15 / 275
上京する夢
6.
しおりを挟む
その日の講義は朝から始まり、午後までびっしりと埋まっている。その中で必修で、しかも、教授が厳しい講義と言うのも存在している。居眠りしていた学生を叩きだしたという逸話があると言われている教授で他の講義とは空気が違っている。ただ、講義自体は退屈で、ほとんどがその教授の自慢話と思えるような話が延々と続くだけだった。
ある意味でこれは修行なんだと、三ヶ嶋君が言っていた事を思い出した。出席する講義には真剣に取り組む、三ヶ嶋君でさえそんな事を言うぐらいだった。その日のその講義もそんな感じだった。
僕はと言うと、朝は早かったが、その前の講義で寝ていたからか、眠気は無かった。もしかしたら、また居眠りしているのかもと少し思った。それを確かめる術はないような気もしたけど、今回は大丈夫だろうと確信する。そう思っている事が夢ではない証拠のようにも思えた。周囲を伺うとみんな眠気と戦っている。充に関しては半分眠っているような物だった。退屈な講義の中、僕はノートに、
朝一の講義、見知らぬ人、振り返る、顔は見えない。
とメモする。さっき見た、夢の事だ。そう書くと、今朝見た夢とのつながりを感じた。冷静に考えれば、どこにつながりがあるのか分からない。ただ、その時にはつながっているように思えた。
イメージとして、顔が見えなかったはずのその人の顔が、上京した彼女の顔と重なってきた。一度、そう思うと、それは間違いない事のように思えた。彼女は上京して大学に行ったのだろうか。そして、僕の役回りを思った。さっきの夢の中では、僕は僕だった。と言う事は、彼女を見送って、都会まで追いかけてきた彼役の僕はどこに行ってしまったのだろう。
彼女は一人だった。少なくとも講義は一人で受けていた。そして、どことなく場違いな雰囲気も漂わせていた。何かいろいろとあったのかなと想像してしまう。きっと上京して歌手を目指したのは良いけど、苦労していたんだろうと思う。
苦労するのは分かっていたけど、あまりにも結果が出なくて疲れていた時に、ふと同世代の子が大学に通っている姿を見て、自分も大学生だったらとか、考えてしまったのかもしれない。それで、講義にもぐりこんだのかもしれない。
でも、そこまで悲壮感は感じられなかったから、大学に通いながら歌手を目指していたのかもしれないとも思った。いろいろと想像が浮かんでくる。その中には、僕が声をかけて、それをきっかけに付き合うなんてのも含まれて、ちょっとニヤニヤしてしまった。
と、三ヶ嶋君が肘で突っついてきた。何事かと思い、横を向くと、教室の前の方を指さしていた。その方向を見ると、教授が厳しい顔でこちらをにらんでいた。慌てて、ノートを取るふりをする。僕のその様子を見て、何事もなく教授は講義を続けた。
これじゃ、ただの妄想だなと僕は思った。
ある意味でこれは修行なんだと、三ヶ嶋君が言っていた事を思い出した。出席する講義には真剣に取り組む、三ヶ嶋君でさえそんな事を言うぐらいだった。その日のその講義もそんな感じだった。
僕はと言うと、朝は早かったが、その前の講義で寝ていたからか、眠気は無かった。もしかしたら、また居眠りしているのかもと少し思った。それを確かめる術はないような気もしたけど、今回は大丈夫だろうと確信する。そう思っている事が夢ではない証拠のようにも思えた。周囲を伺うとみんな眠気と戦っている。充に関しては半分眠っているような物だった。退屈な講義の中、僕はノートに、
朝一の講義、見知らぬ人、振り返る、顔は見えない。
とメモする。さっき見た、夢の事だ。そう書くと、今朝見た夢とのつながりを感じた。冷静に考えれば、どこにつながりがあるのか分からない。ただ、その時にはつながっているように思えた。
イメージとして、顔が見えなかったはずのその人の顔が、上京した彼女の顔と重なってきた。一度、そう思うと、それは間違いない事のように思えた。彼女は上京して大学に行ったのだろうか。そして、僕の役回りを思った。さっきの夢の中では、僕は僕だった。と言う事は、彼女を見送って、都会まで追いかけてきた彼役の僕はどこに行ってしまったのだろう。
彼女は一人だった。少なくとも講義は一人で受けていた。そして、どことなく場違いな雰囲気も漂わせていた。何かいろいろとあったのかなと想像してしまう。きっと上京して歌手を目指したのは良いけど、苦労していたんだろうと思う。
苦労するのは分かっていたけど、あまりにも結果が出なくて疲れていた時に、ふと同世代の子が大学に通っている姿を見て、自分も大学生だったらとか、考えてしまったのかもしれない。それで、講義にもぐりこんだのかもしれない。
でも、そこまで悲壮感は感じられなかったから、大学に通いながら歌手を目指していたのかもしれないとも思った。いろいろと想像が浮かんでくる。その中には、僕が声をかけて、それをきっかけに付き合うなんてのも含まれて、ちょっとニヤニヤしてしまった。
と、三ヶ嶋君が肘で突っついてきた。何事かと思い、横を向くと、教室の前の方を指さしていた。その方向を見ると、教授が厳しい顔でこちらをにらんでいた。慌てて、ノートを取るふりをする。僕のその様子を見て、何事もなく教授は講義を続けた。
これじゃ、ただの妄想だなと僕は思った。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる