部活の後輩に執着される(青春スポーツものではない)

socket

文字の大きさ
2 / 4

2.高校生(再開)

しおりを挟む
俺は未練がましく高校でもテニスを続けていた。
 後輩にはもちろん、限られた人たちにしか進学先を教えなかった。万が一にも、早川が俺の後を追ってくる可能性を消したかったから。
 だがインターネット全盛期。少し調べれば大会の戦績は出てくるし、友達のSNSを探せば俺はどこにいるのかは簡単に分かるだろう。あとはもう、早川は俺に飽きる、もしくは諦めてくれていることを願うしかなかった。
 高校のテニス部は県内1、2を争う強豪校だ。ありがたいことに俺は県内では少しばかり有名人らしく、入部当初から活躍を期待されていた。
 中学3年のあの忌まわしき大会以降、俺はテニス自体からも目を背け、自主トレもそこそこに勉強に注力していた。だから、久しぶりに純粋なスポーツの熱く爽やかな空気と、チームメイトたちの雰囲気がとても嬉しかった。また自分のために、チームのためにラケットを握ることができた。
 しかし、俺の名前が知れていると言うことは、俺よりも有名な天才、早川も当たり前に知られていた。同じ中学ということで早川のことを聞かれることは多々あったが、テニスが上手い、と言うこと以外は語らず、彼の話題を避けていた。

 ◻︎◻︎◻︎

 なぜ、という疑問もあったが、まあそうだろうなという妙な納得もしていた。

 奴が、早川が入学してきた。

 部活は当然、後輩もテニス部に入ってきた。
 最初のうちは俺もかなり神経質になったし、やりすぎというくらいわざとらしく早川を避けた。俺は高校でできた友人たちと一緒に行動し、あいつが話しかけてくる隙を与えなかった。まあ、後輩も俺のことはもう忘れているのかのように、中学の頃みたいな執着めいた視線を常時浴びせるようなことはしなかった。だが、時折視線は感じていたが、罪悪感なのか、それともあの頃のままの感情をチラチラと見せているだけなのか判断はできなかった。また俺に話しかけたがっている雰囲気も感じ取れた。だがおれはそれすらも跳ね除けた。

 そして、運命の高総体。
 去年、俺が2年生の時、全国大会出場の目標が叶ったが、初戦敗退で終わってしまった。だから、今年はさらに上の戦績を残せるようチーム全体で士気が高まっていた。
 そして県大会決勝。何の因果か、中学の繰り返しのように団体戦で同点で進み、最後の戦いで勝敗が決まる展開となっていた。また早川が大将だ。そしてまた誰もいないトイレでのやり取り。まるでデジャブだ。
 だが、中学と決定的に違うのは。



「先輩、勝ちたいですよね?」
「勝って全国行きたいですよね?」
「…はあ、はあ」

 ありえないほど動悸がする。疲れていないのに汗が流れ落ち、息が切れる。

 中学の頃とは違う。本当に最後のチャンスだ。またここで断って試合に負けたとして、俺は大学に進学してもテニスを続けられる自信はなかった。2度もこの男にぐちゃぐちゃにされた俺の聖域に、また立ち直って踏み入ることができるほど、俺の精神力は強くなかった。
 だが逃したくない。なんとしても全国に行って、勝って、1番の頂点に立ちたい。俺が10年以上これだけに向かって生きていたといっても過言ではない。それに去年の全国出場経験から、今年は今までで一番期待できる年なのだ。見たい。負けなかった者だけがみることができる景色を。

「…本当に、勝てるのか?」
「…………」

 すぐに返事がこなかったので俺は終始伏せていた目線を上げる。
「…当然」
 事もなげに発せられた言葉と、感情が読めない抑揚のない声と裏腹に、
「勝てますよ」
「!」
 早川は見たことがない喜色を滲ませた薄ら笑みを浮かべていた。それは己の勝利を確信した顔だった。

 ◻︎◻︎◻︎

 試合に勝った。俺たちは全国大会へ行くことが叶った。チームメイトたちは喜び、厳格で恐れられている監督も珍しく笑っていた。
 あの場で笑えていなかったのは俺と早川だけだった。正確に言うと、早川は他のみんなに混ざって勝利と喜びを分かち合っているように見えたが、その喜びは試合に勝ったことではないということは俺だけが知っていた。

 あの決勝戦、早川はまるでカケラも緊張した素振りを見せずに淡々を試合をこなした。相手は俺も何度か対戦したことがある、手強い相手だった。最初のうちは点を取ったり取られたりで、その度に俺以外のみんなが一喜一憂していた。そして、段々と戦局が早川に傾き始めてからはあっという間だった。これ以上負けられないというプレッシャーに追い込まれ、相手は細かいミスを重ねるようになり、簡単なサーブミスも何度かしてしまっていた。そして早川は終始変わらず、練習の時のようなプレーを見せていた。技術だけでなく、あの強靭なメンタルこそが、早川の一番の長所なのだと思った。
 この試合が始まってから、俺の心はずっと凪いだままだった。

 帰り、学校がチャーターしたバスで、当たり前のように俺の隣に座った後輩。他のみんなは疲れて寝てしまったようで話し声などは全く聞こえない。
 俺も疲れていたので、こくりこくりと寝ようとしていた。

「先輩、来週、祝勝会が終わったらそのまま俺ん家に来てください」

 そっと耳元で囁かれたことで一気に目が覚める。
 思わず早川の方を向くと、爽やかな笑顔で「約束、ですよ」と小声で続けた。
 祝勝会は来週の土曜だ。


 ◻︎◻︎◻︎

「「かんぱーい!!」」

 祝勝会当日、学校の使われていない旧駐車場を借りて行われた。
 みんなが楽しく飲み食いし、試合や練習の思い出を語り合っていた。
 俺はどうしてみんなと同じような喜びを共有できないのだろう。どうしてあれだけ望んだ勝利を手にしてまったく嬉しくないのだろう。そんな負い目と悲しみで俺はほとんど楽しめなかった。


「さ、先輩行きましょう」
 なんだかんだあっという間にパーティは終わり、みんなで片付けバラバラに解散し、俺と早川は駅で再開した。
 パーティ中はほぼ学年ごとに集まっていたので、早川と話すことはなかった。
 電車の中、あれ食べました?誰々さんが何々をして、など、早川の一方的な話を聞かされ、あっという間に二駅。ここで降りると言うので俺は黙って後を追った。ちなみにこの間俺は最低限の相槌のみで心ここに在らずといった状態だった。実際早川の話は半分も聞いていない。

 駅を降りてすぐは、そこそこ商業施設などが並んでいたが、5分ほど歩けばすぐに住宅街に入った。

「俺、進学に合わせてこっちに住んでる兄貴の部屋に一緒に住んでるんです。実家も別に遠いわけじゃないけど…実は兄貴、半年くらい前から彼女の家に入り浸ってて、実質同棲みたいな感じで。俺ほぼ一人暮らしで快適なんすよね」
「…それって、」
「はい、家族の目とか気にせず、堂々と先輩を連れ込めるんすよ」

 なぜもっと早く言ってくれなかったんだ。もう玄関に足を踏み入れてしまった。いくら家に行くと言っても、家族がいる中では簡単に手は出さないだろうと腹を決めて来たのに。
 ああ、ガチャと鍵を閉める音が背後で大きく響いてしまった。

「っはやか、んむ」
 玄関扉に押し付けられそのままキスをされた。ぬるりと侵入してきた舌に軽く口内を舐めまわされる。
 怖い。
 怖い。
 なんで俺なんだ。俺はそんなにお前に気に入られるようなことしたか?
 すぐに唇は離され、目を合わせられる。
 若干赤らんだ顔の早川は、余裕がないのか少しだけ息が荒い。
「…せんぱい」
 少し低めの耳触りの良い音で俺の鼓膜から脳を揺さぶる。
 ぐっと体を密着されれば腹の辺りに硬い感触を感じ、熱に浮かされたような後輩とは逆に、俺は体の芯から冷たくなっていくような気がした。

「好きです、中司先輩。俺のものになってくれてありがとうございます。一生大事にします」

 俺はいつから、何かを間違えたのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

処理中です...