺はフェルトの案内のもと、とある宿泊施設に入った。
その個室でフェルトはベッドに腰かける。こちらをじっと見ながら、ひたすら待ち続ける。
「どうしたのさ、俺をじっと見て」
「いえ、私の様な子供を抱く男は、相手を支配したいと思っているから受け身でいろと教えられたので」
「だからさ、別にお前を抱こうとは思ってないって言ってるだろ?」
「私には、これしかありませんから」
その言葉を聞くと、とても悲しくなる。それと同時に、俺に与えられた自由はあまりにも幸福なものだと実感させられる。ドロップアウトしても、こんなところでぐずっていられること自体、自由があるからこそ出来ている事。
それすらも許されない彼女は――あまりにも可哀想だ。
だから思わず彼女の頭を撫でてしまった。
おさわりしたからお金が発生とか、そんなのないよね?
「…………」
何も言わずに、ただこちらを見続けるフェルトは、やはり無表情だった。
一体何を考えているのだろうと思うが、当然表情からは察することが出来ない。
なんで俺の顔をじっと見ているのだろう。
「どうした? もしかして、触った瞬間料金が発生しますとか、そういうんじゃないよね……?」
「そうですね。おさわり料でも貰いましょうか」
「あちゃー、そうなりますか。仕方がない、じゃあ、そのお金は――」
俺は言う。
フェルト自身が望んでいるかどうかは分からないけど、それは聞いてみなければわからない。
聞いてみなければ……何も始まらない。
「私を助けた成功報酬というのはどうでしょうか」
だけど俺が言うより先に、フェルトがそんな事を言い出した。
俺は問う。その言葉の意味はどういう事なのかを。
「君を助けるだって? どういう意味だい?」
「そのままの意味です。もし私を主様から解放していただけるのなら、私に触った代金はなしにしてあげます。ですが主様は、この街を取り仕切っている方です。私を連れて逃げたとなれば、あなたを殺して私を連れ戻すでしょう」
「やっぱりお前の主はここのボスってか」
「はい、ですから無理であるのなら――」
無理だって?
いきなり諦めるだなんて論外だ。だからフェルトの言葉を遮って俺は言う。
「だけど関係ないね。俺はお前さんのボスのところまで乗り込んででもお前を助けたい。こうやって関わっちまって、やりたくないだなんて言葉を吐かれたら、嫌でも助けたくなっちまう。こんな性格だからいつも損な役回りだけどね」
どうやって助けるかって?
そんなの分かるわけない。だって、これは完全な思い付きなんだから。
無責任だって?
承知の上だよ。だけど助け出す事が出来たら少なくともフェルトは幸せな人生を歩めるかもしれないんだ。だったらやっちゃるしかないだろうが。
じゃあ、そこまで言うなら必ず成功させろって?
当たり前だろうが。言ったからには必ずやり遂げる。それが男ってもんさ。
「あなたはおバカさんですね。今まで見た事も聞いた事もないおバカさんです」
「知ってるよ。だから俺はこんなところでグズってんだ」
「信じてもいいですか」
「おうよ。任せとけ!」
「分かりました。では、主様のところまでご案内します」
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俺が案内されたのはアウトローなやつらが溢れかえっているスラム街というべき場所。
薄暗くて、ホコリっぽくて、今まで知らなかった世界がそこにあった。
別にビビってなんかない。
たしかに顔に傷があるスキンヘッドの野郎とか、ナイフをシャキンシャキン音を出しながら気味の悪い笑い声をあげている奴もいる。
とにかくおっかない人たちばかりいる場所だけど、俺は明確な目的を持ってここに来たんだ。
迷い込んだ子猫ちゃんじゃない。
「こちらです」
「お、おう……」
だけど声は情けないほど震えてる。
これでビビってないとか、子猫ちゃんじゃないとか、良く思えたものだ。
「主様、ただいま戻りました」
「フェルト、そちらのお方は……どなたかな?」
少しだけ大きな事務所のような場所、その一階のとある部屋に連れてこられた俺は、その主様とやらに会った。
黒いハットと黒いスーツを着た中肉中背の男。
こいつがこの街を取り仕切っている支配者。金・暴力・セックス。そのすべてを手に入れた奴が目の前の男。この俺とは正反対の、根っからの悪人。
「ナオシ=サカイさんです。主様にお話があるそうで、連れてきました」
「そうか。で、お客様? 何か失礼な事でもありましたでしょうか?」
「…………」
言え! 言うんだナオシ=サカイ! 俺は何をしにここに来た? 足を震わせている暇なんてないんだぞ、分かっているのか?
さぁ、言っちまえ。テメェの考えている事、洗いざらい吐いちまえ。
「お願いがあるのですが……」
「なんでしょう?」
「フェルトを……買いたいと思っています。いくらで――譲っていただけますか?」
「そーだねぇ。ソイツはとびっきりの上玉で、珍しく銀髪と来た。これからいくら稼げるかを考えると……さしずめ一〇〇〇万シャムってとこか?」
分かっていた。俺みたいなやつが一生かかっても稼げないような金額を要求されるだなんて事は。
だから最初から払うつもりなんて毛頭ない。
「一〇〇〇万! 困ったなぁ、そんな金額すぐには用意できないよ」
「ではお引き取り――」
黒スーツの男が言い終わる前に、俺は言葉を挟み込む。
「出世払いで付けとくってのは、ダメっすか?」
「おい、ガキィ……!! 俺はやさしいから忠告しといてやるが、ここはお前の様な奴がケンカふっかけて良いような場所じゃねぇんだぞ」
正直おしっこちびっちまいそうな迫力があった。やはり本物は違う。
街の不良どもなんかごっこ遊びの様に感じちまうくらいに、醸し出すオーラからして違う。本気で殺しにかかったら、俺なんか一瞬でハチの巣にされる。
鉛玉ぶちこまれて昇天必須だ。
「そんなの承知の上で言ってんだ。俺は本気だぜ? 金もなしにこんな要求するからには、手ぶらで来るわけないじゃん」
「ふ、ふふふ、あははははははは! こりゃ驚いた。この世には、こんな阿呆がいるとはな」
「ホント、こんな阿呆が世界中、どこ探しても中々いないですよ。だからさ――」
俺は宣言する。
この世から隠されていた、未知なる力を今この手に……!
フェルト、この俺に力を貸せ。
「ジェネレート! コード:フェルト!」
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