1 / 120
序章
序章
しおりを挟む
大きくそびえ建つ王宮の脇にある木陰から、流輝と琉生は空を見上げていた。晴れ渡った空から反射する光が木漏れ日となり二人に注ぐ。
あれから何年経っただろうか。もう、九年になるのだろうか。
二年前、十六歳の時に行った成人の儀を経て、今日は叙任式だ。お互い、従魔術師、従騎士から正式な魔術師、騎士として認められる。よって実際の戦闘にも正式に出ることとなるだろう。
この世界に来て九年が経つということは、元の世界と同じくらい、この異世界にいたことになる。
今でも思う。
自分たちの家族はどうしているだろうか。二人がいなくなってどうなったのだろうか。
それに本当だったら二人は今では高校を卒業する年齢にさえなった。この異世界に飛ばされたばかりの頃は、まだ九歳で声変わりさえしていない小学生だった。あのまま日本にいたら自分たちも中学生、高校生となって制服を着たり友だちと遊びまわったり、彼女ができたりしていたのだろうか。
こうして見上げている空は元の世界の空と何ら変わらない。今も青くて雲が流れており、時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「もう九年も経ったんだよなあ」
「うん」
「元の世界にいた頃は子どもだったのもあるけど、何も考えなくても生きていけたよな」
「そうだね。魔獣なんて当然いなかったし、国を出たらもちろんのこと、町中に迷い込むだけで命の危険にされされたりするなんて、基本的にあり得なかったもんね」
身分や力といったものも、もしかしたら元の世界でも大人になれば違っていたかもしれないが、ここほどは必要なものではなかっただろう。
当たり前のように生きていた世界と全く異なる世界に飛ばされた二人は右も左も何もわからなかった。言葉すらわからなかった。よくある漫画なら普通に通じていたり何か魔法のようなものですぐに理解できるようになっていたというのに、実際は元の世界の学校で習っていた英語よりもわからない言語でしかなかった。
国の在り方や皆の考えすらわからない二人は、多分すぐに死んでしまっても仕方がない赤ん坊同然だっただろう。
言葉だけでなく当然ながら文字もわからなかった。何もわからない異世界に意思の疎通すらできないまま放り出された状態で、人がたくさんいてもまるで世界にたった二人きりとなってしまったかのようで、怖くて辛くて苦しかった。
今なら当たり前のようにわかることだが、剣や魔法や冒険の知識のないまま軽率に一歩外へ足を踏み入れればすぐに死んでもおかしくない。元の世界でも事件や事故はあった。死なない保証なんてなかっただろう。だがそれとは事情が違う。そんなことすら、いきなりこの世界に飛ばされた二人には全くわかるはずもなかった。
この世界で二人は何度か死にかけたことがある。状況を把握していたら、なんと無謀な行動だと思えたであろう行動すら、良し悪しの判断ができなかったからだ。
もちろん子どもだった二人は怖いながらも、初めの頃はほんのり高揚する気持ちもあった。
剣や魔法が当たり前のようにある世界。漫画やゲームでしかあり得なかった魔獣が出る世界。そんなファンタジーな世界に自分たちがいるということにワクワクもした。
元の世界ではまっていたゲームのように魔獣を倒すとレベルが上がったりするのだろうかなんて、ゲーム感覚で呑気にとらえていた。
また、二人が楽しみに読んでいたとある漫画の世界にとても似ているように思えて、それもどこかテンションの上がる理由でもあった。
ヒロインが王女様で、召喚された主人公は光の魔力を持つ勇者だった。
似ているというか、よくある異世界もののためどんな内容でも似ている気はしたかもしれないが、とにかくその漫画の内容は、最終巻までまだ読んでいなかったので途中までしか把握していなかった。
世界で力をつけ始めた魔族たちに国を攻められるかもしれないと、その国は警戒を年々強めていた。そんなある時に王様の弟である貴族の、幼い息子が屋敷の外へ出た際に魔族に襲われ殺されてしまう。それをきっかけに、王様は勇者召喚を決意する。
召喚された青年は戸惑いしかなかったものの、初めから強い魔力と優れた剣の才能を持っていた。勇者として様々な試練を乗り越え、才能だけでなく力を着々とつけていった。
そして一年後、とうとう魔族が動き出した。それを迎え撃つため、勇者は立ち向かう。
二人が把握しているのはここまでだ。勇者がその後勝利したのか、それならどのように勝ったのか、またヒロインとどうなるのかなど、わからない。何より、勇者がその後元の世界へ戻れたのか留まることになったのかわからない。それでも最終巻までは読んでいた二人にとって、飛ばされた世界が何となく似ているなと感じていた。
ゲームや漫画のような世界。それはとても楽しいことではないのだろうかと思えた。
子どもだった二人はこの世界に転生させられることがどういうことなのか、何を意味するのかなどまったくわかっていなかった。
二人は空から目を離し、お互いを見た。お互い、今日のために支給されたばかりの正装を身に着けている。流輝は術者の正装、琉生は剣士の正装で、手に取った時はお互いようやく一人前として認められるのだと純粋に喜んだ。そして腰にはこちらの世界で親となってくれた人たちから贈られた武器がぶら下がっている。
「ようやくここまで来たな」
「うん、ここまでたどり着いた」
二人は微笑み、そして目を閉じた。
あれから何年経っただろうか。もう、九年になるのだろうか。
二年前、十六歳の時に行った成人の儀を経て、今日は叙任式だ。お互い、従魔術師、従騎士から正式な魔術師、騎士として認められる。よって実際の戦闘にも正式に出ることとなるだろう。
この世界に来て九年が経つということは、元の世界と同じくらい、この異世界にいたことになる。
今でも思う。
自分たちの家族はどうしているだろうか。二人がいなくなってどうなったのだろうか。
それに本当だったら二人は今では高校を卒業する年齢にさえなった。この異世界に飛ばされたばかりの頃は、まだ九歳で声変わりさえしていない小学生だった。あのまま日本にいたら自分たちも中学生、高校生となって制服を着たり友だちと遊びまわったり、彼女ができたりしていたのだろうか。
こうして見上げている空は元の世界の空と何ら変わらない。今も青くて雲が流れており、時折鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「もう九年も経ったんだよなあ」
「うん」
「元の世界にいた頃は子どもだったのもあるけど、何も考えなくても生きていけたよな」
「そうだね。魔獣なんて当然いなかったし、国を出たらもちろんのこと、町中に迷い込むだけで命の危険にされされたりするなんて、基本的にあり得なかったもんね」
身分や力といったものも、もしかしたら元の世界でも大人になれば違っていたかもしれないが、ここほどは必要なものではなかっただろう。
当たり前のように生きていた世界と全く異なる世界に飛ばされた二人は右も左も何もわからなかった。言葉すらわからなかった。よくある漫画なら普通に通じていたり何か魔法のようなものですぐに理解できるようになっていたというのに、実際は元の世界の学校で習っていた英語よりもわからない言語でしかなかった。
国の在り方や皆の考えすらわからない二人は、多分すぐに死んでしまっても仕方がない赤ん坊同然だっただろう。
言葉だけでなく当然ながら文字もわからなかった。何もわからない異世界に意思の疎通すらできないまま放り出された状態で、人がたくさんいてもまるで世界にたった二人きりとなってしまったかのようで、怖くて辛くて苦しかった。
今なら当たり前のようにわかることだが、剣や魔法や冒険の知識のないまま軽率に一歩外へ足を踏み入れればすぐに死んでもおかしくない。元の世界でも事件や事故はあった。死なない保証なんてなかっただろう。だがそれとは事情が違う。そんなことすら、いきなりこの世界に飛ばされた二人には全くわかるはずもなかった。
この世界で二人は何度か死にかけたことがある。状況を把握していたら、なんと無謀な行動だと思えたであろう行動すら、良し悪しの判断ができなかったからだ。
もちろん子どもだった二人は怖いながらも、初めの頃はほんのり高揚する気持ちもあった。
剣や魔法が当たり前のようにある世界。漫画やゲームでしかあり得なかった魔獣が出る世界。そんなファンタジーな世界に自分たちがいるということにワクワクもした。
元の世界ではまっていたゲームのように魔獣を倒すとレベルが上がったりするのだろうかなんて、ゲーム感覚で呑気にとらえていた。
また、二人が楽しみに読んでいたとある漫画の世界にとても似ているように思えて、それもどこかテンションの上がる理由でもあった。
ヒロインが王女様で、召喚された主人公は光の魔力を持つ勇者だった。
似ているというか、よくある異世界もののためどんな内容でも似ている気はしたかもしれないが、とにかくその漫画の内容は、最終巻までまだ読んでいなかったので途中までしか把握していなかった。
世界で力をつけ始めた魔族たちに国を攻められるかもしれないと、その国は警戒を年々強めていた。そんなある時に王様の弟である貴族の、幼い息子が屋敷の外へ出た際に魔族に襲われ殺されてしまう。それをきっかけに、王様は勇者召喚を決意する。
召喚された青年は戸惑いしかなかったものの、初めから強い魔力と優れた剣の才能を持っていた。勇者として様々な試練を乗り越え、才能だけでなく力を着々とつけていった。
そして一年後、とうとう魔族が動き出した。それを迎え撃つため、勇者は立ち向かう。
二人が把握しているのはここまでだ。勇者がその後勝利したのか、それならどのように勝ったのか、またヒロインとどうなるのかなど、わからない。何より、勇者がその後元の世界へ戻れたのか留まることになったのかわからない。それでも最終巻までは読んでいた二人にとって、飛ばされた世界が何となく似ているなと感じていた。
ゲームや漫画のような世界。それはとても楽しいことではないのだろうかと思えた。
子どもだった二人はこの世界に転生させられることがどういうことなのか、何を意味するのかなどまったくわかっていなかった。
二人は空から目を離し、お互いを見た。お互い、今日のために支給されたばかりの正装を身に着けている。流輝は術者の正装、琉生は剣士の正装で、手に取った時はお互いようやく一人前として認められるのだと純粋に喜んだ。そして腰にはこちらの世界で親となってくれた人たちから贈られた武器がぶら下がっている。
「ようやくここまで来たな」
「うん、ここまでたどり着いた」
二人は微笑み、そして目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる