落書きモノ

５．体を取り戻す方法を考える

３４．

ひとつの教訓として、誰かに呼びかける時には、その対象をはっきりさせた方が良いんだなと思った。例えば、大勢の人がいる中で、大声を上げて、誰かと叫んだら、その場にいる大部分の人が振り返るんだと思う。それに気が付かなかったのはうかつだった。

と言うよりも、大勢の人がいるような状況になっている事に気が付いていなかった事の方が問題なのかもしれない。二人いるから三人いるかもしれないとは思った。でも、三人いるからもっとたくさんいるだろうとは想像していなかった。だから、そこに現れた、たくさんの存在、僕と言って良いのかは分からないが、一気に現れた時にはとても驚いてしまった。

はっきりとした形で示されている訳ではないので、表現に悩むが、キノコみたいに身体のあちこちから生えてくるように、その存在は現れてくる。その存在は最初はひとつ、ふたつと出てきたが、徐々にその数を増やしていって、十や二十と言う数は飛び越えて、百や二百と言う数になってきた。ここで自分のやってしまった事に気が付いたのだが、その数は更に増えていく、百や千、万と言う単位も飛び越えていきそうだ。

もし仮に僕の細胞ひとつひとつに、こういう存在があったとしたら、どれだけの数になってしまうのだろうか。そんなことまで想像させるような増殖の仕方だった。ただ、あっけにとられた僕の意識を認識したのか、多くのその存在は自分が呼ばれたのではないと気が付くと、またすぐに姿をひとつずつ消していき、無限に増えるような事は無かった。

一気に現れて消えていく、中には呼ばれても様子を伺って出てこない物もいたのかもしれない。気が付くとそこには僕と僕の身体だけが残されていた。あっけに取られている僕、そして、僕の身体もただ呆然として、その場にいるだけだった。身体の方がその中にたくさんの存在を抱えていた事に驚いたのかもしれない。そして、沈黙がしばらく流れた後に、その存在が最後にゆっくりと現れた。直感的にそれが僕が呼びかけた本当の存在だと思った。

これが考えていた通りなのかと言うのは、また難しい問題だったが、とにかく、自分が期待していた存在がいて、その存在に呼びかける事に成功し、その呼びかけに答えてくれたというのは事実だった。もしかしたら、これで何もかもうまくいくかもしれないと思った。ただ、僕が呼び出してしまって、気が付いてしまった僕の中の存在が与える影響がどうなるのかは良く分からなかった。