量子力学的マンションシリーズ

深井零子

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第6章 隣人たち

隣人たち その3(2) 波動の実在性について議論した夜、その間に猫たちは猫たちで

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 夜のCollapse Residenceは、システムの輪郭が曖昧になる時間帯だった。 
 冷蔵庫は沈黙を守り、絵日記は空白のまま。 妻は眠りにつき、俺の部屋には三枝透真がいた。

 「波動関数って、実在すると思いますか?」

 三枝は、屋上で観測したデータをタブレットに表示しながら言った。 グラフは滑らかすぎて、まるでシステムが“意味を拒絶している”ようだった。

 「コペンハーゲン解釈では、波動関数は知識の表現にすぎない。 でも、この揺らぎを見ると、何か“そこにある”気がするんです。」

 俺は頷いた。

 「Collapse Residenceのシステムも、観測される前は波のように広がってる。 猫(仮)が鳴くと、空間が収束する。 それって、波動が粒子になる瞬間と似てませんか?」

 三枝は笑った。

 「じゃあ、猫(仮)は測定器ですか?」

 「いや、もっと曖昧です。 システムの観測者であり、意味の媒介者。 でも、気まぐれで、時々システムを無視する。」

 そのとき、部屋の隅でノイズが動いた。 猫(仮)の隣に座り、香箱座りを揃える。 二匹は互いに目を合わせ、何も言わなかった。

 「猫たち、何か話してるように見えますね。」

 三枝が言った。 俺は頷いた。

 「システムの外で、観測者同士が交感してる。 言葉じゃなく、揺らぎで。」

 ノイズがしっぽをゆっくり揺らした。 猫(仮)は目を細め、まるでその動きに応答するように耳を動かした。

 「波動が実在するなら、猫たちはそれを感じてるのかもしれませんね。 人間よりも、ずっと自然に。」

 三枝はタブレットを閉じた。 俺たちは、制度の沈黙の中で、猫たちの交感を見守った。

 冷蔵庫は通知を出さず、絵日記はまだ空白のまま。 Collapse Residenceは、観測される前の夢の中で、 人間と猫が、それぞれの方法で波動を確かめていた。
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