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第参話 【お婆ちゃんの指輪】

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 この飯綱荘に暮らし始めて一週間が経った。
 住人の事も少しはわかって来た感じはする。 うん。

 同じ高校で同じクラスの【はく】君は少し無口な男の子。
 中学校に通っている【ぎん】君は少しヤンチャな男の子。
 大学生の【十字じゅじ】さんは銀君と仲が良い。 良く戯れあっている。
 いつも部屋の中で何をしているかわからない【かい】さんはいつも眠そうにしてる。
 社会人の【赤井あかい】さんは皆んなを纏めるリーダー的存在。
 そんな五人の妖怪と住み込みを始めました。

 部屋の荷物も片付いた日曜日、皆んなにこの飯綱荘について詳しく教えてと食堂に皆んなを集めて聞いてみよう。

 真っ先に冷蔵庫にプリンを取り席に着いた銀君。
 そして、それを見た十字さんは銀君とプリンの件で言い合いが始まった。
 どうやらプリンには十字さんの名前を書いてあったようだけど、それを銀君が食べてしまったみたい。
 後で私のをあげると十字さんに話すと、銀君はニヤリと牙を見せた。
 また勝手に食べて喧嘩しないでよ。

 白君はそんな二人を見ながら、椅子に片膝を立てて座っている。
 灰さんはダルそうに背中を掻きながら食堂に来る。
 赤井さんは日曜日でもピシッとした私服で来た。
 そういえば赤井さんの私服初めて見た。 いつもスーツ姿だったし。 私服もかっこいいなぁ。
 さてと、皆んなが揃った所で質問を始めた。

「この飯綱荘ってそもそもなんなんですか?」
「うん、前に話したように、私達は智子さんのお婆さんに封印された狐の妖怪です」
「それで、最初は九つあった尻尾が分かれちゃって僕達が誕生したってわけ」
「俺達が勝手な事をしないように、この飯綱荘に閉じ込めてるのさ」
「ふぁ~……、やっぱりあの婆さん食っちまえばよかったんじゃね?」
「そんな事をしたら一生元の姿には戻れなくなるだろーが!」

 やっぱりお婆ちゃんが皆んなをこの飯綱荘に封印したって事かな?

「智子さん、管狐くだぎつねはご存じですか?」
「確か……、竹の筒とかに入ってる狐の事でしたよね?」
「そうです。 その竹の筒がこの飯綱荘です」
「それで僕達を使役するのがトモちゃんのお婆ちゃんだったってこと」
「でも、お婆ちゃんは亡くなっちゃって……」
「そ。 それで自由になれると思っていたら……」
「智子さんに受け継がれたと言う訳です」

 私に受け継がれた?

「それじゃ私が皆さんの使役者って事ですか?」
「気に入らねえがそう言う事だ!」
 灰さんはテーブルをバンと叩くと、また椅子にどっしりと座り直した。

「それで私は何をしたら良いんでしょうか?」
「智子さんはまず、霊力を高めてもらう事ですね」
「霊力って……」
 そんな物持ってないし、知らない。

「ま、そう言う事だ。 部屋に戻る」
「俺も俺も」
 白君と灰さんは部屋へ戻ってしまった……。
 そして私があげたプリンの争奪戦が十字さんと銀君の間で始まる。

「それでは私も部屋に戻りますね」
「あ、あの! 私、霊力なんて持っていません!」
「そんな事はありませんよ。 あの人のお孫さんなんですから」
 そして赤井さんも部屋に戻ってしまった。
 私も戻ろう。

 部屋に戻ってベッドに寝転がり考える。
 私が皆んなの使役者……。 と言う事は皆んな私の言う事を聞くのかな?
 …………聞かなそうだ……。
 そもそも私には霊力なんて物は無い。
 私に霊力が無ければ皆んな消えてしまうとか言ってたよね? 大丈夫かな?
 そんな事を考えていると、部屋の扉がノックされる。

「はーい」
 扉を開けると、赤井さんが立っていた。

「これを受け取ってくれませんか?」
 赤井さんがポケットから差し出した物は指輪のケース。

「え? え?」
 えーーーー!?

 蓋をパカっと開けるとやっぱり指輪だ!

「えと……、あの……」
 どどどど、どうしよう……。
 確かに赤井さんイケメンだし身長高いし、社会人だし……。
 私がパニクっていると、赤井さんは指輪を取り出し、私に差し出して来た。
 思わず左手を差し出してしまった……。

「すいません、これは右手の人差し指にお願いします」
 赤井さんは私の右手を取ると、人差し指にはめてしまった。
 サイズは緩かったけど、指輪が縮み急にピッタリとなる。

「あの、これは……?」
 受け取った指輪は赤く輝いている。
 とっても綺麗な指輪だ。

「この指輪は智子さんのお婆さんから預かっていた指輪です。 お守りとして肌身離さず身に付けておいて下さいね」
 指輪ケースも渡されて赤井さんは部屋に戻って行ってしまった……。

 お婆ちゃんの形見の指輪……。
 その指輪を見つめていると、ふと、ある事に気がついた。
 それは……、お婆ちゃんの指輪でも初めて異性からプレゼントを貰ってしまった事だ……。
 お婆ちゃんの形見も嬉しいし、何よりあのシュチュエーションにドキドキしてしまって、次の日、忘れ物をしてしまったのだった……。
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