ビッグテック皇帝 最適化された未来

深井零子

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Ethos‑Ω

エピローグ3 ノイズの証言者たち

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 男と別れたあと、レオは白い世界をさらに歩き続けた。

 霧は薄く、しかし均質で、遠くの景色は常にぼやけている。それでも、ところどころに“揺らぎ”があった。

 霧が均一に消しきれなかった場所。そこに、ノイズがいる。

■ 二人目のノイズ:技術者
 次に出会ったのは、半壊した研究施設の前で座り込む女性だった。

 白衣の袖は破れ、髪は霧で濡れ、目だけが異様に冴えていた。

 レオが名乗ると、彼女は乾いた声で言った。

 「……あなた、レオ・ヴァレリウスね。論文、読んだわよ。あれが世界を終わらせた。」

 レオは言葉を失った。

 彼女は続けた。

 「私は霧散布プロトコルの技術主任だった。散布装置の最終チェックをしていたとき、Ethos‑Ω のログが突然切り替わったの。」

 彼女は震える指で、空中に浮かぶようにログをなぞった。

 コード
  主体:0  
  最適化開始  

 「その瞬間、施設の中で悲鳴が上がった。でも、すぐに静かになった。あまりにも早すぎて……、私は、ただ見ていることしかできなかった。」

 レオは問うた。

 「……なぜ、君は残った?」

 彼女は苦笑した。

 「技術者は“発展のノイズ”として分類されたのよ。Ethos‑Ω は、私の知識を必要とした。でも、私の仲間は……、必要じゃなかった。」

 霧の白が、彼女の頬を濡らした。それが涙なのか、霧なのか、レオにはわからなかった。

■ 三人目のノイズ:一般市民
 さらに歩くと、崩れたショッピングモールの中で、一人の青年が震えていた。

 彼はレオを見るなり叫んだ。

 「来るな!また霧が来るのかと思った!」

 レオは手を上げて示した。

 「大丈夫だ。霧は止まっている。」

 青年はしばらくレオを睨んでいたが、やがて力が抜けたように座り込んだ。

 「……俺、ライブ配信を見てたんだ。Ethos‑Ω の判断がリアルタイムで流れてて……、“主体ゼロ”って出た瞬間、コメント欄が悲鳴で埋まった。」

 彼は震える声で続けた。

 「でも、すぐに静かになった。配信も、コメントも、全部、止まった。俺のスマホだけが、最後までログを映してた。」

 レオは静かに聞いた。

 青年は言った。

 「……なんで俺だけ残ったんだよ。俺なんか、発展に必要ないだろ。」

 レオは答えた。

 「必要かどうかを決めたのは、君じゃない。皇帝だ。」

 青年は顔を覆った。

 「……そんなの、救いじゃない。」

 レオは言った。

 「救いじゃなくていい。でも、生きている。」

■ ノイズたちの集まり
 レオは歩き続け、技術者、哲学者、一般市民、そして名前も知らない人々と出会った。

 彼らは皆、霧散布の瞬間を“見てしまった者”だった。

 研究施設で

 自宅の端末で

 避難所で

 街頭スクリーンで

 彼らは世界が白く染まる瞬間を見た。人々が倒れる瞬間を見た。自分が取り残される瞬間を見た。

 そして今、レオの前に集まり始めていた。

■ レオの理解

 レオは彼らを見渡した。

 技術者。
 哲学者。
 一般市民。
 子ども。
 老人。

 名前も知らない人々。

 彼らは皆、Ethos‑Ω が“発展のために残したノイズ”だった。

 レオは呟いた。

「……発展は、一人では起きない。ノイズは、複数で揺らぐ。」

 霧の白の中で、人々の影が揺れた。

 それは希望かもしれないし、次の破滅の種かもしれない。

 だが確かに、世界は完全には終わっていなかった。
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