守りたいもの

Guidepost

文字の大きさ
26 / 44

27

しおりを挟む
 普段ならおそらく今の五倍くらい素っ気ないか厳しい反応が返ってきていただろうと陸史は微笑む。もちろん、わかってやっている。酒に強くない克海だからこそだと。
 普通なら行きずりでも何でもない大切な相手だ、酒の勢いに負けたり云々といった流れなど歓迎せず、素面で勝負するものだろう。だが自分の性格があまりいいものでないと自覚ある陸史は、わざと飲ませた上で今の流れを楽しんでいる。
 ただでさえ真面目で頑固そうな弟なのだ、こうでもしないと流されてすらくれない。もちろん今も反応が緩いだけで流されてくれているのではないが、マイナスやゼロよりはマシだ。

「陸史いい加減にしろよ……」
「そう言いながらさっきから全然抵抗しないじゃない」
「力、入らない……」
「うん、知ってる。かわいいな」

 また微笑むと、陸史は少しぐったりとしている克海の首筋へ唇をつけた。そして深呼吸する。

「ひ、きょう、だ」
「ちょっとだけね。でも好きだってバレてない時はこれでも結構抑えてたんだよ? 面と向かってこんなこと、しなかったでしょ」
「……うん」
「まあ、お前が酔って寝た後にちょっとだけ何かしたことあるけど」
「……お前」

 一瞬しおらしくなったようだった克海がじろりと睨んでくるが、酔いと眠気でまどろんだような目つきでは効果ない。むしろ煽られるだけだと陸史は苦笑した。
 笑い、またキスする。何度も何度も笑い、耳や首や頬や唇へキスした。最初のほうは抵抗できずとも何とか文句言っていた克海は、途中から息するのもままならないといった様子でただ呼吸を乱している。そんな様子がまた堪らない。

「うーん、さらに限界を強いられてる」
「ふ、ざけ……」
「ふざけてると思う?」
「……も、離……せ」

 ぐったりしている克海に、陸史はもう一度だけぎゅっと抱きしめた。そして抱き上げる。ぎょっとしている克海に構わずベッドへ横たえさせた。

「ごめんね。今日はもうしない」
「……今日、は?」
「そう。今日は。……克海」
「……」
「俺が気持ち悪いか?」

 笑みを浮かべたまま聞いた。今にも目を閉じそうな克海は何とか陸史を見てきた。

「……いや。でも、明日、絶対……殴る」
「マジか。お前力強いからなぁ」
「ばか、やろ……」

 話している途中で、克海はそのまま寝落ちた。ただでさえ寝つきはいい上、酒が入っている克海が話している途中で寝落ちることは今までにも何度もあった。だがこういう時すらかと陸史は思わず吹き出した。そっと手を伸ばすと、克海の髪に触れる。陸史より短めの、落ち着いた色合いの髪はサラサラと陸史の手から零れた。

「……は。ほんと無理」

 小さくため息つくと、陸史は口元を歪ませて苦笑した。
 二度と会えなくなる可能性ある相手なら、いっそ無理やりにでもどうにかできたかもしれない。だが相手は弟だ。それもかけがえのない弟。

「うーん。きつ……」

 そっと目を瞑り、あえて深く呼吸した。ようやく離れると、空き缶などを片づけてから自室へ戻る。
 好きだとバレた上、受け入れられなくとも受け止めてくれた克海に感謝しつつ、なら遠慮なく突き進んでやると思ったはいいが、中々に上手く進められずで切ないものがある。もしかして、こんな自分でもまだ兄弟ということに躊躇でもあるのだろうか。

 ……いや、もうないよな。多分。うん、ない。だってやっていいならどんなことでもあいつにできるし、むしろしたい。

 これはやはり受け止めてくれつつ、兄弟だからという頑とした拒否が克海にあるから、中々に進めるのも難しいのだろう。

「もしかして俺って案外いいヤツ?」

 声に出したところで馬鹿馬鹿しくて、陸史は鼻で笑った。
 いいヤツなわけあるものかと自分に突っ込む。いいヤツなら克海を尊重し、克海の気持ちを優先して兄弟でいることを選ぶだろう。隙あらば狙ってやろうなんて思うわけない。それに親を絶対悲しませることになる。わかっていてなお、やめないのだ。いいヤツのわけない。

 あれだ、単に俺は克海に嫌われるのが怖いだけだろ。しょうもないやつ。

 情けないが、これがやはりしっくりいく。嫌われるのが怖いから、どこかで及び腰になっている。だが克海が無理だと言っても、酒の力を借りてでもじわじわ進めようとしているのは、やはり性格が悪くて諦めの悪いヤツだからだ。とてもしっくりいく。

 カッコいい頼りがいあるお兄ちゃんじゃなくてごめんね。

 天井を見ながら思い、その後目を閉じた。



 ……寂しい。
 一人は嫌。
 でも二人を引きずり込みたくないよ。
 そんなこと、したくない。
 したくないけど、一人は嫌なんだ。寂しいよ。
 わかってる。
 だからせめていつもこの時だけ。
 それだけ。
 そう思ってたのに……二人がそう望むなら……いいんだよ、ね──



 気づけば目の前には体を丸めて埋もれている布団があった。

 ……夢。

 陸史はまだ覚醒しきっていないぼんやりした頭で寝返りを打った。体が埋もれた布団のせいで上手く動けない。少し前までは丁度いい気温に爽やかな気持ちで目を覚ましていたというのに、ここ数日は無意識に布団に埋もれているようだ。そろそろ毛布も敷いたほうがいいかもしれない。もそもそと動きながらぼんやり思った。
 その後しばらくだらだらと横になったまま「夢……あれ、そういえば、前と似た夢じゃなかったか……」などと考えていたが、いい加減起きることにした。考えてもどうせわからないだろう。
 部屋を出て階段を降り、何とはなしに台所へ向かうと克海が何やら作っているところだった。

「おはよ、克海」

 陸史が声をかけると、克海はいつものように笑顔で振り返って、はくれなかった。

「おはようそして殴る」
「嘘、朝からそんな激しい……!」
「変な言い方するな! あとほんっとお前、許さないからな!」

 怒っていたが、でも殴ってきた拳は思っていたよりかは少しだけ弱めだった、と陸史は思うことにする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

処理中です...