NEON MOMOTARO: Oni-ga-shima Glitch Hack

深井零子

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第2章

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 ネオキョートの空は、いつもより濃い紫だった。酸性雨がアスファルトを溶かし、街の傷口をさらに広げていく夜。屋上のコンテナハウス。爺さんの祖霊OSが常時稼働する古いサーバーラックが、赤い警告灯をチカチカさせている。冷却ファンが悲鳴を上げ、婆さんのホログラムがまたしても横に90度回転していた。

 「爺さん、また回転してるわよ」

 「知っとる! 今日はメモリリークがひどくてな……」

 その片隅で、桃太郎は自分の右腕を睨んでいた。安物の義体アーム。関節が時々カクカク鳴り、指先のセンサーが「触覚データ欠損率:62%」と表示する。右目は光学インプラントだが、視界の端に常に「広告ブロック失敗」のポップアップが浮かぶ。今日もまた、怪しい精力剤のホロ広告が視界を埋め尽くしていた。「青春……404……」
無意識に呟く。

 初言葉から18年、一向に修正されないエラー。婆さんのドローン150匹が、コンテナの天井をブンブン飛び回りながら世話を焼く。

 「桃ちゃん、ご飯よ。今日は廃棄プロテインと、拾ってきたカップ麺の残りスープで栄養バランスバッチリよ」

 「……受信しました。味覚シミュレーション……失敗。塩味のみ検出」

 爺さんがサーバーから顔だけ出して笑う。「お前は本当にポンコツだな。まあ、それでいい。それでこそ俺たちの孫だ」

 その夜、桃太郎はドブ川のほとりに立っていた。黒い水流が、ネオンの反射を歪めて揺れている。下層スラムの住人たちは、彼を「モモのバグ」と呼んで避ける。義体化率30%は、この街では「中途半端なサイボーグ」扱いだ。完全に人間でもなく、完全に機械でもない。

 ふと、川の中から何か光った。ピンクの破片。MOMO-PODの残骸だ。18年前、自分が出てきたカプセルの一部。拾い上げると、表面に薄汚れた文字が浮かび上がる。

 【最終指令:鬼を討て】

 【報酬:青春.pak(圧縮済)】桃太郎の右目が、一瞬だけ正常に焦点を結んだ。

 「……クエスト……受注?」

 風が吹いた。酸性雨が義体の装甲を腐食させていく。遠くで、婆さんのドローンが慌てて追いかけてくる。

 「桃ちゃん! 帰るわよ! また変なバグに感染したらどうするの!」

 だが桃太郎は、もう歩き始めていた。目的地は、上層タワー「オニガシラ・コーポレーション」。この街を支配する鬼たちの本拠地。右腕の関節が軋む。視界にエラー表示が乱舞する。それでも、彼は呟いた。

 「エラーコード……410:青春は永久にGone」

 「でも……サブクエストなら、まだ受けられるかもしれない」ポンコツの桃太郎が、鬼ヶ島へ向かう。装備は、安物の義体と、期限切れのナノ修復スプレー3本。

 仲間は、まだ一人もいない。運命の歯車は、完全に外れたまま、それでも、なんとか回り始めていた。

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