輝く未来の国王は 愛する妃と子ども達を命に代えても守り抜く【コルティア国物語Vol.2】

桜井 恵里菜

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感動の再会?!

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 ん…、と顔をしかめて、フィルはゆっくりと目を開ける。

 (ここは、どこだ?)

 身体が鉛のように重く、手を動かそうとしても痺れて上手く動かない。

 (なんだ?どうしたんだ。一体、何が…)

 そこまで考えてハッとした。

 (クリスティーナ!)

 ガバッと身を起こし、途端にめまいがして再び倒れ込む。

「おやおや、元気にお目覚めですな」

 低く不気味な声がして、フィルは忌々しげに相手を睨みつけた。

「おのれ…、クリスティーナに何を?!」
「何もしていませんとも。今はまだ、ね」

 ニヤリと笑いながら、執事はフィルがいるベッドへと近づいてきた。

「寝耳に水、とは思いますが、あなたにはお話しておきましょう。先ほど、コルティア国に使者を遣わせました。王太子夫妻を人質にしている、従わなければ彼らの命はない、としたためた声明文を持たせてね」
「なっ…!」

 目を見開くフィルに、執事は愉快げに笑う。

「実に気分がいい。いよいよこの時がやって来たのだ。世界を我が手中に収める日がな」
「…貴様、何者だ?」
「一国の王にそんな口のきき方は無礼ですぞ、王太子殿下」
「王だと?」

 執事の戯言か、と思ったが、フィルは嫌な予感がした。

 (確かに執事にしてはオーラが違う。生まれ持った資質、育てられた環境によって備わった威厳…)

 そこまで考えてハッとした。

 (まさか、国王の兄か?!)

 フィルの様子に、執事は勘づいたらしい。

「さすがは王太子殿、頭の回転が速い。もうお気づきですね。いかにも、私がこのスナイデル王国の王位継承者。弟よりも継承順位が高い、グラハム2世だ」

 フィルは言葉を失い、しばし呆然と目の前のグラハム2世を見つめていた。

「それだけお元気なら、これくらいはさせて頂こう」

 そう言ってグラハム2世は、フィルの手足をロープできつく縛る。
 そのままベッドの上に転がされた。

「あとで食事を運ばせますよ。どうぞごゆっくり」

 嫌味たっぷりに優雅にお辞儀をしてみせると、グラハム2世は部屋を出ていった。

 残されたフィルは、ギリッと奥歯を噛みしめる。

 部屋には見張りが二人。
 ドアの外にも二人いるようだ。

 あの時、毒薬で倒れた時とは別の部屋のようで、ここがどこだか分からない。
 だが冷たい石畳と窓がない部屋を見れば、地下の牢屋だと容易に想像がつく。

 鉄格子はなく、分厚い石の扉と簡易的なベッドがあるだけの無機質な部屋。

 身体がまだ重く寒さに凍えそうになる中、フィルはとにかくクリスティーナの身を案じていた。

 (無事でいてくれ、クリスティーナ。必ず助けに行く)

 その一心で、フィルはどうやってここから抜け出そうかと、考えを巡らせ始めた。

 *****

 その頃、クリスティーナは城に隣接する使用人達の離れに来ていた。

 現国王の使用人なら、自分を保護してくれるはずだ。

 そう思っていたのだが、夜明け前にしては慌ただしい様子に、何事かと窓からそっと中をうかがってみる。

「どういうことだ?一体、何が?」
「分からん。だが、どうやらクーデターらしい」
「クーデター?!それはもしや、グラハム2世様の?」
「ああ。既に現国王には宣言されたらしい。『コルティア国王太子夫妻を幽閉している。従わなければ王太子夫妻の命の保証はない』とな」
「なんと…。では我々も、グラハム2世様に従わなければ命はないということか」
「そうだ。既にあのお方の手下が、この離れにも詰めかけてきた。いいか?黙って彼らの言うことに従えよ?」
「分かった。今はそうするしかないな」

 護衛の兵らしき数人が顔を突き合わせて話し合い、バタバタと去っていく。

 クリスティーナは、壁に寄りかかってため息をついた。

 (タッチの差で間に合わなかったわね。いいえ、先に彼らに保護されたとしても、その後あの黒幕の執事、グラハム2世と言ったかしら?あいつに引き渡されるのなら同じことね。むしろまだ誰にも声をかけずにいて良かったわ)

 さて、どうする?と、クリスティーナは冷静に考える。

 とにかく今はできる限りの武器を身に着けておこうと、いくつかの部屋を覗きながら、護衛兵の詰め所に忍び込む。

 (剣は2本で限界ね。動きづらくなってしまうもの。あとはロープと…)

 ベルトも拝借して腰に剣を差すと、改めて自分の出で立ちに驚く。

 (ひゃー、ドレスが短い!)

 太ももに忍ばせている短剣も、もはや丸見えだ。

 (ま、いいか。剣を腰に差しているのに、短剣だけ隠しても意味はないわね)

 己を納得させ、クリスティーナは再び物陰に隠れながらフィルのいる塔を目指した。

 フィルがいるであろう搭は遠くからでも見つけやすく、クリスティーナは城の外壁に沿って、植栽の間を抜けるように進んで行く。

 だんだん空が白んできて、城の中や外も人が慌ただしく行き交うようになり、クリスティーナは焦る。

(あまり時間がないわ。グラハム2世のクーデターで混乱しているこの隙に、搭に突入してフィルを助け出さなければ。それに今頃ケイティも目を覚まして、私がいないことに気づいているはず)

 ケイティはおそらく黙っていてくれるだろうが、グラハム2世か見張りの者に気づかれるのは時間の問題だ。

 クリスティーナは慎重に、かつ大胆に木々の間を走り抜けて搭を目指した。

 やがて搭の近くまで来ると、回廊の柱の陰に隠れて入り口の様子をうかがう。

 塔の細長い入り口の前には兵が一人いるだけだが、視線をやや上に転じると、2階辺りに城と繋がる通路があった。
 そこにはおそらくもっと多くの兵がいるだろう。

 地下にはどう行けば良いのか。

 考えても分かるはずはなく、クリスティーナは一気に駆け出すと、入り口の前にいた兵の後ろに忍び寄り、背後から素早く短剣を首筋に当てた。

「動くな」

 ヒッ!と兵が喉を鳴らして身を固くする。

 クリスティーナは後ろから左腕を回して兵の身体の動きを封じ、後ずさりながら入り口の陰に隠れた。

「地下の牢に案内しなさい。ただし、誰にも見つからないように。さもなくばこの剣が喉を突くわよ」

 クリスティーナが鋭く言い放つと、兵は小さく何度も頷いてからゆっくりと歩き出す。

 まずは目の前にある狭い螺旋階段を上がり、中二階までくると左に現れた通路へと進む。

 少し歩いた先に、石の壁に色がわずかに違う部分があった。

 兵がその部分に手を触れてゆっくり押すと、ゴゴッと音がして、扉のように前方に開いた。

 石の階段が見え、どうやらそこを下りれば地下に行けるようだ。

 クリスティーナが促すと、兵は中に足を踏み入れて階段を下り始める。

 幅は狭く、天井も低いその階段は、いかにも地下牢へ繋がっているという気がする。

 下まで下りると行き止まりになっており、兵が右の通路へ曲がろうとするが、クリスティーナは後ろからグッと腕に力を込めて止めた。

 そしてそっと顔を覗かせて様子をうかがう。

 長い石の通路の先に、兵が二人立っているのが見えた。

 そこにフィルがいるに違いない。

「ここから声をかけてこちらに呼び寄せなさい」

 クリスティーナは小声で、剣で脅している兵に告げる。

「怪しまれないように。いいわね?」

 首にピタリと剣を当てると、兵はいっそう背筋を伸ばして頷いた。

 クリスティーナは少しだけ兵を前へ押しやる。

「お、おーい。ちょっと来てくれないか」

 剣を後ろから首に当てられている兵は、壁から顔だけ出して声をかけた。

「なんだ?どうかしたのか?」
「あ、ああ。ちょっと怪しい人影を見かけて、皆で探してるんだ。手伝ってくれ」
「分かった。お前はこのままここで見張ってろよ」

 通路の奥にいた一人が、もう一人をその場に残してこちらに歩いてくる。

 クリスティーナは兵を羽交い絞めにしながら階段を後ろ向きに上がっていった。

「怪しいやつってどんなやつだ?」

 見張りの一人がそう言って、足元を見ながら階段を上がってくる。

 半分ほど上がったところで、クリスティーナは捕えていた兵を思い切り前に押し倒した。

「うわっ!」

 押された兵は、下から上がって来ていた見張りの兵にぶつかり、そのまま二人で階段の下まで転がり落ちる。

「いってー!このバカ。何をやって…うぐ!」

 重なり合って床に倒れている兵達に、クリスティーナが上からドスンと覆いかぶさった。

 一番下の見張り兵は、男の体重とクリスティーナの体重に押しつぶされて息も絶え絶えになっている。

 クリスティーナは素早くロープで、自分のすぐ下にいる兵の手を縛り上げた。

 続いて足も縛ると、今度は一番下で下敷きになっている見張り兵の手足を縛り上げる。

「おい、どうしたんだ?!」

 物音に気づいたもう一人の見張り兵が、腰から剣を引き抜いて走り寄って来た。

 クリスティーナもいよいよ腰に差した剣を抜いて構える。

「久しぶりだわ。腕が鳴るわね」

 ニヤリと笑うクリスティーナに、見張り兵は怪訝そうに立ち止まった。

「なんだ?女か。そんな格好で何をやっている」

「あら、わたくしを見くびるとどうなるか。油断は禁物ですわよ?」

 クリスティーナはにっこりと微笑んでから、一気に仕掛けた。

 素早く駆け寄って間合いを詰めると、剣を上からヒュッと振りかざす。

「うわっ!」

 兵が咄嗟に剣を構えてクリスティーナの剣を受け止める。

 だがそれはクリスティーナの狙い通りだった。

 クリスティーナは両手に力を込めて、兵の剣を大きく横に振り払うと、相手の懐に飛び込み、短剣の切っ先を喉元に当てた。

「そこまでよ。少しでも動いたら命はないわ」

 ウグッと妙な声を上げて、兵は手にした剣をポトリと床に落とす。

 そのまま膝を折ってうなだれる兵の腰から、クリスティーナは鍵の束を取り上げ、兵をロープで縛り上げた。

 *****

 同じ頃。
 牢の中では手足を縛られたフィルが、食事を運んできた兵と押し問答を繰り広げていた。

「だから、どうやって食べろって言うんだよ?」
「そんなこと言われても…」
「両手を背中で縛られてるんだぞ?それなのにフォークを差し出されて、どうやって受け取るんだよ」
「それは、その…。口にくわえるとか」
「アホか。フォークを口にくわえて、そのあとどうやって食べるんだ?やってみろよ」
「た、確かに。ではどうすれば…」
「簡単だよ。俺のロープを切ればいいんだ」
「そ、そんなことはできん!」
「なんだ。そこはアホじゃなかったな」

 上手く乗ってくれれば良かったのに、とフィルはひとりごちる。

「じゃあさ、せめて手を前で縛り直してくれ。そうすれば自分で食べられる」
「ダメだ。一旦ロープを切った隙に、何をされるか分からないからな」
「へえ、やっぱりお前、アホじゃないな」
「当然だ!」

 体格の良い大柄な兵は、得意げに胸を反らす。

「それなら仕方ない。お前が俺に食べさせてくれ」
「…は?」
「は?じゃないよ。聞こえなかったのか?あーんって、食べさせてくれ」
「バ、バカな!そんなことできる訳が…」
「じゃあロープを切るか?」
「それは…、いかん」
「だったらこれしかない。ほら、あーん」

 フィルは兵が自分の口元に手を持ってきた瞬間、その手に噛みついてひるませ、一気に体当たりするつもりだった。

 大きく口を開けて待っていると、兵は仕方なくフォークを手に取り、マッシュポテトを掬ってフィルの口に運ぶ。

「あーん…」

 その時だった。

「フィル!」

 クリスティーナが牢の外から体当たりして、大きく扉が開いた。

 ようやく会えたフィルとクリスティーナは、互いに見つめ合う。

 そして…

「ギャーーー!!」

 二人同時に絶叫した。

「何やってるのよ!この、浮気者!」

 クリスティーナはズカズカと近づくと大柄な兵を引っぺがし、フィルの胸元を掴み上げる。

「ちょ、待て!クリスティーナ。違うったら!」
「何が違うのよ!私がどれだけ心配して駆けつけたと思ってるの?それなのに仲良く、あーん、なんて見せつけられて。タダで済むと思ったら大間違いよ!」
「落ち着け、クリス!そっちこそなんて格好してるんだ?!俺以外の男の前でそんな綺麗な足見せるとか、許さん!今すぐ隠せ!」
「はあ?誰の為にこんなことになったと思ってるのよ!必死に助けに来たって言うのに、呑気にラブラブしてるなんて。しかもこんなおっさんと?!趣味悪すぎ!」
「何をバカなことを!」
「バカとは何よ?フィルのアホ!もう大っ嫌い!」
「クリス!」

 フィルは縛られた両足を踏ん張って起き上がると、そのままクリスティーナに口づけた。

 勢い余って、クリスティーナの背中は壁に押しつけられる。

 目を見開いたままフィルのキスを受け止めていたクリスティーナは、やがてゆっくりと身体を起したフィルに、切なげに瞳を覗き込まれた。

「無事で良かった。…愛してる、ティーナ」

 そう言って優しく微笑むフィルに、クリスティーナの目から涙がこぼれ落ちた。

「フィル、フィル…。助かったのね、良かった。本当に良かった」

 背伸びをしてギュッとフィルに抱きつき、クリスティーナはとめどなく涙を溢れさせる。

「君のおかげだよ、ティーナ。俺の最愛の女性、そして最強のパートナー。君以外の人なんて、誰も目に入らない」
「私も、フィルが誰よりも大好きよ」

 クリスティーナは顔を上げると、今度は自分からフィルに口づけた。

「ティーナ、あとでゆっくり抱きしめてあげるからね。今は、ほら」
「あ、そうか。今ロープを切るわね」

 フィルが縛られていることをようやく思い出したクリスティーナが、短剣でフィルのロープを切ろうとした時だった。

 それまで呆然と事の成り行きを見ていた大柄な兵が、ハッと我に返ってクリスティーナに背後から殴りかかる。

「クリス、伏せて!」

 サッと身をよけたクリスティーナの横で、フィルが兵に頭突きをくらわせる。

 ウグッと兵がうめいて床に膝をつき、すかさずクリスティーナがロープで後ろ手に縛り上げた。

 そしてフィルの手足のロープを切る。

「フィル!」
「クリスティーナ!」

 二人はようやく互いにしっかりと抱き合った。

「続きはあとでね、ティーナ」

 そう言ってフィルはチュッとクリスティーナにキスをする。

「まだ敵は大勢いるぞ」
「分かってるわ。油断は…」

「禁物!」

 二人で声を揃えると、一気に牢の外へと走り出した。
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