夢ノコリ

hachijam

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上京する夢

1.

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その夢の中で、僕はテレビで見かけるお笑い芸人の片割れだった。ただ、まだ芸人として活躍するずっと前の事みたいだった。感覚としては20歳前後と言うところだろうか。ただ、その顔は僕が知っているお笑い芸人の人と同じ顔で、もうすでに40歳を過ぎているその芸人さんの顔のまま20歳前後を演じているのは何とも奇妙な気もする。ただ、それは夢の中の話なので、気にするべき事ではないのかもしれない。実際、夢の中ではそんな事、誰も気にしていなかった。そもそも何で、僕がその芸人さんの役回りを演じているのかも良く分からない。

僕は自転車に乗っていた。彼女を駅へと送るためだった。その彼女はどこかで見たような記憶がある。ただ、はっきりと誰かと言う事は分からない。二人の関係性も曖昧だ。お互いに好意を持っている事は確かなようだが、明確に彼女、彼氏と言っていいのかも良く分からない感じだった。その二人が自転車で駅へと向かっていた。

彼女は都会へ出て、歌手になるという夢を持っているみたいで、その彼女を見送ろうとしていた。彼女が上京する事は、親にも内緒にしている事で、僕と僕の相棒だけがそのことを知っていた。正確に言えば、僕の相棒が気づいて、僕に教えてくれたのだった。

僕は慌てて彼女の元へと向かった。彼女は、丁度、家を出るところだった。その彼女の事を引き留めようとして、僕は何も言えないと思う。結果、僕は彼女を駅まで送る事になった。

駅まで送る道の間、僕と彼女の間に会話は無かった。ただ、これまでの二人の思い出がよみがえってくる。その中には相棒の姿もあって、いろいろと馬鹿な事をやっていたのを思い出す。その二人の様子を見て、時々、呆れたような表情をするのが印象的だった。

「いつかは大物芸人になる」

と言うのが、僕の相棒が語っている事だった。でも、結局、僕と相棒は何もせずに、そこにとどまり、彼女は都会へ出て夢へ挑戦しようとしていた。そんな彼女に僕は何を言えるのだろうか。

だんだんと駅が近づいてくる。何かを言わなければいけないという思いが強くなるのと、同じくらい何も言えないという思いも強くなってきた。このままで良いのか、じりじりとした気持ちが強くなってきた。

「ありがとう」

そんな僕の事を知ってか、彼女がそう言った。ただ、僕と視線を合わす事なく、ポツリとつぶやいた事だった。彼女自身、何に対して、お礼を言ったのかも分かっていないのかもしれない。

そんな事を思った。
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