10 / 120
1章 幼少編 異世界召喚
9話
しおりを挟む
言葉もずいぶん覚えた。周りが何を言っているのかわかるようになると世界が広がる。日々の過ごし方も変わる。
だがそれでもここにいることは仮の状態だとずっと思ってきた。まだちゃんと何故ここに呼ばれたのかも聞かされていないが、とりあえずいつかは帰られるものだと思っていた。
半年が過ぎ、この世界にも四季があることを知り、そろそろ涼しいどころか寒くなっていくのだろうかと思っていたある日、双子は別の部屋の掃除をしながら話していた女性たちの会話により、自分たちがおそらく二度と帰られないと知った。
いつかは帰られると思っていたからこそ、ここでおとなしくその時を待っていた。いつかは帰られると思っていたからこそ、親しくなっていった人たちとも楽しく過ごせていた。
二度と帰られないということは、二度と両親に会えないということだ。二度と友だちにも会えないということだ。落ち込むなんてものではなかった。絶望に近い。
双子はそのまま自室として与えられている部屋に引きこもった。この世界の誰とも会いたくなかった。誰も部屋に入れなかった。護衛騎士のキャスとフランでさえ、中に入ることはできなかった。
王であるノアは引きこもる双子を知り、ますます心を痛めた。改めて、まだ親の保護下にいる子どもを自分たちの勝手で召喚し、親から引き離してしまったことに深く責任を感じる。言葉を覚え娘のローザリアとも楽しく過ごしていると聞いて、どこか胸をなでおろしていたところはあったのかもしれない。自分が情けなかった。
もちろん二人の帰る方法は今も探させている。だが召喚についての文献はあるものの、帰還する方法についてはやはりどこにも全く書かれていなかった。
言葉がずいぶんわかるようになった双子に「何故召喚したのか」や「今のところ帰る方法が見つかっていない」といった話をしていなかったのは、せめて二人がもう少しここに慣れてから、もう少し成長してからと思っていたからだが、もはやそれどころではなかった。双子はずっと部屋に引きこもっていた。食事にも出てこないため、部屋の前まで運ばせているようだ。それすら手をつけないとなると相当危険な状態だと判断するしかなかったが、幸い双子はそこまで自暴自棄になっているわけではないようで、一応食事はしているらしい。ただ、ずいぶん食べる量は減ったとノアは報告を受けた。
考えた挙げ句、今までは何となく賓客扱いとして王宮で部屋を用意させていたが、むしろノアは自分の弟であるベレスフォード大公爵モリス・ターナーとその妻、カルナに双子の親代わりになってもらうよう頼むことにした。双子の本当の親をないがしろにしたいわけではなく、ここにいる間もやはり親はいたほうがいいという考えの元、ターナー夫妻を呼んだ。
モリスとカルナは相当嬉しそうな様子で引き受けてくれた。
カルナは以前、モリスの子を妊娠していたものの、待望の第一子は死産だった。その際に体を壊してしまい、二人目は難しいと言われ相当悲しんでいたのをノアも知っている。最近、子どもが難しいなら分家から養子をとらないかという話も出ていたようだ。そんな折の双子の話だった。二人が言うには、死産した子が生きていればちょうど双子くらいの年齢になっていたのもあり、双子のことはとても気にしており、実は自ら引き取りたいと言おうかどうか迷っていたらしい。
ノアの弟であるモリスは補佐官として王宮に務めている。双子の様子も確認しやすいだろう。それにモリスは真面目で穏やかな性格であり、カルナも優しく愛情深い。大公爵という身分もさながら、人の親としては申し分ないだろう。
引き取られることとなった双子はおとなしく移動の準備をしたらしい。ノア自身あまりうろうろしてはいけないとわかりつつ、双子の様子をとうとう直接窺いに行った。
「そなたたちには本当に申し訳ないことをしたと思っている」
「……」
「戻る方法については今も全力で調べさせている。決して望みはないと絶望的にならないでもらえないだろうか」
「……はい」
二人が言葉を発することはほとんどなかった。ローザリアから聞いていた明るく元気な様子はどこにもなかった。ノアにできることは、引き続き双子が戻る方法を何としてでも探し出すこと、そしてその上で「光の救世主」である二人を危険から守ることしかなかった。
流輝と琉生にとっては、戻れないのなら王宮だろうが誰かの屋敷だろうがどこでも同じだった。初めて乗った馬車にもテンションは上がらず、ただ言われるがまま大きな屋敷の用意された部屋に、今もほとんどない荷物を自分たちで運ぼうとした。周りが慌てたように運ぶと言ってきて、王宮にいる間に用意された服などは運んでもらったものの、ここへ来た時に着ていた服やマフラーだけは自分たちで運んだ。しかし特にマフラーは見ているのもつらかった。運んだものの、目に触れないように服やマフラー、そして流輝の携帯電話をクローゼットの奥へしまい込んだ。
その様子を見ていた使用人たちは双子の悲しみが伝わってきたのか皆どこか痛むような顔をしていた。
大公爵家へ移ってきた日の夜、流輝はまた夢を見た。いつも見る誰かの姿だ。その者は別の相手に、必死になって「人となって生きたい」と願っていたが、相手からは「勧められない」と首を横に振られていた。
だがそれでもここにいることは仮の状態だとずっと思ってきた。まだちゃんと何故ここに呼ばれたのかも聞かされていないが、とりあえずいつかは帰られるものだと思っていた。
半年が過ぎ、この世界にも四季があることを知り、そろそろ涼しいどころか寒くなっていくのだろうかと思っていたある日、双子は別の部屋の掃除をしながら話していた女性たちの会話により、自分たちがおそらく二度と帰られないと知った。
いつかは帰られると思っていたからこそ、ここでおとなしくその時を待っていた。いつかは帰られると思っていたからこそ、親しくなっていった人たちとも楽しく過ごせていた。
二度と帰られないということは、二度と両親に会えないということだ。二度と友だちにも会えないということだ。落ち込むなんてものではなかった。絶望に近い。
双子はそのまま自室として与えられている部屋に引きこもった。この世界の誰とも会いたくなかった。誰も部屋に入れなかった。護衛騎士のキャスとフランでさえ、中に入ることはできなかった。
王であるノアは引きこもる双子を知り、ますます心を痛めた。改めて、まだ親の保護下にいる子どもを自分たちの勝手で召喚し、親から引き離してしまったことに深く責任を感じる。言葉を覚え娘のローザリアとも楽しく過ごしていると聞いて、どこか胸をなでおろしていたところはあったのかもしれない。自分が情けなかった。
もちろん二人の帰る方法は今も探させている。だが召喚についての文献はあるものの、帰還する方法についてはやはりどこにも全く書かれていなかった。
言葉がずいぶんわかるようになった双子に「何故召喚したのか」や「今のところ帰る方法が見つかっていない」といった話をしていなかったのは、せめて二人がもう少しここに慣れてから、もう少し成長してからと思っていたからだが、もはやそれどころではなかった。双子はずっと部屋に引きこもっていた。食事にも出てこないため、部屋の前まで運ばせているようだ。それすら手をつけないとなると相当危険な状態だと判断するしかなかったが、幸い双子はそこまで自暴自棄になっているわけではないようで、一応食事はしているらしい。ただ、ずいぶん食べる量は減ったとノアは報告を受けた。
考えた挙げ句、今までは何となく賓客扱いとして王宮で部屋を用意させていたが、むしろノアは自分の弟であるベレスフォード大公爵モリス・ターナーとその妻、カルナに双子の親代わりになってもらうよう頼むことにした。双子の本当の親をないがしろにしたいわけではなく、ここにいる間もやはり親はいたほうがいいという考えの元、ターナー夫妻を呼んだ。
モリスとカルナは相当嬉しそうな様子で引き受けてくれた。
カルナは以前、モリスの子を妊娠していたものの、待望の第一子は死産だった。その際に体を壊してしまい、二人目は難しいと言われ相当悲しんでいたのをノアも知っている。最近、子どもが難しいなら分家から養子をとらないかという話も出ていたようだ。そんな折の双子の話だった。二人が言うには、死産した子が生きていればちょうど双子くらいの年齢になっていたのもあり、双子のことはとても気にしており、実は自ら引き取りたいと言おうかどうか迷っていたらしい。
ノアの弟であるモリスは補佐官として王宮に務めている。双子の様子も確認しやすいだろう。それにモリスは真面目で穏やかな性格であり、カルナも優しく愛情深い。大公爵という身分もさながら、人の親としては申し分ないだろう。
引き取られることとなった双子はおとなしく移動の準備をしたらしい。ノア自身あまりうろうろしてはいけないとわかりつつ、双子の様子をとうとう直接窺いに行った。
「そなたたちには本当に申し訳ないことをしたと思っている」
「……」
「戻る方法については今も全力で調べさせている。決して望みはないと絶望的にならないでもらえないだろうか」
「……はい」
二人が言葉を発することはほとんどなかった。ローザリアから聞いていた明るく元気な様子はどこにもなかった。ノアにできることは、引き続き双子が戻る方法を何としてでも探し出すこと、そしてその上で「光の救世主」である二人を危険から守ることしかなかった。
流輝と琉生にとっては、戻れないのなら王宮だろうが誰かの屋敷だろうがどこでも同じだった。初めて乗った馬車にもテンションは上がらず、ただ言われるがまま大きな屋敷の用意された部屋に、今もほとんどない荷物を自分たちで運ぼうとした。周りが慌てたように運ぶと言ってきて、王宮にいる間に用意された服などは運んでもらったものの、ここへ来た時に着ていた服やマフラーだけは自分たちで運んだ。しかし特にマフラーは見ているのもつらかった。運んだものの、目に触れないように服やマフラー、そして流輝の携帯電話をクローゼットの奥へしまい込んだ。
その様子を見ていた使用人たちは双子の悲しみが伝わってきたのか皆どこか痛むような顔をしていた。
大公爵家へ移ってきた日の夜、流輝はまた夢を見た。いつも見る誰かの姿だ。その者は別の相手に、必死になって「人となって生きたい」と願っていたが、相手からは「勧められない」と首を横に振られていた。
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる