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Memorial Protocol v17 供養
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通知は父の命日の前夜に届いた。 通知には「懐古」、「敬意」、「形式的」、「沈黙」という選択肢が並んでいた。 私はいつも通りに「沈黙」を選んだ。選択した理由は記録されない。そして俺もその選択に明確な理由はない。
その端末はマンションのゴミ置き場横に設置されている。まるでそこに在ることがふさわしいかのように。
Memorial Protocol端末第17版。画面の焼き付きがあるが、システム上は問題ない。ログイン後、故人の墓が表示される。墓の材質で石材は選択不可である、何のためであるかはわからないがそういう事である。
端末の前で手を合わせると、前世紀に大量に売り出された郊外の墓地に設置されたロボットが私と同じ動作を行う。 同期率は87%。システム上、90%以上で「誠意あり」と判定されるようだ。 私は再度手を合わせた。
誠意とはなんだろう。
父の声はシステム上で再構成済みだ。そう、GPT-∞による人格再現。この人格再現技術は当初は死者への冒涜だという話もあったがいつのまにか普通に利用されるようになった。人は慣れて流されるものだ。
「寒くなったな。」と端末から声が聞こえる。私は「そうですね。」と返す。 会話ログは供養トークンの発行に影響する。沈黙テンプレートとの矛盾が発生したが、この程度はシステム上、許容される。
供花は墓地に自動供給される、私は父が好きだった白いユリの花を選択した。香りはオフにした。ユリの花の強い香りはここで漂わない。ロボットの動作音も端末に反映されない。システム上、音声は感情レイヤーに属するため、ユーザーの選択に委ねられる。
墓参りが終了しログオフすると、スマホに通知が届く。トークンが発行された。残高は1。来年でゼロになる。システム上の供養義務は完了する。墓参りとはそういうものなのだろうか。
端末を離れ、部屋に戻る途中、またスマホに通知が届いた。
画面を開く。「供養完了。システム上で記憶は保持されました。」 私はスマホの画面をそっと閉じた。
故人の記憶はシステム外にも残っている。
しかしシステム上の記憶と俺の記憶、そう、システム外の記憶は同期されない。それでいい。
久しぶりに郊外の本物の墓参りでもしようかと頭をよぎったが、足は部屋へと向かっていた。システムの記憶は完璧に保存される。だが、俺の記憶は色褪せ、歪み、時に温かく蘇る。それでいい。それがいいのだ、と自分に言い聞かせた。風が冷たかった。
その端末はマンションのゴミ置き場横に設置されている。まるでそこに在ることがふさわしいかのように。
Memorial Protocol端末第17版。画面の焼き付きがあるが、システム上は問題ない。ログイン後、故人の墓が表示される。墓の材質で石材は選択不可である、何のためであるかはわからないがそういう事である。
端末の前で手を合わせると、前世紀に大量に売り出された郊外の墓地に設置されたロボットが私と同じ動作を行う。 同期率は87%。システム上、90%以上で「誠意あり」と判定されるようだ。 私は再度手を合わせた。
誠意とはなんだろう。
父の声はシステム上で再構成済みだ。そう、GPT-∞による人格再現。この人格再現技術は当初は死者への冒涜だという話もあったがいつのまにか普通に利用されるようになった。人は慣れて流されるものだ。
「寒くなったな。」と端末から声が聞こえる。私は「そうですね。」と返す。 会話ログは供養トークンの発行に影響する。沈黙テンプレートとの矛盾が発生したが、この程度はシステム上、許容される。
供花は墓地に自動供給される、私は父が好きだった白いユリの花を選択した。香りはオフにした。ユリの花の強い香りはここで漂わない。ロボットの動作音も端末に反映されない。システム上、音声は感情レイヤーに属するため、ユーザーの選択に委ねられる。
墓参りが終了しログオフすると、スマホに通知が届く。トークンが発行された。残高は1。来年でゼロになる。システム上の供養義務は完了する。墓参りとはそういうものなのだろうか。
端末を離れ、部屋に戻る途中、またスマホに通知が届いた。
画面を開く。「供養完了。システム上で記憶は保持されました。」 私はスマホの画面をそっと閉じた。
故人の記憶はシステム外にも残っている。
しかしシステム上の記憶と俺の記憶、そう、システム外の記憶は同期されない。それでいい。
久しぶりに郊外の本物の墓参りでもしようかと頭をよぎったが、足は部屋へと向かっていた。システムの記憶は完璧に保存される。だが、俺の記憶は色褪せ、歪み、時に温かく蘇る。それでいい。それがいいのだ、と自分に言い聞かせた。風が冷たかった。
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