103 / 155
5章.盗賊見習いと竜見習い
10.
しおりを挟む
それは三度目の見回りの最中だった。何の変化も無く、退屈だと感じた、その一瞬、事は今までに感じた事のない気配を感じた。それは心の奥底に響くような怖れを抱かせるようなものだった。思わず身震いしてしまった。慌てて周囲の様子を伺ったが、変化は感じられなかった。
(風邪でも引いたか)
そんな事を少し考えたが、それとは違っている気がした。すぐに報告に行くべきか悩んだが、何の証拠もなければ相手にされない気がした。気のせいだと言われれば、それまでだし、それをネタにされ、臆病者だから、怖気づいているから、何でも怖がるんだなんて言われたら目も当てられない。少し迷った後、もう少しだけ様子を探ってみる事にした。万が一、敵か何かを見つければ、自分の手柄に出来るかもしれない。そういう思いもあったからだ。注意深く、耳を澄ますと微かに木が擦れるような音がした。何かがいる事は間違いないと思った。人だろうか。それだったら、もっと大きな音になる気がする。動物か魔物だろうか。でも、特有な気配も感じられなかった。恐る恐るそこに近づいたコトが見たのは、これまで見たことも無かった魔物の姿だった。
リアリは少し油断をしていた。この先をどうするかと言う事を未だに考えて悩んでいたからだった。うっすらと何かが近づく気配と言うのは感じていたが、それを重要な事だとは考えていなかった。だから、驚くほどあっさりとコトに見つかってしまった。
コトは竜となったリアリの姿を見て、神々しさを感じてしまった。さっき感じた一瞬の怖れと言うのが何か分かった気がした。
リアリは、コトが自分の姿を見た時、どうしようかと少し迷った。このまま、何事も無かったように去ってしまうのもひとつの方法でそれが一番無難な気がした。珍しい魔物が一匹いたくらいでは大騒ぎにはならないだろうと思ったのだ。ただ、そうしなかった。あれこれと悩んでいたことから来た気まぐれか、それとも、コトの態度に興味を示したからなのか、分からなかったが、その場所に居続ける事をリアリは選んだ。
コトは恐る恐ると言う感じで、リアリに近づいていった。すでに自分の見張りとしての役割は忘れていて、目の前にいるリアリにだけ興味が移っていた。
「何だ、お前、珍しいな」
コトはリアリに話しかけてくる。言葉が通じると思っているというよりは、自分を落ち着かせるために声を発したという感じだった。
「愚かなる人間よ。私が何者か分かって声を掛けるのか」
その態度に、リアリは悪戯心がわいて、偉そうに語りかけた。
「な、なんだ、お前、喋れるのか」
「無礼な人間だ。人とはこれほど愚かなのか」
(風邪でも引いたか)
そんな事を少し考えたが、それとは違っている気がした。すぐに報告に行くべきか悩んだが、何の証拠もなければ相手にされない気がした。気のせいだと言われれば、それまでだし、それをネタにされ、臆病者だから、怖気づいているから、何でも怖がるんだなんて言われたら目も当てられない。少し迷った後、もう少しだけ様子を探ってみる事にした。万が一、敵か何かを見つければ、自分の手柄に出来るかもしれない。そういう思いもあったからだ。注意深く、耳を澄ますと微かに木が擦れるような音がした。何かがいる事は間違いないと思った。人だろうか。それだったら、もっと大きな音になる気がする。動物か魔物だろうか。でも、特有な気配も感じられなかった。恐る恐るそこに近づいたコトが見たのは、これまで見たことも無かった魔物の姿だった。
リアリは少し油断をしていた。この先をどうするかと言う事を未だに考えて悩んでいたからだった。うっすらと何かが近づく気配と言うのは感じていたが、それを重要な事だとは考えていなかった。だから、驚くほどあっさりとコトに見つかってしまった。
コトは竜となったリアリの姿を見て、神々しさを感じてしまった。さっき感じた一瞬の怖れと言うのが何か分かった気がした。
リアリは、コトが自分の姿を見た時、どうしようかと少し迷った。このまま、何事も無かったように去ってしまうのもひとつの方法でそれが一番無難な気がした。珍しい魔物が一匹いたくらいでは大騒ぎにはならないだろうと思ったのだ。ただ、そうしなかった。あれこれと悩んでいたことから来た気まぐれか、それとも、コトの態度に興味を示したからなのか、分からなかったが、その場所に居続ける事をリアリは選んだ。
コトは恐る恐ると言う感じで、リアリに近づいていった。すでに自分の見張りとしての役割は忘れていて、目の前にいるリアリにだけ興味が移っていた。
「何だ、お前、珍しいな」
コトはリアリに話しかけてくる。言葉が通じると思っているというよりは、自分を落ち着かせるために声を発したという感じだった。
「愚かなる人間よ。私が何者か分かって声を掛けるのか」
その態度に、リアリは悪戯心がわいて、偉そうに語りかけた。
「な、なんだ、お前、喋れるのか」
「無礼な人間だ。人とはこれほど愚かなのか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる