夢ノコリ

hachijam

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上京する夢

6.

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その日の講義は朝から始まり、午後までびっしりと埋まっている。その中で必修で、しかも、教授が厳しい講義と言うのも存在している。居眠りしていた学生を叩きだしたという逸話があると言われている教授で他の講義とは空気が違っている。ただ、講義自体は退屈で、ほとんどがその教授の自慢話と思えるような話が延々と続くだけだった。

ある意味でこれは修行なんだと、三ヶ嶋君が言っていた事を思い出した。出席する講義には真剣に取り組む、三ヶ嶋君でさえそんな事を言うぐらいだった。その日のその講義もそんな感じだった。

僕はと言うと、朝は早かったが、その前の講義で寝ていたからか、眠気は無かった。もしかしたら、また居眠りしているのかもと少し思った。それを確かめる術はないような気もしたけど、今回は大丈夫だろうと確信する。そう思っている事が夢ではない証拠のようにも思えた。周囲を伺うとみんな眠気と戦っている。充に関しては半分眠っているような物だった。退屈な講義の中、僕はノートに、

朝一の講義、見知らぬ人、振り返る、顔は見えない。

とメモする。さっき見た、夢の事だ。そう書くと、今朝見た夢とのつながりを感じた。冷静に考えれば、どこにつながりがあるのか分からない。ただ、その時にはつながっているように思えた。

イメージとして、顔が見えなかったはずのその人の顔が、上京した彼女の顔と重なってきた。一度、そう思うと、それは間違いない事のように思えた。彼女は上京して大学に行ったのだろうか。そして、僕の役回りを思った。さっきの夢の中では、僕は僕だった。と言う事は、彼女を見送って、都会まで追いかけてきた彼役の僕はどこに行ってしまったのだろう。

彼女は一人だった。少なくとも講義は一人で受けていた。そして、どことなく場違いな雰囲気も漂わせていた。何かいろいろとあったのかなと想像してしまう。きっと上京して歌手を目指したのは良いけど、苦労していたんだろうと思う。

苦労するのは分かっていたけど、あまりにも結果が出なくて疲れていた時に、ふと同世代の子が大学に通っている姿を見て、自分も大学生だったらとか、考えてしまったのかもしれない。それで、講義にもぐりこんだのかもしれない。

でも、そこまで悲壮感は感じられなかったから、大学に通いながら歌手を目指していたのかもしれないとも思った。いろいろと想像が浮かんでくる。その中には、僕が声をかけて、それをきっかけに付き合うなんてのも含まれて、ちょっとニヤニヤしてしまった。

と、三ヶ嶋君が肘で突っついてきた。何事かと思い、横を向くと、教室の前の方を指さしていた。その方向を見ると、教授が厳しい顔でこちらをにらんでいた。慌てて、ノートを取るふりをする。僕のその様子を見て、何事もなく教授は講義を続けた。

これじゃ、ただの妄想だなと僕は思った。
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