愛されたいだけなのに

まさお

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閉じこもりノアと使用人

12.

その日1日は何事もなく過ごすことが出来た。
アイクのように僕の行動を先回りして対応するなんてことは出来なかったけど。
それでも僕が不自由のないように動いてくれた。

あれから1週間程経つ。
アイクは未だに姿を見せない。

あちらから話してくることもないし僕も話すのは苦手だから重い空気がずっと張り詰めている。

沈黙が辛くて僕が話しかけても直ぐに会話は終わってしまう。

ある時は、

「ぁ、あの!いつまでの期間なの、僕の使用人っていうのは」

「特には聞かされていないです。」

「そう……」

こんな日も、

「あの、花は好き?」

「美味しいのは好きです。」

「お、美味しい?食べるの?」

「まあ…腹が………お腹がすいたら」

「花の名前は?」

「さぁ……食べれればよかったんでそこまでは」

「そう…」

…こんな様子でとにかく話が終わるのか早い。どちらも多くは喋らないせいか、上手く続かなかった。
カーディは目も合うことが少ないし、無表情で何を考えているかも分からない。

正直少し怖い。

言葉遣いも頑張って丁寧にしようとしているのだろうけど、時々気が抜けると悪くなる。

そしてご飯の時間になるといつもお腹がなっている。
主人の方がはやく食べるから、それまでは隣にいる。
その時、いつもは無表情のカーディがそわそわし始めるのだ。
あまりにお腹がなるから、「食べていいよ、」と言ったのだが、「いえ、後で食べれるので。」と頑なに譲らなかった。

根は真面目な人なんだろうな、とそういった部分を見る度に思う。

最初は力が入って少し痛かった髪をとかすのも、とても上手くなった。
まだぎこちなさとたまにグッと力が入ることもあるけど。

ーーー
あれから数日が経ったけど一向にアイクは現れなかった。

事務仕事がそれだけ忙しいのだろうか。
それとも本当に僕の専属であることを辞めてしまったのだろうか。

僕がこんなだから嫌気がさしたのかな……。

そんなマイナス思考になるけど、アイクはずっと一緒にいてくれると約束してくれたのだ。
アイクを信じる。

しかし、カーディはあれからずっと僕を遠くから見ている。
何をするでもなく、ただずっと。
なにか頼めば動いてくれるし、自分の仕事があれば離れる。
けどそういったことがない時はただ後ろからじっと見てくるのだ。

「……あの、なにか仕事あるならしてきていいよ?」

「いえ、特にないので。」

こんな調子で会話も少ない。
ただずっと見られていて居心地が悪いのだ。

しかし、どうして急に僕の使用人になったのだろうか。
誰からも聞かされていない。
恐らく僕が人に会うための訓練のようなものだと思うのだが、少々荒治療じゃないか。
いや、僕が臆病なだけか……。

「あの、」

「なんですか。」

「花に水を上げたいから水をくんできてくれない?」

「わかりました。」

そう言ってフロリスタンさんから貰った花を飾っている棚から小さいジョウロを取り出して水をくみに行く。

僕がお願いをすれば一応動いてくれる。
動かない表情では何を考えているかわからない。

居心地が悪い。アイク、どこで何してるの。
早く戻ってきて。

いないアイクに八つ当たりをする。

扉をノックしてカーディは入ってきた。
中には水がたっぷり入っている。

「お待たせしました。」

「ありがとう……うわっ……」

受け取るといつもより重くて思い切り腕が下に落ちる。
そのまま落ちてジョウロに入った水が床をぐっしょりと濡らす。

「ぁ!ごめんなさいっ……!」

「お怪我ないですか?すみません、俺が悪いです。」

拭くものを持ってきます、と言って外へ出ていく。
僕はこれ以上被害が広がらないように部屋にあるものでどうにか水が広がらないようにする。

幸い絨毯には水がかかっていない。

「すみません、拭きますね、」

「僕も、」

カーディからタオルを受け取って2人で床を拭く。
僕は罪悪感でいっぱいだった。
初めて来てやることが床掃除なんて。
僕の使用人なんて、可哀想だ。

「……坊っちゃまは不思議な方ですね。」

「え?」

カーディは床を拭くのをやめて僕を見つめる。
その視線がむず痒くて視線を逸らしてまた床を拭く。

カーディも床をまた拭き始めて、水分を全て取る。
もう大丈夫だろう、と水をたっぷり含んだタオルをカーディに渡す。

「洋服も変えましょうか。」

シャツとズボンが濡れていることに今気がついた。それなりに濡れていて、意識すると段々感覚が気持ち悪くなっていく。

「…うん。着替えたい」

はい、と言ってまた外に出ていく。

カーディが持ってきた服はシンプルなデザインのシャツと短パンだった。
アイクはいつもフリルが着いたりリボンが着いた可愛い感じのを選ぶ。
カーディの持ってきた服はワンポイントに赤い薔薇の刺繍がされていて、とても素敵だ。

「お着替え手伝いますね。」

そういってまた不慣れな手つきで服を着替えさせてくれる。

「……あ、すみません、ボタンかけ違えてました…。」

先程の僕のようだ。
思わずふふ、と声が出る。

「ぇ、怒るとこじゃないんですか」

「え?いや、僕もさっき同じことしたから。」

「貴族様でも自分で着替えるんですね。」

「いや、初めてやったの。でも、難しいね。」

カーディは小さいボタンに苦戦しつつも僕より上手につけた。
サスペンダーだって簡単につけれる。
僕より凄い。

「ありがとう、僕一人じゃ着替えれなかった。」

「……いえ、俺は坊っちゃまの使用人ですから。」

「ごめんね」

「え」

何が?と言いたげなカーディを誘って椅子に座らせる。

「僕、外に出るのが怖いんだ。この前、久しぶりに外に出た。でも、やっぱり怖くなってそれから出れてない。」

カーディはただじっと僕を見て話を聞いている。

「だから、こんなのが主人でごめん。
嫌だったら別の家族に変えてもら……」

「変えません。俺は坊っちゃまがいいです。」  

僕の言葉に重ねて否定してくる。
どうしてまだであったばかりの僕にここまで……。

「…俺も外は嫌いです。
大人も嫌い。貴族も嫌い。ここの人達はいい人だから怖くない。
けど、外は汚いから。」

僕もカーディをじっと見つめ直す。
「少し昔の話をしてもいいですか?」と聞いてきたから僕は頷く。

「俺は母親に捨てられて孤児院に行きました。母親は俺より貴族との結婚を選んだんです。前の孤児院の奴らも酷かった。
暴力だって振るうし飯はよこさないし毎日皆飢えてました。
そのくせ自分たちは毎日酒飲んで肉をたらふく食って……!
毎日ふざけんな、殺してやるって思ってた。
そんな時に坊っちゃまのお父さんが俺たちを救ってくれた。
新しい孤児院で過ごさせてくれて医療もちゃんと受けさせてくれた。
だから、俺はこの屋敷に選ばれてからしっかりしようと思ったんです」

途中から言葉遣いが乱暴になったのは、彼の気持ちが昂ったからだろう。
怒り、苦しいが彼の表情や強く握られた拳からひしひしと伝わってくる。

「そうだったんだ。」

「はい。だから坊っちゃまの気持ち、わかる気がするんです。坊っちゃまが何をされてきたのかは分からないですけど人が怖いという気持ちは、痛いほどわかります。」


僕はただこの状況を甘んじているだけだ。
過去に縛られて前に動けないだけで。
だけど、過去の自分が少し救われたような気がした。
痛みや苦しみは無くならないし思い出すだけで死にたくなるぐらい辛い。

そんな気持ちを共有できる人がいるということが不謹慎だけど嬉しいと思った。

グッと握られたままの拳を包むように僕の手を乗せる。

「僕と乗り越えてくれる?」
感想 7

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みんなの感想(7件)

あい
2026.04.27 あい

なんで父親は兄弟を野放しに……

解除
なお
2026.04.26 なお

いつも次が出るのをいつも楽しみにしてます(≧∀≦)ノアの切ない気持ちや大好きな人に殺されてしまうなんて辛いけど(TдT)ノアが何度も回帰してるのはノアが幸せになるためであってほしい(TдT)って願ってます。
次回楽しみに待ってます!ノア頑張れ〜!!

2026.04.26 まさお

コメントありがとうございます!
ノアが幸せになれるよう頑張ります!

解除
にゃ王さくら
2026.04.24 にゃ王さくら

無実のノアを惨殺した兄弟には記憶は無いんだ?
君達は幸せでいいね。

解除

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