夢ノコリ

hachijam

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上京する夢

5.

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ガラガラの教室の真ん中からちょっと後ろの方に僕は座っていた。こういう講義の場合、大体が後ろの方に座っている学生が多い。別に誰かが決めたルールではないと思うけど、自然とそんな風になっている。その中で、その人は真ん中の席からちょっと前の席に座っていた。

それだけだったら、特に何の違和感も感じなかっただろう。実際、一番前の席に座って熱心に講義を聞いている学生も全くいない訳では無かった。何が気になったのだろう。あんまり見た事ない人だなとすぐに思った。ただ、全員をちゃんと知っているかと言われれば分からないし、服装とか髪型とか変わっていたら、気が付かないかもしれないとも思った。それでも何となく引っかかっていた。

その人はノートを取るでもなく、ただ、そこにいて、講義を聞いているというだけだった。その姿は何だか不思議に思えた。大学の講義では熱心な学生はノートを取るのに必死で、熱心ではない学生は顔を伏せたまま眠っている事が多い。だから、頭を伏せたよう姿になっている事が多い。そのどちらでもなく、ただ前を向いてじっと講義を聞いているのは珍しく感じた。

その姿が奇妙だと思ったのだろうか。それはあるかもしれない、そう納得する事にした。何となく眠気は覚めてきた。じっと、その人の事を見ている自分が気持ち悪いかもと一瞬だけ思う。何となく周囲を伺ってみるが、そんな事を気にしている人はいないみたいだった。みんなはあの人の事を不思議に思わないのかなと思った。とは言え、積極的に声をかけるほど親しい人が周囲にいない状況では同意を求める事も出来なかった。

気が付いたら、また、じっとその人の事を見ていた。何となく惹かれているのかなと思った。と、思った瞬間、その人はゆっくりと振り返った。慌てて、視線を逸らそうと思ったが、視線を逸らす事が出来なかった。その人はそのことを知っていたかのように僕の方を見つめ…。

バチっと頭をはたかれた音と衝撃で僕は目を覚ました。

一瞬、何が起きたのか分からない状況になる。

あれ、ここはどこだ、と思っていたら、目の前に充がいた。僕の頭を叩いたと思われる教科書を持っていた。

「寝すぎだろう」

ニヤニヤして言った。慌てて時計を見ると、すでに講義は終わっていた。どうやら講義の最中にウトウトしてそのまま寝てしまったようだ。

「講義が終わったから休憩していたんだよ」

と、無理な言い訳をする。

「素敵な夢でも見てたんじゃないの」

そんな事を言う。ふと夢の事を思い出す。振り返ったその人の顔は…思い出せなかった。誰かに似ていたような気もするし、似ていなかったのかもしれない。その顔をちゃんと見る前に起こされてしまったからなのか、もしかしたら、表情が無かったとか、のっぺらぼうだったとか、そんな事まで思ったが、その答えは出ないままだった。
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