104 / 155
5章.盗賊見習いと竜見習い
11.
しおりを挟む
その言葉を聞いて、コトは馬鹿にされたと思ってしまった。
「何だ、お前、ふざけるなよ」
ついそう言ってしまった。さっき感じた怖れと言うのは無くなっていた。言葉を聞いた瞬間は驚いたが、言葉が通じるという事は意思が通じるというのを直感的に理解したからだった。だったら、文句を言っても良いと思った。しかも、利口そうなふりをしている気がして、それがコトを苛立たせた。
コトにとって恐ろしいのは、何を考えているのか分からない存在だった。動物や魔物を恐いと感じる理由はそこにあった。人でも何を考えているのか分からない人は恐い。でも、目の前にいる、得体のしれない物は、見た事は無くても、意思は通じると理解できたので、そう言っても大丈夫だと本能的に理解したようだった。
そう言われて、戸惑ってしまったのは、リアリの方だった。
「な、何だと、私は竜だぞ。分かっているのか」
威厳ある感じでその場を収めなかったのに、まるで子供のような反論しか出来なかった。
「竜?本当?」
疑わしそうにコトが言った。
「そうだ。竜だ。知っているだろう」
少し冷静さを取り戻してリアリが言う。
「竜は知ってるけどさ。お前が?本当に?」
コトも少し落ち着いたようだ。でも、疑いはちっとも消えていなかった。
「だって、竜って、もっとこう、大きな物だろ」
と、手を広げて説明する。
確かに物語で語られる竜と比較されると、リアリがちっぽけである事は否めなかった。
「ふん。いいさ、勝手にしろ」
今度はリアリがへそを曲げたように言う。
「お、おい。そんなに落ち込むなよ」
そんな様子に今度はコトが戸惑った。
「…、まあ、いいや。竜って事で、で、何でお前はここにいるんだ?」
話題を変えようという感じでコトが言った。
「…」
釈然としない気持ちが残ったままのリアリだったが、それとは別にその質問にどう答えるのか迷っていた。正直に偵察に来たことを告げるのは馬鹿らしい。偵察がばれてしまっては、自分の役割は果たせないし、偉そうにした手前、人に使われていると思われるのも嫌だと思ったのだ。
「愚かな人間に話す事は無い」
再び、威厳を取り戻したようにそう言ってみた。
「はいはい、分かりました」
威厳が無い事を見透かされたようにコトが言う。
その態度、苛立ちを感じたリアリは、このまま、焼き殺してやろうかと少し思った。でも、ここでこの人間を殺して大丈夫なのだろうかと考える。一人で山に入った旅人とかであれば、さほどの影響はないだろう。後で発見されても魔物に襲われたですむ話だと思った。ただ、ここは盗賊団の本拠地に近い。仮に見回りだとしたら、行方が分からなくなるのはまずいだろう。
それが理由で警戒されて、サントたちを危険な目にあわせるわけにはいかなかった。それは自分の役割と違うと思ったのだ。
「何だ、お前、ふざけるなよ」
ついそう言ってしまった。さっき感じた怖れと言うのは無くなっていた。言葉を聞いた瞬間は驚いたが、言葉が通じるという事は意思が通じるというのを直感的に理解したからだった。だったら、文句を言っても良いと思った。しかも、利口そうなふりをしている気がして、それがコトを苛立たせた。
コトにとって恐ろしいのは、何を考えているのか分からない存在だった。動物や魔物を恐いと感じる理由はそこにあった。人でも何を考えているのか分からない人は恐い。でも、目の前にいる、得体のしれない物は、見た事は無くても、意思は通じると理解できたので、そう言っても大丈夫だと本能的に理解したようだった。
そう言われて、戸惑ってしまったのは、リアリの方だった。
「な、何だと、私は竜だぞ。分かっているのか」
威厳ある感じでその場を収めなかったのに、まるで子供のような反論しか出来なかった。
「竜?本当?」
疑わしそうにコトが言った。
「そうだ。竜だ。知っているだろう」
少し冷静さを取り戻してリアリが言う。
「竜は知ってるけどさ。お前が?本当に?」
コトも少し落ち着いたようだ。でも、疑いはちっとも消えていなかった。
「だって、竜って、もっとこう、大きな物だろ」
と、手を広げて説明する。
確かに物語で語られる竜と比較されると、リアリがちっぽけである事は否めなかった。
「ふん。いいさ、勝手にしろ」
今度はリアリがへそを曲げたように言う。
「お、おい。そんなに落ち込むなよ」
そんな様子に今度はコトが戸惑った。
「…、まあ、いいや。竜って事で、で、何でお前はここにいるんだ?」
話題を変えようという感じでコトが言った。
「…」
釈然としない気持ちが残ったままのリアリだったが、それとは別にその質問にどう答えるのか迷っていた。正直に偵察に来たことを告げるのは馬鹿らしい。偵察がばれてしまっては、自分の役割は果たせないし、偉そうにした手前、人に使われていると思われるのも嫌だと思ったのだ。
「愚かな人間に話す事は無い」
再び、威厳を取り戻したようにそう言ってみた。
「はいはい、分かりました」
威厳が無い事を見透かされたようにコトが言う。
その態度、苛立ちを感じたリアリは、このまま、焼き殺してやろうかと少し思った。でも、ここでこの人間を殺して大丈夫なのだろうかと考える。一人で山に入った旅人とかであれば、さほどの影響はないだろう。後で発見されても魔物に襲われたですむ話だと思った。ただ、ここは盗賊団の本拠地に近い。仮に見回りだとしたら、行方が分からなくなるのはまずいだろう。
それが理由で警戒されて、サントたちを危険な目にあわせるわけにはいかなかった。それは自分の役割と違うと思ったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
万物争覇のコンバート 〜回帰後の人生をシステムでやり直す〜
黒城白爵
ファンタジー
異次元から現れたモンスターが地球に侵攻してくるようになって早数十年。
魔力に目覚めた人類である覚醒者とモンスターの戦いによって、人類の生息圏は年々減少していた。
そんな中、瀕死の重体を負い、今にもモンスターに殺されようとしていた外神クロヤは、これまでの人生を悔いていた。
自らが持つ異能の真価を知るのが遅かったこと、異能を積極的に使おうとしなかったこと……そして、一部の高位覚醒者達の横暴を野放しにしてしまったことを。
後悔を胸に秘めたまま、モンスターの攻撃によってクロヤは死んだ。
そのはずだったが、目を覚ますとクロヤは自分が覚醒者となった日に戻ってきていた。
自らの異能が構築した新たな力〈システム〉と共に……。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる